「……って啖呵は切ったのはいいけど、実際どうしたものかなあ……」
この二週間で、オウドに勝てるまで自分と、ガンダム・ヴェーガを鍛え上げる。
それが今の俺に課せられたミッションだけど、道筋は果てしなく暗い。
なんならロードマップの最初すら見えてない状態だ。
このままじゃオウドに笑い飛ばされるのは誰だって想像できる。
そんな情けない未来は勘弁願いたい。
こっちは、あいつに本気で勝ちたいと思っているんだから。
「大丈夫だよレイくん! レイくんならなにもしなくたって、あのムカつく王様気取りをワンパンできるって! ほら、イオリ・セイさん由来の超パワーとかがきっとレイくんの中には眠ってるはずだから!」
しゅっしゅっ、とシャドーボクシングのジェスチャーをしながら、ミカさんが答えた。
ここで都合よく俺に秘められた父さん由来のパワーが覚醒して……なんて、漫画じゃないんだから。
気持ちと、応援してくれることはありがたいけど、その分余計に重圧を感じてしまう。
「でもレイ、言ったからには絶対に勝たなきゃダメだよ」
「カズサはそういうとこ甘やかしてくれないよね」
「うん。礼には礼で返すけど、無礼なやつには無礼で返してやらなきゃ。あたしのお父さんの教えだよ」
しゅっしゅっ、とカズサもシャドーボクシングをしながら言った。
そういえばカズサのお父さんはあの「トライファイターズ」のエースだったか。
もし今も日本にいるなら修行をつけてもらうのも選択肢だったけど、今は大勢いるお弟子さんたちに稽古をつけるためにギアナ高地にいるんだったか。
……自分の親戚のことなのに、嘘みたいな話をしている。
相変わらず、漫画から抜け出てきたような人だ。
カズサのお母さんもラブラブで、お父さんの修行についていってるらしいし。まるで自分の両親を見てるみたいだった。
「父さんたちがいるなら是非とも修行をつけてもらいたかったんだけどな、いないんじゃ仕方ないし……サヤコ姉さんは店番で忙しいし、身内の人脈は頼れないか」
「うーん。なら、レイくん。この学校を頼るのはどうかな? ここ、ガンプラバトルの名門校なんでしょ? わたしはレイくんと一緒にいられることしか考えてなかったけど」
「それはそうなんだけど……オウドに匹敵するファイターなんて、聖鳳学園でもいるかどうか……」
ミカさんの提案は、俺も考えていたことだった。
でも、相手は腐っても世界大会二連覇だ。
世界でも指折りの実力者ということになる。
そんなやつに匹敵するファイターが易々と見つかるのなら、苦労はしない。
ましてや、ガンプラバトル部は全国大会の予選の真っ最中だ。
それなのに、修行をつけてくれるような物好きがどれぐらいいることやら。
「話は聞かせてもらったぞ、イオリ。お前、あのオウド・トモカズに喧嘩を売ったんだな?」
「アクノくん!」
ギラリ、と眼鏡を光らせて、アクノくんが話に割り込んできた。
「流石は俺の見込んだマイフレンズだ、そうでなくてはな。どの道世界を目指すならあいつは関東ブロックで目の上のたんこぶになるやつだったのだから」
「はは……ありがたいけど、正直どうすればいいかわからなくて」
「心配するな。ガンプラバトル部の部長は学生の部とはいえ、世界大会を三連覇に導いたうちの絶対的エースだ……と、言いたいが、たとえ身内相手でも手の内を明かすことは好まない。すまないが、バトル部は協力してやれない」
「そうだよね……全国予選の真っ最中だっていうのに、ごめん」
マトイ部長から稽古をもしかしたらつけてもらえるかもしれない、という甘い考えは、一撃で打ち砕かれた。
なんでオープンコースに出場しないのかがわからないほど理不尽な強さを誇り、「紫電の御狐姫」という二つ名までもらっている逸材だ。
彼女とスパーリングできたなら、少しはなにかが掴めるかもしれない、と思っていたんだけど。
「心配するなと言ったろう、イオリ。俺は代案を用意できる男だ。そこでお前が頼るべきは……模型部だ!」
「模型部!?」
アクノくんは眼鏡のブリッジを人差し指で持ち上げながら断言した。
ガンプラバトル部と共に、聖鳳学園の名門として存続し続けているのが、模型部だ。
ただし、その方向性は大きく異なる。
ガンプラバトル部がバチバチに全国大会や、その先の世界大会でやり合うことを目的にしているのなら、模型部はその対極。
姉さんが三連覇を果たした、アーティスティック・ガンプラコンテストでの優勝や、賞とかバトルとか、そういうのに興味を持たず、ひたすら「自分の理想とする模型」の制作に情熱を燃やしている、職人気質な生徒たちの集まりだと聞く。
あとは、なにかとんでもない秘密を抱えているとも。
だけど、それは全部噂の範囲だ。
実際に見たことがない以上、確かめようがない。
そういう意味では、アクノくんの提案はある意味理に適っているといえた。
「なるほど……ビルド方面で修行をつけてもらうってことだね、アクノくん」
「いや、違う。バトルとビルド……その両方においてお前を鍛えてくれるかもしれない逸材が、模型部には眠っている」
「っ!?」
全く聞いたことがない話だった。
そんな、オウドに匹敵するような存在が模型部にいるだなんて。
でも、だとしたら願ってもない幸運だ。是非ともその人に修行をつけてもらいたい。
「だが、気をつけろ。その逸材……模型部の部長は気難しいことで有名だ。俺もその噂を嗅ぎつけることまではできたが、それ以上詳しいことを調べようとすると、彼女の周りにいる女子たちに阻まれてしまってな」
「そ、そんなに……」
アクノくんの新聞部に匹敵する情報収集能力がどこからきているかはわからない。
そんなアクノくんですら噂を確かめることのできない模型部……一体、どんな部活なんだ。
でも、虎穴に入らずんば虎子を得ずと、行ってみて確かめなければわからないと人は言う。
「……わかったよ、アクノくん。俺、模型部に行ってみる!」
「まあ待て、そう逸るな。俺も同行しよう。模型部は外部からの干渉を大きく嫌う一面があるからな、人材は多いに越したことはない」
「姉さん曰く、職人気質の集まりらしいからね……」
もっとも、うちの姉さんが学園にいた頃とはなにもかも様変わりしているだろうから、当てにはならないだろうけど。
「じゃあわたしも当然一緒だよね、レイくん?」
「ミカさん……!」
「なにがあってもいいように、このわたしが……第三十回世界ガンプラバトル選手権、イタリア代表のわたしが同行すれば、怖いものなし、じゃんね?」
ミカさんは快活な笑顔を浮かべて、ピースサインを形作った。
「あーはいはい、わかった。あたしも行くから」
「カズサ」
「今の三人じゃ、交渉ごととかあったとき不安でしょ。それに、あたしはバトルじゃ役に立たないけどオブザーバーぐらいならできるし」
カズサも名乗りを上げてくれたのはありがたかった。
確かに、アクノくんは取材は得意だけど交渉が得意なイメージはない。
そういう意味では、広く浅く交流が広いカズサの人脈は、役に立つかもしれないからだ。
「ありがとう、皆。それじゃ、放課後……模型部に行ってみよう!」
『おー!』
なにが待ち受けているのかわからないパンドラの箱。
模型部にいると噂されているらしい、オウドに匹敵するビルドファイターの存在。
それを確かめるためにも、俺たちは絶対に模型部の扉を潜らなければならなかった。
パンドラの箱の底に残されたものは、希望か、それとも絶望か。