V・チューバー宮が配信するアマス 作:・V・
部屋の外からゲルニカの悲鳴のような声と、何かがぶつかる鈍い音が響く。
次の瞬間、部屋の扉が凄まじい力で開かれた。
部屋の中に風が渦を巻き、書類が舞い上がる。
そこに立っていたのは、巨大なアホウドリの姿をした男。
世界経済新聞社の創設者にて社長、モルガンズだった。
「クワハハハ!!」
モルガンズは、ゲルニカの制止を振り切って、ずかずかと部屋に入ってくる。
「ビッグ・ニュース!!やっと会えたなチューバー宮!独占取材だ!!」
彼の目は、獲物を見つけた猛禽類のように鋭く、私を射抜いていた。
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「お前の配信は、なってねェ!」
モルガンズは、開口一番、私の配信を一蹴した。
「その『生配信』とかいうやつのおかげでおれの新聞の売上が落ちている!生きた情報がタダで流れる。商売あがったりだ!」
彼はそこで一度、私を値踏みするように見る。
「だがよォ……お前のやり方は素人だ!見ちゃいられねえ!ただ情報を垂れ流すだけ!視聴者の感情を考えちゃいねェ!」
彼は懐から一冊の絵物語を取り出す。それは、彼自身の新聞で連載している「海の戦士ソラ」。
「プロの仕事ってのは"人を動かす"んだ!笑わせて、泣かせて、時に殺す!お前の配信は……退屈だ!」
私は、横に控えるゲルニカの方をちらりとみて、慎重に言葉を選ぶ。
「私の役目はこの世界の『素晴らしさ』を皆に届けることだけアマス」
モルガンズは、その言葉の裏にある棘に気づき、鼻で笑う。
「言い訳だな!物語ってのはな、山と谷があってこそ面白ェんだ!!」
モルガンズは続ける。
「事実をどう切り取り、どう脚色し、どう届けるか!それがおれたちの仕事だ!面白い『嘘』もつけねェなら、ジャーナリストは廃業しな!」
言葉の刃が、空気を切り裂くように響いた。
沈黙が、部屋を支配する。
彼はふと、ゲルニカに向けてわざとらしく言う。
「なあ、サイファーポールの旦那……31年前の『あの件』でおれがお前らに売った『恩』は、まだ有効だよなァ?」
ゲルニカの空気が、凍りつく。
「ここから先はオフレコだ」
モルガンズはニヤリと笑う。
「イーザンバロン・V・チューバー宮。最近はやってねェのか?あの『大会』は」
私の背筋に微かに鳥肌が立つ。
「大会」……世界政府非加盟国を狙って行われる、天竜人たちの「人間狩り」。先住民一掃競技。
ゲルニカの殺気が、部屋の温度を数度下げる。
だが、私は笑顔で、こう切り返した。
「私の配信事業で、文化的で平和な方法で加盟国は順調に増えているアマス」
モルガンズは一瞬きょとんとし、次の瞬間、腹を抱えて笑い出す。
「クワハハハ!最高だ!お前、最高だぜ!!」
(この男、今の一言だけで……)
「お前もおれと同じだ! メディアで世界を変えようとしている!!」
私は、彼の底知れない洞察力に、恐怖すら覚えた。
「……本当に、そんなことができるの?」
溢れる私の本音に、モルガンズの目が、鋭く光る。
「こんな言葉を知っているか?富、名声、力……全てを手に入れた男、『海賊王』」
私の目が見開かれる。
「……ゴール・D・ロジャー」
ゲルニカが、ハッとこちらを見る。
「おっと、"そっち"の名前じゃないだろう?クワハハハ!」
モルガンズが誇らしげに胸を張る。
「このキャッチコピーはロジャーの自称じゃねェ。おれが書いたんだよ!!その名前を隠したのもおれの力!!」
私とゲルニカが息を呑む。
「ロジャーの処刑を世界中に報じたのもおれだ。あの男の最期の言葉を、世界中に届けたのもおれだ!だから……」
モルガンズがニヤリと笑う。
「『大海賊時代』を作ったのも、このおれだ!たった一つの記事で、世界の海は荒れ狂い、何百万という男たちが海へ出た!」
私の心臓が、高鳴る。
彼の言葉に、抗いがたい熱を感じていた。
無数の人間を海へ駆り立てたその一文——それは、暴力ではなく"情報"の力。
心のどこかで、こんな冒険は危険だと思った。
だが胸の奥の好奇心が、その警告をかき消す。
「真実で、ウソで、人を踊らせる。この世界を揺らすのはおれだ!!!」
(この人は、本当に……)
胸が高鳴り、全身に血が巡る。恐怖よりも、昂ぶる興奮が勝った。
私も、私自身の力で、この世界に嵐を巻き起こせる——そう、心の底から思えた。
「おっといけねェ、そろそろこれをジェルマに献本しねェと」
モルガンズは「海の戦士ソラ」をしまうと、代わりに取り出した電伝虫をテーブルに放り投げる。
「ビッグ・ニュースならいつでも歓迎だ!!」
そう言うと、モルガンズは嵐のように去っていく。
心臓の鼓動だけが響き、頭の中で会話が反響した。
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部屋には私とゲルニカ、そしてテーブルの上の電伝虫だけが残される。
「……あの男は危険です。即刻、連絡手段は処分するべきです」
ゲルニカが言う。
私は電伝虫を手に取り、彼の驚きを見透かしたように、悪戯っぽく微笑む。
「私には、面白いお友達ができたように思えたアマス」
人差し指を口に当てる。
「今の会話、おじ様には、内緒アマス」
ゲルニカは何も言えず、ただ黙って私を見つめる。
過去の『恩』については追求しない、だからそちらからも追求するな。
私の言外の取引をゲルニカが考えていることがわかる。
「……」
ゲルニカの瞳の奥に、ほんの一瞬だけ迷いと理解の光が交差した。
私はその微かな揺らぎを肯定と受け取り、楽しそうに続ける。
「ふふ……これで、あなたも共犯者ね」
ゲルニカの無表情な顔が、ほんの僅かに歪んだように見えた。