V・チューバー宮が配信するアマス   作:・V・

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Veneer

モルガンズの言葉が胸に残る。

 

「メディアの力で世界は変えられる」

 

私には天竜人の権力がある。

 

世界政府の金で作られた配信網がある。

 

使わない手はない。

 

私は、次に訪れる国を、自らの意志で選んだ。

 

この国は、世界の縮図だ。

 

その光と闇を、この目で確かめるために。

 

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「みなさーん!今日は東の海で最も美しい国、ゴア王国からお届けするアマス!」

 

配信電伝虫に、私はいつもの完璧な笑顔を向ける。

 

ゴア王国は、その謳い文句に違わず、美しい国だった。

 

白亜の建物が並び、花々が咲き乱れる。道行く人々は皆、清潔な服を身につけ、笑顔を浮かべている。

 

「チューバー宮様、ようこそゴア王国へ!」

 

出迎えてくれたのは、アウトルック3世と、その養子であるステリー。

 

アウトルック3世は、いかにも傲慢そうな貴族然とした男。ステリーは、その父の隣で、私に媚びへつらうような笑みを浮かべている。

 

「天竜人様のご視察、心より歓迎いたします。このゴア王国は、東の海の模範となるべき、清く正しい国でございます」

 

アウトルック3世が、胸を張って言う。

 

(清く正しい、か)

 

私は、街全体の不自然なまでの「綺麗さ」に違和感を覚えていた。

 

視察、という言葉が出るたびに、私が視線を向けるたびに、街の人々がピクリとする。

 

あまりにも完璧すぎる。まるで、何かを隠しているかのように。

 

「苦しゅうないアマス。コレはあくまで配信、視察ではないアマス」

 

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夕暮れに、私は宿の部屋をこっそりと抜け出す。

 

天竜人の豪華な衣装ではなく、質素なローブを身につけ、顔にはフードを深く被っていた。

 

しかし、扉を開けた瞬間、そこにゲルニカが立っていた。

 

「どちらへ?」

 

彼の無表情な顔が、私を射抜く。

 

「私は、この国の全てを見たいの」

 

嘘偽りなく告げた。

 

ゲルニカは一瞬、沈黙する。

 

「……お供します」

 

彼は、命令を待つことなく、静かに私の後ろに立った。

 

その無言のやり取りに、私は微かに安堵した。

 

(私は一人じゃない)

 

向かった先は、街の片隅にある、巨大な壁。

 

唯一の通り道、大門は固く閉ざされている。

 

「失礼します」

 

そう言うと、ゲルニカは私を抱き上げた。

 

「……えっ?」

 

返事の代わりに、彼は空を蹴った。

 

風が頬を裂く。月歩。

 

そして、ふわり、と巨大な壁の上に飛び上がる。

 

——息が止まる。

 

ゴミの山。その中で、人々が蠢いている。

 

「……ここが、グレイ・ターミナル」

 

子供たちがベニヤ板をソリのように使い、ゴミの山を滑り降りていく。

 

夕闇に風が冷たく顔を撫でた。

 

彼らの笑い声は、そこにあってはいけないほど眩しかった。

 

私は、彼らの姿を、ただ見つめることしかできない。

 

(これが、この世界の真実)

 

(綺麗な街の裏には、必ずゴミがある)

 

(天竜人の豊かさの裏には、奴隷がいる)

 

(美しさの裏には、醜さが隠されている)

 

私は唇を噛んだ。

 

(そして、誰もそれを見ようとしない)

 

その時、風に乗って壁の外で焚き火を囲む男たちの会話が耳に届く。

 

「また天竜人が来てるらしいぜ」

「こんどはここを焼き払わねーのか?」

「あのときもそうだったな……あいつも、天竜人に近づいたから殺されたんだ」

 

私は、その言葉に、背筋が凍る思いがした。

 

いつの間にか、涙が溢れていた。

 

その時、

 

「泣いてんのか?」

 

振り返ると、そこに立っていたのは、麦わら帽子の少年だった。

 

彼の声は、あまりにも真っ直ぐで、どんな言葉よりも温かかった。

 

私の顔を見て、少年は首を傾げる。

 

「腹減ってんだろ?これ、食うか?」

 

差し出された肉は、焚き火で焼かれたばかりなのか、香ばしい匂いを立てていた。

 

ゲルニカが、一瞬、少年に警戒の視線を向けたが、すぐにその視線を私に戻す。

 

私は、少年の純粋な瞳と、差し出された温かい肉の塊を交互に見つめた。

 

見ず知らずの私に分け与えようとするその優しさに、再び目頭が熱くなる。

 

「……ありがとう」

 

絞り出すようにそう言うと、少年は「ししし!!」と笑う。

 

私は震える手で、その肉を受け取った。

 

「元気出せよ、じゃあな!」

 

そう言って、麦わら帽子の少年は壁の下へと飛び降りていく。

 

私は、薄れゆく夕焼けの空の中、彼の背中を静かに見送った。

 

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「チューバー宮様、昨夜のディナーはお楽しみいただけましたでしょうか?」

 

アウトルック3世が、にこやかに尋ねる。

 

「ええ、おかげさまで。お肉がとてもおいしかったアマス」

 

私は笑う。

 

「メインディッシュは魚だったはずですが……」

 

アウトルック3世が、首を傾げ、何か言いかけようとしたその時、私は彼の言葉を遮るように言った。

 

「ところで」

 

私は、あくまで無邪気に尋ねた。

 

「こんなに綺麗にお掃除をして、この国のゴミは、どこに消えるのアマス?」

 

アウトルック3世の顔から、一瞬にして笑みが消えた。

 

ステリーが、慌てて口を挟む。

 

「天竜人様のお手を煩わせるようなものではございません!定期的に処理しておりますので、ご安心を!」

 

「処理、アマスか」

 

私は、ステリーの言葉を繰り返す。

 

「そういえばジャルマック聖から、5年前の『ゴミ処理』には、大砲を使ったと聞きましたアマス」

 

「それは……」

 

アウトルック3世の顔が青ざめ、言葉が詰まる。

 

ステリーが、震える声で叫んだ。

 

「天竜人様のご視察を汚すような存在は、この国には不要だったのです!」

 

その言葉に、私は静かな怒りを燃やした。

 

アウトルック3世の肩が震えていた。

 

「確かにあの子は許されぬことをしました。だが——」

 

彼は顔を上げ、私の目を真っ直ぐに見据える。

 

その瞳の奥には、傲慢な貴族の仮面の下に隠された、拭い去れない後悔の影が揺れていた。

 

「それでも、あれはゴミではなく……私の息子でした」

 

一瞬、時が止まった気がした。

 

息を呑む。

 

その言葉は、彼の貴族としての矜持と、わずかに残された親としての情が混じり合った、複雑な本音だった。

 

「……その言葉が聞けて嬉しいアマス」

 

私は、静かにそう答えた。

 

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ゴア王国を後にする船の上。

 

夜の甲板で、私は海を見ていた。

 

「今回の配信、多くが検閲でカットされています」

 

「……やっぱり」

 

私は、小さく笑った。

 

背後からゲルニカの声がする。

 

「これ以上踏み込めば……私では、もうお守りできません」

 

その声には、警告と、わずかな祈りが混ざっていた。

 

私は、振り返らずに答える。

 

「大丈夫。私は、まだ消えるわけにはいかないから」

 

風に揺れる麦わら帽子の笑顔が、瞼の裏に焼き付いていた。

 




【Veneer】
名詞:
1. (木材の)薄板、化粧板
2. (見せかけの)うわべ、外観、体裁、メッキ
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