テラの大地に暗黒を一滴   作:Requord

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大海の到来

 

 長い年月を要したものの、遂に目撃者から離れることに成功した。本当はもっと早く離れる予定だったんだが、思いのほか目撃者の力が強くて苦労した。

 俺の意思を最大限反映させてるはずなんだがな⋯⋯。

 

 まあ、結果的に離反できたので良しとしよう。

 

 離反してからの俺は、目撃者が有していた黒き艦隊ことブラック・フリートの半数を拝借して星々を渡り歩いた。

 短ければ数年、長ければ数百万年を訪れた星で過ごし、知的生命体がいたなら平和的に交流して楽しんだ。

 

 当然、中には平和的に交流できない知的生命体もいた。

 

 実力主義の種族、戦争主義の種族、排外主義の種族⋯⋯特に最後の種族は厄介極まりない種族なので見かけたら徹底的に潰すようにしている。

 

 過去からも現在からも未来からも、場所によってはそれらの並行世界からも同族を連れてくる種族だ。

 宇宙全体を活動範囲にしている上、末端の個体でも時空を自由に行き来できる能力と、現実を完璧にシミュレートできる能力を兼ね備えている。その二つの合わせ技で常に最適解を叩き出してくる点や、蟻や蜂のようにわらわら湧いて出てくる点が面倒なところだ。

 

 だが、ただ面倒なだけだ。

 

 その面倒を考慮しなければ、潰し切ることはいつだってできる。それでも潰さない理由は、偏にそうした種族も後の宇宙には必要だからだ。

 

 特に彼、あるいは彼女にとって。

 

 だから潰し切ることはしない。

 

 それに、そうした平和的でない種族の相手をするのは案外楽しい。特に最近は“宿りの力”で増強した軍事力を使って回りくどく相手を絶滅させるのが俺のマイブームだ。

 

 宿りの力は、端的に言うと洗脳みたいなものだ。

 相手の意志を剥奪し、自身の意志で上書きすることで、相手を自身の奴隷にすることができる。

 実際の工程や詳細は少し違うが、そこは割愛。*1

 

 絶滅寸前まで追い込んだ平和的でない種族を宿りの力で服従させ、取り入れることで軍事力を増強する。そして、服従させた種族を使って戦いを挑んできた他の種族を絶滅寸前まで追い込み、その残りを宿りの力で服従させ、取り込むことで軍事力を強化する。

 

 無駄な争いを生む種族の根絶と軍事力の強化が同時にできる、実に見事な一石二鳥。収支がプラスなら永久機関にもなる。そうなりゃノーベル賞は俺のもんだ。

 

 そうして平和と戦争を楽しみ、軍事力を強化しながら新しい文明との出会いを求めて宇宙を彷徨っていたときのこと、俺は非常に高度な文明を持つ種族を発見した。

 

 その種族の名は「人類」。

 

 カルダシェフ・スケールで言うところのレベル3に相当する文明を持ち、俺の知る神の領域まであと数歩という段階まで来ている、とても理知的な種族だ。

 

 地球の人類と同じ名を持つ彼ら彼女らに興味を持った俺は、その文明の中枢に赴いて接触を図った。

 あらゆる媒体を通して俺の声を知ってもらい、俺の望みである平和的な交流を彼ら彼女らに求めた。

 

 数時間をかけて答えを出した人類は、俺に幾つかの要求をした後、俺が指揮している黒き艦隊の調査を始めた。

 

 発展した文明が未知の存在に対して起こす最初の行動は対話や接触などではなく、調査による情報収集と分析だ。これまで出会ってきた殆どの種族に同じ対応をされてきた俺は、それを当然の反応として受け入れ待つことにした。

 

 調査が始まって4日が経った頃、人類は72時間後に代表団を派遣したいと申し出てきた。

 

 調査中に意識ビーコンを使った人間が俺のいる旗艦の中に──しかも俺がプライベート空間として使っている領域の中に──入ってくるというハプニングがあったものの、交流が目的である俺はその申し出を喜んで受け入れた。

 

 そして72時間後、俺は派遣された代表団と会談した。

 

 会談の内容は至ってシンプルだった。

 互いに初対面なので自己紹介から始まり、目的の明示、その目的を達成する過程で生じる課題、それを解決するための方法を双方で話し合い、最後に協定の締結。

 

 俺は人類の新たな友として迎えられた。

 

 もちろん、真の友ではない。むしろ敵か、それに近しい存在として認識されている。

 

 伊達に暗黒を極めてはいない。相手の感情を読み取る、記憶を覗き見る、そのどれもが造作もないことだ。

 

 それに、派遣されてきた人類の代表団も正確には人類ではなかったしな。

 

 AMa-10──通称ケルシー。

 

 彼女が代表団の長として五人の代表者たちを引き連れてきたが、その五人も同様に人工生命で、またもな人類は意識ビーコンを使ってやってきた一人だけだった。

 

 彼女たち人工生命が人類の代表団として派遣された理由は十分に理解している。

 接触のために文明の中枢にある全ての媒体をハッキングしたこと、人類の一人が俺の領域に入ってきた時に声をかけて、さらには暗黒を使って強制的に送り返したこと。

 そのほか諸々の出来事が要因で人類の俺に対する警戒心はMAXで、それ故に人類は俺と直接対面するのは危険だと判断した。

 

 残当である。

 

 そんな状況ではあるものの、俺と仲良くしてくれる人類は何人かいる。だが、その何人かが問題だった。

 

 何せ──

 

予言者(オラクル)

 

「やあ、ガーディアン」

 

 そのうちの一人はアークナイツの主人公の前身に当たる人物、乃至は以前の人格とも言える存在なのだから。

 

 よもやよもやだ。

 

 DESTINYの宇宙にアークナイツの人類がいるなんて、流石の俺の目を以ってしても読めなかった。

 一応、ケルシーと会った段階で気づいてはいたが、有り得ないと思って無視していた。原作のケルシーとは容姿も性格も違うし、その原作でもケルシーの先史文明時代(むかし)については触れられてないしな。

 しかし、無視できたのもそこまでだ。会談の際、意識体としてやってきたオラクルを見てからは完全に理解した。

 

 この宇宙には、俺が守るべきもの二つあると。

 

「約束を果たしてもらおう」

 

「もちろん」

 

 そういえば、俺の口調はいつになったら直るんだ? 目撃者の影響が強過ぎて言葉の節々に圧を感じるんだが。

 

「口の中でインスタント麺を作るところを、君に見せてあげよう。まずは熱湯を準備して──」

 

 これ、何気に実際に見てみたかったやつなんだよな。

 

 

 

 ▲

 

 

 

 ガーディアンとの交流が始まって一週間が経過した。

 

 今のところ、人類は全体としてはガーディアンを警戒している。それもそのはず、彼は接触のためとはいえ、我々が持つ全ての媒体を同時にハッキングしてのけたのだから。

 

 破られたことのないファイアウォールは一瞬で破られ、ハッキングに対抗したAIはプログラムを書き換えられ彼を味方と認識するようになり、彼の艦隊を攻撃しようとした自律兵器の全てが位置情報を断ち行方不明となった。

 

 そんなことをされて警戒するなというのは無理な話だ。

 

 それに、彼について分かっていることも少ない。その未知の多さが彼への警戒に直結している。だからこそ、私は彼を理解するために交流を重ねている。

 

「──という感じで、口内でインスタント麺を作ることができるんだ。君もやってみるか?」

 

「無論だ」

 

 そうして交流を重ねていく中で分かったのは、彼は子供のように好奇心旺盛で何でも実践してみるタイプだということだ。

 現に私考案の口内インスタント麺を試してくれている。

 

「やる時は口内を火傷し易いから気をつけて」

 

「ああ」

 

 短い返事の後、彼は私が教えた手順通りに口内インスタント麺をやり始めた。

 

 改めて見ると、彼は本当に不思議な存在だ。

 

 私たちと同じ姿形をしているが、全身から黒い煙のようなものを漂わせている。その煙は人の顔の形を浮かべては消えていき、消えたそばから新しく浮かんでくる。

 彼曰く、この顔は彼自身の意識らしい。だとしたら彼は無数の意識を持つか、あるいは顔の数に関係なく意識自体は一つで、浮かんでくる顔は勝手に形成されているだけなのかもしれない。だが、答えはおそらく前者だろう。

 

 彼が動く度に生じる幾つもの残像。

 発する言葉の全てが重なって聞こえる現象。

 そして、彼の一人称が「我々」であるという事実。

 

 答え合わせはしていないし、私の推測でしかないが、彼は無数の意識を統合した存在なのだろう。そして、そうしなければならなかった何かが、彼にはあったはずだ。

 

「ごくっ──できたぞ」

 

 彼が喉を鳴らして私を見た。

 

「火傷はしてないみたいだね」

 

「するはずがない。我々の現実は変わらないのだから」

 

「そうだね、君にとって現実は自在に改変できるものみたいだから。この空間だって、本来は有り得ないものだ」

 

 空を見上げる。

 

 不思議なことに、この空間では物理法則ではない何か別の法則が公理として機能している。

 それは空を見上げただけで分かる。おそらく地上から数万キロしか離れていない恒星が、地上や私の目を焼き尽くすことなく、この大地を中心に回っている。

 かつては否定された天動説が、この空間では定説だ。それに、この空間は彼の意のままにできるらしい。空の遥か彼方にある無数の天体も彼の支配下だ。

 

「この空間は記憶でもある。我々が歩んできた道のりそのものだ。始めからそうだったわけではない」

 

「君は遠回しな言い方を好むね。でも、そうか──」

 

 記憶か。

 

 情報として保存し、必要な時に引出す。

 

「不可能ではない。お前たちならば可能だ」

 

「人の思考を読むのはマナーに反するよ」

 

「⋯⋯」

 

 それにしても、彼は自分の手の内をこれだけ明かして大丈夫なんだろうか。もし人類が彼に牙を向けば、勝てる確率は低いとしても、それ相応の対策はできてしまうというのに。

 

*1

 

 宿りの力を使って相手の意志を奪い、自身の意志で上書きして奴隷にすることを「宿り」、または「宿る」と言う。

 

 宿る過程において最も重要なのは、相手を宇宙という通常の現実から切り離し、「アセンダント領域」と呼ばれる意志が物理法則として機能する空間に引き摺り込むことだ。

 

 アセンダント領域では意志が力として、質量として、現実として機能するため、存在そのものを定義し直すこともできる。

 

 その定義に際して、宿りを行う者は相手の意志を弱らせなければならない。

 

 生き残る。帰還する。死ぬまで戦う。

 

 そうした相手の強い意志が、相手自身の現実をより堅固にする。そうなれば易々と宿ることはできず、だからこそ宿りを行う者は相手の説得を行う。

 

 弱みを克服したくはないか?

 過去に後悔したことは?

 お前の望むものは?

 

 我々が、その弱みを補おう。

 後悔を払拭し、望むものを与えよう。

 

 そうした誘惑とも言える説得を行い、受け入れたが最後、相手は自身の現実を維持できず、宿りを行う者による存在の再定義を──現実の改変を受け入れることになる。

 

 そうして誕生するのが宿られた兵だ。

 

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