雪に椿   作:罠ビー

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最低な秘め事

(ソソグ)様、今日も凛々しく美しい』

 

「……馬鹿な事を言っているな。貴様もレギュラーを奪われぬよう精進しろ」

 

 

 同級生男子に喝を入れながら私は剣を振るう。流石女子剣道部のエース様という言葉が聞こえるが慢心するつもりは無い。特に全国大会の男子ではまだ上があると思わされた。

 であるならば己の剣と向き合い精進していく。おおよそ女子らしさは欠けているがそれは些細な問題だ。そんな私の態度の割に私は男女問わず人気がある。友人の鈴木 園子なんかには『あんたも自分の魅力自覚しなさいよね』と言われる。

 

 夕方になれば部員は各々帰っていくが私は素振りを続けていた。……そんなモノで満たされるはずなど無いのに。ただ外が暗くなるのを待っているに過ぎないのに。

 

 

「雪?今日はもう上がり?」

 

「ああ、蘭も今上がりか。ではご一緒しようか」

 

 

 そう言って振っていた木刀を納めると更衣室に向かう。道着は熱を吸い込み重くなっており、それを脱ぐと一種の拘束から開放されたような気になる。

 声をかけて来たのは友人の毛利蘭。父親は元刑事で母親は弁護士という家の娘だ。以前母親の妃先生にはお世話になる件があったが、その時は自分の事のように心配してくれたいい娘だ。おそらく今日も私が居残りをし時間が遅くなりすぎるのを危惧しての声かけだろう。

 

 

「すまない、待たせてしまったか」

 

「ううん、別に待ってないよ」

 

 

 更衣室でさっと汗を拭いて制服に着替え、鍵を返しに向かう。蘭は空手部で、関東大会等にも出場する有力選手だ。これで別居中の母親の変わりに家事をこなしながら、学業成績も致命的な成績は残していない。普段の努力が垣間見える。

 

 

「うーん」

 

「なぁに雪?そんなにジッと見て」

 

「改めて蘭はいい娘だなと。器量よし、性格よし。工藤君が羨ましいよ」

 

 

 シュッと照れ隠しで飛んでくる拳を避ける。いい拳だ。

 

 

「ななな、何変な事言ってるの雪」

 

「私は客観的事実を述べただけだよ」

 

「おっ蘭に冷泉(レイゼン)か。何の話してんだ」

 

 

 そう言うと新一とは、そんなんじゃないんだからとポンポンと叩いてくる。いや若干痛い。そんな私達の後ろから件の工藤 新一君が声をかけてくる。その声に若干肩が跳ねそうになる。

 

 

「蘭は可愛らしいなという話さ。工藤君も部活帰り?」

 

「いや俺は駅前の本屋寄っててな。冷泉も以前みたくあんまり遅くなりすぎんなよ」

 

 

 その工藤君の言葉に目を逸らす。どうやら蘭に迎えに行くように入れ知恵したのは工藤君なのだろう。まぁ工藤君は以前私が不良狩りの容疑がかかった事や事件に巻き込まれた事を知っているから来る忠告なのだろう。

 

 

「ああ、忠告痛みいるよ。友人を泣かせるのは本意ではないからな」

 

 

 ホントに、私なんかよりずっとずっといい人達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『くくく、何が友人を泣かせるのは本意ではないよ。とんだお笑い種ね』

 

『本心はその燻る暴力性の発散の邪魔だと思ってる癖に』

 

 私、冷泉 雪にはそんな優しい友人には言えない秘密がある。

 私の隣をフヨフヨと浮いて笑いかける私と同じ貌。切れ長の目つきに赤い瞳、顔つきは小顔でかつそれなりの長身の為高い頭身。その割にはがっちりとした印象はなく薄い身体。

 違いは服装で彼女は赤黒く染まった死に装束を着ている事。それが死に装束だとわかるのは左前で着付けられてるからであり、死に装束の白さは血の色で判別できない。その血も頸に一本入っている斬首の跡から彼女自身の物なのかはたまた返り血なのかの判別もつかない。

 

 隣の存在の話を聞こえないフリをして家に帰れば真っ先に部屋に上がる。家族はお帰りと言ってくるがそんなモノ、今の私を突き動かすモノに比べれば些細なものである。そしてそれは恒例行事であり、基本的に優等生で通っている私は何も言われない。いや実際の所そんなに興味もないのだろう。

 鞄を下ろし、すぐに竹刀袋を開けて木刀……のように見える白きの鞘を一目散に抜き放つ。

 

 

「……ハァ、ハァ、紅椿ィ」

 

『はしたないわね。蘭ちゃん達が見たらドン引きよ』

 

 

 煩い。どうせ貴女も人に見せられる顔をしてないくせに。私だけ非難のいわれを受ける理由は無い。

 熱い吐息が漏れる、心臓が早鐘を打つ。身体の芯から熱くなってきて、思考が恍惚に塗りつぶされていく。

 その刃先は刃毀れ等一切していなく一筋の美しい線となって弧を描いている。その刀身は若干の赤みを帯びて見えるが白熱電球の下、妖しくも美しい煌めきを反する。その刃紋は不規則で見るものを虜にする。そしてその美しい刀身に映える紅を添えたくなる、

 私、冷泉 雪は妖刀、紅椿に完全に魅せられている。

 

 

「う、煩い。私が紅椿に合わなければ、貴様と会わなければ」

 

『……見苦しいわよソレ。私達のせいにした所で……雪、貴女は処女じゃないんだから。ホント愚かで愛おしいわ雪』

 

 

 亡霊の言葉に二の句は告げない。処女じゃない。亡霊の抜かす戯言ではなく私も認識してる事実だ。それでいてその事を悔いてなどいなく、私はあろうことか妖刀のせいにすらして暴走する暴力性の歯止めをつけようとしていない。

 いや、2回目を起こしてないだけ制御出来てるのか?などというのは結果論だ。2回目が来てないだけだ。

 そう、私は妖刀の持ち主としてふさわしいくらい堕落していて最低である。

 

 

『ふふ、いつ観ても綺麗ね』

 

 

 横の浮遊霊はこの刀の前の持ち主らしく、名を殺女。江戸時代の商家の娘で、父が金貸しのカタで手に入れた紅椿に魅了され家族を斬殺し、その後江戸中を恐怖で震撼させた人斬りなのだとか。だとしたら正しく悪霊である。

 なお真偽は不明である。あまりにも私と瓜二つなためそういう設定の別人格説も私の中では浮かんでいる。

 

 だとしたらやっぱり私は最低なのだろう。

 

 

『ねぇ雪、いい加減諦めましょう?コレを抜き放って、椿のように頸を落として、血の快楽に身をやつす鬼になりましょう。殴っているだけじゃもう……つまらないでしょう』

 

『私が手伝ってあげましょうか?』

 

 殺女のその囁きを振り切り紅椿を納刀する。ハァハァと荒い呼吸と昂った鼓動を抑えつける。湿っぽい呼吸を整えながらキッと殺女を睨む。

 一方の殺女はざんねーんとでもいうように、挑発するような視線を私に向けている。

 

 

『ふふ、初めては自分でキメたいものね。我慢して我慢して我慢して。それからというのも気持ちいいわよね』

 

『獲物もとっておきの獲物。そう、蘭ちゃんとか。そしたらもう戻れなくなるわね』

 

 私は殺女のいう事を否定できないまま父母の待つ食卓へ向かった。そして食後夜の街に繰り出そうかと思案する。

 

 

 

 

 

 




冷泉 雪(レイゼン ソソグ)
 殺人鬼未満の主人公。ギリ転がり落ちてないだけでいずれ転がり落ちる破綻者。帝丹高校でこそ優等生で通っているが過去には不良狩りの容疑がかかったり、過剰防衛だったりと抑えられない暴力性の片鱗は覗かせており、それは一切矯正出来る事はなく妖刀を抜きなお悪化の一途を辿っている。
 自己評価は悪い子であり、それをひた隠しにしながらの友人付き合いにすら背徳感を抱いており特に毛利蘭や鈴木園子の事を好ましく思ってる反面その頸を落としたらという思いを秘めてる

 殺女
 江戸時代の殺人鬼なのか雪の生み出した暴力性の化身なのかは雪視点では確定はしてないがその存在は紅椿を手に入れてからであり明らかにそれに由来してるのは明白。別に紅椿を抜かなくても雪はいずれ破滅しただろうがニトロをぶち込んだのは間違いなく紅椿であり殺女である。

 紅椿
 手にした者は椿のように頸を落とし続け最終的に己の頸も落とされるという血に濡れた妖刀。冷泉家祖父の倉より発見され雪は無断で持ち出している。装飾はほぼなく白木の柄に白木の鞘というシンプルさの出立

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