雪に椿   作:罠ビー

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※原作死亡キャラ生存



小学生冷泉 雪と解除出来なかった爆弾

 

 

 

 夢を見た。

 

 小学生の頃の私が人が居ない道を歩いていく。それもその筈でここは規制線の中だ。既にここは避難指示が出ており人が居ないのは当然である。

 それは当時体験した事でこの夢はその時の追体験なのだろう。私に幼い私の身体を好きに動かす事はできない。

 

 

「私はきっと、消えてなくなった方がいいんだ」

 

 

 では当時何故こんな事をしたのかと言われればそれは正しく自殺志願だった。いや、当時はそこまで具体的に思っては無かった。とりあえず人が居ない所に。あわよくば消えたかった。

 

 子供ながらに私は周りの子供たちと何か違うことは感じていた。

 アリの巣に水を入れたり、落ちたセミの羽根をもいでみたり。子供というのは無邪気ながら残酷なことを当然のように行う。それはまだ相手の気持ちを知るという事に疎くて、好奇心が勝るからだろう。当然⋯⋯いや、女子としては大分いびつだが幼い私もこのような行為を日常的に行っていた。

 喧嘩もよくしていた。子供は自分の感情を上手く表現できない。だから身体を使うしすぐに衝突する。結果喧嘩はそれなりに起こる。

 

 私がそれらと私のそれが違うなと感じたのは小学校3年生になったころだ。周囲の子は虫をいじめたりといった事はしなくなっていた。曰くかわいそうだから、命は尊いものだから。道徳教育、情操教育の賜物である。

 一方で私はそれらから卒業することはできなかった。かわいそうだとは思う。そしてこれがよくない行いという事も理解している。別に道徳の時間をサボっていたわけではない。

 それでも例えばアリの巣に水を入れた時勢いよく出てくるアリに、羽根をもがれたセミがジタバタと地面をのたうち回るのに、蜘蛛の巣にくっつけた蝶が必死に飛び立とうとする姿にたまらなく興奮した。理不尽に遭いながら少しでも生き永らえようとする姿が私には自然の中を生きるそれらより美しく愛おしく感じられた。そしてそれを作ってるのが自分であるという事に背筋をゾクゾクとしたものが走った。

 

 人間は異質なものを怖がる、子供は殊更その傾向が強い。当然ながら私は排他される位置にいた。

 最初は嫌がらせもされていた。私はこれ幸いとそれを口実に喧嘩に明け暮れた。同級生に暴力を振るう度拳から伝わる感覚、怖れを孕んだ瞳、人間同士で殴る不合理さ。それがいけないことであると解りながら暴力を振るった。

 

 

 その結果私は静かに集団から排斥された。

 

 

 そしてある日、図工で彫刻刀を使った時だ。勢いあまって私は彫刻刀で指を削った。刃物は当然だが殴るよりあっさり傷がつく。ドクドクと皮膚からにじみ出てくる血液と熱くなっていく患部。拭っても拭ってもじんわりと肌を、拭いたティッシュを侵食していく紅に私は目が離せなかった。

 そしてその傷は擦り傷や噛み傷のように自然に出来る傷ではない。私の不注意だがそれは紛れもなく人によってもたらされる傷だ。その事実に私の中の怪物が一段と大きくなった気がして。⋯⋯私は自分の衝動が暴力以上に殺害に由来するものだと悟った。

 

 情操教育で積み上げられた【普通】の私は悪い子の私の存在を否定しようとする。けれどそれは彫刻刀の事故の日以来私の中をどんどんと侵食していく。暴力に理不尽に支配されていく。

 このころ私の悪童ぶりを見かねた両親は私を道場に入れたがそれは私に体のいい暴力の機会を与えたに過ぎなかった。武道精神が私の生育に寄与しなかったとは言わないが生来の気質を抑えることはついぞできなかった。

 

 

 だから私は、人を傷つける、殺すであろういけない悪い私は消えなければならない、人と触れ合ってはならないと思っていた。

 

 規制線の向こう側。誰もいないマンションの階段をまるで絞首台に上るように上がっていった。そう人がいないはずだった。

 

 

「お兄さん、誰?ここは誰もいないはず」

 

「え、なんで子供が⋯⋯というかお嬢ちゃんわかってるならさっさと逃げて」

 

 

 だけれどそこには人がいた。

 それは警察の人で、今考えればわかるが爆発物処理の人だろう。彼は現れた私に動揺して今すぐ逃げるように促す。だけれど私はそれを拒否した。

 

 

「ダメ。外に出たら人がいる。私は人のいないところに行かなきゃ。人を傷つけちゃうから」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。このままじゃお嬢ちゃんも危険だ」

 

「私が消えちゃえるなら多分それが一番」

 

 

 一切避難しようとしない私に彼はしびれを切らしまだ軽い私を抱えて階下に走り出した。上ってきた階段を下ろされる。絞首台の縄から遠ざかっていく。

 

 

 ああ、やっぱり私はここでは死ねなかった。

 

 

 次の瞬間爆発音と熱量が爆発物処理のお兄さんの後ろから聞こえ私たちは階段を転がり落ちることになる。

 

 この日彼は命を拾い、私は命を落とせなかった。

 

 

 

 

「お兄さん、誰?ここは誰もいないはず」

 

 

 爆弾処理の途中聞こえないはずの子供の声に振り返る。規制線を張って周りの住人は避難させたはずなのにそこには小学生低学年くらいの女の子が立っていた。不思議そうな声音と裏腹にこの状況を理解している様子。年齢の割に妙に落ち着いているが陰のある様子が印象的だった。

 

 しかも話を聞くに逃げ遅れではなくなんと上ってきたらしい。人のいないところに行きたい、消えたいと答える彼女に、この子はここに死にに来たのだと悟る。説得したいがこんな危険な場所で問答をしている余裕なんてない。だから一応停止した爆弾をいったん放置し彼女を抱えて他の警官に引き渡してから作業を再開しようと彼女を小脇に抱える。

 

 

「⋯⋯やめて、私は悪い子だから。私はみんなを傷つけちゃう。私は消えなきゃいけないの。悪い子になっちゃう前に」

 

「君が悪い子かどうか俺は知らない⋯⋯いやここまで来ちゃうのは悪い子だけど多分そんなんじゃないだろう」

「でも君は悪い事は分かっているはず。だから悪い子にならないように頑張ればいい。もし悪い子になりそうでも」

 

「お兄さんたちが止めてやるよ」

 

 

 若干暗い赤い瞳の彼女を元気づけるように笑う。すると俺の後ろで爆発音が響き俺たちは階段から落下する。俺は彼女を守るように抱きかかえて階段を転がる。人を傷つけてしまうといった彼女を悲しませないように努めて平気なように強がって

 

 

「お兄さん!!ごめんなさい私がいるから、私のせいで」

 

 

 彼女は驚き俺の状態に涙を流しながら口元は嗤っていた。奇妙な二面性を見せる彼女を抱きしめながら俺は笑いかける。

 

 

「むしろ君がいなきゃ俺は爆発が直撃していた。君のおかげで俺は助かったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもお兄さんは私を生かせちゃった。その責任はとれるの?」

 

 

 

 突然女の子から少女のような声が聞こえる。低い声で、俺を嘲笑うような声質で。彼女を見れば若干暗い程度の瞳はひどく淀み、どろどろとした殺意を向けながら責めるような言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 飛び起きる。これはあの日の夢で俺が一人の少女のおかげで一命をとりとめた日の事だ。

 違うのは最後。死にたがっていた彼女は俺の腕の中で自分のせいだとずっと泣いていた。しかし歳を経るにつれ夢の中の彼女の言葉が変わっている。最近はやっぱりあそこで命を落とさなかったことを後悔しているような言葉が多い。

 俺はその日、泣きじゃくる彼女から彼女の葛藤を聞いている。残酷な行為をやめられず、暴力に喜びを覚え、血が流れることに快感を感じる悪い自分が日に日に大きくなっていると。だから夢の彼女はいつも死にたがっている。

 

 それは俺が深層心理では彼女が死ぬべきだったと感じているという事ではないだろうか。そう考えていることに反吐が出る。

 

 悪夢を振り払うように家を出て非番のため街に繰り出すと、悪夢の最後のひどく淀んだ赤い瞳とすれ違う。彼女も足を止め振り返る。

 

 

 それは高校生くらいの少女できっとあの日助けた子なんだろうなと感じた。それと同時に悪夢と同じ瞳の色に俺は彼女の声を聴きたくないと思った。

 

 

「お久しぶりだな、お兄さん。⋯⋯大きくなっただろう私」

「毎日毎日、苦しくて狂しくてたまらない。もう後戻りできないんだ」

「責任、取ってくれるかい」

 

 

 彼女は濁った瞳で迷子のような不安さで嗤いながらそう言ってきた。

 

 

 

 




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