ホルスとオシリスにはとある軍神との縁があるらしい   作:マスターワン

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 フユの絆ポイントをちまちま貯めて絆ストーリーを進めていますが、彼女はとても可愛らしいですね(ニッコリ)


鰐と先生

 

 「……なんだ?俺は客寄せパンダじゃないぞ」

 

 『先生』と出会い、不良共を片づけるという仕事を終えた『傭兵』は不良たちが置いて逃げて行った戦車に体を預け、いつもの仕事終わりのように葉巻に火をつけようとするが、目の前の少女たちの視線に遮られてそれをしまう。未成年相手に受動喫煙をさせるわけにもいかないのは彼も承知の上、当分はお預けだと諦めた。少女たちの目の色には疑念、警戒、興味、様々な感情が含まれていた。

 

 「いきなり出てきて、突然……貴方いったい誰なんですか!」

 

 あまりにも気になったのだろう、ツーサイドアップの少女が口を開いた。『傭兵』が彼女の顔を真っすぐにみると、わずかに緊張が走った。だが、彼はその緊張をほぐすために、手に持っていたライフルを戦車の装甲の上に置いて口を開く。

 

 「一体何者なのか、こいつは実に難しい質問だな。アイデンティティに悩む十代にとっちゃ自然な質問ともいえるか?」

 

 「真面目に答えてください!」

 

 「そうカリカリするな。仕事終わりの親父には休息が必要だってことを若者には察する義務ってのがあるんだよ」

 

 『傭兵』がからかっていると、少女の横にいた長く艶やかな黒髪の少女が口を開く。

 

 「【執行者(パニッシャー)】……名の知れた傭兵、賞金稼ぎです」

 

 「その呼び方は嫌いだ。俺はそんなに大層な存在じゃない」

 

 「この名前が、不良生徒や犯罪市場に恐れられているのは事実ですよ」

 

 彼女は『傭兵』のことをよく知っているらしい。子供のくせに情報通とは可愛げがないと彼は溜息をつく。彼の素性を語られたおかげで、彼女たちの警戒レベルも引きあがってしまったことに、面倒だなと率直な感想を抱く。そんな中で特徴的な赤いタイツを履いた茶髪の少女が質問した。

 

 「それで、そんな方がなぜここに……?」

 

 「別に大した話じゃない。俺はヴァルキューレとは多少の付き合いがあってな。ちょっとした貸しを返しに不良の鎮圧の手伝いをしに来たってわけだ。そうしたら、そこに『先生』がいた。単なる偶然さ」

 

 「偶然……」

 

 「ま、そういうチャンスをそのままにするのは勿体ないからな。売り込みをかけた。まぁ、自然だろ?」

 

 『傭兵』が気取ったように肩をすくめると、少女たちは怪訝な顔をしつつも一応は納得の姿勢を見せた。『傭兵』は内心では安心していた。彼女たちは彼のことを知らなかったが、彼は彼女たちのことをほんの少しだけだが知っていた。それは彼女たちが各学園における行政機関に相当する組織の構成員であったからだ。ツーサイドアップの少女は早瀬ユウカ、このキヴォトスにおける科学の象徴、ミレニアムサイエンススクールの生徒会に当たるセミナーに所属している。彼の常識に合わせれば、大臣といったところだろうか。黒髪の少女は羽川ハスミ。お嬢様学校であるトリニティ総合学園の治安維持組織、正義実現委員会の実にナンバーツーにあたる。茶髪の少女は火宮チナツ、彼女はゲヘナ学園風紀委員。こちらもまた治安維持組織だ。大人の傭兵である彼にとっては、睨まれてしまえば踏みつぶされてしまうような存在達。それが彼女たちだった。彼は確かに強い。不良程度なら制圧できる。だが、それに余裕はない。それほどまでに学生という存在は、子供という存在は、この都市で圧倒的な強さと優位性を持っている。彼が傭兵として戦えているのは、あくまでも意表をつき、手段を選ばず思考し続けているからだ。戦闘の経験値があり、十分な装備と補給があり、巨大な組織のバックアップもある。そういった正規の学生の集団相手であれば、彼の勝率はほとんどないだろう。彼女たちは、彼にとって脅威になりうる存在だった。だから、彼は調べていた。己を守るために。

 

 「仕事の依頼はいつでも募集中だ。『先生』とのビジネス次第にはなるがな」

 

 「本当に先生と仕事をするつもりなんですか?」

 

 「……まぁな。ここはクソったれの街だ。大人にも銃は必要だ。だが、教師は銃を持っちゃいけねぇ」

 

 「教師は、銃を持ってはいけない……」

 

 「子供の手本になる大人が、おっかなびっくり生きてるところを見せて、子供がまともに育つのか?俺は甚だ疑問だな。ま、これに関しては俺のポリシーだ。お前達にはわからなくてもいい。ここからは事実の話だ。この街で教師は俺の知る限りはあの女だけだ。なら、誰かが守ってやらなきゃならねぇ。けどお前達が絡むとどこの学校がどうとか、あの生徒がどうとかと面倒なことになりそうだからな。」

 

 ユウカの質問に対して冷静に答える傭兵の言葉の中には、もっとも重要な本音が含まれていなかった。究極的には彼は自身の直感に従ったにすぎなかった。理由はすべて後付け。彼女と共に行けば、何かが変わる気がしたというそれだけの話を脚色しただけだった。だが、実際彼の言葉は的を射ていて、彼女たちは、考え込んでいた。そんな時に、件の女性が建物から出てきた。少しだけ赤みがかった黒い髪をウルフカットにし、シャツの着こなしは少しだらしなく、どこか魅力的に見える。ニコニコと子供たちに優しく笑いかけ、なにがしかを話し込んだ後、彼女は彼に近づいてきた。

 

 「"や、お待たせ"」

 

 「子守は俺の専門外でな。苦労した」

 

 「"ごめん”」

 

 「気にするな。じゃ、ビジネスの話をしようか。今回はサービスしてやる。デモンストレーションと言ってもいい。俺がアンタの銃の代わりになってやる。子守をしろってんならそれも受けよう。どうだ、悪い話じゃないとは思うが?」

 

 「"そうだね……じゃあ、私の連邦捜査部シャーレの先生としての仕事を手伝ってもらおうかな、『傭兵』さん"」

 

 「ふっ、取引成立だな。……ところで、仰々しい名前だが何をするんだ?」

 

 「"リンちゃん曰く……トラブル解決?"」

 

 「普段と変わらねぇな……」

 

 なぜか自身の仕事内容を把握してなさそうな先生の様子にわずかな疑問を抱きつつ、代り映えのない仕事内容にため息を吐く。だが、そんな彼とは対照的に目の前の女教師は実に朗らかに笑うのだった。

 

 「"君となら、きっと生徒たちの役に立てる先生になれると思うんだ。えっと……名前を教えてくれないかな?いつまでも『傭兵』はちょっと……"」

 

 「名前、か……そいつは捨てた。流れ者には必要なかったからな」

 

 『彼』の名前は、今の彼にはあまりにも違和感があった。自身のアイデンティティすらも失った男には、固有名称すらもいらなくなるものだ。だが、ビジネスパートナーがそれを求めているというのならば、仕事人として応えなければならないと彼は思考する。そして、ぼんやりと思い浮かんだ名前を名乗った。

 

 「よし、レネクだ。今後はこれで行くことにする」

 

 だが、数日もたたずして、彼はこの選択を後悔していた。

 

 「先生!なんですかこの領収書は!これも!これも!!これも!!!」

 

 「"ひぃ……"」

 

 「はぁ……うるせぇ……」

 

 連邦捜査部シャーレ、非常勤戦術アドバイザーおよび、事務局員。それが、『傭兵』がレネクという偽名と共に得た立場だった。だが、そのシャーレのオフィス内でやかましさにうんざりしていた。大の大人が一回り近く歳下の娘に説教されているのを横目に、彼は事務椅子の背もたれに体重をかけた。事の発端は、『先生』が早瀬ユウカに必要経費の支払いをしていなかったことだった。そこからあれよあれよと大人としてはどうなのか、といった内容の領収書が発掘されて られ始めたといった具合である。隣の嵐を我関せずと眺めていると、先ほどの呟きを聞かれていたのか、早瀬ユウカの顔が彼の方に向く。

 

 「レネクさん!貴方からも何か言ってください!」

 

 「……仕事関係の支払いが遅れたのはこっちが悪かった。だが、プライベートの金遣いに関しては俺は知らん」

 

 「レネクさん!」

 

 「ま、大人には自由とそれに対する責任がある。魔法少女の復刻グッズだの、ソシャゲの課金だの、デラックス合体ロボだの好きに買うこと自体はできるってわけだ」

 

 「でも無駄遣いです!」

 

 「そうだな。だからお前はあれから学べ。典型的なアホの金の使い方をした大人の姿ってやつからな」

 

 彼が指をさすと、裏切られたとばかりに目を見開いた『先生』の顔に思わず彼の口から笑いが漏れる。両手の人差し指をつんつんと突き合わせながら口をとがらせて彼女は言い訳を口にした。

 

 「"でもさ……お金使うと気分がいいんだよね……"」

 

 「先生!」

 

 「"それにレネク君だって葉巻とライター買ってたし"」

 

 早瀬ユウカの鋭い視線が彼に突き刺さる。彼は諸手を上げて無抵抗の意思を示しつつ、あの調子で説教なんてたまったもんじゃないと弁明を始める。

 

 「言いたいことは分かる。自分のことを棚に上げて叱責するなんて言語道断。不健康だし無駄遣いだから辞めろって言いたいんだろ?」

 

 「えぇ、そうです!」

 

 「まず俺はロボットだ。健康被害はない。受動喫煙については一応気にしてるんで今は横に置いといてくれ。次に、俺はもともと傭兵で副収入がある。少なくとも飯を食うには困らねぇ程度の出費だ。子供と違って大人ってのは肩身が狭くてな。金を使わないとストレスってのを発散するのが難しいんだ。これくらいは勘弁しといてもらわなきゃな」

 

 「むむむ……先生程の無駄遣いではなさそうですね……きちんと出費も管理されているようですし……」

 

 ユウカがはぁと息をついて椅子に座ったのを見て、大人二人は肩をなでおろす。だが、彼女の怒りが収まった代わりに、彼女の表情には憂いが見えた。

 

 「なんだか、お二人の話を聞いていると大人って大変なんだなって思います」

 

 「ま、楽だとは言えないな。いつでも守ってもらえるわけじゃねぇし、むしろ守ってもらえないことが大半だ。その割に何かとつけては責任やら義務やらで雁字搦めにはなる」

 

 「じゃあ大人になるってどういうことなんでしょう……」

 

 ユウカの疑問に、先生はにこやかに笑いながら答えた。

 

 「"子供から大人になる、いわゆる成人は制度上は一定の区切りで示されているけれど実際はグラデーションだ。だから、こうは考えられないかな。大人になったといえることは、自分がやったことに自分で責任が持てるようになったという証明なんだよ"」

 

 「他者を尊重し、社会に貢献し、己の行いに責任を持つ。自分の意志で自分の生き方を決められる……理想的な大人って奴はそういう奴だ。実際は色々上手く行かないこともあるが」

 

 「生き方を……決める……」

 

 「俺からすれば、お前は立派に大人にリーチをかけてるように見える。だからこそ、大人になる直前の瞬間って奴を大事にしとけ」

 

 「"ふふっ、そうだね。モラトリアムは取り戻せないからね"」

 

 ユウカはいつの間にか背を正して話を聞いていたことに内心驚いていた。つい数分前まで自分が説教をしていた、あるいは説教をしようとした人物たちが何気ない日々を大人として生きていたんだということを、その在り方と言葉だけで感じさせられた。いつの間にか、シャーレの中はしんとしていた。そこに、パンと弾けるような音が響いた。『先生』が手を叩いたからだった。

 

 「"さて、そろそろ仕事にもどろっか"」

 

 「数日仕事したが……ちょっとでも手を止めるとこの山が増えやがるからな。こいつが本物の山なら環境問題は一気に解決だ」

 

 『傭兵』は、事務机の上の書類の山の一つを軽くたたく。山は『先生』の机の上にもいくつも存在していて、並の大人なら逃げだしてもおかしくはない量ではあった。

 

 「どちらかというと、環境問題が起きているレベルな気がしますが……仕方がありませんね、私がお手伝いします」

 

そうして書類を片づけ始めて、『傭兵』は毛色の違う一枚の嘆願書を見つけた。

 

 「こいつは……デカい山になりそうだぞ、『先生』」

 

 その嘆願書の冒頭には興味深い言葉が示されていた。廃校阻止、そして()()()()。彼の耳の中で、また砂嵐の音が大きくなり始めていた。





 某ゲームのことを思い出しながら、彼は偽名を設定しました。おい、トップに集合な。
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