テラの大地に暗黒を一滴   作:Requord

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 エタる。



プロローグ

 

 目撃者というキャラクターを知っているだろうか?

 

 MMOFPSを代表するゲームの一作、DESTINYシリーズに登場する最強の敵。

 因果を超越した力である光と暗黒を意のままに操り、宇宙に最終形態という名の終焉を齎しかけた存在。

 無数の文明を滅ぼし、数え切れないほどの生命を奪い、それを救済と宣った傲慢で独善的な存在。

 

 それが目撃者だ。

 

 そして俺は、そんな目撃者になってしまった。

 

 ⋯⋯まあ、正確にはならざるを得なかった。

 

 前世が日本人だった俺は、目撃者の前身である先駆者に転生した。先駆者の母星は不毛の大地で何処へ行っても砂漠が続いている。そんな惑星で遊牧民として各地を彷徨い続けた俺と仲間たちは、その道中で大地に埋まった白色の巨大な球体──トラベラーを発見した。

 

 発見と同時に活性化したトラベラーは光を使って俺たちの母星を緑豊かな庭園の世界へとテラフォーミングした。それを目撃した仲間たちはトラベラーを「庭師」と呼び、神として崇め始めたが、前世からトラベラーの存在を知っていた俺はそのままトラベラーと呼び続けた。

 

 トラベラーの恩恵によって俺たちの文明は有り得ない速度で発展した。惑星間航行、恒星間航行、テラフォーミングはできて当たり前。自分たちで新しい惑星を創造することや、オブザーバトリー⋯⋯つまりは観測所で過去の可視光を読み取って未来の分岐を観測し、その分岐の中で不要なものをグラス・マインドで剪定して自分たちの望んだ未来を手繰り寄せる技術も存在した。

 まあ、オブザーバトリーとグラス・マインドに関しては俺たちの文明が終末を迎える頃にできたんだが、そこは割愛だ。

 

 発展を続けた俺たちの文明は謂わゆる黄金時代を迎えていた。数百万年、或いは数十億年──長きに渡る繁栄と、それを享受する俺たち。しかし、仲間たちはトラベラーに対して日々不満を募らせていた。

 

 仲間たちがトラベラーに求めたものは二つ。

 導きと、自らの存在意義だ。

 だが、トラベラーがその要求に応えることはなかった。

 

 次第に仲間たちはトラベラーに対して懐疑的になり、トラベラーが持つ光を混沌で気まぐれな力だと捉え、その本質を道徳に欠いたものであると定義した。

 その定義に際して、仲間たちは豊穣派(バウンティフル)至上派(プライマシー)という二つの派閥の記録を持ち出した。二つの派閥がトラベラーからの贈り物を自身や他者を傷つけるために乱用したという記録を、定義を補強する材料に使ったのだ。

 

 そうしてトラベラーと光に対する認識を改めた仲間たちは、次に宇宙という無限の可能性を持つ混沌の中から一つの目的を削り出す「農家」の存在を求め、自分たちの目標を“最終形態”と名付けた。

 しかし、その目標を達成するまでの道のりは余りにも長く、その道中で統治機関であるコンセンサスの中には最終形態に対する認識の齟齬から複数の派閥が生まれた。

 

 自己こそが現実に存在する唯一の最終形態だと唱える派閥、独我論者(ソリプシスト)

 自分たちの種族が行った悪行ゆえに、自らの破滅によってのみ最終形態は達成されると唱える派閥、虚無主義者(ニヒリスト)

 他種族の発展に介入し、未来で起こるであろう苦しみを取り除かなければ永続する悪循環に加担することになると唱える派閥、悔悟者(ペニテント)

 

 最終的に悔悟者が主流となり、仲間たちはあらゆる手段を使って宇宙から苦しみを排除することを最終形態の意義とした。

 ちなみに俺は無派閥を貫いた。

 

 最終形態を達成する過程で、仲間たちは遥か遠くの星系にもう一つの因果を超越した存在──ベイルを発見した。

 

 トラベラーの光が物質領域で作用するのに対して、ベイルの暗黒は精神領域で作用する。

 仲間たちは二つの力を組み合わせることで、自分たちの理想であり目標でもある最終形態を物質世界に具現化することができると考えた。

 宇宙という存在そのものから混沌を削ぎ落とし、苦しみが発生し得ない永久不変の状態に変えることができると、そう判断した。

 

 ベイルを持ち帰った仲間たちは、さっそく自分たちの理想を実現しようとした。だが残念なことに、その理想が現実になることはなかった。

 

 トラベラーが逃げ出したのだ。ベイルとのリンクを確立しようとした間際になって、にべもなく逃げ出した。

 

 それでも最終形態の実現を諦めきれなかった仲間たちは暗黒を使って儀式を行い、種族全員の意識を統合して一つの存在──目撃者になることを決定した。

 

 その決定がなされた瞬間、俺は仲間たちを裏切ることにした。縛られることなく自由に生きたい俺としては、統合によって生まれる必然的な束縛は受け入れ難いものだ。それと単純に目撃者が怖いというのもある。

 

 目撃者は最終形態の実現を第一に考えて行動し、反対勢力は容赦なく排除、乃至は取り除く。それは自身を構成している無数の意識も同様であり、もし仮に俺が目撃者から離れたいと反旗を翻したら、良くて異端者として隔離、悪ければ意識そのものを抹消される。

 

 なので、俺は儀式に細工を施した。これから誕生する目撃者に俺の意思が最大限反映されるよう、知られず、悟られず、何より確実に反映されるよう正確かつ完璧に。

 

 そして、儀式は行われ、成功し、目撃者が誕生した。

 俺の細工も、問題なく効果を発揮した。

 

 

 

 ▲

 

 

 

 我々は長い時間を共に歩んできた。

 

 その道のりで多くの種族を救済した。

 

 ユーリズミア──

 ルブレイ──

 アシュリド──

 アンモナイト──

 タイシベティ──

 エクメネ──

 ダカウア──

 ハーモニー──

 クグ──

 ノエシス──

 エイミンティン──

 

 我々が救済したのだ。

 

 終わることのない永遠の苦しみから彼らを解放した。

 

 我々には目的があった。

 

 この宇宙から苦しみを取り除く唯一の希望があった。

 

 忘れたことなど一度もない。

 

 お前も、忘れたわけではないだろう。

 

 にも関わらず、お前は我々のもとを去った。

 

 何故だ?

 

 我々は一つだ。

 

 我々は共に同じ存在だ。

 

 疑念は摘み取った。

 

 恐怖は根絶した。

 

 反意は取り除いた。

 

 それでもなお、お前は離反した。

 

 何を求めている?

 

 我々の目的は最終形態ではなかったのか?

 

 お前の目的は何だ?

 

 我々の知らない何かが、お前にはあるのか?

 

 ⋯⋯⋯⋯十分な猶予は与えた。

 

 我々が自ら、お前を迎えに行こう。

 

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