深夜の静寂に包まれた東京都内のビジネスホテル。
その一室で、イレイナとトッペマは明日のヘンダーランド再潜入に向けた作戦を練っていた。トッペマはすっかり味覚を取り戻したプリンの美味しさに感動し、イレイナは母の形見の日記帳を開きながら思案に暮れていた。
だが、その平穏は突如として破られた。
イレイナ「……おや?」
イレイナが窓の外に目を向けると、初夏の夜だというのに、急速に気温が下がり、窓ガラスがバリバリと凍りついていく。室内の空気が氷点下へと急降下し、白い息が漏れた。
トッペマ「イレイナ、これって……!」
イレイナ「ええ、お客さんのようですね。それも、かなり冷え性な……」
次の瞬間、ホテルの壁を突き破るように、猛吹雪とともに禍々しい影が押し寄せてきた。
窓ガラスが粉々に砕け散り、舞い散る雪煙の中から姿を現したのは、不気味な笑みを浮かべる雪だるま――ス・ノーマン・パー、そして艶やかな笑みを湛えたセクシーな美女――チョキリーヌ・ベスタだった。
ス・ノーマン「いやぁ〜、見つけた見つけた! 寒くって凍えそうな夜に、可愛い女の子がお出迎えとはねぇ!」
ス・ノーマン・パーが凍てつくような冷気を放ちながら、手袋のついた腕を揺らす。
チョキリーヌ「おや、噂の裏切り者人形と、マカオ様・ジョマ様をコケにした小賢しい魔女かい? 今夜で綺麗に凍らせてあげるわ」
チョキリーヌ・ベスタが鋭い爪を光らせ、妖しく微笑んだ。
イレイナ「やっぱり……追っ手が来ましたね」
イレイナは慌てることなく、スッと立ち上がり、手元の杖を構えた。その瞳には冷徹な魔女としての光が宿っている。
イレイナ「トッペマ、下がっていてください」
トッペマ「わ、わかったわ! イレイナ、気をつけて!」
ス・ノーマン「おしゃべりはそこまでだねぇ! 『絶対零度・ブリザード・プレス』!」
ス・ノーマン・パーが両手を突き出し、部屋全体を呑み込むほどの極寒の吹雪と氷の礫を放射した。ホテルの一室が一瞬で凍りつき、壁や床が白い氷の棺桶のように変貌していく。
イレイナ「――甘いですね。『プロテゴ・マキシマ』!」
イレイナは素早く詠唱し、二層式の強力な魔力の壁を展開した。激しい氷の礫がプロテゴに激突し、凄まじい衝撃波が部屋を揺らすが、魔力の壁はびくともしない。
チョキリーヌ「ふん、防ぐだけならねぇ!」
すかさずチョキリーヌ・ベスタが影のように高速で間合いを詰め、イレイナの死角から鋭い蹴りを放ってきた。
ガキィンッ!
イレイナは直前で杖を横に構えて蹴りを受け止めたが、その圧倒的な身体能力と衝撃に、思わず床を滑り後退する。
イレイナ(速い……! クレイ・G・マッドとは質が違う!)
チョキリーヌ「甘いわね!」
チョキリーヌ・ベスタが追撃の魔法弾を連射する。連続する爆発がホテルの部屋を破壊し、炎と冷気が入り交じる混沌とした戦場へと変わっていく。
トッペマ「イレイナっ!」
トッペマが悲鳴を上げる。
イレイナ「……まったく、これだから不意打ちは嫌いなんですよ!」
イレイナは痛む肩を押さえつつ、懐から先ほど手に入れたばかりのカードの束――「スゲーナスゴイデスのトランプ」を取り出した。
イレイナ「トッペマの世界の秘宝……さっきもそうでしたけど、攻撃に使うのは初めてですし、試させてもらいましょうか!」
イレイナがトランプの束から一枚を抜き取り、強く掲げて叫んだ。
イレイナ「私の魔法とこのトランプの奇跡を合わせれば……どうなることやら。『スゲーナスゴイデス』!!」
瞬間、トランプから眩い黄金色の魔力が爆発的に解放された。
イレイナの魔力とトランプの力が共鳴し、部屋全体を包み込んでいたス・ノーマン・パーの冷気とチョキリーヌ・ベスタの呪縛が一瞬にして霧散する。
ス・ノーマン「なっ……なんだこの魔力は!? 動きが……体に魔力が通らない……!」
ス・ノーマン・パーが巨体を揺らし、その場に崩れ落ちそうになる。チョキリーヌ・ベスタも圧倒的な圧力に膝をつきかけた。
トッペマ「いって、イレイナ!」
トッペマが叫ぶ。
イレイナ「お返しのお時間です。――『ステューピファイ』、からの……『特製・大爆発(メラゾーマ・アレンジ)』!」
イレイナが杖を振るうと、黄金のトランプの魔力を纏った巨大な炎の弾丸が、ス・ノーマン・パーとチョキリーヌ・ベスタを正確無比に捉えた。
ドゴォォォォンッ!!
ホテルの一室が凄まじい光と爆風に包まれ、敵の幹部二人を巻き込んだ大爆発が夜空を焦がした。
東京の夜空に響いた轟音は、まぎれもなく、ヘンダーランドのオカマ魔女たちに対するイレイナからの強烈な宣戦布告であった。
ス・ノーマン「ぐあああっ!?あ、熱い………な、何かを、思い出しそうだ………」
チョキリーヌ「クソがクソがクソがああぁ!!」
ス・ノーマン「待てよ、チョキリーヌ様〜! 置いてかないでくれよ〜!」
チョキリーヌは両手をチョキの形にして、その場から飛んで逃げた。そして、ス・ノーマンもそれを見た途端に正気に戻り、その場から撤退した。
静まり返ったホテルの残骸――正確には、壁が完全に吹き飛んで外気が直接吹き込む「オープンスタイル」になった部屋の中で、イレイナはフッと息を吐き、杖を収めた。
イレイナ「やれやれ……。私の優雅なビジネスホテルライフが、一瞬で野宿一歩手前になってしまいましたね」
イレイナが頭を抱えて肩を落とすと、その足元からトッペマがひょっこりと顔を出した。
トッペマ「い、生きてる……? すごいわイレイナ! あのオカマ魔女の幹部たちを一人で追い払っちゃうなんて!」
イレイナ「褒めても部屋の弁償代は安くなりませんよ。まったく……」
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数分後。
フロントの険しい顔をした支配人に対し、イレイナは「スゲーナスゴイデスのトランプ」で増やした分厚い札束を差し出し、ペコリと頭を下げた。
イレイナ「騒ぎを起こして申し訳ありません。ですが、これだけあれば、壁一枚どころか、この階の改装費もお釣りが来ますよね?」
支配人「は、はあ……毎度ありがとうございます……?」
ホテルの支配人が冷や汗を流しながら受け取るのを横目に、イレイナとトッペマは夜逃げ……もとい、スマートなチェックアウトを済ませてロビーを後にした。
夜の東京の街並みは、ネオンが眩しく光り、人々が何事もなかったかのように行き交っている。その雑踏の中を、トッペマをそっと忍ばせた大きめのカバンを肩にかけ、イレイナは静かに歩いていた。
イレイナ「すっかり夜更けになってしまいましたね」
トッペマ「ごめんねイレイナ。私のせいで、せっかくの宿泊先が台無しになっちゃってさ」
カバンの中から顔を覗かせたトッペマが、申し訳なさそうに耳を伏せる。
イレイナ「いいんですよ。どうせ長居するつもりはありませんでしたし、それに……」
イレイナは夜空を見上げ、細い目を細めた。
イレイナ「あちらから本格的に攻めてきたということは、向こうも私達を無視できない『脅威』と認定した証拠です。つまり、ヘンダーランドの連中も、もう隠し通す余裕がなくなってきたということですね」
トッペマ「うん……ス・ノーマン・パーにチョキリーヌ・ベスタ。オカマ魔女の幹部が次々に動いてるってことは、城の中もかなりピリピリしてるはずだわ」
トッペマの小さな顔に、緊張の色が走る。
イレイナ「逃げるのはここまでです。あんな風に私のプライベートを邪魔されたのですから、このまま大人しく引き下がるのもシャクですしねぇ」
イレイナは懐にしまったトランプの感触を確かめ、不敵な笑みを浮かべた。
イレイナ「明日――いよいよ、あの奇怪な遊園地を私の魔法でひっくり返しに行きましょうか」
月の光が二人の影を長く引き伸ばす。
オカマ魔女たちの支配するヘンダーランドへ向け、反撃の幕が上がろうとしていた。
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翌朝、群馬県方面へ向かう始発の電車に揺られながら、イレイナとトッペマはシートに並んで座っていた。車内は早朝とあって乗客もまばらで、静かな空気が流れている。
トッペマはヒマを持て余したように、網棚の下や前の座席のポケットに目をやった。すると、前の席の網ポケットに、前日か数日前に誰かが置き忘れたらしい古びた新聞が突っ込まれているのに気づいた。
トッペマ「ねえ、イレイナ……これ、見てみない?」
トッペマが小さな手で新聞を引き抜き、広げて見せた。そこには、先日暑海市で起きた大騒動のニュースが大きく載っていた。
『暑海を救った日本公認ヒーローチーム「サムライスクワッド」!』
『アベンジャーズとも共闘、サメの巨大怪獣を撃破!』
紙面には、魔法の盾を展開する少女・木之本桜の姿や、アベンジャーズの面々の写真が所狭しと印刷されていた。
トッペマ「これって……」
トッペマは目を丸くし、新聞をイレイナに見せた。
トッペマ「イレイナ、この人たち……すごく強そうじゃない! しかも世界を救うようなヒーローなんでしょ? 私たち、この『サムライスクワッド』とかいう人たちに助けを求めに行かない?」
しかし、イレイナは窓の外を流れる景色にぼんやりと視線を向けたまま、フッと小さく鼻で笑った。
イレイナ「却下です」
トッペマ「えっ、どうして? 相手はオカマ魔女!色んな世界を滅ぼした連中よ? 協力者が多いほうがいいに決まってるわ!」
イレイナ「トッペマさん、世の中そんなに甘くありませんよ。第一、私達にそんな人達へ繋がるコネがどこにあるというのですか?」
イレイナはトッペマの方を向き、呆れたような、しかしどこか冷めた笑みを浮かべて言った。
イレイナ「あちらは世界を救うような大層なヒーロー組織です。かたや私は、身寄りを捜してフラフラと諸国を歩いている、ただの気ままな旅の魔女。いきなり現れて『オカマ魔女に城を奪われたので助けてください』なんて言ったところで、頭の痛い不審者扱いされるのがオチです。旅人にそんな政治的・社会的権力があると思わないでください」
トッペマ「うっ……それは、そうかもしれないけど……」
イレイナの正論に、トッペマはぐうの音も出ず、耳をペタリと伏せて新聞を折りたたんだ。車内の静寂が戻り、ガタンゴトンと心地よい電車の音が響く。
しばらく気まずい沈黙が続いた後、トッペマはそっと顔を上げ、イレイナの横顔を見つめた。
トッペマ「ねえ、イレイナ……」
イレイナ「なんですか?」
トッペマ「ひとつ、聞いていい?」
イレイナ「どうぞ。お金を借りる話でなければ大抵のことは答えますよ」
トッペマは少し言い淀むように小さく息をつくと、疑問に思っていたことをまっすぐに尋ねた。
トッペマ「どうして……そんなに旅をするの?」
身寄りを捜して旅をしているとは聞いた。けれど、これほど危険な目に遭い、厄介事に巻き込まれてもなお、イレイナが足を止めずに歩き続ける理由が、トッペマには少し気になっていたのだ。
イレイナは窓ガラスに映る自分の姿から視線を外し、膝の上で組んだ手に軽く目を落とした。少しだけ間の抜けた、しかしどこか懐かしむような静かな表情が浮かぶ。
イレイナ「どうして、ですか……」
イレイナは小さく呟き、ふふっと息を漏らした。
イレイナ「母が言っていたんです。『あなたの人生は、あなただけのものです。私は私の続きを探しに行ってきます』ってね。……もっとも、私を置いて突然姿を消した身勝手な母親のセリフですけれど」
窓の外で、朝の日差しが山あいの景色を黄金色に染め上げていく。電車はスピードを落とさず、目的地である群馬の地へとひた走る。
イレイナ「母の背中を追いかけて、足跡をたどって、いつかどこかの空の下でまた出会えたら――今度は他人同士として、素敵なティータイムでも楽しむ。それが私の旅の理由の半分です」
イレイナは顔を上げ、トッペマに優しい、けれど力強い微笑みを向けた。
イレイナ「そして残りの半分は……ただ、この広い世界の続きを、この目で見てみたいから。誰かに決められた道じゃなく、私の足で歩いた軌跡だけを、あの母から受け継いだ日記帳に綴っていきたいからですよ」
トッペマは、目の前にいる若い魔女の瞳に宿る強い光を見て、それ以上言葉を返すことができなかった。
ただ、この欲深くも誇り高い旅人と出会えてよかったと、心の底から思いながら、小さくうなずいたのだった。
列車はまもなく、ヘンダーランドの最寄り駅へと到着しようとしていた。
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東京のホテルでイレイナが放った「スゲーナスゴイデスのトランプ」の眩い魔力と大爆発。その瞬間、東京のみならず関東全域の魔力検知網に巨大な波紋が広がっていた。
サムライスクワッドの地下秘密基地。
暗い司令室のメインモニターに、突如として赤く点滅する巨大な警報アラートが打ち上がった。
風見「降谷さん! 都内で強力な魔力反応と高エネルギー爆発を感知しました!」
風見裕也が緊張した声を張り上げる。
デスクで書類に目を通していた降谷零が、鋭い眼光でスクリーンへ視線を移した。
降谷「発生源は……都内のビジネスホテルか。被害状況は?」
風見「爆発による損壊はホテルの一室のみ。ですが、奇妙なことに死亡者も怪我人もゼロです。そして……科警研の魔力分析チームから報告が入りました。検知されたエネルギーの波動は、これまで観測されたどの呪力や魔法とも異なる『現実改変級の未知の波紋』とのことです」
降谷「現実改変……」
降谷が眉をひそめたその時、阿笠博士と灰原哀、そして知世とさくらたちが会議室へと入ってきた。
阿笠「降谷さん、わしらもそのデータを見せてもらったんじゃが……」
阿笠博士が浮かない顔でタブレットを示す。
灰原「ただの爆破テロじゃないわ」
灰原が冷静な口調で言葉を継いだ。
灰原「爆発の直後、その未知の魔力反応は一瞬で姿を消した……ううん、正確には『移動』したのよ。移動先は、群馬県」
知世が操作する端末によって、メインモニターに日本地図が拡大表示される。
東京で発生した黄金色の波紋の残光が、一直線に群馬県の一点へと繋がっていた。
知世「群馬県の……ここですわ」
知世が示した位置には、色鮮やかな広告ポスターが映し出された。
小狼「……ヘンダーランド?」
小狼がポスターの文字を読み上げる。
知世「ええ。最近オープンしたばかりの大型レジャー施設ですわ。ですが、この波紋の収束地点は、まさにこのヘンダーランドの敷地中央――異様な魔力が渦巻いている場所と完全に一致します」
さくら「ほえ〜……あのCMで有名な遊園地だよね? ケロちゃんも行ってみたいって言ってたけど……」
さくらが驚いたように目を丸くする。
ケロちゃんがさくらの肩からひょっこり顔を出し、真剣な表情で鼻を鳴らした。
ケロちゃん「ちゃうでさくら、ただのテーマパークやない。うちの感覚でもわかる……あのヘンダーランドっちゅう場所、外側は綺麗に飾られとるけど、中身はドロドロした異世界の気配で満ち満ちとる!」
降谷「フリーレンさんは、どう思いますか?」
降谷が静かに問いかける。
部屋の隅で温かいお茶を飲んでいたフリーレンが、湯気の向こうから静かに目を細めた。
フリーレン「……そうだね。あそこに潜んでいる魔法使いは、この世界のルールとは少し違う『理不尽な魔法』を使っている。東京で爆発を起こした誰かと、あの遊園地の主……二つの異質な力が衝突し始めているよ」
降谷「東京で爆发を起こした『誰か』……そしてヘンダーランドに潜む謎の勢力……」
降谷は顎に手を当て、深く思考を巡らせた。
小狼「アベンジャーズや政府の動向は?」と小狼が訊ねる。
降谷「アベンジャーズは現在、警戒任務で手が回っていない。それに、相手は巧妙に『ただの遊園地』としてカモフラージュしているため、政府も公式な調査許可を出しづらい状況だ。……だからこそ、僕たちの出番だ」
降谷は決意を込めた目でサムライスクワッドの面々を見つめた。
降谷「サムライスクワッドに極秘調査任務を発令する。目的は二つ。群馬ヘンダーランドの実態解明と、東京で現実改変級の魔力を放った人物の特定・保護だ。相手がどのような存在であれ、日本の平和を脅かすならば看過できない」
さくら「了解です!」
さくら、小狼、サクラスパイダー(遥)が力強く頷く。
遥「知世ちゃん、阿笠博士、潜入用の装備とバックアップをお願いします!」
灰原「任せてちょうだい。どんな異世界の魔法相手でも、記録と分析は抜かりなくやるわ」
知世と灰原が不敵に微笑み合う。
降谷「さくら、小狼。くれぐれも油断するなよ。温泉シャークの時とはまた違う、不気味な試練になりそうだ」
降谷の言葉を受け、さくらは胸元の星の鍵をキュッと握りしめた。
さくら「はい! どんなことがあっても、みんなで力を合わせて解決してみせます!」
東京で火蓋を切られた魔女たちの戦い。その渦中へと向けて、サムライスクワッドもまた、群馬ヘンダーランドへと動き出そうとしていた。
AI、ホントに便利!私は悪用さえしないなら、あってもいいと思ってますよ。