V・チューバー宮が配信するアマス 作:・V・
ドフラミンゴとの取引から数日後。
私はアラバスタのオアシス、夢の街レインベースにいた。
目的はただ一つ、この国の"英雄"、サー・クロコダイルとの接触。
表向きの企画は「砂漠のカジノ『レインディナーズ』で一攫千金チャレンジ配信!」。
エンタメ配信を装い、彼の本拠地に乗り込むのだ。
「ゲルニカ、心配しすぎアマス」
「……決してご無理はなさらないでください」
心配する護衛を笑顔でいなしつつ、私は巨大なカジノを見据える。
ピラミッドの形をしたその建物には、周囲を威嚇するようなワニの意匠が施されている。
ここから先は、配信者としてじゃない。
交渉人としての、私の戦いだ。
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黄金と喧騒に満ちたカジノ「レインディナーズ」。
その中心で、私は高らかに配信開始を宣言した。
「さあ、今日のチューバー宮は、神に愛された幸運をお見せするアマス!」
手始めに座ったのは、一台のスロットマシン。
コインを入れ、レバーを引く。リールが回り、そして——。
ガシャン!ガシャン!ガシャン!
けたたましいファンファーレと共に、3つの「7」が一直線に並んだ。
大量のコインが受け皿から溢れ出す。
フロアがどよめく中、私は悪戯っぽく微笑んだ。
「あら、7が並ぶなんて珍しいアマス」
こちらを監視しているであろう、"砂漠の王"へ。
同じ"七武海"を冠する男からの紹介状代わりの、計算されたパフォーマンス。
その時だった。
「ちょっとアンタ!今の見たわよ!!」
白鳥のコートを羽織った、一際目立つ大柄な男が、目を輝かせてこちらに駆け寄ってきた。
その男——Mr.2 ボン・クレーと、私たちはすぐに意気投合した。
バロックワークスのオフィサーエージェント。そんな裏の顔も、今の私には関係ない。
「アンタ、最高よ!その喋り方!イカしてるじゃないの!」
配信の合間、彼は熱っぽく語ってくれた。
「男だろうが女だろうが、ガワなんて関係ない!ハートでどう生きるか、それだけよォ!」
その言葉は、雷のように私の魂を撃ち抜いた。
Vtuberとして「ガワ」を被っていた男としての前世、そして女である今。
イワンコフが肯定してくれた私の在り方を、この男は、出会って数分で見抜き、同じ言葉で叫んでくれたのだ。
「チューバーちゃんも、あちしと同じ、魂で生きてるのね!」
ボン・クレーのその言葉に、思わず涙が滲む。
私たちはもう、性別も、立場も、何もかもを超えて、魂のレベルで友達になっていた。
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スロットの後も、私はテーブルゲームで勝ち続けた。
それはもはや幸運ではなく、異常なまでの「必然」。
「お客様、オーナーがお呼びです。『もっとエキサイティングなゲームを』、と」
来た。私は笑みを浮かべ、配信を止める。
「ご覧の皆様、残念ながらここでお時間アマス!ここから先は、オトナの時間ですので……次の配信でお会いするアマスー!!」
配信電伝虫が眠るのを見て、ボン・クレーが血相を変えて駆け寄ってきた。
「ジョーダンじゃなーいわよーう!!待ちなさい!アンタ、まさか行く気じゃないでしょうね!?あのお方だけはダメよォ!!」
その本気の忠告に、私は自分のビブルカードの切れ端をそっと彼に握らせた。
「これは友情の証。また会いましょう」
ウインクを残し、私はVIPルームへと続く通路へと一人、歩を進めた。
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VIPルームは、静寂に支配されていた。
プレイヤーは私と、"砂漠の王"、サー・クロコダイル。
そして、ディーラー服に身を包んでそこに立つのは、黒髪の美女、ミス・オールサンデー。
クロコダイルが、分厚い葉巻の煙を吐き出しながら、重々しく口を開く。
「ようこそ。ルールはわかるな?このゲームに——"ジョーカー"は不要だ」
ドフラミンゴを牽制する言葉と共に、カードの束を開いて見せる。
左手の金色のフックが、ギラリ、と光る。
「ええ、ちゃんと"含まれていない"アマス」
私は静かに頷いた。
ミス・オールサンデーが慣れた手つきでカードを配る。
ポーカー。腹の探り合いには、うってつけのゲームだ。
数ターン、カードを配る音とチップの音が静かに響く。そして、私が動いた。
チップを前に押し出しながら、私は独り言のように呟く。
「あなたが望む切り札は、この場にはないアマス」
——そう、クロコダイルの求める古代兵器、プルトンはこの国にはない。
クロコダイルの眉が、僅かにピクリと動く。
私は視線をディーラーへと移す。
「山札に埋もれた真実が出てくるか……ディーラーの腕次第アマスね」
手札を開く。
"クローバー"のフラッシュ。私の勝利だ。
ミス・オールサンデーの完璧な微笑みが、一瞬だけ、凍りついたのを私は見逃さなかった。
ゲームは白熱し、テーブルの上には莫大なチップが積まれていく。
そして、ついに私は手持ちのチップを全て、中央に滑らせた。
「オールイン、アマス」
クロコダイルの目が鋭くなる。
その時、私は懐から金色の電伝虫を取り出し、伏せられた自分の手札の上に、ことり、と置いた。
「さあ、"コール"する?」
その瞬間、ミス・オールサンデーの手が、僅かに、しかし確かに震えた。
「……ブラフだろう?」
クロコダイルが低い声で凄む。
私は不敵に笑い返した。
「私の手札が見たいなら、あなたも全てを賭ける覚悟を見せるアマス」
クロコダイルの視線が、私と、動揺を隠せないディーラー、そしてテーブルの上のチップとを行き来する。
密閉され、清潔な部屋に、ふわり、と砂が舞う。
情報の不確かさ。パートナーの動揺。そして、この小娘の異常なまでの覚悟。
長い、長い沈黙の後、彼は忌々しげに葉巻を灰皿に押し付けた。
「……フォールドだ。勝負は先送りにしてやる」
ゲームは終わった。
テーブルに積まれた莫大なチップが、私の勝利を告げている。
けれど、私はそれに一切触れなかった。
立ち上がり、クロコダイルを見下ろす。
「……そのチップを持っていかないのか」
フン、と鼻を鳴らす彼に、私は不敵に微笑んでみせた。
「それは、このカジノに預けておくアマス」
そして。
「2年後にまた遊びに来るアマス。それまでこの国で雨が降り続いていたら……」
言葉を切り、クロコダイルをまっすぐに見据える。
「その時、あなたが本当に欲しいカードがどこにあるか……教えてあげてもいいアマス」
唖然とするクロコダイルと、複雑な表情のミス・オールサンデーを残し、私は悠然とVIPルームを後にした。
通路の先では、ボン・クレーが泣きそうな顔で待っていた。
「チューバーちゃん!!!なんで!!!」
私は彼に、一言だけ告げる。
「友達(ダチ)の国だから」
それ以上の言葉は、要らなかった。
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アラバスタを離れる船の上。
私は、ビビの国をひとまず守れたことに、安堵のため息をついていた。
そこに、一羽のニュース・クーが新聞を落としていく。
その一面に躍る、衝撃的な見出し。
『"暴君バーソロミュー・くま"に懸賞金』
血の気が引く。頭が真っ白になる。
アラバスタを優先したことで、もう一つの救うべき場所を、私は見捨てたのだ。
「間に合わなかった……!」
自分の選択の結果を突きつけられ、後悔が全身を苛む。
私は唇を強く、強く噛みしめた。
【Viper】
1. 毒ヘビ
2. 意地の悪い人、油断ならない人