艦隊これくしょん~明かされぬ物語~   作:kokonoSP

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何がどうしてこうなった?

………まぁいいか!

気楽に行きましょう!




それでは…どうぞ!


新生

 

~ステラside~

 

「名前?」

「ああ、そうだ」

 

 結局あれから皐月は離れる気配が無く面倒だが仕方なしに胡座を組み、そこに皐月が収まる形で完成されてる感じなのが気に食わねぇ。

 だが、コイツ相手にそんな些細な事で文句を述べても、暖簾に腕押しなのは明白だから本題を切り出す。

 

「『ステラ』は俺が提督として表舞台に出る時、俺の育て親が付けた"昔の名"だ。ステラ提督は"あの戦い"で死んだ」

「だがら新しい名前を…もしかして、ボクが!?」

「そうだ。お前が俺の新しい名付け親になれ」

「うぇええ!?」

「うるせぇ、黙れ」

「でもでも!」

 

 俺の中で皐月が顔を真っ赤にしながらジタバタと暴れやがるので、体全体を使って暴れられないように抱きしめる。

 

「あわわ。て、提督!?離してよ」

「なら俺の上から退け」

「やだ!」

 

 なんでだよ。

 目を閉じ小さくため息を吐いて首から力を抜く。

 

ポフッ

 

「あ?」

 

 鼻にフサフサとした感触を感じて目を開けると目の前が黄色…いや金色一色だった。

 腕の中に皐月が居るのを忘れちまってたな。

 

「~~~~~~っ!!」

 

 声にならない声で叫びながら、最初の抵抗とは比べ物にならない程の力で暴れだす。

 逆にそのせいで髪が上下左右に乱れ、皐月の匂いが鼻腔をくすぐってきやがる。

 様子からしてに一週間は風呂に入って無いのだろうが、それでも奴からは花の様な香りを漂わせていた。

 しかし、そんな事を言えば更に暴れだす光景が待っているのは今までの経験から分かっているがな。

 だから…ではないが話を逸らすために布団の頭方向にある壁に立て掛けられてる獲物に目を向ける。

 

「それにしても皐月、引き籠もりニートしていても"コイツ"の手入れは欠かしてないみてぇだな」

「ボク、引き籠もりでもニートでも無いよ!?た、確かにここ最近は部屋の中にばっか居たけどさ」

「……そっちに反応して欲しかった訳じゃねぇよ」

「あ、ごめんなさい」

 

 皐月がシュンとなって縮こまって居たが、それも束の間で立てかけた獲物に目一杯腕を伸ばしている。

 しかし、俺の膝上に座ってるせいで微かに届いていない。だから降りろや。

 仕方なしに取ってやり、皐月に手渡す。

 廊下から漏れてくる光に黒く塗りつぶされた皐月の獲物が自分の存在を主張するかの様に黒光りする。

 

 

 『ステアーSSG69 PIV』

 

 

 オーストラリアのステアー社が製造した狙撃銃。

 最大有効射程が3500m超という長距離を狙撃できる文字通り化け物銃だ。

 菊月の持つヘカートが有効射程2000m超だから射撃性能だけで言えば皐月の獲物の方が性能はいい。

 まっ、狙撃銃と対物狙撃銃じゃ比べる土俵が違うがな。

 

「へっへーん♪ボクのこと、見なおしてくれた?」

「調子に乗んな、ボケ」

「あたっ」

 

 調子に乗り出してきた皐月の頭にチョップする。

 

「うぅ、でも良く分かったね提督。見ただけて」

「当たり前だ。元々その銃は"俺の銃"だ」

 

 そう、元々は菊月のヘカートも皐月のステアーも俺が"とある組織"に現役時代使っていたのを譲ってやった物だ。

 艦娘という存在が現れ始めた頃…初期に配属された睦月型の8人にそれぞれ1つずつ渡したのだが、少なくとも皐月と菊月は大事に使ってるようだな。

 

「ちゃんと完全分解(オーバーホール)して綺麗にしてやんねぇと、中が錆び付いて動かした時に音がする筈だ。だが、持ってみて分かったがそんな不愉快な音がしねぇ」

「えへへ」

 

 むず痒いのか皐月が体を揺らす。

 

「それで、話を戻すが付けてくれるのかくれねぇのかハッキリしろ」

「え…えっと、その」

「はぁ……もういい。お前がダメなら菊月に頼むだけだ」

「っ!だ、駄目っ!」

「何回目だと思ってんだ、その言葉!ハッキリしねぇお前が悪いんだろぉがよ!」

 

 ここまで引き伸ばされてたら、流石にキレる。

 此奴が膝上に乗ってるのも無視して立ち上がり、部屋を出て行く。

 廊下に出ると、もう立ち上がって追いついてきた皐月が声を掛けてきた。

 

「ま、待ってよ提督!」

「…………」

 

 付き合ってらんねぇ、無視。

 

「ぼ、ぼぼ、ボクが!」

 

 廊下の曲がり角を曲がる直前、皐月が叫んで俺の手首を握ってくる。

 

「ボクが、ううん。ボクに提督の名前を付けさせて!」

 

 茹でダコに引けを取らないほど顔を真っ赤に染める皐月を数秒見つめた後、手を振り解き脇に腕を反対の脇へと通して持ち上げた。

 片手で持ち上げている為にかなり至近距離から見つめ合う形になる。

 

「二言はねぇな?」

「ふぇ!?う、うん」

「よし」

 

 至近距離で皐月の目を睨むように見つめながら問いかけ、その答えを聞いたのと同時に息を吸う。

 そして……

 

ゴン゛

 

 額に渾身の頭突きをかます。

 

「…っつぅ!いったいじゃんかさぁ!」

「決断が遅すぎんだよダホ(アホ)が」

 

 そして抱えたまま外に連行する。 

 

「ちょ、ちょっと提督?降ろしてよ?」

「断る」

「即答!?」

「臭うんだよ。風呂に叩き込む」

「はぅ!?」

 

 胸に矢が刺さる演技をしたと思ったら、そのままグッタリとした格好のまま動かなくなった。

 これ幸いにエレベーターホールへ向かうと、エレベーターが動いていた。

 下に下がる逆三角マークのランプが点灯していて、ちょうどエレベーターの階数ランプが『1』から『2』に代わり、到着音と共に扉が開かれる。

 

「ふぅ、ん?提督と…姉さんか。一体何をしているんだ」

 

 エレベーターからは菊月が降りて此方を訝しげに見てくるから事情を説明した。

 話を聞いている間、終始菊月は皐月をジト目で見ており、話を聞き終えると同時に深い溜息を吐き出しやがった。

 

「色々と言いたい事は山ほどあるが…まずは提督、姉さんを降ろしてやってくれ。泣いてるぞ」

「見ないでぇ…きくづきぃ、見ないでぇ~」

「姉さん……そのセリフは文月姉さんの口調だろぅ。それにそんな不甲斐ない姿は見飽きている。何を今更」

「うぅ、もうボク、お嫁さんに行けない」

「それよりも此奴を風呂に連行しろ」

「今、風呂から帰ってきたばかりなのだが、了解した」

 

 菊月が二度目の溜息を吐いたのと同時に皐月を下ろす。

 すると、二人は私室の方に歩き出した。

 

「おい、風呂はそっちじゃねぇ」

「何を言ってるんだ提督。風呂に入るにもタオルやら替えの下着やらが必要だろ。それにパジャマ姿で外に出すわけにいかん。部外者がいるだろう」

 

 部外者?

 あー、電の事か。

 確かにアイツはまだこの鎮守府の"仮の姿"しか見せてねぇ筈だしな。

 本当にこの鎮守府へ関わるという覚悟を見せて貰うまで出来る限り情報は秘匿・制限するに越した事はねぇな。

 皐月が「部外者って?」という顔をし、菊月が「後で教える」と話をしながら俺が来た廊下を進んでいく。

 

「そうだ。提督」

 

 1階に出るべくエレベーターのボタンを押した所で離れた位置から菊月が声をかけてきた。

 

「提督は、もう帰ってきたと認識していいんだな?」

「あぁ、それがなんだ?」

「だったら"あの妖精達"を起こしてきてくれないか?普通の妖精は良く働いてくれるんだが、やはりあの子等が居るか居ないかで色々と違うからな」

「はぁ?アイツ等って…アイツ等か?」

「そうだ。提督が居なくなってから仕事を放棄し始めたんだ」

 

 話を聞いて眉間にしわを寄せる。

 

「あ゛?アイツ等、んなストライキモドキな事してんのか」

「仕方ないさ、それだけ提督に惚れ込んでる証拠だ」

「……全員か?」

「全員だ」

 

 菊月に確認を取ると即答された。

 自分の額に青筋が出てきているのが分かるほどに頭に血が昇る。

 そうこうしている内にエレベーターのドアが開き、中に乗って迷わずに1階のボタンを押す。

 

「……話は分かった。殺してでもたたき起こしてやる」

「いや、殺しては駄目だろう?」

 

 ドアが閉まり、上昇を始める。

 エレベーターのドアが閉まる直前に見えた菊月の苦笑いと皐月の向日葵のような笑顔(恐らくは昔の様な会話が聞けたからだと思うが)を思い浮かべながら、これから自分はどう行動するべきか思考を開始した。

 あ、菊月に相棒の名前を決めてもらう話をすんの忘れてたな。

 

 

~ウォンside~ 

 

 《ステラが皐月に会う少し前》

 

「それで、提督さんは何処に?」 

「うーん、話を聞いてないから分かんないけど、多分鎮守府に残ってる他の艦娘に会いに行ってるんじゃないかなー」

 

 相棒を窓際から見かけてから食堂に行き、麦茶と少量のお菓子類を摘みながら休憩していた。

 そこで電ちゃんがこちらに合流せず何処かへと行った相棒の事を聞いてきた所である。

 

「菊月ちゃんの他にも誰か居るのです?」

「衰廃した鎮守府に艦娘一人は無理だろうねー。少なくても、もう一人二人居てもおかしくないよ」

「だとすると、誰が他に居るのでしょうか?」

「候補というか、心当たりは何人かいるけどねー」

「え?分かるんですか?どんな子なんですか?」

 

 電ちゃんが興味津津といった風に向かいのテーブルから身を乗り出してくる。

 なんとか電ちゃんを(なだ)めて落ち着かせ席に座らせた。

 

「それにしても、電ちゃんってかなり他の艦娘への興味が強いよねぇ」

「その…ごめんなさいなのです」

「気にしなくていいよー。でも、なんでそんなに他の子が気になるの?」

「えっと…電が前に居た鎮守府は小さい鎮守府でしたので」

「あー、艦娘が少なかったのかい?」

「はいなのです」

 

 聞いてみた所、電ちゃんが居た鎮守府の艦娘はこんな所らしい。

 

 駆逐艦:暁型・綾波型・睦月型

 軽巡洋艦:川内型・天龍型・球磨型

 重巡洋艦:古鷹型・高雄型

 戦艦:金剛型・伊勢型

 航空母艦:赤城型・加賀型・翔鶴型

 

 

「ふーん。なんか駆逐と軽巡が少ない気がするなぁ」

「私の居た鎮守府で駆逐艦と軽巡洋艦は殆ど遠征班としてでしたので、建造された殆どの方々は他の鎮守府へ移動させられてたのです」

 

 表情は変えず、ふーんと曖昧に返事をしながらこれは一度調べてみる必要があるなーっと心の片隅に留めておく。

 

「それで、その…司令官の言ってた候補とは?」

「あー、うん。まず一人目は皐月ちゃんかなー。菊月ちゃんと一番長い付き合いだったからね。二人目は文月ちゃん、相性ではこっちかなー。二人共感情の動かし所を弁えてるしね。3人目は長月ちゃん、この子とは普通に仲が良かったよ。やっぱり一つしか違わない姉妹だからかね」

「皐月ちゃんに文月ちゃんに長月ちゃんですか。そう言えば電のいた鎮守府に凄い長月ちゃんが居たのです」

「ほう?」

「基本的な戦術は司令官さんが指示してたんですけど、司令官さんはその…」

「作戦指揮が駄目駄目なパターンか」

「…はいなのです。そういう時、いつも最前線で長月ちゃんが陣頭指揮を取って天龍さんが皆を纏め上げてたのです」

「へぇ、長月ちゃんだけでなく天龍ちゃんも?」

「そうなのです!天龍さんの剣さばきは最強なのです。天下無敵なのです!」

「……へぇ、天下無敵ね」

「抜刀術っていうんでしたっけ?一度深海棲艦の戦艦タ級と空母ヲ級の艦隊に襲われた時、天龍さんが迫り来る砲弾を両断していった姿は格好良かったのです」

「…当たり……か」

「? 何か言いましたか?」

「ううん、何でもないよ。さて、小休止も程々に2階の方も見ていこっかー」

「なのです!」

 

 電ちゃんと食堂を後にして再度掲示板のある所に戻る。

 

「早く紙を取っておいで。先に二階に登ってるからさ」

「分かりました」

 

 電ちゃんは掲示板の方へ、そして自分は二階に上がる為の階段を普通に上がってゆく。

 紙を取ったら電ちゃんは一度頭の中にその地図を記憶しようと見るだろう。

 僕自身は使い慣れた建物なだけに地図を見る必要が無いので先に上がらせて貰ったが、別に別行動する必要も無かったかな?

 二階に上がり、すぐ向かいには見慣れた給湯所が設置されてる。

 よくここでコーヒーを作っては執務室で飲んでたっけ。

 そして出撃が無いと誰かが必ずコーヒーの香りに誘われて執務室に入ってきて菓子パーティが開催された。

 ステラは菓子が大好物なのを知っていて、尚且つ執務室にはそう言ったデザートの類いが必ずストックされてたのを皆知ってたから仕方ないといえばそれまでだけどね。

 

「お待たせして申し訳無いのです」

「ん?あー、大丈夫だよ。それよりも何処から見て周ろうか?」

 

 電ちゃんが二階に上がってきて声をかけられたので意識が現実に戻された。

 そして何処から見ていくかを聞くと、手に持ってた鎮守府2階の図面を広げて指で指定された。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「えっと、この仮眠室から順に指令執務室までお願いするのです」

「任されましたー、ってね」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

-仮眠室-

 「まぁ、普通の畳部屋だね」

 「というよりも、何故二階にも?」

 「一回の和室は接客用に使われたりするから。鎮守府関係者は基本こっちを使って貰うことになってるんだ」

 「接客用和室…ですか」

 「お上にはおじいちゃんが多いからねー。……印象を良くしたい先輩にはそっちで良い待遇を、ね」

 「あ、あはは………」

 

-Aランク資料室-

 「ここがカナリア鎮守府関係者だけが利用できるAランク資料室だよ」

 「色んな資料があるんですねー。あれ?」

 「どったの?」

 「なんでこんな所に端末機(ターミナル)が?」

 「あー、これは登録されてる鎮守府の戦闘報告の資料が入ってるんだよ。戦闘突入時状況・窮地打開策・敵艦の海域的な艦種やレベルに戦闘技術などが登録されてるんだよ。ちなみにこの端末機ではA級資料までの制限が掛かってるけど、S級資料室には全ての情報が見れる端末機が設置されてるんだよ」

 「う、動かして見てもいいですか?」

 「今は案内を終わらしてからの方がゆっくり見れるんじゃない?」

 「あ、ご…ごめんなさい。そうします」

 

-給湯所-

 「ここは二階で3箇所の内一つの水回りがある給湯所だよ」

 「もう一つがトイレなのは分かるんですけど、最後の一箇所はどこなのです?」

 「最後に行く司令執務室だよ」

 「し、司令室にですか!?」

 「そそ、楽しみにしてるといいよ。凄いから」

 「な、なのです?…なんか急に見たく無くなったのです」

 「ふっふっふ」

 

-司令執務室-

 「ここが僕と相棒ステラの元・執務室だよ」

 「元なのですか」

 「そりゃね、僕達が居ない時に誰か他の司令官がここに来て一応の執務はしてたと思うし。最後に見た家具の配置と随分変わってるし」

 「なるほどなのです。ところで……」

 「なんだい?」

 「なんで執務室に調理場があるのですか!おかしすぎるのです!しかも、図面にそれが載ってないのがなんか悪質ですぅ!」

 「HAHAHA!」

 「執務室の一番奥に仕切り板が置いてあるので部屋に入った時は気付かなかったですけど、覗いてみると調理台から流し場まであるとか本格的過ぎます!」

 「大丈夫!調理場側に置いてある残りの仕切り板をはめ込めばただの壁にしか見えないから」

 「何を持って大丈夫と!?」

 「バレなければ問題ないさ」

 「問題大アリなのです」

 

-Sランク資料室-

 「執務室に付いてるこのゴツイ鉄扉の先がSランク資料室になりまーす」

 「司令官、話を逸らしましたよね?絶対に逸らしましたよね!」

 「気のせい気のせい」

 「うぅ~、納得いかないのです」

 「まぁ、どちらにしてもそっちの方は相棒の方が詳しいからさ」

 「それって、食べ物についての説明で、何故執務室に調理台があるのかの説明がされなさそうなのです」

 「まぁまぁ、でもってこのSランク資料室には暗証キーが設定してあるから勝手には入れない仕組みになってるんだ。もし無理矢理に侵入したら……」

 「……ゴクッ」

 「あちこちの壁からハンドアームが伸びてきて健康にいいツボを押される」

 「まさかの親切設計!?」

 「さらに床には健康マットが」

 「更に!?しかも靴履いてたら意味ないのです!」

 「いや、靴はハンドアームに没収される…………永遠に」

 「小学生のイジメじゃないんですから!で、でもそれって健康な体をしてる人には無意味ですよね?」

 「あぁ、ちなみにそれを抜けると今度はマイクロ波を利用したプラズマ兵器が作動するから気をつけてね」

 「危険度の落差が激しすぎるのですが!?」

 「大丈夫、その際には扉が自動で閉まって侵入者と資料室だけが一瞬にして跡形もなく消え去るだけだから。流石に僕達にも知られず情報を盗まれたら困るからね」

 「ぶ、物騒なのですね」

 「なんでも部屋を囲むようにマイクロ波を100%遮断する特殊金属が用いられてるみたいなんだけど、設計には立ち会ってないからよく分かんないんだ。ごめんね」

 「そこまでして守りたい物を艦娘に見せてもいいのですか?」

 「内陸で優雅に過ごしてる上の人間は駄目と即答するんだろうけどさ。ここは海のど真ん中。どこから深海棲艦……いや"敵"が現れるか分かんないから常にここは現場第一情報第一。知ってるか知らないかで行動する速度が違うのを"ここに居た皆"肌で、経験で知ってる。だから必要だと思えば情報の開示に躊躇はしないの」

 「でも……」

 「言いたいことは分かるよ。それが"軍"としての規律に反する事だって。……でも、それで…情報を知らなくて死にましたなんて、納得できるかい?」

 「そ、それは」

 「嫌だろ?悔しいだろ?たったそれだけ…一つ情報を知ってなかったから大切な人を失うのを『それが天命だった』で終わらせられる?」

 「………」

 「それが嫌だったから情報を共有する様にした。自分で情報を整理し考え自ら行動する。それが人間だろうと艦娘だろうと…ね。まぁ、そのせいかこの鎮守府にいた艦娘の殆どが幹部クラスの指揮能力・行動力とそれに見合った実力を持っちゃったんだけどね」

 「そ、それで菊月ちゃんはあんな銃を使いこなせる上に提督さんとも互角に戦えてたのですか。遠くから見ただけですけど」

 「一つだけ訂正するなら実力は互角じゃないよ。結構相棒は手を抜いてた」

 「あ、あれで手を抜いてたのですか…ほんとに何者なんですか………」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 っとそんな感じで案内が終わり、執務室で一息つく。

 コーヒーメーカーにフィルタ・コーヒー豆・水をセットしスタートさせておき電ちゃんと机を挟んだ対面のソファに座り一息つく。

 ちなみにコーヒーメーカーもコーヒー豆も以前居た時と同じ場所にあったので迷うことは無かった。

 二人でコーヒーの雫がコポコポと滴り落ちるのを黙って見てたり、電ちゃんの前の鎮守府の事や菊月ちゃんの事を語り合ったりし、コーヒーが出来た頃合に自分の分と電ちゃんの分のコーヒーを注ぐ。

 既に外は日が沈みかけており、執務室が真っ赤に染まっていた。

 

「もう日が落ちるね。電ちゃんのお布団どうしよっか」

「今日はそこの仮眠室にあるお布団を借りて寝ようかと思ってるのですが、よろしいでしょうか」

「まーいいんじゃないかな」

「それよりも今日の夕飯をどうするかの方が大変だと思うのです」

「あっ、それは大丈夫」

「えっ?どうしてですか?」

 

 電ちゃんがコーヒーの苦味に顔を思いっきし歪ませながら聞いてくるので変な感じだが、もう日が落ちかけているこの時間帯に相棒が何もしないとは考えにくい。

 コーヒーカップを持ちながら手招きして執務室の外に向かう。

 二つの扉を抜け廊下に出ると、廊下にとても美味しそうな食べ物の匂いが漂ってくる。

 

「あれ、なんだかいい匂いがするのです。下…一階の食堂ですか?」

「そうだと思うよ」

 

 僕が先頭するように歩き階下に降りる。

 するとそこに司令棟に入ってきたばかりと思われる二人とかち合った。

 

「ぬ?あぁ、ウォン司令。司令も久しいな、元気そうで何よりだ」

「あぁー!ウォン司令官!やっぱり司令官も帰ってきてたんだね!おかえりだよ」

「ただいま菊ちゃん皐っちゃん。ただいまのギュー」

「ええい!馴れ馴れしい!菊ちゃん言うな!抱きつくな!」

「ボクとやり合う気なの?可愛いね!」

 

 菊月ちゃんは離せ離せと言いながらも強く抵抗してこない。

 皐月ちゃんはただのハグを勝負と見たのか抱き返してくる。

 10秒くらいそうして居たが、これ以上は本気で菊月ちゃんが嫌がって逃げてしまうので離してあげた。

 

「うぅっ……なんなのさ、一体……」

「勝負終わり?」

「いや、もともと勝負じゃないって」

 

 そうして久々…本当に久々の再会もそこそこに電と二人の自己紹介をし始める。

 

「まぁ、私は鎮守府前の海域で自己紹介したが……カナリア鎮守府所属 睦月型 9番艦 駆逐艦の菊月だ。共に戦場で轡を並べられる事を楽しみにしている」

「ボクは初めましてだね!カナリア鎮守府所属 睦月型 5番艦 駆逐艦の皐月だよっ。よろしくな!ボク、頑張るからね」

「あ、はい。よろしくなのです。元・襟裳鎮守府所属 暁型 4番艦 駆逐艦の電です。どうか、よろしくお願いいたします」

 

 3人が自己紹介を終えた所で3人の目がこちらを見つめてきた。

 え?僕も自己紹介しなきゃいけない流れなの?まぁ、いいけれど。

 

「元・カナリア鎮守府初代司令官を努めたウォンだよ。好きな子は菊ちゃん。よろしくね」

「なぁ!?な、ななな、何を巫山戯た事を口走ってるんだウォン司令!?」

「ははは、冗談だよ。ちなみに本当に好きなのは足柄ちゃんだよ。飢えた狼とか面白い異名持ってるけど、焦ると素が出てオロオロしだす所が可愛い、素直な子だよ」

「まったく、どいつもこいつもどうして私ばっかり玩具にするのだ。」

「言わなきゃ分かんない?」

「言うな!それと足柄のそれは異名じゃない。そう見えると周りが言っていただけらしいぞ」

「ボクも足柄姉の事好きだよ。何をするでも一生懸命で努力を惜しまないもん!」

 

 うーん、これ以上足柄ちゃんの話題は楽しいけれど後々面倒な事になりそうだったからキリのいい所で打ち切りにする。

 これでやっと全員-1の自己紹介を終わらせ、食堂へと向かう。

 そして食堂に入ると調理は全て終了しているのか、配膳場所で人数分に料理を取り分けていた相棒がいた。

 

「廊下でギャァギャァうるせぇんだよ。さっさと来やがれ相棒よぉ」

「いやー、僕も久々に二人と会って話してたんだ。それくらいは許してくれてもいいじゃん?」

「……ったく、分かったからサッサと食うもん取って席に着きやがれ」

 

 相棒は先程見た黒い軍服ではなく既に蒼い甚兵衛に着替えており、割烹着にタオルを首にかけたオカン姿になっている。

 見慣れたその姿から目を離し、今日の献立を眺める。

 今日は炒飯(チャーハン)にミネストローネ、(さば)のムニエルか。

 肉が全く無いが内陸と違って人工島(メガフロート)なので、野菜の自家栽培は何とか出来ても家畜を飼う事が出来ない。

 なので必然的に野菜と魚の献立が多くなるのだが……

 

「野菜の方は何となく分かるけど、よく魚をこの短時間で手に入れられたね」

「ん?あぁ、コイツ等が釣ったもんを拝借したんだ」

 

 相棒が割烹着のポケットを指さしたので、その方向に視線を落とすとポケットからピョコピョコ!という効果音が似合う動作で顔を出した数匹…もとい数人の妖精が顔を出した。

 なるほど、妖精が釣った魚をくすねたのか。

 

「わぁ!可愛らしいのです!」

 

 電ちゃんの声で自分の状況にハッ!と気が付く。

 自分が早く皿を取って移動しなかったが為に3人の艦娘が後ろでつっかえており、菊月ちゃんなんかは「早くしろ!」と言いたげなジト目を投げかけてくる。

 ごめんごめんと片手でジェスチャーを返し、早々に皿をトレイに乗せて適当な席に着く。

 続いて電ちゃん菊月ちゃん皐月ちゃんと続いて相棒がテーブルに自分の分を起き、更に小皿を数枚出してそれぞれを盛りテーブルに置く。

 電ちゃんが小さな小皿に取り分けされた品に小首をかしげていたが、そっちの領域(エリア)は僕ではなく相棒の領分なので口を挟まくてもいいだろう。

 

 

~ステラside~

 

「あの!提督さん」

「あ?」

 

 これから食べようとした時に電が口を挟んできた。

 

「なんだ?」

「なんで小皿にそれぞれの食べ物を盛ったのです?しかも平皿の小皿で。スープは少しだけ皿が深いですけど」

 

 なんだ、んな事かよ。

 質問に答えるより見てもらった方が早ぇと告げ、卓に着いてから待つこと数秒。

 

ヒョコ……ヒョコヒョコヒョコ!

 

「あっ!」

 

 電が声を上げるのも無視して卓によじ登って来た妖精達が持参した妖精用の皿(小指の爪くらいの皿だが)で小皿から食べ物を取ってゆく。

 

「なるほど、妖精さん達の為だったのですね」

「まぁ、そういう事だ。……全員取り分けたな?」

 

 全員+αを見渡して確認し、両手を合わせる。

 

「…いただきます」

「「「いただきます」」」

「な、なのです」

 

 電は全員が一斉に声を揃えて食前の挨拶(特に俺だろうが)をした事に驚いていた。

 俺は気にする事なく今日の出来に自分でまぁまぁだなと評価しながら食べていると、相棒が補足する。

 

「驚いたかい?電ちゃんの見ていた相棒からは想像できないだろうけど、こと食に関しては厳しいんだよ」

「はぁ」

「僕達の以前までに居た所ではね。保存の効く硬いパンや米を砕いた米粉しか食べれなかったんだ。そのせいもあって相棒は食に貪欲で、食べ物を食べる幸せを誰より知ってる」

「色々と聞きたいことがありますけど、それと今の挨拶と何の関係が」

「食べる幸福を知ってるが故に、最低限の礼儀すら疎かにする輩が大っきらいなんだよ………殴り飛ばすくらい」

 

 そこでニタニタしながら俺を見てくる相棒に素っ気なく鼻で返し紙のナプキンでベトベトになった妖精の口周りを拭いてやる。

 相棒はクスッと笑う。

 

「まぁ、だからって嫌いな食べ物を無理に食べる必要は無いから。ただ、一口も食べずにその食べ物が嫌いっていう概念だけで食べず嫌いは止めてね?」

「ちなみに、私や皐月姉も好き嫌いをして投げ飛ばされた事がある」

「そうそう、更に夕飯抜きにされちゃって部屋に置いといた米粉でお団子作って飢えを凌いだりする羽目になったもん。散々だったよ」

「食う前から嫌々言ってるテメェ等が悪い」

 

 笑い合う菊月と皐月に溜息を吐く。

 

「そう言うな提督、当時は私達も青臭い子供だったんだ。……そうだ、提督決めてきたぞ」

「あ!そうだった!ステラ提督、ボクも頑張って知恵を絞ったんだよ!褒めて!」

「あ?なんの話だ?」

 

 いきなり話が飛んで理解が追いつかず、眉根を寄せて二人を見る。

 それに今度は菊月が溜息を吐いて俺の疑問に答えた。

 

「提督が皐月に新しい名前を決めてくれと言ったのだろう?」

「あぁ、そのことか」

「まったく、提督は自分の事になると疎かになる癖は変わってないようだな。いつもいつも皐月姉や文月姉にばっかり……堪には私に頼ってくれてもいいじゃないか」

「なんか言ったか?」

「いや?何も?」

 

 菊月が小声で何か呟いていたが聞き取れなかった。

 悪口の類いでは無いみたいだからどうでもいいが。

 

「それで?俺とウォンの新しい名前は何なんだ?」

「あ、あの!」

 

 本題に入ろうとした所で電が割り込んできた。

 

「電はまだ、提督さんの事を知らないのです」

「……カナリア鎮守府初代司令官のステラだ。以上」

「相棒はロリコンでツンデレさんだから、電ちゃんも気をつけてね?食べられない様に」

「…殺すぞテメェ、誰がツンデレだ」

「おー怖っ!でも、ロリコンは訂正する気ないんだね」

「それは事実だから仕方ねぇ」

 

 不満がねぇ訳じゃない。

 ただ、それが真実なだけに弁解の余地がないのも確かなだけだ。

 

「もういいだろ?そろそろ教えろ皐月」

「あ、うん。えっとね、ステラ提督の新しい名前は『星影(ほしかげ)』だよ!どう?一生懸命考えてみたんだけど、どうかな?」

「必然的に私はウォン司令の名前を担当させて貰った。皐月からはステラ提督だけだったが、流れからしてウォン司令もだろ?」

「僕自身、初耳でちょっと驚いてるんだけどねー。相棒は偶に一人で話を進めちゃうんだから」

「言わんでもどうせそうする必要が来る。それくらいは分かってんだろ」

「まぁねー」

 

 軽い調子で相棒が肩を竦める。

 菊月が目で「もういいか?」と問いかけてきたから小さく頷いて先を進める。

 

「それでウォン司令の名だが『凪風(なぎかぜ)』というのはどうだ?悪くない名だと私自身、自負しているのだが」

「お!なんか僕らしい名前だね。気に入ったよ」

「ねぇ提督、提督はボクの考えた名前は気に入ってくれた?」

「…正直に言って厨二臭くって嫌なんだが。どういう理由で付けたか教えろ」

「簡単だよ!提督は星のような人だからさ!ステラ提督の元である『stella(ステッラー)』からも取ったのはあるけどね」

「…意味が分かんねぇ」

 

 皐月が「ボク、頑張って考えたよ!」と言いたげな満面の笑みに頭を抱えたくなった。

 そこへ菊月がそう名付けた補正を入れてくる。

 

「星影とは星の光という意味だ。提督は太陽のように全てを平等に照らしはしない。月のように闇の中で道を示してくれもしない。星の光の様に最低限の明かりを灯すだけだ。だが、それが提督の私たちに出来る最大限の助力である事を知っている。太陽も月も確かに道を照らす明かりだが、それは私達の道を"照らしている"訳ではない。"照らされた道"を歩かされてるだけに過ぎない。それが悪いとは言わないが、それが100%正解の道とも限らない。でも私達は己の力で道を見つけ歩んで行きたい。なぜなら自分の力で見つけた道は100%自分にとっての正解だからだ。提督はそれを心得ているから私達にいつもそうしてきた。これからもそんな提督で居て欲しい。そういった願いを込めてこの名前にしたのさ」

 

 長い菊月の説明を聞いて盛大な溜息を吐く。

 そこまで真面目な理由は求めていなかったのだが、そうまでして考えてくれたものを恥ずかしい名前だからという理由で突っ返せなくなっちまった。

 

「なら、その名前を頂くが……テメェ等は俺の行動をそこまで過大解釈していたとはな。あっきれた」

「ふふっ、それだけ人望が厚いという事だよ」

「……チッ」

「ねぇねぇ、僕の名前にも意味はあるのかい?」

 

 菊月とのやり取りで調子が狂うばかりで視線を逸らすと、今度は相棒がキラキラとした目をして俺と菊月を交互に見てきやがる。

 

「俺が知るわけねぇだろぅが!菊月と皐月に聞けアホ」

「え?ボクは提督の名前を菊月と相談し合ってただけで司令官の名前は考えてないよ?」

 

 ……このボクっ娘、サラっと毒を吐きやがった。

 菊月も余計な一言をと右手で額を掴む様に抑えている。

 

「がーん!僕の事なんてどうでもいい奴だと思ってるんだー。うわぁーーん」

 

 アホが泣き出した。

 それに電がオロオロとし始めたが、付き合いが長くなればいずれ分かる。

 …嘘泣きの棒読みだということに。

 一見すると本気でショックを受けて泣いてる様に見えなくもないが、全て演技。

 そうやって戸惑う奴の反応を見て楽しむのが相棒の常套手段だ。

 そして毎回その演技に引っかかるのが。

 

「あ、あああ!ご、ごめんよ司令官。ボク、悪気があって言ったんじゃないんだよ?ほんとだよ?だから泣き止んでよ司令官」

 

 このワンパターンだ。

 毎回飽きもせずによくやるもんだ。

 相棒が下を向いて涙をポロポロを流しながらも答える。

 

「うぅ、ちゃんと理由考えてくれる?皐月ちゃん」

「も、もちろんさ!まっかせてよ!司令官!だから泣き止んで?」

「分かった。皐月ちゃんがちゃんと考えてくれるなら泣き止むよ」

 

 おいこら皐月、騙されんな。

 このアホの手の中に目薬があんだろが。

 それに下を向いてはいるが、その口元はニヤァと広角を上げているのが見え見えだぞ。

 再度の深い溜息を吐くと視線を感じ、そちらへ目を向ける。

 菊月がこちらを睨んできていたので嫌な顔を作って視線を合わせる。

 

(関わるのも面倒くせぇ。別に何か起こるわけでもねぇしよぉ)

(そうはいかん。司令官の悪い癖を止めるのは提督の役目だろうが)

(あ?んな事いつ決まったよ。ほっとけば勝手に終わんだろ)

(終わるのを待ってたら何時まで経っても先に進めない。だから何とかしてくれ)

(……チッ、わーったよ。止めればいいんだろ。止めれば)

 

 アイコンタクト終了。

 最終的にこちらが折れる形で話がまとまり、席を立って相棒に近づく。

 

「おい、ウォン」

「ん?なんだい?ステらんばっ!?」

 

 ウォンがこちらを向いた瞬間、腹に右ストレートをお見舞いする。

 威力が威力なだけにウォンは食堂外の廊下の壁に激突、重力に従って床に落ちるが……

 

ゴンッ!

 

「ぬごっ!?」

 

 頭から床に衝突して頭を抑えながら七転八倒する。

 

「きゃぁーー!し、司令官さん!大丈夫なのですか!?」

「…いくらなんでもやり過ぎだろ提督」

「これが一番手っ取りはやっ!?」

 

 鳩尾に衝撃を感じたと思ったら背中にも衝撃を感じ、数瞬で鳩尾を攻撃されて吹き飛び、壁に激突したのだと理解した。

 

「なにをするんだい?まったく、痛いじゃないか」

 

 視線をあげると肘を曲げて突き出すような格好で止まってるウォンの姿が目に入る。

 肘鉄か…大層な技を使ってきたな。

 

「はっ!攻撃を受ける瞬間に下がって威力を殺した癖に」

「それは君もだろう?鳩尾にピンポイントで当てた筈なのにピンピンしてるじゃないか。普通は激痛で動けなくてもおかしくないよ」

「それぐらい出来なくてテメェの相棒なんかしてらんねぇよ」

「それはこっちのセリフなんだけど。はぁ、話を先に進めたいなら素直にそう言えばいいだろ?」

「余計な事を始めるテメェが悪い」

「そういうことにしておくよ。本調子じゃないってのに威力のある攻撃はやめてよね?」

 

 ヤレヤレといったジェスチャーをしながら倒れた椅子を起こし、座る相棒だが顔がニコニコしたままで行動と矛盾している。

 突っ込む気力は残ってないし、突っ込む気もない。

 

「貴様等はちょっとでも大人しくできんのか。まったく」

 

 菊月が腕を組みながらまたもや盛大な溜息を吐いた。

 だが俺は気にする事なく吹っ飛んだ際に倒れた別の机や椅子を起こして自分の椅子に座り直した。

 

「だいぶ遠回りしたが説明するぞ。凪風という言葉は元々が風凪(かざなぎ)という言葉を逆にして付けたものだ。風凪とは風が止んで波が静まる様を意味している。その逆、つまりは風が吹き波が荒々しく荒れる様をイメージした。そして凪という言葉が付くようにその両方の二面性を取って、時に静かに、時に荒々しく行動する、という意味で付けた。もちろんのこと、こちらもウォン司令官の元である『ventus(ウェントス)』からも頂いている」

「ま、此奴が静かだったり騒がしかったりは今のやり取りで少しは分かっただろうがな」

「やられたらやり返すってだけなんだけどなー。菊ちゃん、もうちょっとなんとかならないかな?」

「菊ちゃん言うな!これでも頑張って考えたんだぞ!文句があるなら自分で考えろ!」

 

 そんな二人のやり取りを見ていたが、不意に異なる空気の流れを感じ取り視線をスライドさせて窓の外を眺める。

 既に外は暗黒沈静の状態でそのままだと部屋の光が反射し、鏡の様にこちらの様子しか見えないが、その奥にあるであろう海の先を見つめた。

 全ての神経を研ぎ澄ませ、一つ一つ周りの音を消してゆく。

 菊月と凪風の言い争い、その仲裁に入る電の声、皐月の唸り声、自分の心臓の音、全ての音を除外して遠くの海から聞こえる音にのみ集中する。

 ……水を切って進む音、2……5………8?早い、一番上でも重巡級か?

 未だにガツガツと料理を食べている妖精の頭を撫でる。

 撫でられた妖精はこちらを見上げ、俺が見ている窓と俺を交互に見比べた。

 そして状況を察したのか妖精が残り数人の妖精に声をかけ(俺には聞こえんが)、携帯電話の様な物を取り出し、どこかに呼びかける。

 

「どうした、星影提督」

 

 声をかけられた方に視線を向けると、電を除いた全員が真剣な表情で俺の様子を伺っている。

 その中で代表して菊月が声を掛けてきたってとこか。

 

「敵かもしれねぇ」

「詳細は」

「今チビ共に調べさしてる、それまでいつでも動けるようにしておけ」

 

 そう言い切った所で警報装置が鳴り出した。

 

ビービービー!キュウナンシンゴウヲジュシン、クリカエス、キュウナンシンゴウヲジュシン!

 

LCT-01ヨリニュウデン、ケースH2C6!クリカエス、LCT-01ヨリニュウデン、ケースH2C6!

 

「ケースHCだと!?ありえん!何かの間違いだ!」

 

 菊月が驚愕の表情で放送が流れたスピーカーに怒鳴る。

 ウォンや皐月も声には出さないが通常なら"ありえない"入電に驚きを隠せてはいない。

 

「え?え?なんなのですかケースHCって!?」

 

 ただ一人、この放送が普通と異なる事に気づけない電が、心細くなったのか俺の二の腕を掴む。

 

「電、テメェは真実が知りてぇか?」

「な、なんなのですか?いきなり」

「…今から菊月と皐月を出撃させる。それにお前は同行するかしないか。ここでハッキリと決めろ」

「え?だって救難信号ということは誰かが助けを求めてるのですよね?だったら電も出たほうが……」

「そこに"信じがたい事実"が待ってる。生半可な覚悟で行くと心が折れるぞ。お前の様な中途半端な優しさを持ってる奴は特に。それでも行くのか?」

「えっ、い、いなずま…電は……」

 

 睨みを効かせて電の目を見る。

 電は目を逸らし、震えて下を向いてしまう。

 此奴には無理だ、そう結論を付けようと俺も目を逸らした瞬間、二の腕を握っていた手の圧力が増した。

 逸らした視線を再度戻す、そこには俺に睨まれた事で今にも崩れ落ちそうに膝を笑わせている電が……鋭い視線を向けてきていた。

 

「い、電は、沈んだ敵も、出来れば助けたいのです。助けを、求めている人が居るのなら、尚更助けてあげたいのです」

「それがいづれ、自身を破滅に追いやってもか?」

「なのです」

「……そうか。全員整備棟へ急行しろ!装備が整った奴から順に出撃!脳みそスッカラカンな馬鹿共の頭ん中鉛玉で埋めて沈めろ!」

 

 大声で出撃の命令を下す。

 しかし、そこで抗議の声が響く。 

 

「ダメだ提督!電にはまだ荷が重すぎる!ここは私と皐月で……っ!」

「そうだよ!電には悪いけど、今回は私達に任せ……っ!」

 

 菊月と皐月が電を守る立位置に割り込んできた。

 しかし、そこで俺は両手で片方ずつの首を掴み、二人を持ち上げながら手の圧力を徐々に強める。

 

「あ……ぐぁ…か…はぁ……」

「ぐ…ぅあ……ふぐっ…ご……」

「あ?テメェ等は何時から俺に指図できる立場になったよ。これは電が自分で決めた事だ。それに何時かはこういった事態が訪れる。それが早まっただけに過ぎねぇだろが……よぉ!!」

 

 そして、二人を壁に投げ飛ばした。

 

「がはっ!げほっ…ごふっ!」

「ぐぅ!か…ふぁ…はぁ…はっ!」

 

 空気を貪るように息をする二人を置いて先に食堂を出る。

 後ろから相棒が付いてくる。

 

「いやぁ、ブレないよねぇ。星影?」

「ふん、ごちゃごちゃ()かすアイツ等が悪いんだよ」

「そう言う割に電ちゃんには優しく接したじゃん」

「アイツ等と電を一緒にするな。練度の桁がちげぇだろぅが。あんときの握力をそのまま電に掛けたら今頃喉が潰れてる」

「そっかー。二人への注いだ愛情が成せる技か」

「……代わりにテメェの喉を潰してもいいんだぞ?凪風」

「ごめん、調子に乗りすぎたよ」

 

 後ろから聞こえてくる謝罪の声が震えている。

 笑いながら謝ってやがるのは明白だ、謝罪する気ねぇのが見て取れる。

 何もかもお見通しだと言われてるようでムカつくが、言い返した所でのらりくらりと躱され怒りのボルテージが上がるだけだと思い、小さく舌打ちするだけに留める。

 同時に現状の把握をしている冷静な自分へ意識を向けた。

 流石に今回のケースは想定外なだけにこれからどう動くべきかを頭の中で計算する。

 "敵"が取るであろう行動、仲間が取るであろう行動、その他の状況や環境を含めて結果を算出していく。

 

 そして、再度の舌打ちをする。

 此処に帰ってきてから碌な事が起こりゃしねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海上の暗黒は寒々しく深まるばかりである。




やっと皐月の武器を紹介する事が出来ましたよ。

ていうか、この話だけで15000文字も書いてたのか……
な、なかなか区切りがいい所って見つからないですね。

次回は戦闘回になりそうです。
あまりアクションシーンとか得意じゃ無いのですが、頑張って書こうと思います。

現在、オーバードライブ先生が執筆されています
『艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー』の方でコラボさせて頂いております!
艦隊これくしょんSSを初めて読んだという方・オーバードライブ先生の作品を知らないという方は、ぜひ!読んでみる事をおすすめします。

『艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー』
URL: http://novel.syosetu.org/27457/





それでは次回予告!

菊月「それ以上は我々カナリア鎮守府を敵に回したとみなすが……よろしいか?」
皐月「ボクとやり合う気なの?可愛いね!でも戦場で相手の実力を瞬時に見抜けないと…死ぬよ?」
電「これが……こんな事があっていいのですか……私達は一体、何の為に生まれて来たのです」
天龍「俺は……俺達は玩具じゃねぇんだよ!どうなんだ!!答えろ提督!」

次回『人間の罪、艦娘の嘆き』

卯月「……なぁ~んてうっそぴょーん!あははは~」
菊月&皐月&電&天龍「おい!!!!(なのです)」



まぁ、次回もよろしくお願いします。
あ、次回予告は本当に嘘です。
書ける訳ないって!ハードル高すぎる!
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