原作キャラ死亡描写等あります。
「雪ねーちゃん、夕飯だっ⋯⋯冷泉!!」
目をつぶり惨劇の会場にいた私の意識は浮上する。声をかけてきたコナン君に紅椿を抜き放つ。なぜか私はコナン君のはるか上、高校生の胴回りに放った刀は空を切る。腰を抜かすコナン君にすまない、気が動転していたと空々しく謝罪をする。
私の様子を心配してきてくれたコナン君になんて物言いだろう。立ち上がり見下ろすコナン君は惨禍の微睡の渦中にいる私の眼を見ても怖れより怒りのまなざしを向けている。強い男の子だ。後ろでコナン君がなんか言っているが私はそれを置いて部屋を出る。
夕飯のために広間に向かえばもう事件が起きた後だった。高橋さんが何か騒いでいるが、血の匂いでバレバレだ。犯人は高橋さんだ。しかも今池田さんの生首を腹部に隠した。頸を落とす。それは最も鮮やかな殺害方法だと私は思う。
私は皆が騒動に気を取られている間に別荘を飛び出る。雨の冷たさが心地よい。感覚がいつも以上に研ぎ澄まされていくのを感じる。いつもよりも明確に血の匂いを感じれば、そこには池田さんのバラバラの遺体が転がっていた。
斧とはいえ骨を折りながらだと切断面がきれいにはいかない。これはちゃんと骨の切れ目、関節面で断ち切っている。その遺体に美しさを感じていた。芸術品を鑑賞するように私はそこに立ち尽くしていた。
『鮮やかなものね。野生動物ではありえない鋭利な切断面。それは人という種族が人という種族を殺すために磨かれた鋭利な殺意』
「ああ全く同意だ。人が人を殺す、その不合理さが、理不尽さが私達を焦がして止まない」
足音が聞こえる。ずぶぬれで刀を持った私。ああ、まるで私が怪人みたいじゃないか。
いや、私はずっとヒトデナシであった。それが今、為っただけだ。
映画研究会のメンバーは私がやったのかと糾弾してくる。そこには下手人の高橋さんも一緒になっている。これ幸いというところか。いま騒ぎに乗じて池田さんの生首を遺棄した。
高橋さんの腹部から遺棄された池田さんの顔を見る。恐怖におびえる、苦しんだ死にざまだ。何に恐れたんだろう、高橋さんの何が池田さんをこんな顔にしたのだろうか。それを聞いてみたくなった。
「高橋さん、池田さんは最後どんな顔をしていたんだい」
「⋯⋯黙れ殺人鬼が。知佳子を返せよ」
私は淀み切った瞳を高橋さんに向ける。一瞬言いよどむがその答えを私に教えてくれる気はないらしい。しかもあろうことか返せという始末。私は笑いがこらえられなくなる。これじゃ池田さんが浮かばれない。隠すにしてもその言い草はあんまりだ。
私が殺人鬼だと確定しそうな中、園子と蘭、そしてコナン君はその状況に困惑している。
「⋯⋯雪」
「⋯⋯蘭、一応私は池田さんを殺してはいない。他人の成果を横取りする気はない」
「うん。それは信じるよ。でも、もうダメなんだね」
「ああ。もう、ダメみたいだ。今までありがとう、蘭」
そう言うと私はまず高橋さんに近づきその首を落とす。恐怖を抱いていた池田さんとは違いその首は唖然とした表情をしていた。そのまま私は森の中に入っていく。コナン君が何かを蹴っ飛ばそうとしてくるのを視界の端で察して極力木を盾にするように、視界から断ち切るように森に入る。
自身の鼓動が五月蠅く高鳴っていく。抑圧されていた私が歓喜の声を上げる。頸の頸動脈から噴出した血液は私を紅く朱く染めていく。顔にかかった分を嘗め回すが美味しくはない。だけれどその赤は何より私を彩ってくれているように感じた。
散り散りになるのは得策ではないと彼らは固まって行動をした。それを一人ずつ襲っては離脱しを繰り返し人数を減らしていく。殺せば殺すほど視界が開けてくる感覚がある。熱い吐息が漏れて私は雨と血で湿った身体を強く抱く。
『いい顔をしてるわよ雪』
「お前と似た、だろう」
『この娘も喜んでるわ』
殺女の言葉に紅椿の刀身を見る。血油で汚れるはずが不気味なくらい刀身は汚れておらずその刀身は私の姿を映していた。その瞳は淀んでこそいるもののその昏い赤は妖艶さを放っており、そして頸には一本の線が浮かんでいた。お前は私も喰らいたいんだな。
なら私はこの脚本で役柄を全うしよう。
「さあフィナーレだ園子。奇しくも君の脚本通りだな」
「ふざけないで雪!!あんた何がしたくてこんなことを」
「配役は私がいじったがやはり君の騎士は蘭がふさわしい」
「答えろ、冷泉」
私の芝居がかった口調に生き残っているコナン君と園子が激高する。蘭は二人を守るように間に立っている。何がしたかったか。
「人を殺してみたかった、が一番適切かな」
「今までずっと我慢してたんだ。普通であろうって。それが抑えきれなくなった」
「蘭、園子。君らの隣で笑ってたのはこんなヒトデナシなんだ」
「私はいままで、これまでちゃんと人間であれたかな?」
言葉はうまく選べない。私を突き動かす衝動はとっくに歯止めが利かなくなっており目の前の3人を殺さないなんて不可能であり、そんな素晴らしい機会を逃すことを冷泉 雪は許さない。震わせる声は歓喜なのか、恐怖なのかすでに不明瞭だ。
私の独白にコナン君と園子はなにも答えない。まあそれも当然か。唯一蘭だけが悲しそうな目を向けている。
「そんな目をするな蘭。これは全部私の責任であり君は悪くない。君の迷いを消せる言葉をかけるなら」
人であるようなふりはやめる。モンスターのように、鬼のように、ヒトデナシらしく。狂ったように酔ったように恍惚とした声で
「私はずっと君の頸を落としたかった」
覚悟を決めた蘭の拳をかわし短いモーションで蹴られた蹴りを引いてかわす。間合いは私の方が広い。腕や足を切りつけての消耗戦かと冷静な私は考えるがいたずらに蘭の身体を傷つけるのを拒否する。鮮やかに美しく蘭は殺したい。
蘭は私が首一点狙いなのは気づいてるようでむやみな前進はしてこない。
紅椿を蘭の右側に向けて刃を寝かせながら突きを放つ。左腕で放たれる正拳突きをそのまま蘭の右方向に身体を捌くことでかわす。続いてくる右の蹴りを回避せず刀を蘭の左側に引く。左腰のあたりに確かな痛みがはしる。大腿骨がやられたか?しかしこちらの一撃は致命の一撃だ。荒い息を吐く。
刹那何かが刺さった感覚と眠気が襲ってくる。麻酔かと気づく。明確な殺意のないそれは殺意を嗅ぎ取り回避する私には非常に効果的な一手であり、蘭との戦闘に全精力を注いでいた私には回避するすべはなかった。
それは一瞬は蘭に蹴られた左ももの痛みでこらえる。しかし継続した眠気には抗えない。
だから紅椿を機動力の落ちた左足に突き刺す。所詮血流で回すものだ。血を抜いてしまえば問題ない。
「冷泉、お前なんでそこまで」
残った二人が息をのむ。二人が真っすぐ逃げたら私の今の足では追うのは難しい。ここが陸の孤島だとして私の方が出血で先に死ぬ。私の頸に入る筋が濃くなった気がした。
「なんで?おかしなことを言う」
左足を引き釣りながら二人に進む。二人は怖気づいてはいるがコナン君は私を打倒する手段を探している。
「ヒトデナシに理屈なんてあるものか。理屈は人の領分だ」
頭に何かが飛んでくるので健在な右足で横っとぶ。体が倒れる。右足一本で立とうとすると困難で苦戦するが持ち直す。間合いが詰まる。痛む左足を軸に倒れこみながら刀を振るう。倒れる身体はコナン君の腕を切り裂いた。足に行きたかったが仕方ない。
意識が遠のく。だいぶ血が抜けてきたのだろう。一方で紅椿は私の血を吸いなお輝きを増す。傍らに倒れるコナン君を腕で捕まえる。そのまま床に叩きつける。コナン君ののどに突き刺すようにしながら紅椿を杖にし立ち上がる。
がここが限界であった。血流不足による起立性低血圧。私の身体は園子に向かって倒れ伏す。当然紅椿を向けながら。刺さった感触はあるがそれが何になのか、致命なのかはもうわからない。
「雪、私があんなこと言ったからなの?私が悪かった?」
赤い血のレッドカーペットの上。赤いドレスの私とまだ白いドレスの君。主演女優は一体どちらなんだろうな。
それを知るのはこの娘だけかと紅椿を握りそれを押し倒す。
鈴木家別荘惨殺事件
死亡者8人
生存者1人
被疑者 冷泉 雪(17) 死亡
※生存者鈴木 園子は救助時左肩に刀による重症。心神喪失状態。また死亡者の中に身元不明の男児の遺体あり
「蘭、雪。今度は⋯⋯に行きましょう。雪もたまにはおしゃれしなきゃダメよ」
『君に任せるよ園子。私は園子にも赤が映えると思うな』
※凶器の日本刀は押収後、証拠品保管庫から遺失。担当者を処分