「ウチらのダメージレベルはBにしてるけど、構わない?」
「構いません、戦いましょう。レイダ先輩」
「ふふっ、真っ直ぐな闘志……そういうの、嫌いじゃないよ♡ それじゃ、バトルしよっか!」
レイダ先輩は懐からGPベースとガンプラを取り出すと、音声ガイダンスに従ってバトル台にセットする。
『Beginning Plavsky Particle Dispenser』
『Field Name:Desert』
『Battle Damage Level Set to "B"』
『Please, Set Your GUNPLA』
『Are you ready?』
C設定じゃない以上、パーツに細かな傷がついたり外れたりという程度だけど、ガンプラには損傷が生じる。
部長に会いたければ、ここを無傷で乗り切ってみろ、という話なのだろう。
俺たちも視線を交わして、それぞれのガンプラをGPベースにセットする。
「ステージは砂漠……砂に足を取られないように気をつけて、カズサ」
「そんな初心者じゃないんだから、大丈夫だって……でもありがと、レイ」
「むぅ……わたしにはなにかアドバイスとかないの、レイくん?」
「ミカさんは……イタリア代表なんだから、俺が言えることなんてないけど、強いて言うなら……突っ込みすぎないことかな」
ミカさんのアルティールは近距離で無類の強さを発揮するものの、これがチーム戦である以上、単騎での突出は安易な撃墜に繋がる。
チーム戦の厄介なところは、個人戦と違ってある程度実力差が開いていても、連携の練度次第では逆転の目が出てくるところだ。
そういう意味では、レイダ先輩たち三人は模型部の門番役を務めている以上、慣れているといっても過言じゃない。
「うん、わかったよ、レイくん!」
「戦術指揮はカズサに任せる。俺はミカさんのフォローをするように立ち回るから!」
『了解!』
これで大まかな方針は固まった。
相手がどう出てくるかがわからない以上、こっちはミカさんをアタッカーとして俺が中衛、カズサを後衛に回すのが、一番戦力を発揮できるだろう。
弱みを補うのではなく、強みを押し付ける戦法だ。
「イオリ・レイ! ガンダム・ヴェーガ!」
「クレダ・ミカ! ガンダム・アルティール!」
「カミキ・カズサ! パワードジム・アサルト!」
それぞれがカタパルトに配置されて、お決まりの口上を唱える。
これから始まる戦いの、ビリビリと肌を刺すような空気が模型部の部室に満ちていく。
負けられない。ここでつまづいてなんか、いられないんだ。
『行きます!』
俺たちは操縦桿の代わりになる光球を握り締めて、戦場となる砂漠へと出撃した。
「問題は相手の構成……極端に変なことはしてこないはずだけど!」
「でーも、そういう油断が……隙を産むよ♡」
「遠距離から高熱原体反応……これ、核!?」
「まずい、固まってたら飲み込まれる! ミカさん、カズサ、散開して各個に応戦!」
初手から飛んできたのが小型とはいえ核弾頭だなんて、想像もしていなかった。
恐らくこれは初見殺しかつ、相手の連携を分断するための手段だろう。
現に、ミカさんと固まってラインを押し上げる目論見はご破算に持ち込まれている。
「……核弾頭は命中しなかったようですが」
「それでいいの、かすみん。かすみんはあの指揮官っぽいパワードジムとアタッカーの赤いガンダムに砲撃、ココちゃんは……ウチと一緒にレイくんから片付けよっか!」
「はぁい、レイダ先輩! それじゃ、たまたま近くにいた己の不幸を呪ってね、イオリ先輩♡」
「なんだ……っ!?」
レーダーに突如としてアラートが出現したかと思えば、砂漠の断崖が揺らぐ。
そこから一つの影が姿を現したところまでは見えた。
だけど、目で追いかけるのに必死だったせいで、相手に先手を取られてしまった。
「レイ!」
「レイくん!」
「背後からの攻撃……まさか、ファンネル!? いや、この風切り音は、バルバトスルプスレクスのテイルブレード!?」
「せいかーい♡ ここからはぁ、ココと『リリス』の独壇場なんだから!」
ばさり、とステルス機能付きのマント──恐らくガンダム00に出てきたそれを再現したものを脱ぎ捨てた機体が、白日の下に姿を現す。
「なっ……30MS!?」
「んー、素体は確かにそうかもですけどぉ、ココの『リリス』は、ほとんどガンプラの部品も使ったセミスクラッチですよ、セ・ン・パ・イ♡ ちなみに顔とかはココがモチーフなんです♡ 似てますよね♡」
その言葉通り、その姿を晒した「リリス」は、手足の細さも含めて、ココちゃんとよく似た外見をしていた。
それだけじゃない。
デスサイズヘルのアクティブクロークを翼のように展開し、尻尾にあたるパーツはルプスレクスのテイルブレードを改造して作られている。
あれをガンプラとして認めるかどうかは大いに意見が分かれるところかもしれないけれど、確かに自由かつ大胆な発想で作られたものだった。
「くっ、さっきのでマグナムが一丁落とされてる……でも、やるしかない!」
「やぁん、先輩、目がマジですよぉ♡ マジにもなってくれないと……ココ、拗ねちゃいますけどね!」
左手で引き抜いたビームサーベルの刃と、リリスが構えたツインビームサイズの刃が交錯し、激突した。
ばちばちと光を散らして、ヴェーガとリリスは鍔迫り合う。
模型部だから、変わり種が出てくるだろうとは思っていた。
だから、いわゆる美プラをバトルシステムで相手にすることになったことに対しては驚きはない。
むしろ、驚くべきはココちゃんが、恐ろしいまでに、ヴェーガと真正面からぶつかり合えるほどにリリスを仕上げていたことだ。
美プラだから、変に首を落としたりして撃墜しにくいという視覚的優位性も合わせて、模型部らしいテクニックとの合わせ技といえた。
「流石はうちの部長にバトル一本で会いたいって言っただけあるね……でも! 二対一なら!」
「なんだ……っ!?」
二つの光輪が、リリスと鍔迫り合いを続けていたヴェーガの背中に着弾する。
突如として飛んできた光輪の正体は、恐らくノーベルフラフープだろう。
だけど、まさか太陽を背にしてこっちの後ろを取ってくるなんて。
「ウチのノーベルガンダム・ラブレイダーもそうそう舐められちゃあ困るってね!」
「ツインテールから推進剤を!? うわっ!」
レイダ先輩はノーベルガンダムをただツインテールに改造しただけでなく、そこに細かなギミックまで仕込んでいた。
両手に持っているのはガンダムピクシーの90mmマシンガンか。
それに、細くシャープに改修された脚部には、使い捨てと思しきミサイルポッドが装備されている。
「レイ!」
「ダメだ、カズサ! カズサは俺の代わりにミカさんを砲撃手のところまで押し上げて!」
「……っ、わかった!」
こっちの救援に割って入ろうとするカズサを押し留めて、俺は砂に叩きつけられる寸前で強引にヴェーガの姿勢を立て直した。
フェザーエクステンションとバエルのウイングスラスターがあったからできた芸当だ。
だけど、一息ついている間もなく、ココちゃんとレイダ先輩は息の合った連携で苛烈にこっちを攻め立ててくる。
「あはっ、イオリ先輩のやりたいこと、ぜーんぶ見え見え♡ そっちいきますよ、レイダ先輩!」
「オッケーオッケー、それじゃあウチも出し惜しみはなしで! バーサーカーモード!」
「……っ、読まれても、上から叩き潰せば! フェザーエクステンション、粒子共鳴! 行くよ、ヴェーガ!」
フェザーエクステンションに蓄積したプラフスキー粒子を解放する。
そして、俺は左手に持ったビームサーベルをノーベルガンダム・ラブレイダーへと振りかぶって突撃した。
スラスターから放たれる燐光は、光の翼と呼べる領域にまで拡大し、レイダ先輩の喉元へとビームサーベルの刃を突きつける。
──そのはず、だった。
「悪いけど、ウチもけっこーマジメで通してる模型部員なんだよね……! 世界狙える相手にタイマンじゃワンチャンもネコチャンもないけど、こんぐらいは!」
「ゴッドフィンガーでの白刃取り……!?」
「今だよココちゃん! やっちゃって!」
ノーベルガンダム・ラブレイダーの喉元へと突きつけたはずのビームサーベルは、すんでのところで両掌に展開されたゴッドフィンガーによって挟み込まれていた。
「はぁい、先輩! それじゃあココと『リリス』の魅力に……堕ちちゃえっ♡ トゥインクルビーム!」
リリスが構えた人差し指から、一条の光線がヴェーガのコックピットを狙って撃ち放たれた。
腕部に装着されたパーツの形状から考えると、あれは恐らくキャノンガンを参考にして作られた小型のジェネレータユニットだろう。
だから、指先からビームを出すなんて芸当が可能になる。
「まだだっ!」
「バックパックを……切り離した!?」
「でも、その推進力って武器を失っちゃったら……どうなるかはわかるよね!? ココちゃん! 一気に畳みかけるよ!」
「はい、先輩!」
俺は咄嗟にヴェーガのバックパックをパージして、本体に被害が及ぶ前に自由落下する形で地上に落ちていくことを選ぶ。
「かすみん、今はイオリくんに狙いを集中して! 焼夷弾でいい、最悪ウチらに被害が出てもいいから!」
「……中々無茶振りをしてくれますね。ですが、承知しました……」
三人の最大火力が俺に向けられる。
まともに喰らえば撃墜は免れないだろう。
──それでも。
「ゴッドフィンガー、最大照射!」
「ハートフル・トゥインクル・ビーム!」
レイダ先輩と、ココちゃんが撃ってくれた攻撃がビームで──こっちは、助かった。
世界選手権を前にこの手の内を晒したくはなかったけど。
それでも、今ここで勝たなきゃ、前には進めない。
「アブソーブクリスタルシールド、展開!」
「なっ……!? ウチらのビームが……」
「吸い込まれてる!?」
「流石だよ……流石模型部、今までずっとガンプラだけと向き合ってきた俺にはない発想ばかりだった! でも!」
右手のツインビルドマグナムをレイダ先輩のノーベルガンダム・ラブレイダーへと向けて撃ち放つ。
このガンダム・ヴェーガには、もしものときの隠し球として、ビームを吸収する、アブソーブシステムが搭載してある。
それは、フェザーエクステンションでも賄えないぐらい粒子共鳴での損耗が激しくなったときや、今回みたいにバックパックを失ったとき。
表に出すつもりはなかったけど、引き摺り出されてしまった辺りは流石模型部ということだろう。
「きゃああああっ!」
「レイダ先輩っ! でも、ビームを吸収するだけなら、格闘戦でぇっ!」
リリスがツインビームサイズとテイルブレードを展開して襲いかかってくる。
でも、それも。
そして、ここから時間差で降ってくるであろう焼夷弾との相討ちを狙っているであろうことも。
「申し訳ないけど……全部読めてる! いけっ、ガンダム・ヴェーガ!」
「きゃっ!? り、リリスの後ろに!? いつの間に!?」
「悪いけど、焼夷弾で焼かれるのは君だけにしてもらうよ、ココちゃん!」
「そ、そんなぁーっ! ココの理想の美プラがぁー!」
さっきまで自分がいたであろう場所に「リリス」を背中から蹴り飛ばして焼夷弾に巻き込むと、俺は砂地を蹴って疾走する。
「カズサ!」
「あっはは、遅いってば、レイ……でも、守り切ったよ、ミカさんのこと」
「ありがとう、あとはあの……ヒルドルブを倒すだけだ!」
砂漠であろうと構うことなくその機動性を発揮するヒルドルブは、機体を回転させては急速変形を繰り返す奇妙なマニューバでカズサたちを翻弄していた。
だけど、これで三対一だ。
カズサもパワードジムアサルトの堅牢さを活かして、よくミカさんを無傷で守り抜いてくれた。
「行こう、ミカさん!」
「うん! でも、レイくん、そのヴェーガの手足……」
「ははっ、ミカさんと戦う前にこれを晒すつもりはなかったんだけど……ヴェーガの隠し機能、かな」
手足に装備されたカバーが開いて、プラフスキー粒子を纏ったフィンが露出している今のガンダム・ヴェーガは、いわば第二形態といったところだ。
バックパックがないからその中間とも取れるけど、少なくともこれで機動性はある程度補完できる。
相変わらずヒルドルブは急速変形と砲撃を繰り返してヒットアンドアウェイを繰り返していたけど、今なら喰らいつけないわけじゃない。
「信じるよ、レイくん!」
「任された!」
「……なんと……私一人になってしまうとは……ですがこのヒルドルブ……いえ、ヒルドルブ改の真価は、今こそお見せすべきでしょう……!」
「まさか!?」
「……その、まさかです……! 変形……!」
ヒルドルブ、もといヒルドルブ改が、かすみんと呼ばれていた先輩の言葉に従うように、モビルタンク形態から人型形態へと変形した。
漫画版0083rebellionを読んでいる人なら、感涙ものだろう。
まさか、EXモデルを芯に、あれを作り上げるだけのビルダーがいたなんて。
──でも。
「今更変形したってぇっ!」
「タイミングが、悪い!」
「……なんと……それは、あまりにもそう……ですね……」
俺のビームサーベルと、ミカさんの日本刀をコックピットに突き立てられる形で、かすみん先輩のヒルドルブ改は沈黙する。
『Battle Ended!』
そうして告げられたのは、俺たちの勝利。
途端に、どっと疲れが押し寄せてくるけれど。
これで、模型部の部長に会いにいく権利は得られたというわけだった。
Q.美プラはガンプラに含まれるの?
A.すーぱーふみな