ホルスとオシリスにはとある軍神との縁があるらしい   作:マスターワン

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 思い付きと勢いで書いてしまった……!


プロローグ 流浪の鰐

 

 キヴォトス、そこは暴力にきれいなシーツをかけた街。それがいつの間にかここにやってきていた、いや、生きていることになっていた俺の感想だ。学生が大人のように政治の真似事をし、喧嘩のために銃をちらつかせる。子供を守り育てていくような大人をほとんど見ることはなく、学校という枠組みから外れてしまった子供が大人に食い物にされている。これを日常だと、常識だと言い切って憚らない、何の疑問も抱かない者ばかり。

 

 「世界は立派にいかれてる。どうしようもないほどに。」

 

 俺はぼんやりと、記憶の中にある生身の腕ではなく、鋼鉄になってしまったその手で、葉巻に火をつけた。機械のくせして飯を食い、葉巻を嗜み、街を練り歩いている笑い話。俺は記憶と齟齬しかない世界で、生きている。

 

 「さて、仕事だ。」

 

 俺はいつの間にか握るのに慣れてしまった銃に弾を込めて、標的のもとへ歩いて行った。

 

 「連邦生徒会長がいなくなって暴れてるっていう不良共だな?」

 

 俺の目の前にはいたのは学生運動のようにヘルメットやフェイスガードを付けた学生たち、いや最早学校からは完全に見放されているであろう子供たちだった。その手には銃があり、かつての俺の記憶に参照するならただの犯罪者ではなくテロリストに分類されるレベルの装備だった。これが不良と呼ばれるレベルの治安、笑うに笑えない話だ。

 

 「なんだァ?文句でもあんのかァ?」

 

 「ヴァルキューレから懸賞金がかかってるぞ、お前達。」

 

 「お前……!賞金稼ぎか!」

 

 「そういうこった。ガキを飯の種にするのは癪だが、こっちも仕事なんでな。さて、選ぶ余地くらいはやる。痛い思いをしてから臭い飯を食うか、自分たちで更生の意思を示して多少なりとも温情を貰うか。」

 

 子供たちはお互いを見合って、頷いた。

 

 「……私たちの答えはこれだ!」

 

 一斉にこちらに銃を向けて、引き金を引く。彼女たちの目の前には砂埃が舞い、マガジンの弾を撃ち切って安心したのだろう。彼女たちはふぅと息をついた。だが、彼女たちの予想と結果は相反するものだった。

 

 「い、いない!?」

 

 俺は彼女たちの対応を予想していた。だが、彼女たちは俺が対抗できるとは考えていなかっただろう。子供が持ちうる「神秘」を、大人は持ちえない。神秘なき者が神秘を持つ者に立ち向かうには、大企業のように強固な武装や勢力を持つしかない。これもまた、キヴォトスの常識だ。だが、俺はその常識の埒外の存在だった。常識という「枠組み」の外から思考し、対策を練り、行動を起こすことが出来た。

 

 「選択を間違えたな?」

 

 俺は弾幕を張られた瞬間に、裏路地に飛び込み、側面へと回り込んでいた。意表を突かれた不良たちはこちらに銃口を向けるが、弾幕を張るために横並びになっていたせいでお互いが邪魔になる。瞬間的に俺と不良の一対一になる。意表を突いた俺側が圧倒的に優位な勝負だった。

 

 「うわぁっ!」

 

 俺の銃が吐き出した弾丸で、不良の体が吹き飛ぶ。当然の結果だった。この世界で生き抜いていくために、当然の権利として授かった物ではなく、考え抜いて選んだ選択肢なのだから。ShAK-12、アサルトライフルの中では最大級の口径を誇るブルパップ式のライフル。これが俺の出した答えだった。子供たちの人外じみた身体能力、耐久性があろうとも、俺の元居た世界でボディーアーマーを簡単に撃ちぬけるといわれていたこのライフルから放たれる銃弾をまともに喰らえば強烈な痛みと衝撃は免れない。

 

 「クソッ!散開して撃てッ!相手は一人だけだッ!!」

 

 一人がやられて、不良共の目つきが本気になる。だが、予想と反して一人やられた不良と、この展開を予想していた俺とは心理的な優位性が違った。そして、持ちうる戦略と装備もだった。資金源が限られる不良連中は、怪我を避けるために遠距離戦をメインに据えた装備。ショットガンやハンドガンといった近距離戦闘において利便性が高い装備はなく、バレルの長いライフルがほとんどだった。対してこちらは市街地戦闘を想定して設計されたブルパップライフルを持っている。無論、対策はそれだけではない。

 

 「リボルバー!?」

 

 機械の体は便利なものだ。太ももの中に格納していたリボルバーを取り出し、乱戦に持ち込む。Rsh-12、ShAK-12と同規格のライフル弾を装填可能ないかれたリボルバーを敵陣中央で構えて、冷静に一人ずつ撃ち込んでいく。俺に対して、彼女たちの反応は鈍い。当然だ。彼女たちは軍人や金でつながった傭兵稼業ではない。思うところあってつるんでいる不良なのだ。仲間を、友人を、巻き込む判断を冷徹にできるはずがなかった。不良たちは数が減るごとに、パニックが伝播し、目の前でリロードをされても冷静に狙うことが出来なくなってしまった。可哀想だ、と冷え切った頭が冷静に感想を出す。怖いだろう。本来あるはずの力関係が突然逆転され、大人に力でねじ伏せられている。そして、その目の前の大人は表情が変わることも感情を示すこともない機械だ。恐ろしくてたまらないだろう。

 

 「はい、おしまい。」

 

 俺は最後の一人、リーダーらしき不良のライフルを引き回し、体を地面にたたきつけた上でライフル弾を叩き込んだ。衝撃でヘルメットが地面を転がり、憎々し気に睨む幼気な少女の素顔が露わになった。

 

 「ち、畜生……!」

 

 「悪いな。捕まってもらうぞ。」

 

 俺は取り出した手錠を目の前の少女にかけた。どれだけ同じ行為を繰り返しても、こればっかりは慣れない。この子の人生(ストーリー)は何も知らない。だが、その少女時代という章末が輝かしいものではないことだけは分かる。確かに彼女たちは既に犯罪者だ。しかしその経緯もわからないまま、悲しもも苦しみも知らないまま、まだ道半ばの人生をぶち壊すことの罪業の深さとその苦さは酷いものだ。

 

 「私達は……こんなところで……!」

 

 「……ハァ。お前、仲間を撃たなかったな。」

 

 「え……」

 

 「俺に撃たれても倒れず反撃してきたガッツも、諦めない根性もある。他の仲間もお前がやられそうになったらムキになってぶっ放してきやがった。人望もある。」

 

 「何が言いたい……!」

 

 「不良生活で汚い大人のやり口は勉強したな?じゃあ次は綺麗なやり口を覚えろ。ガキはガキらしい泥臭いやり方で自分の生き方を貫け。」

 

 「どうせ、矯正局行きだ……!やり直したりなんかできるわけない……!」

 

 「……ヴァルキューレには顔が利く。悪いようにはしねぇ。」

 

 俺は捕まえた少女を立たせた。痛みのせいか、敗北のせいか、彼女の目には涙が浮かんでいた。

 

 「……本当か?」

 

 「こんなこと言って信じてもらえるなんざ思っちゃいねぇが、俺だってガキがこんな年頃で長い人生をお釈迦にするのは見てられねぇ。だが、罪は罪だ。しっかり償え。そんでなんでもいいから学校に入るか、真っ当な仕事をやるんだな。お前だけじゃなく、お前の仲間もお前が責任もって面倒見てやれ。」

 

 「信じられるか!」

 

 「だろうな。どっちにせよ、俺は勝手にやるし、お前達を突き出した金で気分の悪い飯を食うだけだ。」

 

 他の連中にも手錠をかけて行く。少女は、それをじっと見て立ち尽くしていた。

 

 「……あんたは。」

 

 「なんだ?」

 

 「そうか、あんたが【執行者(パニッシャー)】だったのか。私達が勝てないはずだ……」

 

 少女は、俺が背中に刻んでいるエンブレムを見て俺が何者か気がついたようだ。獰猛な捕食者たる鰐のエンブレム。それが俺を象徴するヘイロー代わりのマークだった。このエンブレムは幸か不幸か名前と一緒によく売れている。

 

 「俺はただの賞金稼ぎだ。大袈裟な呼び方はやめてくれ。……ここにヴァルキューレを呼ぶ。覚悟はできたか。」

 

 「……あぁ。」

 

 ネームバリューというのは役に立つ。手錠をかけても暴れずに大人しくしてくれるからだ。様子を見て、もう抵抗しないことが確信できたため、仕事の種類を変えてしばらくしてから馴染みが深くなったヴァルキューレ公安局局長に電話をかける。数コールしてから、電話口に相手が出る。

 

 「よう公安の。俺だ。」

 

 『貴方ですか。また捕まえた賞金首を受け渡す代わりに情状酌量をというつもりではないでしょうね。』

 

 「悪い予想が当たったな。これからは公安なんかやめて占い師をやるといい。」

 

 『ハァ……。冗談はやめていただきたい。』

 

 「警察機構の本懐は治安の維持と犯罪者の更生、違うか?」

 

 『刑期を短くすることを条件に、更生を約束させた、と。いつもの手口ですね。』

 

 「今のそっちの事情としてはありがたいんじゃないか?この調子で矯正局送りにしてたら地獄の閻魔様も過労死する。そこで、この話を聞いてくれるなら俺がそっちの仕事を優先的に手伝ってやってもいい。俺なんかにさえ舞い込んでくる汚い仕事をやらなくて済むなら、こっちも悪い話じゃないんでな。」

 

 連邦生徒会長、学生が統治をおこなうキヴォトスにおいて大統領や総理大臣に匹敵するその存在の失踪。それによって、犯罪率が急増しているというのが今のキヴォトスの現状だった。たった一人の生徒、たった一人の子供がいなくなっただけでこの始末だ。やっぱりここはいかれた場所だ。犯罪率の急増と凶悪犯罪に対応するSRT特殊学園が責任者の不在により活動が止まってしまったことも相まって、ヴァルキューレ警察学校の治安維持のための人員は不足している。俺のこの提案は、公安局長尾刃カンナには断れるはずもなかった。

 

 『……仕方がありませんね。』

 

 「悪いな、尾刃カンナ。そっちが聞くしかないことを分かってやってる、つまらない問答だ。」

 

 『いえ……貴方の力が借りられるのなら、こちらとしても悪い話ではありません。』

 

 「まぁ、なんだ。無理はするな。お前だって大人びちゃいるがまだ子供だ。」

 

 『……それが出来るなら、いいのですが。今は仕事の話をしましょう。貴方の口座に賞金を振り込んでおきます。身柄の引き渡しにそちらに人を寄こすので、監督のほどお願いします。』

 

 「了解だ。じゃあな。」

 

 俺は電話を切り、不良少女に向き直った。

 

 「そういうわけだ。臭い飯を食う時間が短くなって良かったな。」

 

 「……借りは返す。」

 

 「それならどこかの誰かに返してやれ。そうしてくれなきゃ、俺は更生させるっていう約束を破ることになる。」

 

 本当ならば、大人ならば、とこの冷たい体に宿った魂が叫んでいる。子供たちがこういう道を歩む前に止めてあげることが出来たのなら、と吠えている。だが、そんな権限も力もない。まともな経歴も戸籍もないせいで、ドンパチやりながら生きていくのが関の山。子供を食い物にする大人とそう変わらない。嫌な気持ちが顔に出ないこの体に感謝しながら、警察が来るのを待つ。そう待たずして、唸るようなサイレン音が近づいてきた。目の前にパトカーが止まり、ヴァルキューレ警察学校の生徒が現れる。

 

 「お疲れさまです。あとはこちらで。」

 

 「おう、頼む。まぁ大人しくするだろうから、優しくしてやってくれ。」

 

 「では、ありがとうございました。」

 

 敬礼をして、彼女たちは実に手際よく不良たちを車に乗せていく。連れられて行く彼女たちの背中はひどく哀れで、見ていられるものじゃなかった。周りに子供がいなくなり、ようやく吸えるようになった葉巻を口にくわえて火をつける。大人として、子供を過酷な道へと突き飛ばした。良識ある大人としての振る舞いなどしてこなかったのに、金のために。この煙がお前は機械ではなく大人なんだと教えてくれるから、生体部分などない自身にとって意味のない行為だとしてもやめられなくなっていた。葉巻を吸いながら頭の中で銀行口座を確認すると、きっちりと賞金が振り込まれていた。俺はそれを見て、電話をかけた。

 

 「もしもしドクター、私です。来月分の入院費振り込んでおきますよ。」

 

 『あぁ、いつもお世話になっています。彼女の様子ですが……』

 

 「まだ、眠ったままですか。」

 

 『えぇ……覚醒の兆候はありません。ですが、関節のマッサージや筋肉の維持のための電気的な治療は続けています。一応の確認ですが、このまま続けていく形でよろしいですか?』

 

 「お願いします。すみませんが、彼女が目覚めるまでは続けてください。」

 

 『……分かりました。我々としても、助かる命があるなら手を尽くしたいと思っています。』

 

 「助かります。では、今後ともよろしくお願いいたします。」

 

 彼女は、未だ目が覚めない。俺がこの世界の残酷な現実から目を背けなくなった切っ掛けは、大人としての責任を果たしてこなかった罪の象徴は、まだあどけない少女の姿のまま時を止めている。俺もまた、あの日からずっと耳の奥で砂嵐の音が聞こえたままだ。変わらない現実に、変わりようもない日常に、抗うべきと分かっているのに抗うことなく流されているのは立派に「大人」な証拠だ。だが、どうしようもなく残響が疼いていた。だからこそ、この数日後に訪れた出会いは、俺にとって運命だった。

 

 「そこのお姉さん。あんた、『先生』って呼ばれてたが本当かい?」

 

 「"そうだよ。"」

 

 「……そうか。じゃあ次だ。ガキ共を鉄火場に立たせるのは嫌いか?」

 

 「"そうだね。"」

 

 「なら、話は簡単だ。俺を雇わないか?」

 

 「"貴方は?"」

 

 「そうだな……『傭兵』と呼んでくれ。」

 

 ほんの少しだけ、砂嵐の音が止まった。





 エジプト神話、調べれば調べるほど、突然神たちが合体し始めるの、密接に王権と関わってきたんだろうなという感じがして面白いですね。
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