ガンダムビルドファイターズ A/B   作:守次 奏

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白銀の女王

「お前がヒルノモリってやつか、ふーん……いいね、強者の目をしてやがる」

 

 首からゲストカードをぶら下げたセイカが、ヨノモリ先輩に言葉を投げかける。

 聖鳳学園に辿り着くなり、俺たちは模型部の部室を訪れていた。

 今日も、ヨノモリ先輩の机には魔剤府天満宮を通り越してそろそろ魔剤チェイテピラミッド城になりかけている空き缶が積み上げられていた。

 

「なにこの子……? 私はヨノモリよ、ヨノモリ・レイ」

「へえ、陛下の相棒の息子と同じ名前なのか。それにしてもすげー数の空き缶だな……よし、空き缶女! 陛下の相棒の息子がリベンジマッチに来てやったぜ! お前からもなんか言ってやれ、陛下の相棒の息子!」

「……すみません、ヨノモリ先輩。こんなんでも世界大会のブラジル代表なんです、彼女」

 

 俺はヨノモリ先輩に深々と頭を下げた。

 セイカのノンデリぶりはいくらなんでも常軌を逸している。

 俺からなんか言ってやれと言われても謝罪の言葉しか出てこないよ、セイカ。

 

「なるほど。この二週間で修行をつけてもらっていたというわけね……いいわ、その成果を見せてちょうだい。せっかくサクラちゃんとのデー……こほん。おでかけをキャンセルしてでも予定を捩じ込んだ甲斐があるというものよ」

 

 ヨノモリ先輩も大概スルースキルが高くて心の底から助かった。

 要約すればまあ、そういう話になるからね。

 サクラちゃんとやらがどこの誰かは知らないけれど、大事な予定をキャンセルしてでもこの日を空けてくれたヨノモリ先輩には、それに見合うだけの成果を見せなければ。

 

「ありがとうございます、先輩。早速バトルを始めましょう」

「わかったわ、ダメージレベルは?」

 

 ヨノモリ先輩は、試すように問いかけてくる。

 明日には、オウドとの決勝戦が控えていると知った上で。

 俺の覚悟がどこまでのものなのか、本物なのか、その真価を、ヨノモリ先輩は見定めようとしているんだ。

 

 だから。

 

「Aでお願いします」

「……本当に? あなた、明日には世界大会への切符をかけた予選決勝が控えているのよ?」

「わかってます。だけど、これは俺の覚悟です。言い方は悪いですが、ここで先輩に勝てなければ、ここで壊れてしまうようなヴェーガだったら、それまでだったってだけの話です」

 

 それに、ある程度の損傷なら──壊れたって、また直せばいい。

 作り上げて、壊して、何回も、何百回もその繰り返しができるのが、ガンプラでありガンプラバトルなのだから。

 それに、俺の短期決戦戦略がヨノモリ先輩に通じなければ、オウドにだって通じない。

 

 どの道、やるかやられるかなんだ。

 覚悟を括って、俺はガンプラバトルシミュレータにGPベースをセットする。

 ふわり、と蒼い燐光が瞬く。その美しさとはかけ離れた、破壊と創造の泥臭い戦場へと誘うように。

 

『Beginning Plavsky Particle Dispenser』

『Field Name:Space』

『Battle Damage Level Set to "A"』

『Please, Set Your GUNPLA』

『Are you ready?』

 

 システム音声の案内に従って、バトルフィールドがプラフスキー粒子の効果で形成された。

 今回のステージは、宇宙。

 デブリ群や戦艦の残骸みたいに、遮蔽物に使えるオブジェクトはあるけど、基本的には逃げ場のない戦場だ。

 

「たった二週間であなたが変わったことは認めてあげるわ、イオリくん。今のあなたには腑抜けた目が──逃げ道を常に用意しておくような姑息さがない。けれど、これでも私はかつて女王だった女よ。そう易々と倒せるとは思えないことね」

「それでも超えます、超えてみせます、あなたを」

「そう……なら、それから先はバトルで語りなさい」

 

 わかっている。

 ヨノモリ先輩が語った通り、ここから先に、言葉は不要だ。

 操縦桿の代わりになる光球を握り締めて、戦場となるミニチュアの宇宙を睨む。

 

「イオリ・レイ! ガンダム・ヴェーガ!」

「ヨノモリ・レイ。クロスボーンガンダムX-13、シルバーバレット」

『行きます!』

 

 お決まりの口上を唱えて、俺たちはガンプラをカタパルトから戦場へと飛び立たせた。

 今回はカズサにもオブザーバーではなく、ギャラリーに徹してもらっている。

 ちらりと後ろを伺うと、ミカさんと目が合った。

 

 その赤くて綺麗な瞳は、俺の勝利を信じて疑っていない。

 だったら、届けなきゃ。勝利を。

 俺なんかを推してくれているミカさんにも、普段から世話になってるカズサにも、俺をここまで鍛え上げてくれたセイカにも。

 

「この前とは別人ね。でも、そう簡単に勝利を渡すつもりはないわ」

 

 先に仕掛けてきたのは、ヨノモリ先輩のシルバーバレットだった。

 ドーベン・ウルフから移植された左腕から、ビーム・ハンドが切り離され、海賊の義手のような隠し腕が露わになる。

 これだけでも相当な造り込みが伺えるというものだ。

 

「それでも、ヴェーガの方が速い!」

「けれど、その速さが仇になるわ」

 

 ビーム・ハンドを振り切られても一切の動揺を見せずに、ヨノモリ先輩はシルバーバレットをその場で宙返りさせて、「なにか」を射出した。

 

「ヒート・ダガーか! でも、そんな狙いじゃ!」

「ええ、狙っていないわ。最初から」

「──っ、まさか!?」

「そのまさかよ」

 

 ヨノモリ先輩が狙いをつけていたのは、俺ではなく、ヴェーガが通過するコースに浮かんでいたデブリだった。

 シルバーバレットのヒート・ダガーが突き刺さったことで、無数の破片と化してデブリが飛散してくる。

 高速移動の弱点は、衝突時の衝撃が加速度的に上昇することにあるといってもいい。

 

 そういう意味では、ヨノモリ先輩の戦術は恐ろしくクレバーなものだった。

 前の俺だったら、きっとビビって足を止めて、デブリを避けながら攻撃しようとしている間に背後を取られていたことだろう。

 だけど。

 

「足は止めない! このまま突っ切る!」

「なっ……!?」

 

 セイカとの戦いで、ヴェーガの高速機動に目と指は完全に追いつくようになっていた。

 曲芸じみたアクロバット飛行で、飛散するデブリの隙間を潜り抜けつつ、逆に俺はヨノモリ先輩の背後を取った。

 いけるか。

 

「いや、いけっ! ツインビルドマグナム、最大出力だ!」

「まだよ!」

 

 後ろをとって撃ち放ったツインビルドマグナムの一撃を、ヨノモリ先輩は巧みにフレキシブル・スラスターを操作することで回避した。

 機体を急速反転させて、右腕側に装備されたハーフクロスで受ける選択肢を取ったのだ。

 流石は世界王者といったところだろう。

 

「久しぶりね、私にハーフクロスを使わせる相手だなんて」

「ツインビルドマグナムの銃身が焼け付くぐらいの一撃を、ハーフクロス一枚で……! 即興で作ったはずなのに、なんて完成度のガンプラなんだ!」

「薄いプラ板を何枚も同じ形に切り出して重ねて、可動を邪魔しない範囲で厚みを補っているのよ……伊達に徹夜はしてないわ!」

「ちゃんと寝てください!」

 

 だとしても、こっちの手が尽きたわけじゃない。

 問題があるとするなら、次の手は恐らくヨノモリ先輩に読まれていることだ。

 バタフライ・バスターBから放たれるビームをアブソーブクリスタルシールドで吸収しつつ、俺は奥歯をきつく食いしばった。

 

「それでも……寝ていられない理由があるのよ!」

「キラみたいに言わないでください、睡眠不足で早死にしたいんですか、あなたは!?」

 

 ビームサーベルを引き抜いて接近、サーベルモードに変形したバタフライ・バスターBと鍔迫り合う。

 この距離での戦いであれば、近接戦闘に有利に調整されているシルバーバレットに分があるといってもよかった。

 ヨノモリ先輩が放ったビームを吸収したけど、まだプラフスキー粒子の貯蓄量は目標値には届いていない。

 

「その機体が見せたアブソーブシステムに、迂闊に餌を与えるつもりはないわ。このまま……接近戦で一気に押し切る!」

 

 予選の一回戦でカトウさんが見せた、プラフスキー粒子の上を滑るような動きでヴェーガの背後に、シルバーバレットが潜り込む。

 そして、胸部に装備されているガトリング砲を撃ち放った。

 ヴェーガの装甲やフェザーエクステンションに細かなダメージが蓄積していく。

 

 恐らくヨノモリ先輩は、プラフスキー粒子の供給源でもあるフェザーエクステンションの破壊を狙っているのだろう。

 だったら、悠長に構えている余裕なんてない。

 俺は操縦桿のスロットを切り替えて、粒子共鳴を発動させた。

 

「粒子を蓄積される前に、このまま砕く……!」

「俺だって、先輩を前にしてなんの対策もしてこなかったわけじゃないですよ……!」

「……ッ、まさか!」

 

 フェザーエクステンションがガトリング砲の直撃を受けても壊れていないのには、ちゃんとした理由がある。

 それは、とてつもなく単純なものだ。

 ヨノモリ先輩も、恐らく気づいているだろう。

 

「弾が滑るように弾かれている……まさか、フェザーエクステンションにグリスを塗ってきたというの……!?」

「やっぱり気づいてましたか、その通りです! そしてここからが、本当の勝負ですよ、先輩!」

「くっ……!」

「プラフスキー粒子充填完了! 粒子共鳴……ディスチャージ、解放!」

 

 十二番のスロットを選択すると、星のような形状のプラフスキーパワーゲートが解放されて、俺は、ヴェーガをその中に躊躇なく飛び込ませた。

 かつて父さんも使っていたというディスチャージシステム。それが、ガンダム・ヴェーガに隠された切り札の一つだった。

 ゲートを潜ったことで光の翼をバックパックに纏い、凄まじいまでの速度で、ヴェーガは戦場の宇宙を縦横無尽に駆け回っていく。

 

「この速度を完璧に制御しているのは賞賛に値するわね、だけど……真っ直ぐ突っ込んでくるだけなら!」

「いいや、違う!」

 

 斬撃を置いておく形で、ヨノモリ先輩はカウンターを試みた。

 前に、俺がやられた手だ。

 確かに、どんなに素早い動きで撹乱してきたとしても、最終的な攻撃手段が真っ直ぐに突っ込むだけならそれが最適解なのだろう。

 

 それでも、今の俺は。

 

「回り込め、ヴェーガ!」

「──ッ! シルバーバレットの反応速度では……!」

「いっけえええええっ!」

 

 真っ直ぐ突っ込むと見せかけて直前で急速旋回、背後を取って俺は、ビームサーベルの一撃をシルバーバレットに叩き込んだ。

 袈裟懸けに切り裂かれ、右半身を失ったシルバーバレットだったけれど、それでも微妙にコックピットを逸れていただろう。

 まだ自分は死んでいないとばかりに残った片目を輝かせて、最後の切り札を切ろうと試みていた。

 

 この状況で出せる選択肢なんてないかもしれないけど、それでも。

 

「せめて片羽ぐらいはもぎ取っていく!」

「させない! ビーム・ハンドが残っていることは……わかってた!」

 

 警戒していた最後の一手として、置いていかれていたビーム・ハンドが背後から奇襲をかけてくる。

 それをあらかじめ読んでいた俺は、機体を宙返りさせて、シルバーバレットを羽交い締めにした。

 貫手の型を取って突っ込んできたビーム・ハンドは、結果としてそのままシルバーバレットに突き刺さって、本体と共に爆散した。

 

【Battle Ended!】

 

 システム音声が、戦いの終わりと俺の勝利を告げる。

 勝った。

 相手は急造品のガンプラを使っていたというハンデはあれども、世界を一度制した人に、俺は勝ったんだ。

 

「見事ね、してやられたわ」

 

 バラバラになってしまったシルバーバレットの残骸を回収しつつ、ヨノモリ先輩はふっ、と笑った。

 

「ありがとうございました、先輩」

「なにが?」

「……おかげで、覚悟を本当の意味で決めることができましたから」

 

 自信と決意が固まったのと、ダメージレベルをAに引き上げた戦いだったから、少なからずヴェーガも傷を負っているけれど、それでも。

 壊れたら、また直せばいい。

 心も同じだ。折れたら、またそこから鍛え直して、火を入れて叩き直して、自分という一振りに仕上げるのだ。

 

「月並みな言い方にはなるけれど、頑張りなさい。あなたは私に勝ったのだから。オウドを倒すくらいのことはしてみせなさい」

「はい! ありがとうございました、ヨノモリ先輩!」

 

 ひらひらと手を振りながら模型部の部室を去っていくヨノモリ先輩の背中を、深々と頭を下げたまま、俺はただ見送った。

 

「やったね、レイくん!」

「わわっ、ミカさん!?」

「うん。今のレイくん……すっごくいい目をしてるよ。わたしが推したい、って思ったときの、キュンってきちゃった目。だから」

「うん、俺はあいつを倒して……必ずミカさんが待ってる世界の舞台に行くよ」

 

 抱きついてきたミカさんの背中にそっと手を回してハグを交わしながら、俺は誓いを立てた。

 もう一度飛ぶために。

 そして、待ってくれている人がいる舞台に上がるために。

 

「わーお、なんだかプロポーズみたいだね……えへ」

「覚悟はそれぐらいのつもり、かな」

「……っ!?」

 

 そうだ、大切な誰かと約束を交わすというのは、重いことなんだ。

 だから、その重さを背負い切って必ず勝つ。

 あの日のトラウマで、超えるべき壁でもある、オウド・トモカズに、必ず土をつけてやるんだ。




いざ、戦いの舞台へ
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