雪に椿   作:罠ビー

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単行本19巻 浪速の連続殺人事件


連続殺人犯2人、殺人鬼未満1人

 

 

 あの時のお兄さんとの再会は偶然であった。私の口から溢れた言葉にお兄さんは言葉を詰まらすとぎこちない笑みを浮かべながら助けが欲しい時は連絡してくれと名刺を渡された。

 萩原 研二。彼も蘭同様に優しい人なのだろう。そうポケットから出した名刺を私は新幹線で眺めていた。

 

 蘭がコナン君と小五郎さんの3人で大阪に旅行に行くという話を聞いた。時期としてはシーズンではない。急だねと聞けば服部君から招待されたんだと企画者の名前を素直に吐いた。

 服部君。その名前を聞いた時から私は三人をつけて大阪に行こうと決めていた。両親にはいってないが私の両親はもう私に干渉をすることはない。もちろん服部君に会いたいという理由もあるが今回もう一人会いたい人間がいる。その人物の事も大阪に行けばもしかしたら解るんじゃないかという期待もあった。

 

 三人が大阪に着いてから大阪の観光名所を巡っていく。本当に大阪観光なのかと一行をつけながら私も初めての大阪を満喫していた。通天閣からパトカーに乗って移動し始めた時は何事かと思っていたが彼らはそのあとうどん屋に入っていった。流石に店内まで行けばバレるだろうと外で待っていれば同じように外から一行を伺っていた少女がうどん屋に入っていく。

 

 

「⋯⋯で、自分はいつからついてきてたんや冷泉」

 

「気づかれていたか、流石は服部君だ」

 

「あんなジットリとした気色悪う視線向けられれば誰でも気づくわドアホ。ずっと寒気が止まらんかったわ」

 

 

 服部君は私にジト目を向けてくる。ふむ、私の想いを受け取ってくれるほど意識していてくれたんだな。やはりそれだけあの立ち合いに運命を感じてくれていたんだな。じゃあ殺し合おう服部君。とそんな風に顔を蕩けさせていると服部君はシッシと手を振ってうどん屋に戻っていく。

 

 

「冷たいな服部君。私はこんなにもヤル気なのに」

 

「雪!!何でここに」

 

「平次!!その子が工藤なんか!!」

 

 

 私が服部君にアピールをしながらうどん屋に入れば東京組を代表して蘭が私の存在に驚きの声を上げる。先程うどん屋の外から中を伺っていた少女は私の事を工藤と呼ぶと服部君を問い詰めてた。

 

 

「それは私が蘭に話を聞いてから大阪に行きたいと思ったからだ」

 

「コイツずっとつけて来てんねん。姉ちゃんホンマこいつとの付き合い考えた方がええぞ」

 

 

 服部君は彼女、和葉さんに工藤は男であると説明すると蘭の方を向き私を指差しそう言っていた。蘭はそんな服部君の反応に苦笑していた。

 

 

「あんなにも私の想いを伝えたというのに」

 

「あの時以来首もとがスースーしてたまらんのやアホンダラ」

 

「あーもう、アンタ。アタシと平次はその昔『鉄のクサリ』で結ばれた仲やねんから、平次にちょっかい出す時は、このアタシを通してからに…」

 

 さて、このまま服部君にアプローチしながら和葉さんをからかい続けてもいいがそれより気になる事ができた。私達のやりとりを呆れた目で見つめる小五郎さんの隣、おそらくパトカーを運転していた刑事さん。聞こえた名前は坂田刑事。

 

 その人から濃厚な血の香りが漂っていた。多分、直近で何人か殺している。一刑事だからとかいうレベルの血の匂いではない。そしてこのビルの上から漂う血の匂いも混じっている。

 そんな匂いを嗅いだら服部君よりその坂田刑事に注目を向けてしまう。

 

 うどん屋を出ようとしたパトカーの上にビルの上にあった死体が落ちてきた事により私達は警察署に行くことになる。そこで今大阪では連続殺人事件が起きている事を知らされる。

 事件を追い始めた服部君とコナン君に坂田刑事が付き添う。私はそんな彼らにを追いかける。次に殺す気なのはさっきの現場から突如逃げ出した女性だろう事は素人の私にも判る。二人は彼女を保護しに向かっているはずだ。しかしそんな二人を導いているのは連続殺人犯である坂田刑事だ。まるで二人が道化みたいじゃないか。

 

 

 

 

 車が渋滞にはまったのか私も追いつけたが二人は降りて女性のもとに向かった。単独行動になった坂田刑事は車を止めると公園の公衆トイレに向かう。次の現場はそこだろう。私は公園の中で坂田刑事がことを終えるのを待つ。

 

 

「お見事です、坂田刑事」

 

「君はさっきの。毛利さん達とはぐれはったんか」

 

「⋯⋯そんなに血の匂いをさせてたらわかるよ。連続殺人犯さん」

 

 

 私の言葉に坂田刑事は剣呑な雰囲気になる。⋯⋯ふむ、すぐ攻撃されるかと思ったがそうではないらしい。まるで私に対してどうするか考えているみたいだった。あんなに人を殺しているのにそこで逡巡できるのか。私には理解できない坂田刑事の反応を興味深く思う。彼は殺人犯だが刑事でもあるのであろう。

 

 

「⋯⋯私は別にいい子ではないのでこのことは黙ってますよ。二つ聞きたいことがあるだけだ」

 

「⋯⋯何が望みかいな」

 

 

 私が黙っているというとさらに空気は鋭くなる。ふむ、私が善良な市民だから躊躇ったけどそのカテゴライズから外れかけてるから次第によってはという感じだろうか。正義感が強い、つまり彼の正義に準ずる犯行なんだろう。

 

 

「人を殺す、しかも何人も殺すってどんな気持ちなんだ?一回目と回数を重ねて感じ方は変わるものなのか?」

 

 

 ああ、私は小説家志望なんだよと空々しく言いながら坂田刑事の気持ちを聞いた。彼はどんな気持ちを持っているんだろう。被害者に理不尽にその殺意を振りかざすその根源は何なのだろう。決して許されず不合理なヒトゴロシを行うのはなぜだろう。それを聞いてからトイレの中を観察しよう。

 

 

「⋯⋯最悪に決まっとりますわ。でも法は奴らを裁けない。許せなかった」

 

 

 義憤ではないな。憤怒だ。彼は被害者たちに強い怒りを抱いている。

 

 

「ありがとう。あと一つは」

 

 

 ――沼淵 己一郎は、どこにいるんだい

 

 

 

 

 

 坂田刑事に聞いたもう一人の連続殺人犯、沼淵の居場所に一人向かう。

 

 坂田刑事は被害者たちに強い怒りを覚えていた。しかし死体の損壊は極めて少なくシンプルな心臓への一突き。逆に財布を刺している事に坂田刑事の強い怒りの表出があるのかもしれない。私は生憎探偵ではないので謎には興味がない。

 私が興味があるのは死体と殺人という不合理に思い至った殺人者の感情。そこから見える人が人を殺すという非自然的行いへの感傷だ。私がこれから行く先はろくでもないが私なりに自身の衝動への向き合い方の手段なのかもしれない。

 

 大阪に来たもう一つの目的。それは沼淵に会う事であった。死刑囚の連続殺人犯。そんな殺人者と話せる機会など基本はない。彼がどういう殺人者なのか知りたかった。あわよくば殺し合いたいと思っていた。

 

 箕面の滝の近くの小屋。坂田刑事からそこにいると聞かされている。残念ながら坂田刑事には話をするだけやぞと言われているが⋯⋯襲われたなら話は別だ。

 小屋に近づくたびに確実に殺意を感じる。隠れて息をひそめている。ぬぐい切れない血の匂いで居場所は何となくわかるがそこからじめっとした視線を感じる。明かりは持ち込まない。

 

 

「沼淵だな。君と話がしたい」

 

「お前、組織の追手か」

 

 

 私が声をかけると予想に反して沼淵には怯えが見えた。ふむ、組織か。沼淵は何らかの組織に属しておりそこからの追手におびえている。連続殺人犯というのだからてっきりもっとギラギラしているのかと思っていたが

 

 

「違う。恐らくそうなら君に声などかけないだろう。私はしがない物書きだ」

 

「嘘をつくな!!そんなにジトっとした殺気を携えやがって」

 

 

 私の適当な嘘は看破される。まあ当たり前だ。ここは誠実に行くべきだろう

 

 

「連続殺人犯、沼淵 己一郎がどのような殺人者なのか知りたかった」

「私はまだ人を殺していないがいずれ殺人鬼になるような人間だ」

 

 

 そう言って近づく。

 

 

「来るな!!それ以上来たらお前の得物の範囲内のはずだ。それ以上近づくな」

 

 

 野性的勘は衰えていないのだろう。獣のような眼光が闇の中から私を睨み、それでいて何かワンチャンスがあればこの女を殺して刀を奪うという強かさを感じる。肌をピリピリと突き刺しその死線に心臓が早鐘を打ち脊椎をゾクゾクとした電流と甘い官能が上ってくる。

 

 

「聞きたいことは二つだ。君は人をどうして殺そうと思った」

 

「殺すことができたから、殺してみたかったというのもあるがそれが手っ取り早かった」

 

 

 手段的殺人か。できた、試し的な部分もあっただろうしあくまで殺人の選択肢への閾値が低いのだろう。暴力の延長線の殺人というのがしっくりくるのかもしれない。

 

 

「君は人を殺してどう感じた?重ねてどう変わっていった」

 

「別に変わらねえかな。最初はテンパったが段々慣れていった」

 

 

 なるほど。規範意識が低く殺人に戸惑いが少ない。けれど殺人をすることに飢えてたり切迫していた、趣向があったりするような感じは見受けられない。殺人は手段であり、殺人をすることで何かを達成している。⋯⋯ふむどうやら殺害が目的になるであろう私と同類という事ではないらしい。それに少しがっかりしたような気もある。

 

 

「お前はワシと、一緒や」

 

「はは、残念ながら違うよ。私は君よりきっと最悪だ」

 

 

 視線を合わせた沼淵は私にそう嗤う。私は紅椿の鯉口を切り淀んだ瞳を向ける。

 

 ひいっと沼淵は声を上げるが強かさを隠せていない。くすりと私は笑うとそれを最後に小屋から出る。

 

 坂田刑事に沼淵。同じ連続殺人犯でも在り方は全く違う。そして坂田刑事は当然、沼淵とも私は似ているようで在り方に違いがある。ゆえに死体にも違いはある。だけれど不合理で理不尽なところは何も変わらない。それがたまらなく愛おしく感じる。それは蜘蛛の巣にからめとられた蝶の死骸を見るような感覚で、私は美術館でもいったような気持ちで東京への帰路に就いた。

 

 

『あなたの理解者なんて、いないのよ雪』

 

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