V・チューバー宮が配信するアマス 作:・V・
イワンコフを捕らえた——その「功績」以来、私の配信の影響力は皮肉にも増大し続けていた。
世界からは「天竜人の誇り」「世界政府への忠誠の証」と称賛される。
英雄という仮面。その重さに、時々息ができなくなる。
友を売った罪悪感は、今も胸を締め付ける。
でも、イワンコフが言ってくれた。
『だから、ヴァナータも前に進むのよ!』
その言葉を、胸に刻んで。
革命軍との連絡は、慎重に続けている。
サターン聖の監視の目を逃れて、暗号化した電伝虫で、短い言葉だけ。
「無事?」
「ああ」
ドラゴンの声は、相変わらず静かで、力強い。
「世界会議まで、あと一年を切った」
一年。
長いようで、短い。
「気をつけて」
「お前も無理をするな」
電伝虫が切れる。
辛いけれど、それでも、イワンコフの意志を、無駄にしないために。
「チューバー宮様ー!!!」
配信電伝虫が、私に向けられる。
「はーいアマスー!」
笑顔を作る。上目遣い。首を傾げる。
完璧な、虚像。
でも、今は——少しだけ、心に力がある。
あと少し。
世界会議で、全てを変える。
その日まで。
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電伝虫が鳴る。
「フッフッフ……"知り合い"が新しいカジノをオープンさせてな」
ドフラミンゴの声は、いつものように軽薄で、でもどこか探るような響きがあった。
「豪遊配信、得意だろう?」
「……わかりました」
カジノ配信、か。
少しは気分転換になるかもしれない。
「ああ、それと」
ドフラミンゴの声が、わずかに低くなる。
「マリージョアの国宝、と聞いて心当たりはないか」
(パンゲア城の、麦わら帽子……!)
前世の知識で、私はその存在を知っている。
でも、今の私がそれを知っているのは不自然だ。
「……知らないアマス」
「……そうか」
電話の向こうで、ドフラミンゴが舌打ちをした気がした。
漠然とした不安が、胸をよぎった。
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グラン・テゾーロは、全てが金で覆われた巨大な船だった。
全長10km。世界政府から独立国家として認められている「動く夢の国」。
船尾には、巨大な黄金の塔がそびえ、ルーレット盤のデザインが輝いている。
豪華で、眩しくて、そして——どこか虚しい。
「チューバーちゃん!」
その声に、心臓が跳ねた。
振り向いた先には、見覚えのある顔。
「ボンちゃん……?」
ボン・クレー。Mr.2。
「久しぶりねェ!」
ボン・クレーは満面の笑みで手を振る。
「ビブルカードが急に反応してびっくりしたわァ!まさかここでチューバーちゃんと会えるなんて!」
再会を喜ぶ気持ちと、恐怖が、同時に襲ってくる。
ボン・クレーは、イワンコフを尊敬している。
そして、私は——
「ねェ、チューバーちゃん」
ボン・クレーの声が、低くなる。
「どうしてイワ様を捕まえたの!」
その言葉が、胸を突き刺す。
「……っ」
答えられない。
「カマバッカ王国の女王!あちしの憧れ!なのにィ、どうして!」
ボン・クレーの涙声が、私の心を抉る。
「私は……!」
世界からの賞賛。迫る期限。
そして今、最も理解してほしいはずの友人からの詰問。
全てが、重すぎた。
「チューバーちゃん、答えて!どうして!」
「……っ」
答えられない。言葉が、喉に詰まる。
「……ッ!」
ボン・クレーの右手が、私の頬を張った。
「……その顔を見ればわかるわ!」
痛い。
でも、その痛みで、少しだけ現実感が戻ってくる。
「チューバーちゃんが一番悔しいのね!!!」
ボン・クレーは、泣いていた。
「ごめん……ごめんねェ、チューバーちゃん……あちし、何も知らないくせにィ……!」
二人とも、泣いていた。
初めて、自分の罪と苦しみを、他者と分かち合えた気がした。
「チューバーちゃんも……戦ってたのねェ……!」
ボン・クレーは、私の背中を優しく叩く。
「あちしねェ……本当の名前はベンサムっていうの」
ボン・クレーは、まっすぐ私の目を見つめた。その瞳には、偽りのない友情が宿っていた。
「チューバーちゃんにだけ教えるわァ。だって、友達(ダチ)だもの!」
友達。
その言葉が、心に染みた。
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配信は順調だった。
「5億アマス!!赤に5億アマス!!!」
「えぇーー!!?」
「さすがはチューバー宮様!!」
笑顔を作る。手を振る。
その時だった。
「チューバー宮様」
低い、男の声。
振り向いた先には、金色の髪に、金色のスーツを着た男。
ギルド・テゾーロ。
グラン・テゾーロの支配者。
「お話があります。ついてきてもらえますか」
男はにこりと笑う。
だが、その声は、有無を言わさぬ重みがあった。
案内されたのは、船尾のルーレットの塔の頂上にある展望室。
カジノ全体を見下ろせる、金の装飾で満たされた空間。
「ようこそ」
道中、壁一面に映し出される監視電伝虫の映像が目に入った。
船内のあらゆる場所が、映し出されている。
その技術の洗練度に、息を呑む。
「この船の監視システム、素晴らしいだろう?」
テゾーロは、自慢げに語る。
「ホストとノードによる電伝虫ネットワーク。なかなか高くついたがな」
動揺を隠す。
「配信電伝虫も、この技術があってこそなのだろう?」
その言葉で、全てを理解した。
テゾーロは、知っている。
(私が、ドフラミンゴに渡した技術が、監視システムとして使われている……)
胸が、締め付けられる。
テゾーロは、テーブルに置かれたグラスを指し示した。
促され、私はソファに座る。
テゾーロは、しばらく沈黙し、私を値踏みするように見つめた。
「……フィッシャー・タイガーの事件を覚えているか?」
心臓が、跳ねる。
「私は……」
テゾーロは、遠い目をする。
「俺は、あの時マリージョアにいた……奴隷としてな」
「……!」
「一緒に逃げた奴隷たちの中に、一人の女がいた」
テゾーロの声が、静かに響く。
その時、彼の耳元で揺れる星型のイヤリングが、チカリ、と光を放った。
「子供の手を引き、必死に走っていた」
私の心臓が、激しく鳴る。
「天竜人の男が、女を追いかけていた」
(誰かの声……怒鳴り声……)
断片的な記憶が、蘇る。
「その女は、レッドポートの崖から海へ飛び込んだ。子供を抱えたまま」
(海の匂い……落ちる感覚……)
ベガパンクに話した、あの記憶。
「天竜人の男も、後を追って飛び込んだ」
テゾーロが言葉を切り、続ける。
「……『俺も一緒に』と泣き叫びながら」
(温かい腕……でも、怖かった……)
グラスを持つ手が、震える。
「三人とも、海に消えた」
テゾーロの声が、重く響く。
「愛だの理想だの言っても、結局……」
テゾーロの瞳に、遠い日の恋人の面影と、レッドポートの崖から消えた女の姿が重なる。
「……ステラと同じ、星の名前をしたあの女も、誰も救えはしない」
私の心臓が、激しく脈打った。
「お前の顔、見覚えがあると思ったんだ」
テゾーロは、私を見つめる。
「あの時の子供に、よく似ている」
「……!」
部屋に、重い沈黙が流れる。
「……いや、まさかな。死んだはずだ」
テゾーロは、自嘲気味に笑う。
「俺の記憶違いだろう」
違う。
私は生きている。
母は、私を捨てたわけじゃなかった。
父も、母と共に行こうとしていた。
逃げようとしていた。
私を、生かそうとして——
涙が、溢れそうになる。
必死に、堪える。
「私は……」
声が、震える。
「お前も、何か失ったのだな」
テゾーロは、静かに言う。
私は、涙を拭って、顔を上げる。
「はい。でも、だから……」
無駄には、できない。
イワンコフを売った罪。
両親の真実。
「私は……この命を、無駄にしたくない」
全てを、背負って。
「いい目をしている」
テゾーロは、満足げに頷いた。
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「ボンちゃん」
カジノの片隅、バーカウンターに二人静かに並ぶ。
「あなたは私に、本当の名前を教えてくれた」
ボン・クレーは、少し照れたように笑う。
「だから、私も」
深呼吸をする。
「まだ、みんなには言えないけど、私の本当の名前は……」
小さな声で、ボン・クレーに耳打ちする。
ボン・クレーの目が、大きく見開かれた。
「大切にしなさいよ!!」
ボン・クレーは、優しく微笑む。
「チューバーちゃんのお母さんが、命をかけて守った名前なんだから!」
涙が、また溢れそうになる。
「うん……ありがとう、ボンちゃん」
「私、この名前に、誇りを持って生きる」
「母が私に命をくれたように」
「私も、誰かに何かを残せるように」
ボン・クレーは、私の頭を撫でる。
「あちし、チューバーちゃんのこと一生忘れないわ!」
その言葉が、胸に染みる。
「ねェねェ、チューバーちゃん!」
ボン・クレーは、ニヤニヤしながら言う。
「ここだけの秘密だけどォ」
「レインディナーズカジノのオーナーがねェ、チューバーちゃんとの再戦を楽しみにしてポーカーの特訓してるらしいわよォ!」
「……え?」
「噂で聞いたけど、すっごく悔しかったみたい!」
あのクロコダイルが、ポーカーの特訓……?
「ふふ……なら私も負けてられない!」
張り詰めていた心が、音を立てて解けていく。
偽りのない、晴れやかな笑みが、私の顔に浮かんだ。
「ボンちゃん、ありがとう。本当に」
受け継いだ命と名前。
そして、友との絆。
全てを胸に。
私の目には、再び力強い光が宿っていた。
【Verity】
1. 真理
2. 真実