みみのこ・アップ・ライジング 作:紅茶オレを
あっぶねぇー……。
「いてて……。無事ですか?」
「あたぼうよ」
アミーチのこんちくしょうめ。最後っ屁になんか、なんかあの、あれしてきやがって。
耳を飛ばして攻撃? どういう事なのかよう分からんが、みみミサイルとでも仮称しようか。を撃ち込んできたのはあれどういう意図だ許さんぞ。
良い話的な感じに、よくぞ私を倒したって感じに俺達の背中押してくれた感じになってたぢゃん!
「まぁまぁ。アミーチ老が突拍子もないのは今に始まったことじゃないですから」
それで済ますなよ。つかマイクルはもっと怒れ、もっとぶちかませ。
お前は今までずっと騙されてたんだろうがよ。アミーチ爺はともかく、あんだけ熱く語って忠誠を誓った主君テスタ・フレッチャまでもがだぞ。
なんかないのか。こんな世界ぶっ壊してやるとか。復讐してやるとか。この屋敷に火をつけてやるとか。
「……確かに色々と思う所はありますよ、それは。けど僕はそれでも信じたいんです」
「なにを?」
「みみのこを。耳達の想いを」
そう言ってマイクルはアミーチから授けられた、枝葉のような形をした銀色の
俺はそこまで連中に、このイストティートというグループに肩入れする程のストーリーを持ち合わせていないから何をどう感じ入って信じてるのかは分からんね。裏切り失望を受け入れがたいとはまた別だろうか。
ただまぁこんな自分の過去やら思考やらすらも怪しい世界で、何かを信じ続けてみたいという気持ちは否定できない。
こういう時だけじゃない。いつだって自分すら騙してかなきゃやってらんない時もあるんだ。
「君は何を信じますか?」
「さてね」
二耳で足を揃えてこの屋敷から脱するため斜行エレベーターへ向かっていると、そのポイントにはもう既に耳だかりができていた。
その中には地面にぺたんと座った99もいる。撫でやすい位置にて静まっているらしい。もう色々と隠す気もないんだな。
そしてそんなド真ん中。
そこには今まで姿をぱたっと消していたテスタ・フレッチャが堂々と立っていた。
「大変やったなぁ」
お互い一歩ずつ踏み出し、耳一本分の距離を保ち正面に立つ。
まるでリーダー同士の決闘が始まるとでも言いたげな雰囲気だが、やっこさんは動きにくそうなドレス姿そのまま。全く戦うつもりのない恰好だ。
俺は前哨戦で温まってるが、それでもやるかい?
「やらんやらん。戦ったって勝ち目ない」
「ならどけ。俺が歩く道だ」
驚いたように少し目を開き、やがて小さな笑みと共にすっと道を譲った。
それを見て後ろの取り巻きも顔を見合わせつつも、斜行エレベーターへの道を拓く。
両耳揃えて償えだなどとはする必要もない。
俺の邪魔をするなら容赦はしないが。
「──あのっ!」
通り過ぎざま、マイクルが立ち尽くしたままのテスタ・フレッチャへ声をかける。
好きにするといい。言いたい事したい事、もう戻らん旅と覚悟して後腐れなくばっちりかましてけ。
「お嬢の言葉、頼もしかったです。また会えた事、嬉しかったですっ。だから、その、けどっ」
「あたしらは自分の身可愛さに、ここの皆の為にあんたらを売った。言葉も行動も全部あんたらが見てきた通り、全部ホントのことや」
「全部……」
群れている耳の中にはじっと睨むようにしてくるやつがいれば、俺と目が合うなりぶるぶる震えて縮こまるようなのもいる。全員が一丸となって俺らを貶めてやろうとか考えた訳でなく、テスタ・フレッチャの言う通りこいつらを養い守るためとして仕方が無かったんだろう。
かすれた文字で「──のこ集会場」と書かれた看板を盾にしているのが目に入った。
このイストティートは、元はただ本当に避難所だったんだろうな。野良耳や戦いたくない耳、何かから逃げ出した耳のための駆け込み寺的な感じの。
立場もあるし脅しもあるなら無理についてこいとも仲間になれとも言えんな。俺が全部ぶっ壊してやるから手を貸せとも。
そもそも遠距離洗脳耳マンとかいうぶっ壊れが敵にいるしでついてこられたら逆に怖いし。
ったくマイクルもお嬢も報われねぇなあ。
「あー……。なぁお嬢」
「なんや?」
「お前の言葉、マイクルは信じてるってよ」
「あたしの?」
「じゃあな」
まぁなんだ。お疲れさんってとこよ。
「……どこまで行くんや?」
「行けるとこまで行くさ」
斜行エレベーターへマイクルと共に乗り込むと、コンソール前に待機していたメイド耳が待ってましたと言わんばかりにぽちぽちとボタンを押して稼働させる。
がごんと一度大きく揺れて、感慨情緒をぶっ壊す大きな音が俺達の大きな耳を揺らした。
「ちょい待ち!」
イストティートの入り口が遠くなり、光が溢れる風景になった頃。
突然、テスタ・フレッチャの慌てたような声が響く。
それと同時に何かを投げてきた。
なんだあれ。
「いてっ」
逆光で何も見えてなかったよ! キャッチ無理だよ!
「やっぱかっこ悪いですよね君」
「ディスってる?」
額をワンバウンドして床に落ちたのは──バッジ?
「あたしのバッジや!それがあれば軽トラなんかやなくて──」
「えーなにー!? 聞こえなーい!」
稼働中のエレベーターの騒音もあって、なんか説明してくれてるっぽいんだけどなんも聞こえねぇ!
つかこいや! 降りてこいや! なんか意を決して託してくれたのは分かったけど、説明必要ならこいや!
みみのこならジャンプしても平気だろうがよ!
「……それはテスタお嬢様の持つバッジ、個耳バッジではなくイベント参加記念品となるバッジです」
ため息一つと共にメイド耳さん(アミーチの話的にこの耳の名もまたマイクルとなるらしいが、隣のマイクルと混同するためメイド耳さんと呼称する)が説明を開始してくれた。
コンソール操作についてきてくれたのすごい嬉しい。頼む、説明を、バッジについて。
公式や個耳以外にもバッジがあるのか? そんで、それを今投げ渡してきた意味は?
「記念バッジとは、その名の通り集会やイベントへ参加する事で無条件に獲得できるバッジとなります」
「んじゃあ何か。お嬢は俺に何かイベント参加させようとしてんのか?」
「それとも、これから起こること……次の予告とか」
「いいえ」
バッジはタイヤと耳を組み合わせたような形をしており、なんか車関連だろうなって感じはする。
けど、いいえってのは?
「目的のための横流しとなりますね。これは」
「はあ?」
なにさ目的って。
「バッジとはみみのこの力を示すもの。力そのものと考えて頂いて結構です」
「まぁ、基本的な取得条件はそうだけど。それが?」
公式や個耳、それぞれ実力を示すものではあるけどそれがどした。
だって今手にしてるこれは、タイミングさえあれば無条件で貰えるってんだろ?
「イベント参加バッジは、イベントへ参加する為に必要ともなります」
「うーん?」
「例えば銃を撃つために。例えば会場へ入るために。参加させる為にバッジを配り、持つことでそれが可能となるのです」
あー……。
「えっと、じゃあ。このバッジを渡された事で何かが出来るようになったって事ですか?」
そうそれだマイクル。そういう、あれだ!
「そのイベントバッジはかつてテスタお嬢様が主催されたカーレースの参加バッジであり、それと同時に参加者が車を動かせるようになるキーを兼用しております」
「本来もう取得不可能なはずのバッジを、僕達が車で移動できるようにと渡してくれたんですね」
「その通りです」
へー。
バッジを獲得すればするほど自身にバフ付けられるって事か。
んじゃあどんどんあちこちからバッジをはぎ取れば最強になれるじゃん。
「たぶんそういう事じゃないと──」
「理論上はそうですね」
「ええっ!?」
メイド耳さんの悪乗りにマイクルもびっくり。
もちろんこのバッジが車のキーになってるってのは物理になってるってだけで、そういう超能力バトル的な話じゃないのは分かってるよ。
「そうとも言い切れません」
ええっ!?
そうなのぉ!?
「公式のバッジも、個耳のバッジも、自身の力で掴み取るものです。取得するということは、それすなわち実力を得るということ。多く持つ者が力を得るという端的な言い方もできなくはありません」
「確かにそれは、そうかもですね……」
あかん、悪ふざけで言った事だけど意外と的を得てしまっていた。マイクルも納得しちゃったし。
俺が言いたいのはもっとこう、お前の技も力も奪ってやったぜグヘヘヘっていうあれで……。
「個耳バッジは相手から耳をもげば与えられるというものではなく、実際には個耳それぞれの設定に基づいて与えられます。託すに値する実力を示す、すなわち相手の技を自身のものとできる。奪うという語りは語弊を生みかねませんが、事実としては間違いではないのかも知れません」
あかん、メイド耳さんには冗談が通じひん。
俺が言いたいのはもっとこう──
「つ、つきましたよ!」
「案内します」
ちょ、置いてかないで!
「かつてのイベントで使われたものとなりますので、車種は選べない事をご了承ください」
「タダで車貰えるんだ。贅沢は言わんさ」
薄暗い空間は表と違ってとても静かで、俺達の出す音が遠くまで響いていた。
小さな鉄扉を開いて通り、ちょっと歩いて曲がってまた扉。
「こちらになります」
「おー」
辿り着いたガレージには一台の車が鎮座していた。丁度良く二耳乗りでいい感じのやつ。
正直俺は車に詳しくないから詳しい事はいえないけども、ピカピカに整備されててとても良さげ。
「後で返せったって遅いからな」
「お構いなく。こちらに住まいの耳が趣味で整備を続けていただけですから」
「住んでる……?」
ガレージを見渡すと、ソファや飲み物に記念写真までもが置いてあり生活感がばりばりにある。
これ本当に大丈夫なやつ? 口ぶり的にお嬢本人のじゃなさそうだし、そんなのくれちゃって怒られないそれ。
「よろしいのではないですか?
「見つかる前に出ましょうか」
だな。
マイクルの良心も咎め──
「早く乗ってください?」
違う! 出ましょうかって出発しようの事だった!
しかもちゃっかり飲み物確保してる!
こいつやっぱ手癖悪い! レストランの時といい!
「……まぁもういっか!」
断ったって話進まないし、整備してたって子にゃ悪いが乗らせてもらうか。
手に持ったままだったイベントバッジを胸元へ飾ると、う゛ぉーんとエンジンが稼働する。
うんうん。いい音だ。よく分かんないけど。
えー、右よし左よし、そこらへんOK。
マイクルも準備いいね? よっし。
「世話んなったな」
「またお会いできる日を、両手を握り楽しみにしております」
うし、これが前進でこっちがブレーキだな。
だいたい分かった。このギア? をがこがこするのはマイクルに任せた。
じゃあ行くぞ!
「あの、シャッター……」
「ワッショイ!」
「うわぁ!?」
急発進でずがどんばーん!
ぎゃぎゃぎゃぎゃ! ききー!
「飛ばしてくぜマイクル! シートベルトはしたか!」
「してないのは君の方だよ!?」
「ノーヘルメットはNOヘルで地獄抜きだから縁起良い!」
「なに言ってるんですか!?」
長いトンネルを抜けて、バイパスの合流から本線らしき所へ。
綺麗に整備された道路だが他に通行している車は一台もなく、所々に工事車両やらが放置されているだけだ。
てことはここ工事中なんか? 闘技場まで行きたいんだけどどっち行ったらいいのよ。
「うーん、看板か何かあればいいんですけど」
ライトで照らされた道路には白い文字で時折「キケン」や「止マレ」と書いてある。
工事中だし徐行しろって話なのかな。いやそれだと開通したときこの文字どうすんだって話。
てことは、これは言い訳で引き返させたいとか?
「危険、止まれ、危険、止まれ……」
「うんざりするほど書いてあんな」
こんな真っ直ぐな道に定期的に、よくもまぁ。
「……間隔狭まってません?」
「なんかコエーな」
もしかして本当に留まった方がいいやつ?
いや、これがやつらの策だとしてハマる訳にもいかない。
突っ切るぞ。
『──への ゲートロ ク 解除』
俺達の出す音だけがこだまするトンネルに、突然無機質な声が響き渡った。
あちこちにスピーカーがあるしそこからなんだろうけど、いったい誰だ?
それにゲートロックって、どこへのっつってた?
「坂道の先、明かりが……」
「おいおい」
危険と止まれの文字が続く道路の先、ゆっくりとそれは開いて光を増していく。
俺達がさっき見送ったイストティートの逆だ。逆ってことは、どこか表へ出るってこと。
だけど頭ん中で現在地を思い浮かべても、闘技場を中心とした街をゆうに横断できる距離を走った先が開くなんてこと……まさか!
「もしかして、地上への……?」
「お前もそう思う? やけに長い道だとは思ったが」
「罠でしょうか」
散々秘匿しておいてこんなあっさり地上だなんて、マイクルの言う通り罠に違いない。
「罠でもいい。──ですよね?」
「ご明察。前進してる証拠だ」
速度を落とすなんてせず、むしろ増しながら車をぶーん。
俺たちの敵は、俺たちが踊ってくれるのを心待ちにしている。挑むよう仕向けるためにはその動機付け、原動力が必要で、用意すべき餌も限られるというもの。
もちろん必要な餌は前使ったものよりもより良いのを用意しなきゃならない。
あのゲートの先が地上であれそうではないにしろ、連中も身を切って危険な橋を渡っているんだ。
危険な橋というのは、配下たるみみのこ達までもが世界の仕組みや真実へ触れる機会も増えるということ。
お約束ステージ面となっていたテスタ・フレッチャが嫌々従ってたっぽいからするに、ククク……いったい何耳が素直に従ってるかねぇ。
まぁまぁそういうフレーバーは出たらラッキー程度として。
罠だろうが手のひらだろうが、とにかく懐に近付いてる事に違いないなら大歓迎よ。
宣言通り、行けるとこまで行ってやるぜ。
止 マ レ
キ ケ ン
止 マ レ
キ ケ ン
止 マ レ
キ ケ ン
止 マ レ
キ ケ ン
止 マ レ
死 ヌ ゾ
光で先の見えないゲートをくぐる瞬間。
ただ一文だけ、その文字が見えた気がした。