V・チューバー宮が配信するアマス 作:・V・
「私のわがままで、急に押しかけて来てしまってごめんなさい!!」
「ううん、ううん!また会えてうれしい!!チューバーちゃん!!」
渋るゲルニカを振り切り、「完全プライベート」と言い張って訪れたのは、砂漠の国アラバスタ。
1年ぶりの再会。
ネフェルタリ・ビビは少しだけ大人びてはいたけれど、その真っ直ぐで優しい瞳は少しも変わっていなかった。
後ろめたさで顔を合わせるのが怖かった私を、彼女はそんなことなど気にも留めず、心から喜んでくれた。
「今回はプライベートな旅行アマス。だから、私の可愛いお友達のお顔は、視聴者の皆様には秘密アマスー!」
映像電伝虫にそう語りかけ、私はビビの顔が映らないよう細心の注意を払う。
配信を行わなくともVlog用の素材をつい撮ってしまうのは、配信者の性なのだろう。
(この先、彼女がどんな運命を辿るのかは分からない。けれど、もしも原作同様に彼女が表舞台から姿を消して戦う時が来た場合、この映像が彼女の足枷になってはならない……)
1年前の世界会議の時は、そこまで気が回らなかった。
あの時の私は……世界を壊すことだけを考えていた。
数日間、ビビと共に過ごす時間は、乾いた心に水が染み渡るように、私を癒してくれた。
この穏やかな日常を、この優しい王女を私は、必ず守りたい。
そう、心の底から思った。
だからこそ、私は行かなければならない。
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月明かりだけが頼りの砂漠の古代遺跡の中で、約束の相手を待つ。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
やがて、砂がうねり、月光を裂くように――巨大な顔がぬっと現れた。
「ヒーハー!よく来たわねェ!ヴァターシがエンポリオ・イワンコフよォ!」
紫色の巨大なアフロ、異様なメイク、そして全てを見透かすような瞳。
(間違いない。革命軍幹部、エンポリオ・イワンコフ……!)
「で?ヴァナタは何者?」
問われて言葉に詰まる。天竜人?配信者?それとも……。
「私は……」
絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
「イーザンバロン・V・チューバー。天竜人と、奴隷の子です」
フィッシャー・タイガーの事件のこと、母のこと、そしてこの世界への憎しみを、私は堰を切ったように語った。
「……だから、全部壊したかった」
すると、イワンコフはニヤリと笑った。
「"壊したかった"?過去形ねェ」
「でも……ただ壊すだけではダメだと言うことも学んだ」
ドフラミンゴに見透かされ、モルガンズに鼓舞され、その先を考えないといけないと知った。
世界会議から排除された魚人達を思う。グレイ・ターミナルの子供達を思う。
「だから、私は……」
本当にいいのだろうか、世界を混乱に陥れて。
その思いが、私の口を縛る。
イワンコフはじっと見つめていた。そして、ふと真顔になって、こう言った。
「ところで……ヴァナタ、本当はどっちなの?」
心臓が、凍り付く。
「男の体に戻してあげようか?ホルホルの実なら、造作もないわよォ!」
差し伸べられた大きな手。一瞬、心が揺らぐ。
けれど、私はゆっくりと首を横に振った。
脳裏に浮かんだのは、ナス寿郎の、ゲルニカの、ベガパンクの、ビビの、ヴィオラの、レイジュの、そして、あの麦わら帽子の少年の笑顔。
「いいえ。今の私が、私です」
男だった前世も、女として生きる今も、全てが私だ。この体で出会った人たちが、今の私を作ってくれた。
「それに……『〜え』なんて口調では喋りたくないアマス」
笑いながら、わざとらしく胸を張ってみせる。
イワンコフは、顔をくしゃくしゃにして、満面の笑みを浮かべた。
「ヒーハー!!!最高の答え!!!」
その声が、遺跡中に響き渡る。
「性別なんて自分で決めればいいのよォ!大事なのは、ヴァナタが何者でありたいか!!どう生きたいか!!!」
イワンコフは力強く言い放った。
「奴隷の子として生まれた?違うわァ!ヴァナタは自由を求めた母親の、希望として生まれたのよォ!」
その言葉は、長年私を縛り付けていた呪いを解くかのように、心に染み渡った。涙が、溢れてくる。
(そうだ。私は、私が決めればいい。私の生き方を)
「私は、世界の真実を暴露します」
呪縛から解放された私の瞳には、もう迷いはなかった。
イワンコフは驚くでもなく、ただ静かに次の言葉を待っている。その真剣な眼差しは、革命軍の幹部のものだ。
私は、震える声で、けれど一言一言はっきりと計画の全貌を語り始めた。
天竜人が犯してきた罪、空白の100年、そして、それを全世界に同時中継する計画。
全てを聞き終えたイワンコフは、一度大きく天を仰いだ。
「ヒーハー……!ヴァナタ、自分が何を言ってるか分かってる?世界をひっくり返すどころの騒ぎじゃないわよォ!」
「分かっています。だからこそ、革命軍の力が必要なんです」
イワンコフは腕を組み、巨大な影の中で思考を巡らせる。
「……確かに、ヴァナタの『配信』は革命の武器になる。絶大な影響力を持つわ。だが、あまりにも危険すぎる。それに、準備が要る」
イワンコフは砂の上に指で簡単な世界地図を描きながら説明を始めた。
「真実が暴露された後、世界は間違いなく大混乱に陥る。それをただの破壊で終わらせないためには、受け皿が必要なのよ。我々革命軍も、世界各地の同志と連携し、民衆を導く準備を整えなければならない」
「私にも、時間が必要です」と私は続けた。
「もっと配信のインフラを広げ、影響力を高め、世界中の誰もが真実から目を逸らせない状況を作り出します」
互いの視線が交錯する。必要な時間を計算し、最適なタイミングを探る。
それは、まさしく革命の密議だった。
やがて、イワンコフが顔を上げた。
「決行は3年後……次の世界会議。世界の王たちがマリージョアに集まり、最も注目が集まるその時よ!」
その言葉に、私は強く頷いた。
イワンコフは高らかに拳を突き上げる。
「ヴィヴァ・ラ・レボルシオン!!(革命万歳!!)」
私は、その言葉を魂で受け止める。そして、全ての決意を込めて、こう返した。
「ヴィヴァ!!!」
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数日後、アラバスタを離れる日が来た。
その日の朝、この国に来てから初めて、まとまった雨が降った。
「久しぶりの雨……!」
宮殿のバルコニーで、ビビが嬉しそうに呟く。
やがて雨が上がり、空には見たこともないほど大きな七色の橋がかかった。
「綺麗……」
ビビがぽつりと呟く。
「色んないろがあるから、綺麗なのね」
その無邪気な一言が、私の胸を打つ。
男でも女でも。天竜人でも奴隷でも。
この世界は、様々な色があってこそ美しい。誰か一人の色で塗りつぶされていいはずがない。
「本当に……綺麗」
私は無意識のうちに、映像電伝虫を取り出し、その七色の橋にレンズを向けていた。
帰りの船の上、マリージョアから迎えに来たゲルニカが静かに私に問いかける。
「アラバスタで、何か良いことでも?」
「ええ」
私の吹っ切れたような笑顔に、ゲルニカは何かを察したようだったが、それ以上は何も聞かなかった。
決意を胸に、私はただ前を見つめていた。
【Viva】
感嘆詞:
1. 「万歳!」、「生きろ!」を意味する歓呼。
2. 生への賛歌、命の肯定を象徴する語。
【Viva la revolución】
「革命万歳!」の意。自由と変革を讃える叫び。