雪に椿   作:罠ビー

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単行本5巻 山荘包帯男殺人事件


小さな探偵と殺人の善悪

 

 

 

「ねぇ雪?貴女週末空いてる?」

 

「空いているが私とは珍しいな」

 

「蘭も当然誘ってるわよ。蘭も雪も部活で大活躍でしょう。だから息抜きに遊びにいかない?ウチの別荘で姉貴の友達も来るのよ」

 

 

 園子は笑顔でそう誘ってくる。私達と遊びたいというのもあるだろうが園子の趣味の男漁り的な目的もあるのだろう。

 

 

「男女が近くにいれば見栄えがよくなるかな」

 

「まーたそんな事言って。もう誘わないわよ」

 

 

 冗談だと言えば向こうも本気にしてないのかじゃあ週末開けといてねと去っていく。まあお決まりのやりとりという奴だ。

 それにしても山奥の別荘とは、いかにも何かが起きそうで胸が躍る。それこそ殺人鬼が出てきて斬殺事件が起きたって不思議ではない。

 

 

 当日、別荘に着くと蘭達はまだ来ておらず園子と園子の姉の綾子さん、そして綾子さんの大学時代の映画サークルの仲間が4人居た。

 

 

「綾子さん、園子。お誘いありがとうございます」

 

「そんな畏まらなくていいのよ」

 

「いいのよ雪。それで気になる人居た?」

 

 

 まずはホストの綾子さんと園子に挨拶をすると綾子さんは正直お邪魔だろう私にも笑顔で応対してくれる。一方で園子はいつもと変わらない様子で私に耳打ちしてくる。

 

 

「……私は自分より強い男が理想だからな、あの中では無理だろう」

 

「あんたより強い奴なんてそうそう居ないわよ」

 

「ああ、だから今の所の第一候補は蘭だな」

 

 

 くだらない茶番だが園子は私の答えが以外だったのかキョトンとしたあとワタフタと慌てだす。その様子が滑稽で面白い。

 

 

「あ、あんたそっちの趣味が」

 

「そういう訳ではないが私より強い可能性があるのは周りだと蘭くらいだからな。8割は冗談だから園子は工藤君と蘭を応援してくれ」

 

 

 そう言うと園子も押し黙る。当面の面倒事を振り払ったところで参加者の観察をする。 表面上は仲のいいサークルメンバーといった様子だがどこかピリピリとした緊張感と息苦しい感じがある。おそらくコレは私が完全に外様の立場だから感じる事かもしれない。

 

 

 数刻後ようやく蘭がやってくる。おそらくちょっと迷ったのだろう事は想像に難くない。そして蘭の隣には小さな影が一つ。あれが噂に聞いていた毛利家の居候、コナン君であろう。

 

 

「お疲れ蘭。つくなりバタバタしてたみたいだけど大丈夫かい?」

 

「あっ雪。雪も呼ばれてたんだね。コナン君、この娘は冷泉 雪。凄く強くて、かっこいいけど怒ると怖いから怒らせちゃダメだよ」

 

「……少し余計な気がするが、君がコナン君だね。よろしく」

 

「よ、よろしく雪ねーちゃん」

 

 

 蘭の紹介に異を唱え、勤めて笑顔を作りコナン君に挨拶する。明らかに引いており怯えられてるのは明白だった。隣で悪霊が大笑いしており、もし奴に実態があるならぶん殴ってやりたかった。

 さて出会い頭こそ引かれてしまったが、話を聞いていると何やら別荘の周りに怪しい包帯の人影が居るという。その状況に胸を高鳴らせる。

 いざという時に擦り付けるにしろ、その不審者を相手どるにしろ、暴力の香りに私は密かにときめいていた。

 

 

「雪ねーちゃん、蘭ねーちゃんが好きって本当?」

 

 

 おい園子。君は少年になんていうことを

 

 

 

 

 

 映画サークルの諸兄の話は現在上映中のヒット作の脚本家として活躍している池田さんの活躍の話から撮影の角谷さん、そしてふくよかな体形の高橋さんに話題移っていく。そして綾子さんが敦子という女性の名前を出してから表面上は和やかであった空気が突如緊張の糸がピンと張りつめた。

 

 雨が降り始めた中、メンバーは各々思い通りに過ごしていた。そんな中映画サークルでは俳優であった太田さんが蘭を外に連れ出すのが見えた。そしてその後ろをコナン君と園子が追いかけていた。それをなんと気なしに私もついていく。比較的勝手知ったる相手と行動したいという気持ちからだろうか。

 途中雷鳴が轟くと蘭が走り出してしまう。そしてその時に森の中にじんわりとした殺気が私の肌をなぞった。

 

 

『あら、面白くなってきたじゃない』

 

 

 瞬間私も走り出す。その殺気が向けられているのは蘭だと気づく。ああ、ああ。

 

 

「横取りは許せないなあ。しかもそんな雑なやり方でなんて」

 

 

 蘭と包帯男の間に割って入る。得物は傘だが相手の斧と鍔ぜりあうような形をとれば勢いは押され斧は私の肩口に浅く突き刺さる。痛みが、流血の赤が私の頭を茹だつような快感と半面、冷酷なまでに相手に致命傷を与えるように身体を動かす。

 斧と鍔ぜっているが体格差で不利になるその傾き、傘の先端は包帯男の目を捉えていた。あとはそのまま押し込むだけというところで私の身体は蘭に転がされる。

 

 私の殺意と目に突き付けられたことから包帯男は状況不利を悟り森の奥に消えていった。

 

 

「雪!!雪!!しっかりして」

 

「かすり傷だよ蘭。大げさな」

 

 

 ああ、あとちょっとだったのにな。

 

 

 別荘に戻れば蘭は包帯男に襲われたことと私が負傷をしたことを報告した。にわかに森に潜む怪人の姿が現実味を帯びてきた。そんな中園子がまるで映画みたいと言っていた。どうやら殺人鬼に別荘の面々が次々と殺され最後に生き残った美男美女で殺人鬼を倒すという筋書きらしい。

 

 

「なら殺人鬼役は私だな園子。金持ち浮かれ美女を真っ先に狩ってやる」

 

「⋯⋯ごめんて。雪はケガしてんだもんね」

 

 

 電話は通じず、つり橋は落とされ刻一刻と状況は悪くなっていく。護身用の武器などを各々が探していく。もちろん私も先ほどは傘で後れを取ったので竹刀袋を腰に差しておく。

 ⋯⋯園子の事を笑えないな。私は今この状況に高揚感を覚えている。今なら誰か切り捨てても包帯男に疑いが向く。腰に差した2振りのうち紅椿の柄を握る。ドクンドクンと心臓が血流を全身に送る音が響く。

 

 

『園子ちゃんの言っていた通りにするのも面白いんじゃない?恨みも友誼もすべて殺意の奔流で包み込んで。そうすればあの子は分不相応なロマンスを思い描いたことを貴女の前で後悔するの。そして許しを請う、いや彼女なら向かってくるかしら。別荘の人間は全滅して見事殺人鬼の勝ち。貴方は血まみれのレッドカーペットの上の主演女優』

 

 

 

 

 

「雪ねーちゃん、夕飯だっ⋯⋯冷泉!!」

 

 

 目をつぶり惨劇の会場にいた私の意識は浮上する。声をかけてきたコナン君に紅椿を抜き放ちそうになるのを抑えれば私は胸部とケガをした肩口を抑えているように見えたらしい。私を揺するコナン君に惨禍の微睡から帰還した眼を見られたのはあまり良くなかったかもしれない。

 

 夕飯のために広間に向かえばもう事件が起きた後だった。高橋さんが何か騒いでいるが、血の匂いでバレバレだ。犯人は高橋さんだ。しかも今池田さんの生首を腹部に隠した。目の前の窓には包帯男が映っていたらしいが私はずっと高橋さんの様子を見ていた。

 頸を落とす。それは最も鮮やかな殺害方法だと私は思う。

 

 

「鮮やかだな」

 

「どういう事、雪ねーちゃん」

 

 

 森で遺体を発見した時のつぶやきをコナン君に聞かれていた。思わず出てしまった言葉のためどう釈明しようかと考えるが変に取り繕うのもなので答える。

 

 

「斧とはいえ骨を折りながらだと切断面がきれいにはいかない。ちゃんと骨の切れ目、関節面で断ち切っていることにちょっと感心したんだよ」

 

 

 そういいながら高橋さんの腹部から遺棄された池田さんの顔を見る。恐怖におびえる、苦しんだ死にざまだ。何に恐れたんだろう、高橋さんの何が池田さんをこんな顔にしたのだろうか。そんなことばかりをそのあとは考えていた。

 

 

 高橋さんと池田さん以外に興味を失った私は高橋さんが再び蘭を襲おうとするのを木刀でいなしていたら事件はいつの間にか園子が解決をしていた。動機は名前だけ聞かされていた敦子さんの復讐だそうだ。敦子さんの敵を討った正義の使者として彼は己に刃を突き立てようとしていた。

 

 ⋯⋯殺人者が正義の使者?

 

 そんな私の秘めた悪質性が肯定されることがあっていいのだろうか?そう思うと私は駆け寄り木刀を振りぬいていた。園子の声が何かを言おうとしたがそれより早く彼が持っていたナイフを奪えば逆に私が頸すじにそれを沿わせる。

 

 

「っひ」

 

「殺人者が肯定される?なら私のこの醜い衝動も肯定されていいのか?私が世界に肯定されていいのか」

 

 

 高橋さんにだけ聞こえるような声量で私は呟く。コレは正しく八つ当たりというやつだろう。しかし私の低い声で囁かれたその慟哭に彼は心折られていた。

 

 

「「雪!!」冷泉!!」

 

 

 蘭と園子の声が一触即発の空気を纏っていた私を咎める。別に私もヤル気はないためナイフをそのまま放り投げる。

 

 

『私はそんな雪も肯定するわよ』

 

 悪霊はいつも私に甘い言葉をかけてくる。

 

 

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