……………以上ぅ!!!!!!!!!
では、どうぞ~
~菊月side~
「ま、待ってください!」
皐月と足早に整備棟に向かっていると後ろから電が小走りで追っかけてきて声を掛けてくる。
「なんだ?電も急げ!グズグズしている暇は無いぞ」
「大丈夫だよ!ボクと菊月でフォローするからさ。大船に乗ったつもりでいてよ!」
「いえ、そうではないのです。どうしてそんなに普通にしてられるのですか?提督に、その……あんな事をされて」
「あんな事?何かあったか?」
「菊月、きっと提督がボク達の首を絞めた事だと思うよ?電は提督のあれを見たの初めてでしょ」
「ああ、なんだ。そんな事か」
「そんな事…で済まないと思うのですけど……」
一旦立ち止まり電の方へ振り向く。
「電、今は意味の無い問答で時間を潰す訳にいかないと分かっているのか?今この瞬間にも救援を待っている仲間が沈むかもしれないんだぞ」
「っ!?わ、分かったのです」
「早まるな、話は最後まで聞け馬鹿者。普段ならそう言う所だが、入電を入れてきた人物からも時間的余裕は十分にある。戦場で余計な思考をして被弾されても困るから質問に答えてやる」
「え?でもそんな余裕が無いから救難信号を出して来たのですよね?矛盾してませんか?」
「普通ならな。だが、それはこの鎮守府が"生きてたら"の話だ」
「鎮守府が生きてたら?」
「そうだ。なにせ、提督と司令官が戻ってきたのをまだ、どの鎮守府も知らない筈だ。未だこの鎮守府は公式的には"噂で囁かれてる状態"だろうな。提督と司令官が他所に戻ることを言っていない…という条件付きだが」
「噂?……あ!そう言えば天龍さんが言ってました。『ここの妖精は司令官さんの言うことを聞かない死の鎮守府だ』と」
「天龍?電の配属されてた元の鎮守府に此処の事を知る天龍が居たのか?」
「え?はいなのです!そういえば天龍さんの最初の配属先が此処だって言ってました」
「……やはりそうか」
「?」
「いや、何でもない。こちらの話だ。それで話を戻すが、電が言った様にここは死の鎮守府と呼ばれている。最近では此処に配属される
「話から察するにそうですね。でも、それが今回の件とどう関係しているのです?」
「まだ分からないのか?此処が死の鎮守府と呼ばれ、殆ど流刑地とされている。そんな所に救難信号を送って普通返答があると思うか?」
「あ……」
そう、提督が居るかどうかも分からない上に、仮に居たとしても鎮守府が運用出来てなければ入電に気づいて貰えない可能性が高い。
限りなく救援の可能性が低い……つまりはこの入電を入れた奴もほぼ賭けだと言うことが分かる。
「そんな賭けをしてられるほど余裕があるのなら、多少は遅れた所で平気だろう」
そう言い切った所で皐月姉がニヤニヤと此方を見てくる。
「なんだ、姉さん。そんな気持ち悪い笑みをして」
「いやいや~、菊月も考え方や行動が随分と提督に似てきたなって思っただけだよ」
「な!?なな、何を言っているんだ姉さんは!?わた、私は別に」
「もう、菊月もいい加減素直になればいいじゃんか」
「そんな簡単に行く訳無いだろ!」
「あ、あの……二人共?」
電の声でハッ!と我に返る。
「んんっ!…すまない。少々取り乱してしまったな。どこまで話したか」
「えっと、救難信号を出した方にはまだ幾分かの余裕があるという所なのです」
「あぁ、その当たりだったか。というより、本題から随分と外れてしまってたな。提督の行動について、だったか?」
「はい、大本営である横須賀鎮守府の海軍軍法会議により、提督から艦娘に暴力行為・体罰を行った場合、どんなに刑が軽くなっても職務停止処分のうえ20年以上の懲役刑という重罪行為ですよね?」
「そうだな」
「なら、何故大本営へその事を報告しないのですか?確かに今は緊急時なのは承知の上ですが……」
「…電は提督の行為を見て暴力だと思うのか?」
「それ以外に無いと思うのですが」
「そうか。だがな電、この鎮守府に居た艦娘は…少なくとも私達は提督のあの行為は暴力ではなく提督なりの"愛情"から来ている物だと思っている。むしろ愛情から来ていると断言してもいい」
「な、なんでですか!暴力から来る愛情なんて歪んでるのです!」
「やはり電にはまだ分からない様だな。お前は提督と司令官の事を知ら無さ過ぎる」
「で、ですが!確かに優秀な提督さんなのかもしれません。ですが、それで自分の思ってる様に行かなければ力でねじ伏せるなんて許されない行為です。お二人が提督さんが怖いのなら電が大本営に……」
「電!」
「っ!?」
「……余計な事をしないで貰おうか」
「で、でも……」
「でも?先程から言っているだろう。お前は提督と司令官を知ら無さすぎだ、と。ここにはここのルールがある。例えそれが大本営の決めた平和ボケした生ぬるい法に触れるような事だろうと、ここではそれが常識なんだ。これからここで一緒にやって行くつもりがあるなら、まずは此処を知ろうとしろ。いきなり此処のルールに従えとは流石に言わん」
止めた歩みを再開して整備棟に向けて歩き出す。
不愉快になった気持ちを吐き出すかの様に踏み締める足の力を少々強める。
「菊月、怒っちゃ駄目だよ。電は初めて目にしたんだから、むしろ正常な反応さ」
「姉さん…そうは言うがな」
「菊月」
「……すまない。姉さん」
「うん!それでこそボクの妹だね!」
電が私達の為にとはいえ、一方的な価値観だけで押し通そうとしたように、私も一方的な価値観で電に対して怒ってしまった。
もちろん頭では分かっていたつもりだったが理性が耐え切れずに怒鳴ってしまい、これでは電が私達にしている事と変わりない。
皐月姉さんはそれ分かってて諭してくれた。
やはり姉……と言うべきか。
姉さん達……特に皐月姉にはまだまだ敵わないな。
「電、怒鳴って済まなかった。提督の事となると私も冷静ではいられないのでな」
「いえ、私も出過ぎた真似をしてごめんなさいです」
まったく、提督が居なくなって皐月姉がとても弱くなったと思ったら、提督が帰ってきたら私の方が弱くなってしまった。
人間(艦娘だが)、ちょっとした変化でガラリと変われるものだな。
流石にのんびりしすぎたかと思い小走りで整備棟へ赴く。
「装備のチェックは完了しているか?」
毎度の様に入口へ立っている妖精へ問いかけると親指を立てて「OK!」と返してくれる。
そんな妖精に微笑みで返事をし、中へ進む。
薄暗い廊下を少しばかり進み今度はT字路のようになっている横長の場所に出た。
6つある中での一番左から順に3つ、SC-01・02・03の上部にある赤いランプが淡く光っている。
その雰囲気に当てられたのか電が体を震わせた。
「外の暗さと相まって、ちょっと不気味なのですね」
「ここはいつもこんな感じだ。外が明るいと入口付近は若干明るくなるが、な」
「そうなのですか。それで、電はどうすればいいのです?」
「あぁ、電はSC-03…3番の中に入れ。通常の艦娘装備ならアナウンスで指示がある。姉さんは2番でいいか?」
「えー、ボク旗艦がいいなぁ」
「いや、姉さんは戦闘のブランクが大きいだろう。旗艦は私がする。今回は救助者たちを護衛しながら帰ってくる事から混戦が予想される。B装備で行こうと思う」
「はーい。分かったよ」
姉さんは渋々といった感じで2番の部屋に入る。
二人が部屋に入ったのを見届けてから私も1番の部屋の中に素早く入室する。
赤いランプが複数設置された鉄の部屋、廊下ほど薄暗くは無いが部屋が真っ赤に染まり不気味さではこちらが断然上だろう。
以前までは自ら壁に掛かっていた装備から選んで装着・出撃をしていたが今回はその必要がない。
中央の赤いテープで四角形に囲った範囲の内側に6体の妖精がおり、その中の1体が私に不敵な笑みを向けている。
「お前達も久々の出撃だろう。大丈夫なのか?」
こちらも不敵な笑みで妖精を挑発する。
すると此方を不敵な笑みで見上げていた妖精が、持っていた金槌で床を叩く。
妖精だからか、妖精の使う道具だからかは分からないが鋼鉄の地面に金槌を打ち付けた筈なのに音がしない。
その代わりに四角で囲まれたテープの中心、足のマークに切り取られて貼られている場所が光だした。
躊躇うことなくそのマークに合わせて上に乗る。
瞬間、奥の壁からベルトが水平に射出されて腰に当たり、反動で前に伸びてきたベルトの着脱部分が腰周りちょうどの部分でカチリと合わさる。
ベルトには既に燃料・弾薬が詰められたポーチが取り付いて居た。
次に両側の壁が
既に左右の壁はB装備用の道具しか掛かっていない。
そこから鞘付きベルトを取り左右の太ももに装着する。
次にリン(元素 P)の白リンと紫リンを混ぜ合わせた赤リンが鉛筆の形をした筒状の容器を服の内ポケットに仕舞い込む。
これは妖精が開発した最先端煙幕弾で、使用するには鉛筆モドキの先端を折ってから投げれば少しして一気に煙が広がる優れモノだ。
構造は鉛筆の先端を折ると、そこから空気が入り込み中に仕込まれたリチウムに反応し発火、その際にリチウムとリンが下手な化学反応を起こさないように仕込まれてるプラスチックが溶け、リチウムの発火熱とリンが反応し煙幕を作り出すらしい。
本来ならば白リンをそのまま詰めた物やクロロスルホン酸という強酸性の液体の詰まった物を使用するのだが、相手が相手なので今回は置いておく。
そして左右に掛かっている黒色塗料で塗り固められたコンバットナイフを両手に一刀ずつ持ち、簡単にCQC/CQBの動きを確認してから太ももに装着した鞘に仕舞いこんだ。
「腕は落ちていない様だな。安心したぞ」
妖精は当たり前だと言わんばかりに腕を組む。
そうしている間に左右の壁が元の位置に戻る。
最後に天井から私のヘカートが降りてきた。
銃のスプリング(肩がけ紐)がフックに吊るされて下降してきたので、フックから外して肩にかける。
全ての装備を装着し終えると、6体いる内の5体は足からよじ登って襟や裾から入ってきた。
特に服の中へ入られたくすぐったさはない。
妖精たちの体は現世で具現化するための媒体でしかないので、この場合は『艦娘の体に搭乗した』という表現の方が良いのかもしれん。
最後に残ったリーダー格の妖精を手のひらに乗せる。
「では、お前たちが加わった久々の出撃だ。よろしく頼むぞ『白虎』」
ニカッ!と気持ちのいい笑顔で返事をした白虎を頭に乗せた。
直ぐに頭へと搭乗したのだろう。
今までとは比べ物に為らないくらい思考が澄み渡る。
そして普通の状態だと感じられない"繋がった"感覚を覚えた所で声が聞こえた。
《随分と遅かったじゃねぇか、菊月。チンタラしてんじゃねぇぞ》
《ねぇねぇ菊月!ボクの所は『玄武』だったよ!そっちはやっぱり『白虎』なの?》
《はわわ!?な、何で周りに誰も居ないのに提督さんや皆の声が聞こえるのです!?電、おかしくなっちゃったのですか!?》
「ふぅ、まずは提督、済まなかった。遅れたのは少し電と口論してたのが原因だ。罰するなら帰ってからにして貰えるな?それと姉さん、こっちは確かに白虎だったが姉さんに玄武が付くとは予想外だった。最後に電、お前は少し落ち着け。これは"第一世代"の司令官なら皆が持ってる能力だ」
ごちゃごちゃと色んな事を一度に言われ、頭が痛くなりそうだったが何とか捌ききった。
「それで、電!聞こえるな?」
《は、はいなのです!》
「今こうして皆の声が聞こえるのは脳が全開放されてる状態だ。誰かにだけ、または誰かには聞かれたくないと思ったらそう念じればいい。お前に搭乗した妖精が随時切り替えをしてくれる」
すると体から繋がりが一つ切れた感覚がし、数秒するとまた繋がった感覚が戻る。
《菊月ちゃん、聞こえましたか?》
「いや、聞こえてはいない」
《ボクも切られてたから何を喋ってたのか分かんないよー、気になるー》
「提督、電は何て言ってたんだ?」
《あ?「さっきは考えなしに色々言ってごめんなさいなのです」って言っていたが。どういう意味だ?》
《はにゃーー!?ててて、提督さん聞こえてたのですか!?》
「あぁ、言い忘れてたがこの状態…『
《という事は、話の流れから提督さんが親、なのですね》
「そういう事になる」
《随分と漠然としたモノなのですね》
「まだこの能力自体、どういった原理で発現・作用するのか全くといっていいほど分かっていない。それにこの能力は自覚症状が全く出てこないから1000万人に1人出てくれば凄い方だった。だが、本来ならこの能力を持ってる人物しか艦娘の司令官足りえなかったのが、今のご時世ではそれこそ有り得ない数の提督やら司令官で溢れかえってる。それに関しては私達より電の方が詳しいかもしれないな」
《電もそこまで詳しくは知らないのですけれど現在の日本では艦娘……正式名称を水上駆動兵装搭載自律型二足歩行AIの指揮運用士官育成機構があります》
《はっ!司令官候補生てか?青二才のガキをそんな生温い場所で育てたって役に立つのかねぇ》
ビー!ビー!ビー!
《……テメェら、今回は作戦なんか要らねぇ。助けろ、それまで帰ってくんな》
《了解!(なのです)》
「任務了解。菊月、出る……!」
部屋が振動し始める。
《はわわっ!》
「慌てるな電。出撃ラインに移動してるだけだ」
《ま、旧式の装置だから電の知ってるのとボク達のじゃ驚くのも無理ないけどね》
「ああ。ただ、出撃時に一つだけ注意が必要だ」
《な、何を注意すればいいのですか》
「出撃時に初速を稼ぐため足元のコンベアが徐々に加速する。転ばないように注意しろ」
《わ、分かったのです!》
《そろそろだよ!よーし、出撃だぁ!ボクの後に着いてきて!》
《第一艦隊、第一駆逐隊。出撃です!》
扉ガ開キマス。吉報ト無事ナ、ゴ帰還ヲ期待シマス
入った時の扉が左右に開き、潮風と潮の香りが鉄と火薬の匂いを押しのけて入ってくる。
扉が全開になり、ベルトコンベアが作動し始めた。
ギ、ギギギ、ギィィィィィィィ!!!
「艦隊、全力出撃する……!」
勢いよく飛び出し海面に着地、と同時に加速する。
「提督、『星』の位置を教えてくれ」
《ちょっと待て……ちょうど鳥島を抜けたあたりだ。随分と近くまで来てるな、ポイントを誤るなよ?》
「それぐらい弁えてる。まずは二人無力化する。皐月姉!姉さんは弟島の黒崎へ急行してくれ!私は
《了解!ボクの腕前を見せつけるよ!》
「姉さん。射撃訓練をずっとサボってたんだ。慎重に狙ってくれ」
《ガーン!》
《俺から言わせたら、今のお前にその銃は無理だ。返せ》
《や、やだよ!それにこの子はもう提督じゃ撃てないじゃないか!》
《撃てるか撃てないかじゃねぇ。俺の手元にあるかないかの話だ。帰って来たら返せよ》
《やだ!》
《あ、あの!提督さんじゃ撃てないってどういう事ですか?だって、菊月ちゃんも皐月ちゃんも持ってるのは元々人間用の武器ですよね?》
提督と姉さんが銃の事で押し問答をし始める直前、電からの質問で遮られた。
「それには私が答えよう。提督が返せと言ってる様に、元々私達が持ってる銃は提督の物だというのは分かるだろう」
《あ、そう言われてみれば確かにそうなのです》
「それでだ。提督はもう私達に渡したこれらの武器は既に使えない。正確に言えば『使えるが使えない』と言うのが正しい。それは私達の銃が"艦娘用にカスタマイズ"されてるからだ」
《カスタマイズ…ですか》
「そうだ。銃身から弾薬まで全て鉄鋼やボーキサイトでコーティングまたは製造されている。それ故に射程距離が伸び、深海棲艦を沈められる程の高威力を発揮できる。しかし……」
《しかし…なんですか?》
「嗚呼、人間というのは欲深い生き物で、自分たちでも扱える武器……しかも深海棲艦と対抗できる代物となると自分たちで使えないかと考える。まぁ、当たり前か」
《そう、ですね。電が人間だったとしても同じ事を考えるのです。それで、結果は?》
「瞬時にこの計画は凍結された。当時、開発された10丁の狙撃銃を9人の優秀な狙撃手が射撃訓練を申し出てきた。そして撃ってから初めて、代償の重さに全員が地獄を見たらしい」
《………》
「反動が強すぎたんだ。ある奴は肩の骨が粉々、他には腕で無理矢理反動を抑えようとして腕が千切れた奴も居たらしい。本当に熟練の狙撃手なのか疑うがな」
《なんで…そんな事に》
「射程距離が普通の狙撃銃と桁違いに長い、威力もそれに見合った高火力……普通に考えれば分かっていた筈だ。だが、それだけに人々は深海棲艦の恐怖に怯え悩まされていたという証拠でもある」
《それじゃあ、提督さんでも無理ですね》
「ところがこの話には続きがある」
《えっ?》
「その狙撃手の内、『二人』この狙撃訓練を耐え切った人間がいる」
《それって、まさか提督さんと司令官さん?》
「半分正解だ。ステラ……星影提督ともう1人、その狙撃訓練でなんとか1マガジン撃ち切る事に成功した」
《す、凄いのです!》
「まぁ、無傷では無かったらしい。提督は右肩の骨にヒビが入っていたらしいし、もう1人の人物もそれが原因で長距離狙撃手を辞めたのか姿を見せないらしい」
《もう1人の方についてはあやふやなのですね》
「Sランク情報を漁っても出てこなかった。提督に聞いても皆、出自を知られない為に変装していた上に提督自身、他の狙撃手には興味も無かったらしくて覚えてないと言われてしまった。なぁ、提督」
《あ?あぁ、最初の二人ぐらいまでは聞いてたが狙撃手としては最低条件をクリア出来てた程度の屑で興味が失せた》
「っとの事だ」
《むぅ、気になります》
「噂の域を出ない情報だが、それ以降は前哨狙撃兵をしているとか司令官としての資質を見出されて艦娘の超距離砲撃を専門にしていると聞いたことがあったぞ………む、少し話に夢中になりすぎたか。姉さん」
《ふふん!ボクはちゃんと周りの警戒をしていたからバッチリだよ》
「ならその調子で狙撃も成功させてくれよ?」
《まっかせてよ!》
暗闇で弟島が若干見えづらかったが、かなり近くまで来ていたみたいだ。
そのまま時計回りに沿岸部沿いへ動いてゆく。
「電、お前は皐月姉の後ろで私と姉さんの背後を警戒していてくれ」
《了解なのです》
離れていく二つの水切り音を背に狙撃ポイントまで急ぐ。
岩礁に乗り上げない様、注意しながら速度を落として岩場の近くへ近づき狙撃体制に入る。
《こちら皐月、目標を見つけた!砲撃の発火炎を確認》
「深海棲艦の奇襲を恐れて探照灯や照明弾の類いは使ってないのか。練度が低いのか?」
"アイツ等"を捕獲、または轟沈させるにしても練度が低い相手では相手にならない。
それに練度が低い相手なら何故反撃せずに逃げ回っているのか。
スコープを除いて距離を修正する。
………見えた。砲撃の発火炎が何回も光り、僅かにだが水飛沫が飛んでるのが暗くても見えた。
「白虎、もっと照準を拡大してくれ」
私の中にいるであろう妖精に呼びかけると、照準器のレンズを一枚加え倍率を上げ、照準を合わせてくれるなどの離れ技をしていく。
「ありがとう、白虎。………ほう?これは……姉さん」
《分かってる。先に軽巡を始末しちゃった方が良いよね》
「あぁ、それでも軽巡が残り1隻残るが……仕方ない」
スコープ越しに見えたのは全部で8隻、先ほどの連絡で聞いたのと同数だ。
逃げて来ているのが『天龍』と『長月』、追撃してきているのが『暁』『響』『雷』『球磨』『多摩』『木曽』という編成。
そして同時に迷う。
それは整備棟へ向かっている途中で聞いた電の鎮守府での天龍の言動、ここに来る途中でいくつも逃げ込める鎮守府があったにも関わらず、この鎮守府へ救難信号を発信した同型艦。
あまりに"匂う"情報だが、一つの仮説を立てるとそれらの情報が繋がる、
(言うべきか……いや、言ったら電は迷わず突っ込むか)
《菊月》
電にその仮説を言ってみるべきかどうかで迷っていると姉さんから声を掛けられた。
「なんだ?姉さん」
《何を迷ってるのかボクにはまだ分からないけど、とりあえず倒しちゃおうよ》
「いや、その事で迷っているんだ」
《だから、とりあえず先に倒そう?それからでも遅くないよ》
「何を言ってるんだ姉さ………そういう事か」
姉さんの言いたい事が理解出来て居なかったがやっとの事で理解に及んだ。
そして提督の言っていた言葉を思い出す。
十分に実行可能だ。
「よし、姉さんは03を担当してくれ。私は02をやる。01は本能で回避されそうだから撃ってから随時臨機応変に対応しよう」
《03?03………03……ああー!なるほど、了解だよ!確かに01は野生の本能で躱されそうだね》
《03とか02とかなんなのです?》
電には悪いがまだ言えない。
声ではまだ軽巡としか言っていないから深海棲艦のだと思っているかもしれないが、これが同族相手である事はまだ伏せておきたい。
《テメェら、何時までペチャクチャ駄弁ってやがる!もうすぐ
「了解」
《了解!》
《りょ、了解なのです!》
そろそろ照準が合わなくなってきたから白虎にセットしたレンズを抜いてもらい、普通の倍率に戻す。
もう暗闇の中でもハッキリと8人全員の姿が見て取れる。
「姉さん、いくぞ!」
《うん!》
ダ、ドォォォォォーーーーーーーーン!!
姉さんの狙撃にやや遅れて発砲したので狙撃音が変に重なった。
即座にチェンバーをリロードし、空薬莢を排出、次弾を装填しスコープを覗き込む。
さて、上手くいけばいいが………
~天龍side~ =鳥島を抜けた当たりに時間が遡る=
「ちっ!ついてねーぜ。いくら呼びかけてもウンともスンとも返ってこねーぜ」
「もういい天龍、私を置いて逃げろ。直撃では無いが被弾した私の責任だ」
「熱くなんなよ長月。クールに行こうぜクールによ」
「…まったく、こんなお気楽な天龍など他に見たこともないぞ。誰に似たんだか」
「そりゃ、アイツ以外に居ないだろう。艦娘の性格は司令官に似るって言うだろ?……っと!」
ドッパーーン!!
「ったくよぉ、しつこい奴らだぜ」
「仕方ないだろう。司令官の口からあんなデマを吐くなど、暁達には疑問に思っても嘘だとは見抜けまい。まして妹の仇討ちだ。どこまでも追いかけてくるだろう」
そうだったな。
クズだクズだと思っていたが、まさかあれ程までクズだとは思って無かったな。
あれは俺が解体処分される所まで遡るか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふ、ふはは、はははははははははっ!!!!ざまぁみろ天龍!如何にお前でも……」
「俺でも………何だ?」
「っ?!」
一連の解体作業が終了し、本来なら俺の立つ位置には資源が積まれているのだろう。
だが俺は解体されずにそこから開いた解体機の入口から提督を見下ろす。
本来なら既に俺という自我を持つ個体は消え失せているのが常識だ。
解体を実行したのに解体されてねぇんだからな、そりゃ驚くわ。
その証拠に提督はこの異常な光景に腰を地面に打ち付けながらも後ずさりし指差してくる。
「ば、化け物」
「はは、化け物か、久々に聞いたぜその台詞。何十年ぶりか?………っ!」
またも体に電流が走り体の自由が効かなくなる。
提督はまたも性懲りもなくEAMSTを使い、俺の体を拘束した。
「はぁ…はぁ!」
「おいおい、怖くて声も出ねぇかァ?オラオラ!」
「だ、黙れぇ!おい!此奴を個室に連れてゆけ!」
「は、はい!」
個室と聞こえがいいが、その中は牢屋そのものだ。
基本的には艦娘を運用し、深海棲艦を倒す事を由としない反抗勢力が武力行使へ出た場合に使われる一時的な部屋……なんだが。
寝具に簡易トイレだけと、必要最低限の物しか揃っておらず飯の支給も酷い日には一食分だけの時もあるという。
ガシャン!
「そこで大人しくしていろ」
「大人しく…ね」
中に入って知ったが天井が異様に低い。
俺が直立しただけで頭頂部が擦れる程だ。
身長が高い奴だと中腰でなければ移動は難しいな。
「さて…と。これからどうするかねぇ」
独言を呟き、ベットに寝転び膝を曲げた状態で足を交差させる。
あのクズ提督の事だ。
確実に食事は回してこないだろうな。
艦娘は人間と違って食べなくても生きていける。
今の一般常識では燃料の補給さえしっかりしていれば艦娘は死にはしないが……それは死なないというだけの話だ。
俺らだって人間の形や機能を兼ね備えているのだから食事を取らなければ集中力が散漫になるし、力も出なくなる。
「考えてても仕方ねぇか。ぃよっし!物は試しだ」
ベットから勢いよく降りて頑丈そうな鉄格子の正面に立つ。
自然体の体制からゆっくりと抜刀の体制に入る。
精神を集中させ
加える力は一瞬のみ。
扉の一点を凝視し続け集中が臨界点を迎えた。
「っ!…らぁ!」
ギャィィン
「うわっ!ゾワゾワしやがるぜ」
鉄と鉄が激しく交差した時の不快音に体が震える。
「…にしても、傷がちょっと付く位だけとか。無駄に頑丈だな、この扉」
普通の鉄材だったら楽々に両断できてたんだが、恐らく艦娘用資源で作成された特注品と言った所だな。
扉だけ強化した所で意味を成さないだろうから、恐らく部屋全体がそれらでコーティングされてる…言わば艦娘用の牢獄か。
「はぁ、意味の分からん所に無駄遣いしやがって。止めだ止め、明日また考えりゃいいだろ」
元々こういった考える仕事は自分向きじゃない。
再度ベットに横になり今度は本当に眠りにつくことにした。
………………
「……りゅう………きろ……おい」
「あ~、あともうちょい」
「ば……の………おき…………て……りゅう!」
「5分、あと5分で起きっから……」
「ばかもの!起きろアホ龍!」
「のわっ!?」
耳元で大声を出され、寝起きで機能してない脳が無理矢理覚醒させられた。
「う、うっせーな。誰だよ」
「助けに来てやったつもりだが、必要無かった様だな」
「あ?」
周りを見渡すといつもの自分が使ってる部屋と違うことに気づき、次第に自分がどんな状況に居たのかを思い出してきた。
ほぼ全ての記憶を思い出した所で目の前にいるチンチクリンに目を向けた。
鮮やかで透き通る様なエメラルドグリーンの髪と少し黄色が混じった黄緑の瞳、黒い服と黒いサイハイソックス(ニーソを太ももまで引き上げた長めのソックス)と対となす真っ白なネクタイ。
決め手は髪留めでもあり"睦月型"のシンボルマークでもある三日月の髪留め。
睦月型 8番艦 駆逐艦 通称 『長月』
「よぉ長月!お前も監禁されたのか?」
「何を言っている。入口が空いてるだろうが。助けにきたと何度言わせるつもりだ」
「お?いいのか?んな事したらお前もクズに監禁されかねないぞ?」
「クズ?あぁ、司令官の事か。とうとう天龍にさえそこまで言われる程になったのか。この鎮守府も潮時か」
「違いないぜ」
ピューイ!ピューイ!
「なんだ?」
部屋全体……いや、鎮守府全体から火災報知器の警報が鳴り出す。
「ん?やっとこの部屋のロックを解除した事に気がついたか。ノロマな連中ばかりが集まってる証拠だな」
「あー、これ脱獄時の警報なのか」
「大方、火災報知器か何かと思ったのだろう?だが、もしこれが火災による物なら今頃鎮守府が水浸しになっている。ここも含めてな」
「なるほどなぁ、言われてみればそうだな」
鎮守府に取り付けられた火災報知器は煙を感知した瞬間に全ての天井に取り付けられた消火装置が作動するように義務付けられている。
それには大きく分けて3つ理由がある。
一つ目は言わずもがな消火・鎮火が目的だ。
二つ目に炎の侵攻を妨げるため。
何故かは分からないが鎮守府には木造建築が多く、防火戸が設置されてない物が大半を占める。
推測に過ぎないが、海と深海棲艦を相手に仕事をしているために大地や陸地という物を無意識に欲してるんじゃねぇかと思ってる。
三つ目には資材庫への引火を防ぐのが目的だ。
燃料や弾薬に引火したりでもしたら冗談抜きで町が吹き飛ぶ。
以上の3点が全連動消火装置の設置義務を強いられる主な点だな。
「で?これからどうするんだ?」
「…一応司令官に会うしか無いだろう。まさか逃げるわけにもいかないしな」
「今アイツに会った所で殺しにかかってくるんじゃねーか?」
「まさかそこまでh………」
「居たぞ!殺せ!あの裏切り者共を殺せー!」
独房を出た所でクズ提督が艦娘を完全装備させて此方へ攻撃してきた。
「ほらな?」
「……はぁ、一鎮守府の最高責任者ともあろう人間がこれでは。天龍がクズと言うのも頷けてしまうよ」
「まぁ、下がってろ」
俺は剣を腰から抜き取り正面に構える。
「撃て!撃ち殺せ!あの裏切り者を倒せ!」
さっきからクズが裏切り者裏切り者と騒いでいるがどういう意味だ?
「あはっ♪何か気になる事でもあるの?天龍ちゃん♪」
ガィィーン!
「くっ、龍田っ!?お前、何のつもりだ!」
クズの周りで陣形を固める駆逐のチビ共から戦艦級のヒヨっ子共達から、地を這うほど姿勢を低く突出してきた妹と斬り結びながら問いかける。
「ごめんね~。でも、体の自由が効かないのよ~。それに段々と天龍ちゃん達の事、『同胞を殺した憎い相手』っていう言葉で頭がいっぱいになってきてるの~。ちょっと……これ以上は意識を保てないかも~」
「龍田……お前………」
「ごめんね、天龍ちゃん。あはははっ♪……私が天龍ちゃんに迷惑かけちゃってるわね~。あ、あははははは♪…………おね…がい、天龍ちゃん。私を……」
「いいから…寝てな、龍田。…・……ぜってー助けに来てやる」
「………やっぱ、り……天龍ちゃ、ん…に…は……敵わ…な、いな~」
本当は俺にこんな事をしてる自分が許せないのだろう。
だが、体の言う事が効かず……洗脳までされかけて出来ることは………悔し涙をポロポロを流す事だけだ。
こんな姿の龍田を見てなんかいられねぇ。
切り結んだ状態から力の方向を変え、龍田がバランスを崩した所で
「かっ!……派手に…やられちゃったな~。あ、天龍ちゃんの戦う姿が………見える……よかっ…たぁ……。」
龍田が倒れるまでの一瞬でクズへ突出する。
「クソがっ!テメェは許さねぇぞ提督ぅぅぁぁあああああああああ!!!!!!」
「ひっ!う、撃てー!」
「ヒヨっ子共の攻撃が当たると思ってんのか!ビビってんじゃねぇぞ!オラァ!」
キィィィィーーーーン!
「んなっ!?」
自分の出せる最高速の上段切落しをかまし、クズ提督を両断できる筈だった俺の剣が2つの鍵爪と2つの手甲に阻止された。
「司令官には手出しさせんクマ!」
「…問題にゃい」
バックステップで2mほど後ろに後退すると、その間に球磨型 軽巡洋艦 1番艦と2番艦の球磨多摩コンビに道を塞がれる。
「退け球磨!お前達じゃ俺に傷を付ける事は無理だ。一度も勝てた事が無いだろう」
「確かにそうだクマ。この鍵爪の使い方も天龍に教えて持った物。まず、攻撃は当てられないクマ」
「なら……」
「でも、相手は天龍だけじゃ無いにゃ」
「なに!?」
気づくとか理解するというよりも早く、体が動きバックステップで長月と気絶している龍田の前まで戻る。
バシュシュシュッ!
キキキッ!
長月達の前まで戻ってきた俺に多摩の手甲から射出された針を刀で防御した。
「流石おシショーだにゃ。全部防がれた」
球磨や多摩も普通の表情をしているがよく見るとまだ瞳には動揺の影が見え隠れしていた。
クズを見ると先程のビビっていた表情とは真逆にニヤニヤと下卑た笑みでこちらを見ており、全ての艦娘が洗脳されてるのだと今更ながらに気づく。
まだ球磨や多摩は防衛本能が他の奴らより優れているために理性を失いきってなかったのだろうな。
そのおかげで俺も全員が洗脳されている可能性に気づけたぜ、ありがとよ二人共。
同時にクズ提督への怒りで頭がどうにかなりそうだぜ。
「おい!提督よぉ、こんな事してタダで済まされるとは思ってねぇよなぁ!」
「あぁ、思ってないとも!こんな事をして、この鎮守府の恥さらしが!従順にしてれば良かったものを。所詮は旧型艦か」
遂に本性を現しやがったな。
元から薄々感づいていたが、このクズ提督は俺たちをただの道具としか思ってねぇな。
「俺は……俺達は玩具じゃねぇんだよ!どうなんだ!!答えろ提督!」
「は、はははっ!何を言うかと思ったら、そんな事か」
「そんな事……だと?」
「そうだろう?お前たちは唯一深海棲艦と対抗できる力を持つ。そしてお前たちは俺の部下だ」
「…………」
「道具に決まってるだろ。何処にあんな化け物と戦える人間がいる!何処に水上に立って走る人間がいる!」
「…俺は二人ほど知ってるがな」
「ん?何か言ったかぁ?」
「いや、何も。お前の様なクズには一生理解が及ばないほど有能な提督を知ってるってだ・け・だ!」
「こいつ!殺せ!殺してしまえ!」
さっきからそればかり連呼しやがって、馬鹿の一つ覚えかっての!
無数に放たれる砲弾を長月と龍田に当たらない様、切って防いで避けてを繰り返す。
数分して砲弾の嵐が止んだ瞬間を狙い、長月を抱えて逃げる方向へシフトする。
気絶している龍田がいるにも関わらず発泡してきた事から本当にあのクズは艦娘を道具か玩具にしか思ってねぇのが分かったからな。
「長月、艤装は」
「私の部屋だ。天龍のもそこに一つ隠してある」
「上出来!」
そして振り向きもせずにダッシュで艦娘用の宿舎へ退避、艤装を装着して鎮守府から逃げ出した。
燃料や弾薬は持ち出せるだけ持ち出してな。
資材庫では火気厳禁なので、ある意味安心だぜ。
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それからはただひたすらに逃げ続けてここまで来たという訳だ。
最初は反撃しようとしたが長月に止められたので、ほぼ攻撃の類いはしていない。
正直、龍田への被害を気にしなくてもいい場所までくれば反撃しようとしていたんだが、長月になんで反撃しねぇのか理由を聞いて納得した。
第一にこれ以上あのクズへ刺激を与える事のデメリット。
返り討ちにし続けていればいつかは航空・戦艦組の全力攻撃を受けるかもしれない。
今はまだ、資源が勿体無いからドけちな提督はそんな艦隊を送りつけては来ないだろうとの事。
確かに水雷戦隊すら組めてない俺らで航空部隊を相手にまともな戦闘は無理だな。
第二に、返り討ちにした艦隊がどこかの鎮守府へ救援を求められたら、いい様に話を捏造されて日本のほぼ全ての鎮守府を敵に回しかねない危険性があるという。
最善なのは、近すぎず離れすぎずに何処かの鎮守府へこちらから救援を求める事。
そして、確実に俺らを助けてくれる鎮守府を考えた結果、一か八かカナリアへ行く事に決めて……今に至る。
「救援も来ない、燃料も底を尽き掛けてる。こりゃ、覚悟を決めたほうが良さそうだぜ」
「もう、元よりそのつもりだ。まさかカナリアの近くが墓地になるとは……これまで以上に頑張らないとな」
「死ぬのに何を頑張るんだよ」
「決まっている。これより逝くは地獄だからな」
「うげ、地獄行き確定かよ」
「大丈夫だ。恐らく提督も首を長くして待ってる事だろう」
「尚更逝きたくねぇ」
速度を落として反転。
こちらに向かってくる6隻の仲間を見据えながら腰から剣を抜刀する。
「お前とも長い付き合いだったが……これまでのようだ。けど、最後の足掻きまでは付き合って貰うぜ」
「…………」
「お前の獲物はカナリアに置いてきたんだっけか?ここまで来といて再会できねぇのは……つれぇわな」
「問題ない。例え地球の裏側にまで離れていようと私と"アレ"は繋がっている。どんなに色んな武器との繋がりが増えようと、アレを凌駕する物はないよ」
「…そうか」
それでも寂しいんだろう。
空を見上げ、まるで本当に繋がりを確認するかのような仕草に、これから起こる戦闘で助けてやれない悔しさ・悲しさがこみ上げてくる。
その瞬間……遠く遠く、まるで静電気がちょっと弾けたくらいの光が視界に映った。
(マズルフラッシュ!!やばい!)
「長月っ!」
「っ!?」
想定していなかった。
まさか先回りされた上に狙撃ができる艦娘を俺や長月に感づかれず移動するなんて。
だが、俺の想像は予想外の展開を迎える………いい意味で。
ピシュ!
ドォォーーーーーーーン!!!
「にゃ!?にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「多摩!?木曽!?何があったクマ!」
前方からこちらに向かって来ていたクズ提督の艦隊に狙撃が命中したのだ。
俺と長月は既に反転して迎撃の準備に入っていた。
ほぼ止まっていたのだ。
止まっている的ほど簡単な狙撃はないのを身を持っている。
つまり、先ほどのマズルフラッシュは"俺たちを狙った狙撃"ではなく、"相手を狙った狙撃"だという事。
あまりの事態に長月までも混乱していた。
「な、なんだ。何が起こっている!?」
「……どうやら俺たちは賭けに勝ったみたいだぜ」
「なに?」
先程狙撃したであろう方向から3つの水切り音を捉えていた。
だが、まだ姿が見えないものあり不安を拭い切れない。
もしも仲間でなく第3勢力…深海棲艦のものだったら、深海棲艦でなくても味方じゃないかもしれない、そんな不安を抱いてしまうが俺の中にある本能が『もう心配する事はない』という安堵を覚えている。
向こうの奴らも俺らじゃない誰からかの攻撃を受けて辺りを警戒していた。
しばらく待つと、次第に狙撃手の姿が見えてきた。
月と星明かりしかない暗い夜でも存在感を主張するかの様に微かな光を吸収して反射する金銀の二人と、今回の騒動の中心人物。
「これ以上先はカナリア鎮守府の管轄下だ。お引き取り願おう」
「皐月!菊月!それに、電!無事か!」
「て、天龍さん!?それに長月ちゃん?という事は私の知ってる天龍さんなのですか!?」
「そうだ、襟裳からここまで遠すぎるぜ。まったく」
俺は戦闘態勢を解いて3人の元へ長月を支えたまま向かう。
「ま、待つクマ!天龍と長月は重罪を犯した。こっちに引き渡すクマ!」
「……何を言ってるんだあの熊吉は。説明しろ天龍」
「熊吉!?球磨は球磨だクマーーーー!」
菊月から鋭い視線を受け大まかに今まであった内容を話す。
話していく内に電の顔が白くなってゆく。
「う、嘘なのです!司令官さんがそんな事するはず無いのです!」
「電、これは私と天龍が直に見ていた内容だ。疑う余地すら無い」
「あぁ、隠したり騙したりする理由が俺や長月にはねぇよ」
「う、嘘なのです。嘘……なのです」
「提督もああ言ってる。電、現実を見ろ」
「お、おい。ちょっと待て」
気になる単語を耳にして菊月へ詰め寄る。
「今、提督とか言ってたけどよ。お前ら新しい提督に付いたのか?」
「菊月はまだしも……皐月姉さんは絶対に提督以外とは組みたくないと言ってなかったか?」
長月も疑問に思ったらしく、鋭い眼で菊月を睨みつける。
それに菊月と皐月が笑う。
「帰ってきたんだよ」
「ボク達の提督達が!」
帰って……きた?
アイツが?
嘘だ、アイツは死んだはずだ。
「は…ははっ!冗談キツいぜお二人さん」
「気持ちは分からなくもないが、それが真実だ」
「……マジなのか?」
「ああ、今《接続》する」
……《どうだ?繋がったか?》
「ああ、感度良好。問題ないぜ」
脳の中が澄み渡っていく懐かしい感覚。
そして、この能力を使えるのは少なくとも提督や司令官と同じ奴にしか出来ない。
これで証明されちまったな。
同時に懐かしい声が脳内に響いてきた。
《まだ生きてやがったかポンコツ。お前の様な無鉄砲で能無しは早死するのが相場なんだがな》
「……へへ、変わってねぇな提督。良かったぜ……おま…えは……俺が、ぶっ飛ばすんだからよ!」
懐かしい言葉使い、懐かしい声色を聞いて涙が溢れてくる。
《なに泣いてんだポンコツ。ビビってんのか?》
「な、泣いてなんかねーし!てかいつまでもポンコツだと思うなよ?」
俺と提督が言い争いをしていると長月が抗議してきた。
《ステラ提督、今はふざけてる場合と違うと思うが?それで提督が務まると思ってるのか?》
《なら一人で突っ込んで死ね。死に損ない。それともう俺はステラの名は捨てた。これからは星影で通す、いいな?》
「んぁ?名前を変えたのか?」
《いつまでもステラという名を使ってると不味いだろうぅが》
《…なるほど、了解した。私と天龍も次からは星影提督と呼べばいいのだな》
「うぉい!?俺はまだ了承してねぇぞ……っと?奴さん達も流石に態勢を立て直したか」
長月の肩を揺さぶって抗議しようとしたところで視界の端に留めておいた追撃組がある程度復活したようだ。
「やられてしまったにゃ。でも大丈夫、問題にゃい」
「ちょっとばかし、涼しくなったぜ」
《ほぅ?私と姉さんの狙撃で大破させた筈だが、もう中破まで修理を終えたのか。なかなかに優秀だな》
「そうだクマ!球磨の妹達は優秀なんだクマ」
「ちょっと!私達も手伝って修理してあげたのよ!ちゃんとレディーに感謝してよね!」
「もーっと、私に頼ってもいいのよ!」
「姉さん、雷。敵の増援が来てるのに案外余裕だね」
球磨達が戦闘態勢に移行し始め、それに対応すべく前に出る。
《さて、お手並み拝見といこうか。天龍?》
《ボク達だけじゃちょっと面倒だったけど、天龍がいるとかなり楽になるよ》
俺の左右に菊月と皐月が並び、銃の代わりに海の黒さに溶け込むようなナイフを二本握り締めていた。
銃はスプリングを締めて背中に担いでいる。
「ほう?菊月と皐月も加わんのか?」
《後衛があれでは、狙撃に集中できん》
菊月が視線だけで後ろを差し、俺も後ろを見て納得がいった。
後ろに居るのは二人、もちろん長月と電だがふたりの状態が不味い。
長月は砲撃用の12cm単装砲が破壊され機関部が少しやられて小破。
電はこの特異な状況に呑まれて顔色が優れない。
あの状況では判断も何も出来やしねぇだろうから戦線復帰は見込めない。
つまりはこの状況化で取れる選択は大きく3つ。
1.二人を一旦捨て置き、全力で相手を潰す短期戦
2.二人を守りながら相手を戦闘不能にさせる長期戦
3.戦闘を行わず、再度二人を守りながら逃げる撤退戦
この3つが妥当な線だろう。
そして自分達が取るのは1の方法。
2や3だと、どうしてもジリ貧になり先の予測が難しいからだ。
万が一、相手の攻撃でこちらの戦闘可能な俺を含めた3人の誰かが中破でもすれば戦闘が大いに劣勢へ傾く。
一人でも中破がいると厄介なのに最悪3人以上もの戦闘不可な奴を守りながらだと難しい。
だから短期戦で本気をだせば、こちらの被弾率も格段に下がる。
それだけの訓練と場数を踏んできたつもりだしな。
リスクは言わなくても分かるだろうが、もし後衛の二人を狙われたり流れ弾に当たったら轟沈しかねない。
だから相手の引き付け方に十分注意する必要があるな。
《長月!これを持っておけ》
突然隣にいた菊月が長月へ自分の獲物でもありパートナーでもあるヘカートを長月へ投げ渡した。
《菊月?どういうことだ》
《それでも盾にくらいはなる。電を守ってくれ》
《……分かった》
なるほど。
一回二回くらいなら、艦娘用鉄鋼材でコーティングされてるだけに流れ弾や砲撃も防げるかもしれないな。
「考えたな菊月。でもいいのか?あれはお前の」
《最善を尽くせ…と提督が昔言っていた。出来ることがあればそれが父母の形見だろうが使うまでさ》
「いや、親御さんの形見は使わないで済むようにしようぜ?」
《覚悟の話だ。何を勘違いしている》
《菊月はボクと同じくらい提督に心酔しちゃってるから、思考も提督に似ちゃうのは仕方ないよ》
「あ?提督は確か親は……」
《いい加減にしやがれ糞共!やる気がねぇなら沈んじまえ!》
《天龍が悪い》by皐月
《天龍が悪い》by長月
《天龍が悪い》by菊月
「うぉい!?俺のせいかよ!……ったく。真面目にやればいいんだろ?真面目にやれば!」
《つまりは天龍。さっきまで巫山戯ていたんだな?》
「揚げ足を取るんじゃねぇよ!菊月」
悪くはないんだが、流石に若干イラッとしてきたぜ。
このムカつきを奴さん達で晴らすしかねぇな。
刀を抜刀し、今回初めての迎撃戦に獰猛な笑みが抑えきれず顔に出る。
今まで抑えていただけに全ての鬱憤を解消したくて体がウズウズするぜ。
「うっし!夜戦突入だ!ビビってんじゃねぇぞ!」
《菊月、行くぞ!》
《皐月、行くよ!》
黒い海の静寂が金属のぶつかり合う甲高い音で破られた。
17953文字…………
………次回は2万文字突入かな?(^ω^;)
安定のフラグ回収。戦闘回とはなんだったのか!
反省はしているが後悔はしていない。
じ、次回こそ戦闘回にしますから!
許してくださいなんでもしません!(`・ω・´)ドヤァ
それでは今日の提督!
提督「卯月改の中破絵が……いい!」
憲兵「…………」
では、今回はこれにて。でわでわ~