V・チューバー宮が配信するアマス 作:・V・
「クワハハハ!どうした、チューバー宮!ビッグ・ニュースのタレコミか?」
電伝虫の向こうから、羽音と笑い声が混じる。
あの派手な鳥人間の顔が脳裏に浮かんだ。
「モルガンズ」
私の声が自分でも驚くほど低く響く。
「なぜ……嘘を書いたの」
「ん?何を言ってやがる」
モルガンズの声が、一段低くなる。
「ああ、そのことか。『暴君バーソロミュー・くま』。なかなかキャッチーだろ!」
「なぜそんな嘘に加担するの!」
思わず、声が大きくなる。
「くまは……圧政から民を守るために、たった一人で革命を起こした英雄です!」
「それは『お前の推測』だろう?おれが持ってるのは『元国王べコリの証言』だ。それが公式発表だ」
モルガンズの声に、叫ぶように私は返す。
「べコリこそが圧政者です!!」
「知っているよ」
「!?」
モルガンズは、あっさりと言った。
「でも『公式』はべコリの証言だ」
「……!」
「お前も知ってるだろう?『事実をどう切り取り、どう脚色し、どう届けるか』——それがおれたちの仕事だ」
かつて、彼が私に教えた言葉。
「『面白い嘘もつけねェなら、ジャーナリストは廃業しな』——お前、覚えてるか?」
その言葉が、胸に突き刺さる。
「でも、それは……」
「おれが『ビッグ・ニュース』を書くのも、政府が『暴君くま』を演出するのも、そしてお前が『素晴らしい世界』を配信するのも——全部同じだ。」
モルガンズの声は、冷徹だった。
「違う……!」
「違わねェよ。お前もおれも、真実なんか興味ねェんだ。人を動かせりゃいい」
「私は……」
言葉が、出てこない。
「クワハハハ!まあ、お前が証拠を持ってくるなら、考えてやるよ」
モルガンズのその一言に、私は何も反論できなかった。
「……おっと、そうだ」
モルガンズの声が、わざとらしく響く。
「べコリの野郎——今、マリンフォードにいるらしいぜ。海軍に泣きついてるとか」
「……!」
「ま、お前には関係ねェ話か。クワハハハ!」
ブツリ、と電伝虫が切れる。
私は震える手で、電伝虫を握りしめた。
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翌日。
私は、海軍本部マリンフォードにいた。
表向きは「正義の砦、海軍本部取材」。
でも本当は——
遠くから、甲高い声が聞こえてくる。
「もう一度派兵しろ!私が正統な王なのだ!」
私の足が、止まる。
くたびれた王服を着た、小太りの男。
元ソルベ王国国王、べコリ。
彼は海軍の将校たちに、必死に訴えている。
「くまが民を苦しめた!私こそが正義だ!私を王に戻してくれ!」
私の視界が、赤く染まった。
その時。
「おお!天竜人様!!配信をいつも見ております!!!」
私を見たべコリが、這いつくばるように駆け寄ってきた。
「お助けください!あの暴君くまが!」
彼は涙を流しながら、私の足元にすがりつく。
「くまが民を苦しめたのです!私は正しい統治をしていただけなのに!」
私は、無表情でべコリを見下ろす。
「チューバー宮様の、ゴア王国での配信で——」
べコリが続ける。
「ゴミのない美しい国を、天竜人様が絶賛しているのを見ました!私もそれと同じことをしただけなのです!」
その瞬間、私の背後でゲルニカの殺気が膨れ上がった。
「グレイ・ターミナル」——ゴア王国のゴミ山。
配信では写せなかったあの美しい夕日を、私たちは共に見ている。
「ゴミを処分しただけです!南の貧民など、王国の恥!焼き払って何が悪い!」
べコリは、誇らしげに語る。
私の中で、何かが切れた。
「……なるほどアマス」
私の笑顔は、今まで見せたことのない、冷たいものだった。
「そんなに天竜人が好きなら——天竜人になりたいのなら——」
私は、べコリの首を掴み上げる。
「奴隷にしてやるアマス」
べコリの顔が、恐怖に歪む。
「な、何を!」
その時、ゲルニカが私の手を掴んだ。
無言で、首を横に振る。
その静かな制止は、どんな言葉よりも重かった。
私は、ハッとして手を離す。
べコリが床に倒れ込む。
(そうだ……私は、何を……)
ゲルニカが、静かに周囲の海軍に告げる。
「この者を、天竜人への不敬罪で拘束する」
「しかし、何の……」
ゲルニカは、冷徹に言い放つ。
「"記録"がある。この男は、天竜人様を『利用できる道具』と評した」
「そ、そんな事実は!」
べコリが長い鼻を揺らす。
「お前が嘘をつくなら……」
私は、静かに微笑む。
「私も、そうせてもらうアマス」
ゲルニカと私の視線が交差する。
彼の瞳には、迷いと、そして諦めのようなものが浮かんでいた。
「拘束しろ」
ゲルニカの一言と共に、海兵たちがべコリを連行する。
「待て!待ってくれ!天竜人様!!チューバー宮!!!」
べコリの悲鳴が、遠ざかっていく。
私は、その場に立ち尽くした。
周囲の海兵たちが、私を見ている。
その視線は、今までの「可愛らしい天竜人様」を見るものではなかった。
恐怖と、困惑と、そして警戒。
(私は……何をしたんだろう)
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「やりすぎだ」
マリージョア、イーザンバロン家の邸宅にナス寿郎の声が響く。
私は、何も言えなかった。
「ジェイガルシア・サターン聖がお前の行動を、不審に思っている」
ナス寿郎は、重々しく続ける。
その名前に、私の背筋が凍る。
五老星の一人、サターン聖。
「今までのお前は、『可愛らしいアイドル』だった。世界政府の宣伝に役立つ存在だった」
ナス寿郎は、私をまっすぐに見据える。
「だが……」
「おじ様……」
「……配信事業は認めよう。だが、もう二度と、個人的な感情で動くな」
私は、ただ頷くことしかできなかった。
部屋を出た後、私は一人、廊下に立ち尽くす。
(嘘で、べコリを倒した)
(でも、くまの名誉は回復されない)
(モルガンズの記事は、訂正されない)
(そして——)
(私の配信が、虐殺を生んだ)
(モルガンズの言う通りだった)
(私は、人を動かした)
(悪い方向に)
(私がしたことは……何だったんだろう)
(何も救えなかった)
(誰も救えなかった)
(ただ、自分の怒りをぶつけただけ)
窓の外、マリージョアの夜は静かに更けていく。
私はただ、握りしめた拳を見つめていた。
足音が近づく。
「……お休みになった方がよろしいかと」
彼の声は、いつものように静かだった。
「ゲルニカ」
私は、顔も上げずに呟く。
「私は……間違っていた?」
長い沈黙の後、ゲルニカは答える。
「……私にも、わかりません」
彼は続ける。
「ですが、あの嘘に加担したのは、私です」
「……」
「あなたを止めながら、結局は共犯者になった」
ゲルニカの声に、僅かな自嘲が混じる。
「なぜ……」
私は、顔も上げずに呟く。
「なぜ、あなたは嘘に加担したの?」
長い沈黙。
「……護衛として、あなたと世界中を回る中で」
ゲルニカが静かに語り始める。
「あなたの配信を見る人々の顔を、見てきました」
「……」
「ウォーターセブンで、職人の少年が言っていました」
「『チューバー宮様の配信を見て、もっと良い船を作りたいと思った』、と」
「バラティエでは、料理人が『世界中の人に料理を届けたい』と語っていました」
ゲルニカは続ける。
「あなたの配信を見て、笑顔になる子供たち。希望を語る大人たち」
「そして——」
彼の声が、一瞬だけ揺れる。
「グレイ・ターミナルで、あの夕日を見たあなたの横顔を、そしてその涙を。私は覚えています」
「……!」
私は、ようやく顔を上げる。
ゲルニカは、いつもの無表情だった。
でも、その瞳には、確かに何かが宿っていた。
「だから——私は、あなたを信じている」
ゲルニカは、一礼して去っていく。
私は、その背中をただ見送る。
(ゲルニカ、あなたは……)
握りしめた拳に、僅かに力が戻る。
窓の外、紅く滲む空が、静かに夜を押し返していた。
【Verdict】
1. 評決、判決
2. 判断、意見、結論