V・チューバー宮が配信するアマス   作:・V・

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Venture

「ナス寿郎おじ様、一つお願いがあるアマス」

「言ってみなさい、チューバー」

 

聖地マリージョア。白亜の宮殿が立ち並ぶ中で一つだけ異彩を放つワノ国風の屋敷。

 

その茶室で、私、イーザンバロン・V・チューバー宮は運命を決める交渉に臨んでいた。

 

向かいに座るのは世界貴族のトップに立つ五老星の一人、イーザンバロン・V・ナス寿郎聖。メガネをかけたハゲ頭の老人だが、その正体は財務を司る武神。純白の和服を身に纏い、普段腰に差している名刀は茶室の入り口に丁寧に置かれている。

 

「今の下々民は私達への理解と感謝が足りていないアマス」

 

私は湯呑みを両手で包み、上目遣いで見つめる。完璧な天竜人の無邪気さを演じながら。

 

「革命軍とやらの影響で、下々民の崇拝心が薄れているとお聞きしましたアマス。そこで下々民に私達の威光を知らしめるため、私は映像の配信を始めたいアマス」

 

「ほう」

 

ナス寿郎の目が興味深そうに細められる。食いついた。

 

「でも下々民にはそれを視聴する手段が行き渡ってないらしいアマス。なので、おじ様には下々民に映像電伝虫を買わせてほしいアマス!」

 

少しだけ甘える口調を混ぜる。ナス寿郎が身内にだけ激甘だということを、私は既に把握している。

 

「天上金を補う収入源に、か」

 

瞬間、茶室の空気が変わった。ナス寿郎の纏う雰囲気が、優しい大叔父様から世界の財務を握る武神へと変貌する。

 

さすが財務武神。一瞬で本質を理解し、その経済的価値を瞬時に計算している。この人は年間何兆ベリーもの金を動かし、加盟国の経済を左右する権力者なのだ。

 

革命軍による統治体制への脅威と、それに対するプロパガンダの必要性も当然把握しているはず。

 

だが、私の真の目的はもっと深い。世界政府の金で配信インフラを作り、それを使って世界政府を倒す。

 

もちろん、そんなことは口が裂けても言えないのだが。

 

「何だかよく分からないアマス。でも、下々民に私達の素晴らしさを伝えるために……おじ様、お願いアマス!」

 

私は首を傾げる。前世で鍛えたファンサービス用の仕草、無邪気な天竜人の完成。

 

そう、私は、いや、俺は転生者だ。

 

前世でバ美肉Vtuberとして配信をしていた男が、美少女に転生した。

 

転生に気づいた時は喜んだものだ。鏡に映る美しい金髪碧眼の少女。胸もちゃんとある。完全に美少女だった。

 

そして、同時に絶望した。

 

周りの人々のしているシャボンのマスクを付けた宇宙服のような恰好、独特の髪型とそして……

 

「よりにもよって天竜人に転生してしまったアマス……って、なんだこの語尾!?」

 

無意識に出た天竜人特有の語尾に愕然とする。体が勝手に適応していた。

 

「ワンピースの世界……アマスか……」

 

最初は鍛えて海にでることを考えた。しかし覇気を試してみたが、まったく発現しない。体力も普通の女の子レベル。ちょっと丈夫なだけで戦闘能力は皆無だった。

 

そして瞬時に理解した。生き延びるためには無能を演じ続けなければならない。

 

神の騎士団——天竜人で構成される最高戦力の精鋭部隊。五老星すら跪く真の支配者イム様直属で、不死身に近い再生能力を持つ化け物どもにより構成される「天竜人を裁ける」特異な組織。

 

彼らは有能すぎる天竜人や、体制に疑問を抱く天竜人を「危険分子」として排除する。下々民への同情を見せたり、世界政府の方針に逆らったりすれば、即座に審議対象となり処刑される。

 

一部の例外、それこそドフラミンゴぐらいの力をつければ話は別だろうが、自分が鍛えたとしてそのレベルになれるはずがない。いや、もしそうなれるとしてもその前に裁かれてしまうだろう。

 

だからこそ、この無邪気な馬鹿を演じ続けるしかない。

 

「次の会議で皆の意見を聞いてみよう」

 

ナス寿郎がそう言った瞬間、私は内心でガッツポーズをした。

 

先ほどまでの威厳ある武神の雰囲気が消え、再び優しい大叔父様に戻っている。この人は世界を支配する五老星の一人でありながら、私にだけは甘すぎるほど甘い。

 

これまでの経験上、この発言は私の願いを叶えてくれるという意味だ。完全な孫バカでありながら、自分ではそれを隠しているつもりだから面白い。

 

「ありがとうアマス!!!」

 

私は深々と一礼する。心からの感謝を込めて。

 

ナス寿郎は満足そうに頷くと、茶室を後にした。

 

一人残された私は、湯呑みに少しだけ残った茶を飲み干す。

 

最高級の茶葉から淹れられた茶は、一杯で庶民の年収に匹敵するほど高価なものだった。だが今日は妙に苦く感じる。罪悪感が舌に残り、喉を通る茶が重たい。

 

窓の外を見れば、白亜の宮殿が燃える夕陽を反射して、まるで血のように輝いていた。この美しい聖地の下で、どれだけの人々が苦しんでいるのか。

 

私は天竜人だ。世界貴族と呼ばれる、800年前に世界政府を創設した19の王家の末裔。

 

天竜人は「創造主の末裔」を自称し、下々民を奴隷として扱う。気に入らない者は銃で撃ち殺し、美しい女性や強い男は奴隷として買い取る。誰も逆らえない絶対的な特権階級。

 

そして世界中の加盟国から「天上金」という名の搾取で富を集め、贅沢の限りを尽くしている。この茶室一つを建てるために、どれだけの人々が飢え死にしているのか。

 

原作で最も憎まれる存在。それが当然だ。

 

この世界は狂っている。天竜人という存在がある限り、この世界に真の平和など来ない。むしろ死んだ方がマシな世界だ。

 

だが、それでも——いや、だからこそできることがある。

 

神の騎士団に目をつけられない範囲で、原作のような傲慢な天竜人を装いながら、密かに「世界の真実」を民衆に伝える。

 

「天竜人のプロパガンダ」という建前で世界政府に配信事業を承認させ、その金と権力で世界中に配信インフラを構築し、その全てを使って真実を暴露する。

 

世界政府の金で世界政府を倒す。こんな皮肉はないだろう。

 

そのためには、使えるものは何でも使う。

 

ナス寿郎の孫バカぶりも、天竜人としての特権も、前世の配信知識も。

 

私——チューバー宮は静かに誓った。

 

「神の配信者に、私はなるアマス」

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