雪に椿   作:罠ビー

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※斬ってない
 前話 監視対象 冷泉 雪と事件順が前後してます。前回は35巻 迷いの森の光彦終了後の情報が出てきていますが今回は31巻大阪Wミステリーの話になります


大阪剣士と東京の人斬り

 

 

「雪ちゃん、ここは⋯⋯」

 

「見ての通り体育館です。そして剣道の近畿地方大会が行われています」

 

 

 そう聞いてきたのは今回の旅に同行してくれた緑川さんだ。ここは大阪の浪花中央体育館。今日ここでは高校生と大学生の剣道の近畿地方大会が行われている。

 緑川さんは私の家の近くに引っ越してきた男性で好青年という言葉が似合いそうな青年である。しかし彼からは決して薄くない血の匂いがしている。いったいその好青年の仮面の下はどうなっているんだろうか。逆に好青年だけどそれなりの人殺しをする必要があったのか。そんな姿はおくびにも出さないが私の緑川さんへの興味は尽きない。

 

 

「偵察だよ。大阪は特に激戦区だから強豪選手も多い。服部君や沖田君の剣は目を見張るものがある」

 

「あれ、女子の部の偵察しなくていいの?」

 

「⋯⋯男子の方が迫力があるからな」

 

 

 私の言葉に緑川さんは納得していない様子。女子の大会の偵察の方が自然だろう。だって服部君に会いに来たんだからな。今度は服部君の頸を落とせるように、そのための偵察だ。

 さてそんな話をしていれば服部君の垂をつけた生徒がいるが⋯⋯明らかに覇気が違う。服部君の偽物とは不届きものだ。誅をくれてやろうと近づく。

 

 

「平次、もう試合始まってんねんで⋯⋯ってアンタ」

 

「服部君の物まねとは⋯⋯頸を狙われても文句は言えないぞ。そうだろう、遠山さん」

 

「堪忍してくれや。服部先輩に出番ないやろうから俺の防具つけてうろついて威嚇してくれって頼まれてるんです」

 

「それはルール違反なんじゃ……」

 

 

 そういって近づけば以前大阪旅行で出会った服部君の幼馴染の遠山さんがおり、私の事を見るやいなや嫌そうな顔を浮かべた。改方学園は無事に勝ち進んでいるようだが流石強豪校、服部君の出番はない様子だ。それはそれとして緑川さんのルール違反だろうという発言は聞かなかったことにする。

 

 肝心の服部君は別館のトイレでサボっているらしい。そう偽物君に聞くと遠山さんはずんずんと別館の方に歩いていく。私もついていけば服部君はトイレで電話していた。しかし急に扉を開けて血相を変えて出てくる。

 

 

「な、なんでお前がココにおんねん冷泉」

 

「なんでって君の偵察だ服部君。君と沖田君の試合なんて間近で見たいじゃないか、あわよくば混ざりたい」

 

「コッチはアンタの気色悪い鳥肌がたつような気で出るもんも引っ込んじまったわドアホ」

 

 

 私と服部君がトイレから出たところでそのような漫談に興じて居れば遠山さんは目に見えて機嫌が悪くなる。

 

 

「冷泉さんは平次に粉かけとる場合とちゃいます?隣の男の人置いといて」

 

「俺は雪ちゃんの保護者みたいなものだから」

 

 

遠山さんはそう言って緑川さんに話しかけている。緑川さんも若干たじたじした様子だ。そんな様子を見るとあんなに血の匂いが濃いのが不思議な気がしてくる。

 途中ぶっ殺してやるだの物騒な事を言っている大学生がいたのが気になる。酔っている一際五月蠅い声を上げていた男性が何かをバラすだったか?そんなことを言った瞬間冷えた殺気を放った人がいた。⋯⋯ああ、これはヤルな。

 

 

 

 

 

 

「楽しそうだね」

 

「ああ、服部君の試合だからな。流石に痺れたよ⋯⋯と言っても何試合見れるだろうか」

 

「今準々決勝終わったから2試合じゃないのかい?」

 

 

 準々決勝、改方学園の副将戦を見ながら緑川さんが話しかけてくる。その声には安堵の色が含まれている気がする。緑川さんは私の夜遊びを懸念していたから、普通に昼の世界の趣味があることに安心しているのだろうか?

 

 

「さっきの大学生達に不穏な空気があった⋯⋯たぶん」

 

「いやいやそんな⋯⋯」

 

 

 そんな話をしてれば服部君は誰かに詰め寄った後その場を走り出した。おそらく何か事件があったのだろう。しかしまだ仄かにも血の匂いはしていない。状況と自分の感覚に錯誤がある状態に違和感があるが今出て行っても場所は分からないしその場で待機をしておく。

 動きがあったのはそのあと。外からわずかにし始めた血の匂いをたどるように歩き出せば隣の緑川さんは不思議そうにする。

 

 

「どうしたの、雪ちゃん?トイレ?」

 

「いや、そうじゃないんだが⋯⋯」

 

 

 そう言いながら本館を出てプールの方に歩いていく。進めばだんだんと血の匂いが濃くなっていく。途中プールに向かってくる大学生の集団と服部君と遭遇する。後ろから追いかけてきたから私が本館を出てから何かあったんだろう。

 

 

「冷泉!?なんで自分がここに」

 

「服部君、いや血の匂いを辿っていたら⋯⋯おそらく死体があるはずだ」

 

「血の匂い⁉雪ちゃん。ならここを離れ」

 

「⋯⋯死体が移動したっちゅうんか。冷泉、その匂いどこからするんや」

 

 

 血の匂いを辿ってきたと素直に言えば全員が目を丸くする。大学生たちは何を冗談といった様子だが二人は違う。そして反応も正反対だった。緑川さんは私が歩いてきた理由が血の匂いだと聞くと顔を強張らせて私に戻るように促してくる。一方で服部君はホンマかというと血の匂いがある方に案内しろという。

 

 

「服部君、君は雪ちゃんを死体がある可能性がある場所に連れて行く気か」

 

「生きてる可能性があるやろがい。冷泉、場所を教えてくれるだけでええ」

 

「ああ、案内しよう。緑川さんも心配してくれてありがとう」

 

 

 結局プールの更衣室に死体はあった。日本刀が刺されているが致命傷は背中だろうか。熱いシャワーをかけられているがこれは直近で亡くなった死体だろう。ツンとした鉄の香りが鼻を刺す。

 

 ああ、いけないな。思わず頬がヒクついているのが分かる。

 

 

「雪ちゃん!!」

 

「いや、大丈夫だ緑川さん。そういえば服部君。死体が移動したとは?」

 

「ああ、最初は仏さんは別館の体育倉庫に居たはずなんや」

 

 

 ほう、なるほど。だけれどそれはたぶんない。彼はここで死んだはずだ。殺したのは細身の大学生。血の匂いが消えていない。動機は何だろうか。死体の彼はなぜ殺されたのだろうか。細身の彼はどんな気持ちで殺して、彼はどんな顔で死んだのだろうか。ああ、詳細を聞きたいな。

 

 

 

 緑川さんは私に事件に関わって欲しくなさそうなので一計を図ることにする。

 しおらしく少し休みたいと言えば優しい彼は心配してくれる。少し喉が渇いたとでもいえば彼は私から離れる。

 

 

「やあ、そこに何かあるのかい」

 

「君はさっきの」

 

 

 ついたのは別館の体育倉庫。さっきの細身の彼が跳び箱に何か細工をしている。

 さてなんて切り出そうか。よくよく考えれば私に詰めるための手段はない。勢いだけで来てしまったが残念ながらそれだけで解決する決定的場面じゃなかった。

 

 

「ここには死体はなかった。彼が死んだのはプールで、それまで彼は生きていたのだろう」

 

「ああ、ここで死んだことにした方が都合がいいのか」

 

 

 私がざっくりそう言うと殺気が高まる。手を腰に据えたという事は演技で使う予定の日本刀を抜くか。いいね、私はそっちの方が助かる。半歩下がり相手の間合いから離れる。

 

 

「くく、君はそんな顔をするんだね。彼はどんな顔をしたんだろうね」

 

「無手なのに随分の余裕やな」

 

 

 彼は私の口を封じたいのだろう。殺気が向けられる。ああ、ちんけな殺意だが心地よい。私を殺したいという気持ちが真っすぐ向けられる。刀を通して死が目の前に迫っている。それをがむしゃらに振る。一刀一刀がちゃんと入れば致命傷だろう。白刃の描く死線が私をダンスホールに導く。

 

 ああ、ああ

 

 

「生きて居るなあ」

 

 

 死から生は最も近くて最も遠い概念である。だからこそ死に生を感じるのだろうか。理不尽かつ平等なそれが不合理に不条理に不義理に不可思議に理不尽に襲い来る。

 

 

 だから目の前の男を

 

 殺したい

 

 

 

 

 

 

「そこで何しとるんや!!」

 

「雪ちゃん!!」

 

 

 ――少し遊びすぎた。仕方なく私は紅椿ではなく木刀を抜く。

 

 

 木刀で日本刀を中心から弾く。あまりにも軽く弾けてしまうことに虚しさを覚えながらすりあげた木刀を頭に落とす。

 

 

 

「終わったよ。コレで構わないだろう」

 

 

 物足りなさを強く感じる。ココにはこんな剣士より余程強い剣士が居るのに……そう思い服部君に木刀を向ける

 

 

「なんのつもりや、冷泉」

 

「服部君は決勝バックれたんだろう。私も今のでは物足りなくてさ、ヤろうよ」

 

「何アホな事抜かしとんや自分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふむ、服部君には袖にされてしまった。緑川さんには怪我はないかいとかイヤに心配された。風に当たってくるとそんな緑川さんを一方的に置いてきた。

 どうやらヤる気を振り撒いた成果はあったようで。

 

 

「服部が出とらんくて退屈しとったとこや。姉ちゃん、いい剣気出すやん」

 

「私も服部君に振られてね、相手してくれるかい」

 

 

 大阪まで来て甲斐があった。残念ながら服部君の試合はほぼ見れなかったけど、コレは十分お釣りがくる。

 

 

「なんや俺の事知っとるんか。姉ちゃんは」

 

「ああ。私は東京の帝丹高校 冷泉 雪だ。よろしく沖田君」

 

 

 工藤君に似た顔立ちの彼は私と同じように獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

 

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