雪に椿   作:罠ビー

10 / 17
単行本29巻 謎めいた乗客 過去改変在り


バスジャックとあの日殺し損なった男

 

 

 例の大阪旅行で2人の殺人犯とのやりとり以降、私は時折巻き込まれる事件の犯人が作り出す死体と被害者、そこに至る感情等を考察する事。そして自身の在り方との違いを比べる事をよくするようになった。

 事件に触れる事で私の衝動がより悪くなるとも思ったが意外にも最近は大人しいように感じる。鋭い殺意や血の匂いに触れ続けることで少し衝動を抑えられているのだろうか?または殺害についての考察をする事が代償行為になっているのか?

 そのような事を考えながら日々は過ぎていく。あのあと服部君と会う機会は無かったがコナン君とは何度か事件で一緒になった。しかし蘭はともかく園子と比べても何か反応が違う節がある。なんとはなしに警戒心を持たれてるように感じる。

 

 そういえば私は服部君に袖にされてるのに園子はいい人を見つけたらしい。蘭は知っているらしいが私はまだ会えていない。曰く「間違いなく雪の琴線に触れるから合わせたくない」らしい。

 雪なら名前も知ってるだろうと教えてくれなかったが蘭伝いで京極という人物らしい。……蹴撃の貴公子、京極 真だろうか?私の専門は剣士だが流石にそれほどのビッグネームなら耳に入ってる。なんとなく園子のタイプでは無さそうな気はするが

 

 蘭も以前服部君が東都に来た時工藤君が帰ってきたと言っていたが先日あった文化祭でも彼は帰ってきた。ヒロインの蘭の前に黒衣の騎士として現れた彼に流石にやり過ぎだろうと感じたがロマンチックではあった。その後蘭と二人でディナーに行ったらしいが再び工藤君は事件を追い蘭のもとから姿を消してしまった。

 

 

「oh〜〜、冷泉さんもお出かけデースか?」

 

 

 バス停でバスを待っていた私に声をかけて来たのは最近英語の教師として帝丹高校に来たジョディ先生。そしてその後ろには校医の新出先生もいる。

 ……何かおかしい?新出先生は医師であるから血の匂いが多少するのは納得なのだが何かを隠してるジョディ先生よりその匂いははるかに薄かったはずだ。しかし今の新出先生から漂う匂いはジョディ先生以上でまるで別人のようだ。ジトっとした重圧感のある殺意も感じる。

 しかしその直感に反して様子は明らかに新出先生なのだ。生き別れの弟とかだろうか?なんて冗談みたいな可能性すら頭によぎる。

 

 

「ジョディ先生はデートですか?」

 

「oh〜〜.冷泉さん。Secret、秘密にしてくださいネ」 

 

「違いますから変な噂流さないでくださいね」

 

 

 しかし新出先生のように振る舞っている。どういう事なのか分からず混乱するのでこの事は棚に上げておこう。

 

 

「雪ねーちゃん?」

 

「あっ雪お姉さんだ」

 

 

 バスがやってくる。乗り込めばそこにはコナン君と少年探偵団達に引率のおじいちゃんが居た。よくよく見ればコナン君の隣にはじめて見る子がいる気がする。

 彼女が私の方を見ることは無かったが、探偵団のみんなが人懐っこ過ぎるだけでシャイな子もいるよねと思う。ただやけにコナン君がその子を庇おうとするのが気になった。

 

 

「コナン君のガールフレンド?まあ私の顔は少し怖いか」

 

「う、うんゴメンね雪ねーちゃん」

 

 

 私は一番後ろの席に座り竹刀袋を立てかけながら外を眺めている。発車までは時間があるらしくバスは待っており次の乗客が乗り込んで来て隣に座る。

 

 マスクをつけた黒いニット帽の男。その男は血の匂いと殺気を漂わせていた。その匂いに反応して私が彼の方を向けば目があった。私が目を見開けば彼も私の存在に驚いたように一瞬の硬直を

みせる。

 

 彼はあの日、私が殺し損ねた不審者だ。

 

 

 

 

 

 

 何故この不審者がここにいるのかという困惑とあの日の私が殺し損ねた相手が目の前に現れた高揚感にギュッと竹刀袋を掴む。 

 そういえば彼にはこの竹刀袋の中身を知られてる可能性がある。その事に思い至れば彼はジッと私の竹刀袋を見ているのに気づく。

 

 

「何か気になるかい」

 

「ああ、とても気になるね。それの中に」

 

 

 

「騒ぐな!!騒ぐとブッ殺すぞ!!」

 

 

 私達が冷ややかに牽制をしてるとそれを横薙ぎにぶっ叩くようにバスの中に大声が響いた。瞬間翻って飛び出しそうな身体を隣の男に抑えつけられる。

 声を張り上げた男達はスキージャケットを既に着てゴーグルまでかけている。拳銃を見せびらかし乗客と運転手を威圧し、運転手に行き先を指示する。バスジャックという奴である。

 

 ああそれにしても、拳銃という暴力と殺意の化身を手にし、立場が上だと舞い上がり理不尽と不合理を押し付ける。形は違えど私を焦がすモノに類似してるように感じる。

 

 

「く、くひ、きひひ」

 

「何笑ってやがるお前!!」

 

 

 銃を向けられる。殺意が私に向けられる。それに呼応するように私の中の殺意が渦巻く。ああ、確実に脅そうと近寄って来る。一足一刀の間合い。もう私の射程距離だ。しかし刀を抜こうとする腕は強く抑えられている。余計な事はしてくれるなと目で訴えられている。

 

 

「きひ……いや、怖ろしくてな」

 

「チッ、イカれ女が。お前も携帯出しな。それと横の袋もだ」

 

 

 私の様子に犯人は吐き捨てるようにそう言うと携帯よ提出を要求する。それには従うがあろうことか紅椿まで要求してきた。即座に頸を跳ねてやろうと隣の男の抑えつけを窓側の手で払い紅椿を抜こうとするがそれより早く竹刀袋は隣の男に奪われ犯人に渡される。

 犯人を殺そうと出した殺気の向きを変え隣の男に向ける。コレほどまでに殺意で人が殺せたらと思った事もない。次の月夜を歩けると思うな貴様。

 そのくせ男は携帯を持ってないと言う。仕返しにポケットにでも入ってたら抜いてやろうと思うがそこには無かった。

 

 私達二人が互いに足を引っ張り合うようなやりとりをしていると発砲音がする。しかし血の匂いはしないので威嚇だろう。若干ガッカリしながら見れば最後列でガムを噛んでいた女性の横に放ったようだった。

 しかしその女性の腕時計から殺意を感じる。そして同じ殺意が私の紅椿が横に置かれたスキーバッグからも。……という事はあれも武器なのだろう。そして女性は犯人の一味という事になる。

 

 その後戻る犯人をジョディ先生が蹴飛ばして何やら一悶着あったり、コナン君が何やら外に連絡を取ろうとしてバレたり、コナン君がスキー板を調べようとしてバレたりそれを新出先生が庇ったりしていた。

 ……血の匂いの濃い新出先生がコナン君を庇った事に意外な感じがするも、坂田刑事のように殺人者でも規範や規則を持っている人もいる。総ての殺人者に常識が無いわけでもない。

 

 それにしても落ち着かない。傍らに紅椿が無いという事に苛立ちを覚える。そしてそれがあんな無造作に他人のコントロール下に置かれてる事が許せない。しかも同調してくれそうな悪霊の姿もない。隣の男はそんな私の様子を牽制するように警戒してくる。

 

 

「おい!!そこのメガネの青二才と奥のマスクの男!!前へ来い!!」

 

 

 そんな私達の攻防も隣の男が犯人に呼ばれた事で終了する。隣の男は私の方を見て目で変な真似はするなというふうに殺気を込めて脅してくる。

 そしてバスはトンネルに入る。動くなら明らかに今だろう。犯人達はトンネル内でスキージャケットとゴーグルを脱ぎ二人に着せている。

 

 その隙に低い姿勢を取り竹刀袋を奪還し、私の動きに気づいた仲間の女性の鳩尾を戻りながら竹刀袋で突く。ワンテンポ遅れてコチラの動きに気づいた犯人達に対して血の匂いの濃い二人は避けるだろうと察し竹刀袋を振り抜く。

 

 

「お前、何やってやが」

 

 

 偶然を装って二人は頭を下げる。犯人二人に当てれば車中を前方に倒れる。ああ、もういいよな。私から紅椿を取り上げあんなぞんざいに扱って。私はよくこらえたよ。そう思い紅椿の鯉口に指をかけた。

 瞬間私の身体がふわりと浮遊感が襲う。殺意の感じられない行動に反応が遅れればとっさに座席の肘置きを掴み投げ出されるのを回避する。しかしブレーキがかかった時に殴られて低い姿勢だった犯人たちの方が復帰は早い。

 

 

「死ねやイカレ女--!!」

 

 

 犯人の一人は激高して私に銃を向けて引き金を引いた。殺意のない銃から弾は出ない。焦る男に再度刀を抜こうとすると男はジョディ先生に捕縛される。それはそれとして殺すかと考えているとスキー板から生じる殺意が急激に上昇するとともに仲間の女が逃げようとしだす。

 

 

「あの女が暴れたせいで起爆装置が動き出しちゃったのよ。爆発まで30秒ないわ」

 

 

 

「言いたい事は山程ありますが、すぐに出ますよ冷泉さん」

 

 

 車内がパニックになり乗客は我先にと出口へ殺到する。私も新出先生に有無を言わさず外に連れ出される。

 外に出ればはじめて会ったあの女の子がいない事に気づく。爆弾とそこに残る小学生とまるであの頃の私みたいだなと思えば、コナン君はあの子が居た所の窓を割ろうとしている。

 拳銃を撃ち尽くしたコナン君のもとまで走り飛び上がりながら体重と遠心力を用いて木刀で窓を叩き割る。そしてバスを蹴りながら私自身はバスから距離をとる。

 

 

「冷泉!?」

 

「貸しだぞ、コナン君」

 

 

 しかしバスを蹴っただけでは離れるには距離が足らず着地しようとした私を受け止めたのはあの男だった。

 

 

「何者なんだお前は」

 

「それはお互い様なんじゃないかい」

 

 

 

 

 

 

 

「不測の事態により追尾続行不可能。ターゲットは現れず……後日調査を再開する……以上」

 

 定時連絡を入れればバスの中で隣になった少女を思い出す。初対面ではない。スコッチを追跡してた時に乱入してきた彼女。白刃を煌めかせながら爛々と濁った眼を見開いて襲いかかってきた彼女。

 最初は奴らの仲間かと疑ったが先程幾度となく犯人達に飛び込もうとする様子に考えを変えた。あんな分別のない獣はいくら組織といえどデメリットしかない。

 

 しかし勘は異常に鋭く戦闘センスは抜群であると同時に犯人の仲間を即座に割り出していたりと訓練を施されてないとすれば異常としかいえないもの。

 

 彼女はまさしく爆弾だ。指向性のない、起爆したら周囲を殺し尽くす。あまりにも危うい人間が作戦の近くにいる事に頭痛を覚えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。