V・チューバー宮が配信するアマス   作:・V・

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Veil

「こちらでございます」

 

重厚な扉が開かれる。

 

その先に広がっていたのは、配信設備が整った専用の部屋だった。壁一面に映像電伝虫の機材が並び、技術担当の職員が慌ただしく調整を行っている。部屋の中央には配信用のカメラ電伝虫が設置され、その巨大な目がじっとこちらを見つめていた。

 

「すごいアマスー!こんなに立派な設備が用意されてるアマス!」

 

私は無邪気に声を上げながら、内心では冷静に機材をチェックしていた。映像電伝虫の型番、配信の遅延時間、検閲用の端末の配置。全てを記憶する。

 

「チューバー宮様」

 

低い声が背後から響いた。

 

振り向くと、そこには長身の男が立っていた。白い帽子、白塗りの顔。まるで能面のような無表情が、静かにこちらを見下ろしている。

 

「私がチューバー宮様のアシスタントと護衛を務めます。ゲルニカとお呼びください」

 

私は内心で息を呑んだ。

 

(いきなりCP0が出てくるとは)

 

間違いない。サイファーポール・イージスゼロ。世界政府直属の諜報機関の最高峰。そして、天竜人に直接仕える暗殺者。

 

(配信の「護衛」、つまりは監視役ということか)

 

予想以上に警戒されている。それだけこの配信計画が重要視されているということだろうか。

 

だが表面上は、私は満面の笑みを浮かべた。

 

「ゲルニカね、よろしくアマス!」

 

ゲルニカの口元がわずかに動いた。呆れているのだろう。白塗りメイクで表情は読めないが、微妙な空気の変化で分かる。

 

それでいい。世間知らずで無邪気な天竜人の小娘。それが私の演じるべき役だ。

 

「配信の条件について、正式に通達いたします」

 

ゲルニカが手に持った書類をちらりと見る。

 

「第一段階として、現状では配信はマリージョア内限定とします」

 

「はいアマス」

 

「また、万が一の事態に備え、生放送ではなく30秒の遅延を設けます」

 

ゲルニカは穏やかに説明を続ける。

 

「これはチューバー宮様の御身を守るための措置です。配信中に何か予期せぬ事態が起きた場合でも、即座に対処できるよう……」

 

「私を守ってくれるんアマスね!」

 

私は無邪気に喜んだ。

 

(検閲システムか。「御身を守るため」「予期せぬ事態」……婉曲的な言い方だけど、要は発言を監視するということ)

 

ゲルニカが続ける。

 

「配信の時間と内容は、事前申請制とします。承認なしでの配信は一切認められません」

 

「えー、厳しいアマスー」

 

私はわざと不満そうに頬を膨らませた。

 

だが内心では、驚きを隠せなかった。

 

(正直、録画して編集後に公開、くらいしか許されないと思ってた。30秒ディレイとはいえ、リアルタイム配信が認められるなんて……これは予想以上の成果)

 

前世の知識から言えば、独裁国家や権威主義体制でメディアをコントロールする際、リアルタイム配信なんて絶対に許可されない。

 

(世界政府は思ったより「配信」というものを理解していないのかもしれない。それとも、それだけ今の統治に自信があるのか?)

 

いずれにせよ、これは好機だ。

 

「配信できるだけ嬉しいアマス!頑張るアマスー!」

 

私は両手を合わせて喜びを表現した。

 

========================================

 

「はじめまして、チューバー宮アマス!」

 

私はカメラ電伝虫に向かって明るく手を振った。

 

「今日は聖地マリージョアの素晴らしさを紹介するアマス!私の大好きな場所をお見せするアマス!」

 

今回の配信は実験的に加盟国の一部高官など、限定された視聴者に向けて流されている。映像電伝虫を通じて、遠く離れた場所にいる人々が今この瞬間の私を見ている。

 

今回の配信がうまくいけば、より広く届けることができるだろう。そのためにも失敗はできない。

 

技術担当の職員が合図を送る。配信開始、問題なし。

 

「それでは早速、マリージョアを探検するアマス!」

 

私は配信設備の部屋を出て、廊下を進んだ。カメラ電伝虫を構えた技術士とゲルニカが無言で後ろをついてくる。

 

「わー、このうごく歩道便利アマスー!歩かなくても進むアマス!」

 

トラベレーター。マリージョアの移動手段の一つだ。

 

私は無邪気にはしゃぎながらその上に乗る。ゲルニカはカメラの後ろで静かに監視している。

 

「これってどうやって動いてるアマスかー?すごい技術アマス!」

 

私はわざと無知を装って質問した。

 

ゲルニカの動きが一瞬止まった。白塗りメイクでも、微かな緊張が伝わってくる。

 

「機械仕掛けです」

 

短く、やや警戒した口調での回答。

 

(嘘をついた)

 

内心でメモを取る。トラベレーターは奴隷が地下で動かしている。機械仕掛けなどではない。つまり、この仕組みは絶対に隠したいということだ。

 

「マリージョアでなければ体験のできない設備アマス!でもだからこそ、この素晴らしさを見てもらいたいアマスよー!」

 

足元から、誰かのうめく声が聞こえたような気がした。それを振り払うようにカメラを次の場所へと向けさせる。

 

「わー、綺麗な森アマスー!」

 

トラベレーターの先にあるのは人工の森。マリージョアの中に作られた、美しい緑の空間だ。

 

色とりどりの花が咲き誇り、見たこともない種類の木々が立ち並ぶ。まるで楽園のような光景だ。

 

「この木って、下界にもあるアマスか?」

 

何気ない質問。だが30秒後、配信を確認している技術担当が小さく動いた。検閲でカットされたのだろう。

 

ゲルニカが手元の小型電伝虫で検閲担当と小声で確認している。

 

("下界"はNGワード、か)

 

「この森のお手入れ、誰がやってるアマス?」

 

次の質問。これは慎重に言葉を選んだ。

 

「使用人たちです」

 

ゲルニカがやや警戒した様子で答える。

 

「使用人たち、ご苦労様アマスー!いつもありがとうアマス!」

 

私は無邪気に手を振る。この部分は検閲なしで通ったようだ。

 

("使用人"はセーフ。"奴隷"はまあアウトだろうな)

 

NGワードの境界線が見えてきた。

 

「この森、本当に美しいアマスー!マリージョアは素晴らしい場所アマス!」

 

その後も一通りの造られた美しい世界を写し、私は配信を締めくくる言葉を述べた。

 

「それでは皆さん、また次回アマス!」

 

カメラ電伝虫の目が閉じる。配信終了だ。

 

緊張から解放され、ほっと息をつく。そこにゲルニカが歩み寄った。

 

「お疲れ様でした。チューバー宮様。"下界"という表現は避けていただきたい。世界政府加盟国、とお呼びください」

 

ゲルニカの口調は最初より若干柔らかくなっている。

 

「次は気をつけるアマス」

 

私はしょんぼりした表情を作る。

 

少し沈黙が流れる。雰囲気が若干和んだ気がする。

 

「ところで、ゲルニカは何歳アマスか?」

 

私は唐突に、だが無邪気に尋ねた。

 

ゲルニカが一瞬動きを止める。

 

「33でございます」

 

「えー、意外と若いアマス!」

 

私は屈託なく笑った。

 

「恐縮です」

 

ゲルニカは僅かに頭を下げた。

 

後日、ゲルニカから世界政府に報告が行われたと聞いた。

 

次回以降の配信が許可されたらしい。

 

上出来だ。

 

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(ゲルニカが33歳……つまり今は新世界編の9年前。原作1話の7年前)

 

ルフィはまだ10歳。フーシャ村で待っている頃。

 

そして、1年後は世界会議の年。

 

4年に一度、50カ国の王族がマリージョアに集まる大イベント。

 

(世界会議を利用して各国にコネクションを作り、視察を名目に外の世界でも配信ができるようにする)

 

それが現状では第一の目標。

 

私はゲルニカについても考える。

 

いつか、真実を知った時……あの男はどちらを選ぶだろう。

 

本物の『ゲルニカ』のように、私と共に世界の悲惨さを伝える側に回るのか。

 

それとも……

 

私は世界地図を見つめ、次の一手を考える。

 

「どちらにせよ、私のために働いてもらうアマス」

 

小さく笑みを浮かべて、私は明日の配信計画を練り始めた。

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