雪に椿   作:罠ビー

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単行本42巻 黒の組織との真っ向勝負 満月の夜の二元ミステリー 改変
※若干のグロテスク(斬首描写)


林檎が木から堕ちるように

 

 

『初めての人斬りはどうかしら』

「特別何かが変わった感覚は無いな。その事の意味は君に聞くとしよう、紅椿」

 

 

 ある日家のポストに招待状が入っていた。それはハロウィンパーティーの招待状だ。さてこんな小洒落たイベントに私が招待される道理が分からない。とりあえず受け取ってはみたがそんな事はとうに記憶の彼方に追いやっていた。差出人の宛名を見ても私の英語力ではなにも分からない。

 蘭のおじさんの所にも来たらしくおじさんは行く気満々らしいが蘭は重度のオカルト嫌い。その為今回蘭は付き添わないらしい。代わりに面白そうとメイクを担当した園子がおじさんに付き合うようだ。

 確かに招待状には気になる文面もあった。私が過剰防衛で相手を殺害してしまっている事は別に秘密にはしてないが公にはなっていない話ではあるし、ではこの送り主は何故その事を知っているのだろうか?私を来させたい意図は感じられるがコレに乗らなかった方が私好みの展開になりそうである。

 私を誘うならダンスパーティーより果たし状の方がよっぽど効果的だ。

 

 ジョディ先生もウチの英語教師を辞めるらしい。探し物が見つかったと言っていたけどそれはあの血の匂いの濃い新出先生と関係あるのだろう。ジョディ先生から度々新出先生への殺気を感じる。

 

 

「君は……あのバスにいた少女じゃないか」

 

 

 そんな少し騒がしさを感じる日常を送る私の前に飛び込んで来たのはあのバスジャックの日にコナン君に匿われていた少女だ。コナン君の後ろに隠れてシャイだとコナン君は言っていたが中々アグレッシブじゃないか。

 少女は私に気づいていないようでそのまま走り去ろうとする。中々お転婆だが彼女の足ではいくら急いだ所でたかが知れている。

 

 

「!!」

 

「やあお転婆なお嬢様、行先はどちら?」

 

 

 私が少女の進行方向に後ろから抱えあげ走り出すと少女は初めて私の存在に気づいたようだ。最初は明らかに怯えた様子を見せるがすぐにジタバタと暴れ出す。

 

 

「なによ貴女」

 

「そんなに抵抗しても君の身体より私の身体の方が大きいんだ。膂力も体力も差がある。それに君も私に運ばれた方が早くつくし疲れない。合理的だろう?」

 

「誰がそんな事頼んだのよ。離しなさい」

 

「ジタバタしてるだけ時間の無駄じゃないかい?もう私に捕まっているんだし私を上手く使いなよ」

 

 

 私の言葉に彼女は考える。しかしいまいち決心はつかないようである。どうしたものかと考えている時間は少女を抱えている手前私の方に不利に映る。なら仕方ないと彼女の進行方向にとりあえず走り出す。

 異常を察した周りの人が私を止めようとしてくるが素人に止められる私ではない。彼女を抱えたまま強行突破をする。何やら通報されてる気もするが⋯⋯

 

 

「さてどうしようか、事情聴取は君も望んでいない展開だろう」

 

「⋯⋯今から行くところはとっても危険なの。ついたら私を降ろしてすぐに逃げなさい」

 

「⋯⋯へえそれはとても楽しみだ」

 

 

 彼女は苛立ち交じりのため息をつくと抵抗をやめる。正直このまま抵抗されてたら余計な体力を使うしフラストレーションは溜まるだろうからここで折れてくれて助かった。しかも彼女が誘ってくれる先は夜の世界だという。とても心躍る。

 

 

 

 

 

 

 ココでいいわと彼女が言ったのは夜の港。剣呑な気配と少数の人の気配がする。それを証明するように先ほどから度々破裂音、おそらく銃声がしている。その度に彼女は顔を青くさせ身を震わせていた。

 さて私はどこに向かおうか。彼女が走り出した方からは血の匂いがじんわりと漂ってくる。匂いの濃さから致命傷ではないだろうがきっと誰かが撃たれたのだろう。楽しそうではあるがそこから離れたコンテナの上に一人いる。そしてもう一人感じる気配はあの日の不審者。

 

 リベンジマッチといってもいいが不審者とコンテナの上と私。ちょうど位置関係的には三角関係だ。不審者も私達というイレギュラーの到着に気づき一度息を潜めた。コンテナの上の人物はおそらく私達に気づいてはいない。

 しかし私と不審者はこの場面で完全にお見合い状態だ。不審者は私の性質を少なからず気づいてはおり横合いから切り込まれたくないと思っている。私も不審者が横合いから攻撃してこない可能性はない。不審者に切り込んでもいいがそうすればコンテナの人物は間違いなく私達に気づく。

 

 膠着状態は少女、哀ちゃんを降ろしてから2.3分。状況が動き出す。

 

 外国人の声がしたかと思えばドカンと薄い金属を殴ったような打撃音が聞こえる。すぐにコンテナの人物は数発発砲するが逆にコンテナの方に一発着弾した音がする。不審者と私、動き出したのはたぶん私の方が先だった。コンテナを駆け上がり始めたところでコンテナの人物は私に気づく。

 

 コンテナの積み方から最上段に上るまでの射線は切れている。上り切れば私はようやく下の状態が目端に入る。銃を構える外人の女性、車に持たれかけながら出血してるジョディ先生、眠らされているコナン君

 

 そして哀ちゃんを守るように抱えてうずくまる蘭。

 

 

「⋯⋯へえ、横取りは許せないな」

 

 

 私のつぶやきに答えるように私の顔をかすめる弾丸。コンテナの男が発砲したのだろう。

 

 コンテナの男はライフルを置いておりショットガンを構えている。⋯⋯それは少し困るな。散弾は殺意こそあれ作為はないから狙いが分かりづらいし私の間合いで撃たれようものならひとたまりもない。

 しかし男はショットガンを離し拳銃に持ち替える。不審者が別方向から近づいているのを察し取り回しやすさを取ったのだろう。であれば問題はない。

 

 

 

 間合いを詰める。発砲されるのでゆらりと姿勢を下げ大きく近づく。

 

 二発目。歩幅を狭め推進力を減らした私の一歩先に着弾する。

 

 三発目。胸部に飛んで来た弾を左に身体を開きながらかわし左手に持っている紅椿の柄を掴む。

 

 一足一刀。左足を大きく前に出しながら右手で抜いた紅椿で相手の頸を捉える。

 

 

 薄皮が割け血を紅椿が啜るのを感じる。力を籠めれば紅椿は男の頸に食い込んでいく。刀身はまるで分っているかのように椎骨の隙間を抜いていく。

 抵抗がなくなり刀を振りぬく。普通ならピッと刀身を振り血脂を落とすのだろうがこの刀の刀身は汚れない。代わりに行き先のなくなった頸動脈から吹き出る血液が私の身体を汚していく。春の初旬の冷えた身体がまるで胎内にいるように血液が温めていく。

 

 堕ちた男の頸は視線を私に向けているがその表情はなぜか塗りつぶされているようで見えない。

 

 滴る紅が私の感覚をクリアにしていくがその割に待ち望んだ高揚感を私は感じていない。逆に感じるのは倦怠感だ。

 

 

『初めての人斬りはどうかしら』

「特別何かが変わった感覚は無いな。その事の意味は君に聞くとしよう、紅椿」

『そうね。でも次のが来たわよ』

 

 

 

 

 

 

 邪魔をするように私に殺気が向けられ銃弾が放たれる。

 

 

「⋯⋯やあ不審者。いきなり銃撃とは女性へのマナーがないのではないかい」

 

「そうか?モンスターに対しては正しい対応だろう、フリークス」

 

 

 

 不審者が私に対して銃を向けている。私も不審者に刀を向ける。

 私たちが互いにけん制をしてるのと同じように下でも状態が硬直している。外国人が蘭を撃てないようである。

 

 

「負けたままというのはいささか心残りだ。リベンジマッチと行こうか」

 

「君の相手をしている暇はないが君に背を見せるのは危険すぎる。大人しくしてもらうぞ」

 

 

 あの日と同じように私は不審者に斬りかかる。違うのは私が殺人鬼に為った事と不審者が銃を構えていること。不審者が私に発砲してくるが今の私には射線も狙いもすべてわかる。制圧を目標にしていただろうあの日と比べて不審者が武器を用いたことがかえって私にとって戦いやすくなっていた。

 しかし不審者もさすがで私の剣から致命的な攻撃は受けていない。徹底して頸を捉えられないようにしている。それでも私は、この刀への理解を深めた私はこの戦闘において不審者を上回っていた。

 

 

「ウェンディゴ‼あなたまで、それにカルバドスは⋯⋯」

「そ、雪」

「冷泉サン、シュウ」

 

 

 しかし不審者を相手に一筋縄ではいかない。先ほどの男との戦闘で鳴った銃声も加えれば私達の状態が下に知れるのは必然であった。そしてさらにこの状況を動かしたのは近づいてくるサイレンの音だった。

 

 戦闘を継続している私たちを尻目に真っ先に動いたのは外国人の女だった。彼女は眠らされているコナン君を拾うと車に乗り込みこの場からの離脱を選択する。そのことを不審者は咎めようとするがそんな致命的な隙があれば私の紅椿が身体を穿つのは明白だ。その様子を苦虫を噛み潰すように見れば私を睨む。

 

 

「そんなにそっちが気がかりならば行けばよかったのに」

 

「ほざけ、クソガキ」

 

 

 さてこれで蘭や哀ちゃんは助かったが次なる問題はこの近づいてくるサイレンだ。私も不審者もジョディ先生もおそらく警察にこの現場を抑えられるのは避けたいはず。互いの利害は一致しているが矛を収める選択肢を出すには私も不審者も互いに信頼してない。それこそ都合のいい第三者の横やりを望んでいる状態だ。

 

 

「二人ともそこまでだ。武器を降ろせライ、雪ちゃん」

 

 

 満月の下、私たちは再び相まみえた。

 

 

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