ガンダムビルドファイターズ A/B   作:守次 奏

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風を呼ぶ少年(?)

「……」

 

 模型部の部長こと、第二十七回世界ガンプラバトル選手権の女王、ヨノモリ先輩と戦った翌日。

 俺は見事に河川敷の芝生に寝転んでいた。

 完敗だった。

 

 ぐうの音も出ないほどボコボコにされた。

 まるで、オウドと戦ったときを思い出すようだった。

 あのときの情けない自分から、一ミリも変わっていないんじゃないかと、疑いたくなるぐらいには、手ひどい負けだったのだ。

 

『再戦してもいいし、アドバイスを送ってもいいけれど、今の貴方に足りないものは、貴方自身が理解して言語化できないと、何回やっても同じよ』

 

 ヨノモリ先輩の言葉が、心に重くのしかかる。

 急造とはいえ、あのガンプラ──クロスボーン・ガンダムX-13をベースに、ドーベン・ウルフの左腕と、右腕にハーフクロスを装備した、「クロスボーンガンダムX-13 シルバーバレット」の完成度も凄まじかった。

 アンバランスな機体をクロスボーンガンダムのフレキシブルスラスターで無理やり制御し、バタフライ・バスターB一本で、粒子共振を最初から解放したヴェーガを追い詰めたのだから。

 

「俺に足りないもの……」

 

 ヴェーガは、ガンダム・ソロモンのコンセプトを受け継ぎつつも発展させたガンプラだ。

 とにかく機動力で上をとって、そのアドバンテージを活かし、相手の懐に飛び込む。

 やりたいことはシンプルなのに、ヨノモリ先輩にはそれが通用しなかったということは、コンセプトの段階で失敗してるんだろうか。

 

 いや、そんなはずはない。

 だとしたら、今の俺に足りないものはなんだ?

 アブソーブクリスタルシールドも使った。粒子共振も最初から解放したのに──と、考えは一向に前に進まず、堂々巡りするばかりだった。

 

「よう、浮かねーツラしてるけど、そんなとこに寝っ転がってたら蹴っ飛ばしちまうぞ」

 

 ふと、知らない声が頭上から降ってきた。

 なんとなく見上げると、そこには見慣れない服装をした男の子──俺と同じぐらいの年頃だ──が佇んでいた。

 彼が左手に持った、はち切れそうなまでに膨らんだコンビニのレジ袋からは、中華まんのいい匂いが漂っている。

 

「乱暴だなあ……別に、避けて通ればいいだろ」

「俺の進行ルートにいるのが悪い。で、なに昼間っからそんなツラしてんだ、腹減ってんのか? 一個でよければ分けてやるよ」

「いや、お腹は空いてるけどさ……ありがとう」

 

 レジ袋から肉まんを一つ取り出すと、少年は俺に手渡してきた。

 夏も迫る季節だというのに、まだ売ってるんだ。

 それに、その量はどこから買い占めてきたのかだとかツッコミどころは色々ある。

 

 だけど、お腹が減ってるのは事実だったから、俺は肉まんにかぶりついた。

 美味い。

 コンビニの肉まんって時々無性に食べたくなるよなあ。そういう味をしている。

 

「しかし、陛下と王妃殿下に聞いたときとはこっちも随分様変わりしちまったんだな。袋もらうのにも金取られるとか思ってなかったぞ」

「レジ袋のこと? 変わったの大分前だけど……」

「マジかよ、しょーもないことしてんな」

 

 俺もそう思う。

 

「で、元気出たか? なんで浮かねー顔して寝っ転がってんだよお前」

「……負けたんだ」

「は?」

「……俺はまた勝てなかった。ヨノモリ先輩に勝てないようじゃ、オウドに勝つなんて夢のまた夢だ。準決勝はなんとかなったけど、決勝まであと一週間もない」

 

 今日はその予選準決勝の帰りに、不貞腐れて芝生に寝転んでいたというわけだった。

 今あったばかりの少年になにを話しているんだろうと自分でも思う。

 でも、吐き出さずにはいられなかった。

 

「よくわかんねーけど、負けて不貞腐れてんならやめた方がいいぜ、そういうの」

「……じゃあ他にどうしろっていうんだよ」

「そうだな……ガンプラバトルの話だったら俺が教えてやってもいいぜ? 陛下の相棒だった男の息子。なんせ俺── アーリナ・フォン・セイカ・ライザーはブラジルってとこの代表だからな。呼び方は長ぇからセイカでいいぜ」

 

 セイカと名乗った少年は、にっ、と得意げな笑みを浮かべた。

 彼がブラジル代表ということは、もう日本には各地から代表戦を勝ち抜いてきた猛者たちが集まっているということだろう。

 だったら、尚更うかうかしていられない。借りられるなら猫の手だってなんだって借りなければいけないんだ。

 

「……わかったよ、セイカ。お願いする。俺はイオリ・レイだ。協力してほしい」

「いいぜ、貸し一つな」

 

 瞳に獰猛な闘志を宿して、セイカは救いを求めるように差し伸べた俺の手を取った。

 

 

 

 

 

 

「くっ……!」

 

 セイカを連れてイオリ模型店に戻った俺は、ものの見事にバトルシミュレータで彼の動きに翻弄されていた。

 セイカのガンプラは、見たところ特に改造の類も施されていない、白く塗られたハイモックだった。

 あえて色以外の違いを挙げるなら、モノアイが小さなカラーストーンに置き換えられていることだろうか。

 

「なーるほどな。よくわかったぜ、お前の悩み」

「……どういうこと?」

「そいつはバトルが終わってからのお楽しみだ! いくぜ、陛下の相棒の息子!」

「くっ……!」

 

 漆黒の宇宙を切り裂くように、ビームライフルを放ちながらセイカのハイモックは接近してくる。

 ただビームを撃っているだけなら、こっちにだってやりようはあるはずだ。

 黙ってやられてやるほど、俺だってお人よしじゃない。

 

「アブソーブクリスタルシールド、展開! 粒子共鳴率上昇……いける!」

「おっ、なにしてくるんだ? 楽しみだなぁ!」

「ガンダム・ヴェーガ、プラフスキー粒子解放! これで一気に……終わらせる!」

 

 手足のラジエーターフィンが展開し、ヴェーガのスラスターからは光の翼が広がっていく。

 これが、今の自分に出せる全力だ。

 ヨノモリ先輩のシルバーバレットには通じなかったけど、ただのハイモックぐらいなら、これで。

 

「ふーん……悪くねえけど……日和ってんな!」

「なっ、避けた!?」

「ま、今ので大体わかった」

 

 超高速でのビームサーベルによる刺突を、まるで読んでいたかのように紙一重で回避して、セイカはビームライフルをヴェーガのコックピットに叩き込んできた。

 

【Battle Ended!】

 

 システム音声が、俺の敗北を告げる。

 なんで、カスタムもしてないようなハイモック相手にも通じなかったんだ。

 ヨノモリ先輩もだけど、ニュータイプだとでもいうんだろうか。

 

「なあ、どっちから先に言えばいい?」

「どっちって……なにが?」

「お前がその……ノノモリってやつに勝てない理由」

「ヨノモリだよ」

「そうか? まあ細けぇことは気にすんなよ。先に一つ言っとくと、アリスタの粒子の流れが微妙にフラフラしてる。お前本当にそのスピード制御できてんのか?」

 

 セイカは、遠慮の欠片もなく痛いところを突いてきた。

 ヴェーガのスピードを、俺は確かに完全に制御しているとは言えない。

 振り回されそうになっているところをなんとか手綱をとって、突撃戦法としているだけだ。

 

「うっ……」

「んで、制御できてねーからバカみたいに真っ正面から突っ込むことしかできねえ。それとお前、まだなんか隠してんだろ?」

「な、なんかってなんだよ……」

「そのガンプラだよ。全力出して負けんのがそんなに怖えーのか? わざと言い訳の余地残して負ける方がよっぽどみっともねーけどな」

 

 確かに、ヴェーガにはまだあと二つほど隠された機能が眠っている。

 でも、世界大会前に手の内を完全に晒したくないというだけだ。

 断じて、そんな理由じゃ。

 

「それでこんなはずはなかったー、とか言ってんならお前の想像力不足だ。そのカナモリってやつは手の内を温存して勝てる相手なのか?」

「ぐ、ぐぬぬ……」

「でも安心しろよ、陛下の近衛騎士たるこの俺が情けないお前を一晩でモリモリに勝てるように鍛え上げてやる」

 

 びしっ、と親指を立ててセイカは宣言した。

 

「セイカ……」

「陛下の相棒だったイオリ・セイの息子がそのザマじゃ俺も張り合いがねえからな。さあ、さっさと再戦するぞ! まさかもうへばったわけじゃねえだろうな!」

「……わかった!」

 

 俺はバトル台の中心に倒れていたヴェーガを拾い上げて、再びGPベースにセットする。

 燃えるような赤い髪に、同じ色の瞳をしたセイカを、真っ直ぐに見据えて。




それはまるであの日の再来
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