ヒロアカ×エアギア 炎の英雄(更新停止) 作:ken4005
ヒロアカ小説第8話
第8話 燃える翼、壊す掌
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相澤先生の体が、脳無の拳によって、まるでダンプカーに突撃されたように、吹き飛んでいく。
「先生ッ!」
ウィールを鳴らし、吹き飛ばされる先生に追いつき、「翼よ」――炎の羽根を瞬時に展開、相澤先生を包むように受け止める。先生の呼気が一度、細く途切れて、また戻った。
「……っぐ、下がれ、緑谷……」
「下がれねぇよ、先生!」
体勢を整えた勝己が高機動で動き、脳無が出久と相澤に近づかないよう立ち回る。
しかし脳無は止まらない。黒紫の筋肉が波打ち、暴力の嵐が今度は勝己に襲いかかる。
死柄木弔が、退屈そうに首をかしげる。
「もうちょっと楽しませろよ、ヒーローども。足掻けば足掻くほど、壊れる光景がより尊いものになるんだからよ。」
出久は相澤をなんとか近づいてくれたお茶子に預け、勝己と脳無の攻防に加わる。
「出久、俺らでやるぞ!」
「分かってる!もうこれ以上、好きにはさせない!」
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「八百万さん、簡易で構いません、救命道具をお願いします。轟くん、常闇くん、君らが中心になって防御陣形を!私は相澤先生の応急処置を行います。麗日さん、蛙水さん手伝って!」
「「「「「はい!」」」」
十三号が指揮し、お茶子たちが生き残るため奮闘する。
「(全員が救かるためにはこいつをどうにかするしかない)行くよ、カッちゃん!」
「合わせろ、出久!」
炎に爆破、全力の火力を撃ち続けるが、脳無の衝撃吸収と再生を抜くには至らない。
「フェニックススマッシュ!」
「吹き飛べー!!」
炎と風の波を前面に放つ。強烈な爆風を叩き込が、成果は脳無を数メートル押し返せていることのみである。
「チッ……効きが薄い」
「“押す”ことはできてもダメージが入らない」
ダメージを再生させた脳無が迫る。視界から消える速さで接近する相手に――出久は牙のラインを置いておく。
「牙よ!」
地面と空中に設置した炎の軌跡が走り、炎が立ち上がる。脳無が炎で押し上げられ、勝己がその“隙”に爆破を叩き込んだ。
「ハウザー・インパクト!」
爆光が黒い巨体を包む。脳無が吹き飛び、痛々しいほどの火傷をおうが、すぐに戻る。再生によって削られるのは出久と勝己の体力ばかりである。
死柄木が爪で首を掻きながら、僕を見た。
「こんなもんかヒーロー……救けるだろ、そんなんじゃ誰かを助ける前に自分が死ぬぞ」
「死なないし、絶対みんなを救けて、勝つ」
「俺が勝ちゃあ、救かるかんだろうが」
「なら、救けてみせろよ」
死柄木の五指が開く。
(このままじゃ崩壊の風は防げても、脳無が抑えられない、どうする――)
オールマイトは、まだ来ない。
僕は、喉の奥で短く息を切った。
(……リミッター、外す)
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「時(タイム)――全力解放」
世界が、薄いフィルムを重ねたみたいに分割されていく。音が遠くなる。勝己の呼吸が、波形になって見える。脳無の筋肉は縮みと膨張の継目が網目になって、次の収縮パターンが先に見える。
「(未来視なんかじゃない。僕の認識が、薄く伸びてるだけ)」
出久が脳無を見据えながら深く息を吸う。
「(体のなかの酸素が一気に消費されていくのが分かる。頭蓋の内側が熱い。数分。この“伸びた今”は長く続かない。使いすぎれば、僕自身が壊れる。救う人間が倒れたら本末転倒だ。)」
でも、今は――使う。
先読みだけではない、脳無の速度も、今の出久にはスローモーションで見える
牙のラインを二重に空中に置く。「牙よ」「牙よ」――二重の火線で脳無を足止めし、大技に繋げる。
「ドラゴンスマッシュ・ツイン!」
炎の牙の双撃。脳無の巨体が揺れる。
(今――!)
接近戦に切り替える。遠距離からの連打じゃ、衝撃吸収に逃がされる。さっき一番手応え感じたの近距離での連撃だ、恐れず近づけ。
突っ込む出久に対し、勝己は死柄木を見据えつつ、力を溜める。
「(悔しいが、今俺が突っ込んでも出久の邪魔になるだけだ。溜めろ、渾身の一撃を)」
「翼よ」脳無の正面で炎を出し、自分が焼けることなど気にせず、火力と回転を上げる。
両足で打てる限りの炎を纏った蹴りを連撃で叩き込み、吸収しきれないダメージを蓄積させていく。
出久の連撃に押し込まれていく脳無、そして
グラっ
ダメージからか、脳無が初めて大きく体勢を崩す。
「(こ、こ、だーー!)」。
本来は炎を波にして放つフェニックススマッシュを、その火力をそのまま片足に留め、至近距離で相手に叩き込む、炎の道の切り札をここで放つ。
「セントエルモス・クロスファイア!!!」
圧倒的火力の十字連撃が怪人に直撃する。
「俺を忘れんじゃねぇ!!」
勝己が溜めに溜めた全力の火力をクラスター・スラスターからのクラスター・インパクト、最速の接近から最高火力を放つ勝己のとっておき。
出久と勝己、今の二人に放てる最高火力、それは脳無の巨体をUSJの壁まで吹き飛ばした。
死柄木の視線がわずかに動く。「……へぇ」
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酸欠の兆候が早い。視界の端に黒が滲む。耳鳴り。出久の心拍がうるさく鳴り響いている。三分。まだ動けるが限界も近い。
(まだだ、まだ死柄木が――!)
死柄木が出久と勝己に視線をむけ、構えをとる。
「(また崩壊の風がくる)」
「出久もう良い、下がれ!あとは俺が!」
「まだいける!ローゼンスマッシュ!」
死柄木の動きを先読みし、出久は炎の棘を飛ばして牽制する。あえて避けられる位置に放ち、逃げ道を限定する。左に出られないなら、右。そこに、
復帰した脳無が死柄木を守りに現れた。
「こいつまだ!?」
「クソが!」
「ドラゴンスマッシュ!」
「クラスター・インパクト!」
咄嗟に迎撃するが、勝己はともかく出久にはもう余力がない。
死柄木が、肩を落とした。
「残念……。君らじゃ俺は壊せないみたいだな」
「壊すんじゃない、僕らは救うんだ」
「でも、壊す方が速いよ」
死柄木が前へ出る。五指が、世界を撫でた。
崩壊の風が舞い上がる。
「カッちゃん、あと任せた!」
出久は残ってる余力全て絞り出し、崩壊の風に向けて炎の波を放つ。
――激突は一瞬、崩壊の風を三度、防ぎきる。
「(ここだ、黒霧)」
脳無が暴れ始めてから前面には出てこなかった、黒霧が出久の後ろに現れる。
「ここで……!」
入り口にいた黒霧がいなくなっているのに気づいた13号が息を呑む。
まさしく必殺のタイミング。黒霧の霧と出久が重なった瞬間、炎が牙を剥き黒霧を燃やした。
「……読んでいた、のですか」
「僕とカッちゃんが攻めきれなかったのは常にあなたを、仲間を攫う可能性があるあなたへの警戒を続けていたからだ」
「見ご、と、です」
黒霧が炎のダメージでよろめく。
死柄木が不機嫌そうに首を鳴らす。「ねぇ黒霧。俺、飽きちゃったわ」
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「(視界が乱れる。限界だ。指先が痺れ、膝が笑い始める。もう立っていること、がやっとだ。)」
勝己が出久の表情を見て、舌打ちする。
「限界だな、出久」
「……うん。ごめん」
「任せろ。俺が持たせる」
勝己が真正面に立った。爆破の粒が空中で煌めき、一直線に伸びる。クラスター・スラスターで勝己が、一本の槍になる。
「脳無、てめぇは――ここで止める!」
爆音が響き、USJを震わせる。
脳無も最初に比べて、明らかに動きぐ鈍い、これまでの攻撃が吸収しきれず、再生しきれず、効いているのだ。
必殺の間合いで勝己が吼える。
「ハウザー・インパクト――ッ!!」
暴風が黒い巨体に膝をつかせる。
同時に出久も膝から力が抜け、その場に座り込む。耳鳴り。視界の端が白い。喉が焼ける。警戒は解かないが満身創痍である。
「デクくん!」
黒霧が離れ、手薄になった入り口付近から、お茶子が出久に駆け寄りら背中を支えた。
「ありがとう、麗日さん。……大丈夫。まだ終わってない」
死柄木が、乾いた手のひらで、ゆっくりと拍手した。
「すごいじゃん。脳無を相手に良くやったよ……だからさ、より壊したくなった」
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死柄木が脳無の肩に触れた。崩壊は起こらない。けれど――
「行っておいで。もっと速く。もっと強く」
脳無が吠えた。
さっきより、速い。
圧が違う。
勝己の爆破が、遅れたように見えた。
(やばい――!)
僕は歯を食いしばり、立ち上がる。
「つばっ、、!」
「デクくん!」
炎の盾を出そうと立ち上がるも、体が言うことを聞かず、お茶子の機転でギリギリ脳無の剛腕を避ける。そして出久ほど強力ではないが、お茶子がA.T使って突風を吹き起こし、脳無に叩きつける。本来の脳無なら相手にもしない威力だが、今回は違い、動きが鈍る。
勝己がその一瞬を見逃すわけがない。
「ッらぁぁぁ!!」
再度クラスター・フライトで突撃し、脳無の胸に渾身の前蹴りを突き刺す。
突き刺さる。
「――ッ!」
勝己が距離を取る。場の空気が変わり始めたことに気づく。
黒霧が落ち着いた声で告げる。「弔、そろそろ時間です。長居は無用かと」
死柄木が口を尖らせる。「……ちぇ。最初の本命が来ちゃうのかよ、結構満足してんだけどな」
「は、尻尾巻いて逃げる気になったか?」
「もともと、ただの挨拶のつもりが君らのおかげで、思いがけず、楽しいひと時になったよ」
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風が鳴った。
ドームの扉が、吹き飛んだ。
「――遅くなって、すまない、私が来た!!」
その声に、全員が振り向いた。
金の髪、無双の笑み。
オールマイトが、USJの光の中に立っていた。
死柄木が肩を震わせて笑う。「やっときたよ」
オールマイトが一瞬で状況を把握し、
僕たちの前に一瞬で移動し、壁のように立つ。
「少年少女たち、よく凌いだ! ……あとは私がやる!」
(耐え切った……!)
もう立てない、と思っていたが、出久が気合いで立ち上がる。
この状況でダウンしてなんていられない。お茶子の支えで立ち上がり、オールマイトの左斜め後に、カツキが右斜め後ろにそれぞれ立つ。
憧れの背中に守られるだけなのは嫌だった。
死柄木が首をかしげた。「ねぇ、黒霧。帰れる?」
「もちろんです、弔」
「脳無。俺ら帰るから最後に大暴れして時間を稼げ。」
脳無が、オールマイトへ一直線。
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オールマイトが前へ出る。
出久も勝己もボロボロで出来ることないが、オールマイトの動き全てに目を凝らす。
「テキサス――スマァァァッシュ!!」
衝撃が風になってUSJを貫いた。
脳無の巨体が吹き飛ぶ。
再生も発動せず、動く気配もない。
死柄木が舌打ちする。「あぁ、つまらない」
黒霧がワープゲートが開く。
「行きましょい、弔。今日はもう十分だ」
死柄木は最後に、一度だけ出久と勝己を見た。
“風”が、すこしだけ揺れた気がした。
「またね、ヒーローたち、今度はちゃんと壊してあげるよ」
「壊させない、救ってみせる」
「一昨日きやがれクソヴィラン」
笑い声が霧に溶け、ヴィラン連合は消えた。
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静寂。
壊れた床、焦げた空気、遠くで鳴る警報。
「緑谷少年、爆豪少年。……この惨状、実際に見てなくても分かる。君たちの奮闘が、最悪を防いだ」
オールマイトの手が、僕の肩に置かれる。
その重みが、安心になって落ちてくる。
「僕……リミッター外して動きました。だから、もう、正直動けません」
「分かった。よくやったよ緑谷少年。君は正しい力の使い方をしたのだ。救うために……おかげでみんな生きている」
勝己が鼻を鳴らす。「俺の爆破がなきゃ終わってたくせによ」
「うん。ありがとう、カッちゃん」
「礼は別の機会で返せ。次は完全勝利だ」
「うん、絶対勝とう」
そのやり取りを聞いていた十三号が、安堵混じりに笑う。「あなたたち、ほんとうに……頼もしい」
お茶子が泣き笑いで出久の腕を叩く。「デクくん、無茶し過ぎたらあかんよ!途中、ほんと危なかったよ!」
「ごめん。でも、やっぱし必要だったから」
「……しょうがないな。次は一緒に戦えるように、私も強くなる」
「うん。約束」
遠くで救急車のサイレン。先生たちの声。
僕は燃え尽きた翼を静かに閉じた。
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Ⅹ 風の余韻、夜の誓い
夜。自宅のベランダ。
冷たい風が、焼けた指を撫でる。
スマホが震えた。非通知。
『やあ、デク。大丈夫かい?』
スピットファイヤだ。
相変わらず、火の匂いのする声。
「師匠……僕、今日負けました。僕だけじゃ救けられませんでした。」
『負け、か。本当にそうかい?君の炎は、仲間の支えにならなかったのかい?』
「“時”も、使って。限界まで戦いました。あの結果ぎ救えたことになるのか、僕にはわかりません」
『なら、次に活かせば良い。救い続ける気があるなら、悩んで立ち止まっている暇はないだろ』
「……はい」
『それから、あの“壊す風”の使い手。対話は忘れるなよ。壊す側だって、いつか救われたいって瞬間が来る。お前の炎は、そういう時に一番強いだろ』
通話が切れた。
空は静かだ。
でも、USJで聞いた壊す風の唸りは、まだ耳の奥に残っている。
僕は拳を握り、そっと翼をイメージだけで展開する。
燃えすぎない温度で。救える温度で。
(また来る。きっと来る。
だから、その時も、救うために燃えるんだ)
風が、優しく鳴った。
――風は二つ。
壊すために吹く風と、救うために吹く風。
僕は、後者であり続ける。
あれ?初期脳無こんなに強かったっけ?