ガンダムビルドファイターズ A/B   作:守次 奏

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策謀巡るセレモニー?③

 リュクスさんに連れられていったミカさんの足取りを追った俺とセイカは、セレモニーホールからは大分離れた、ミーティングルームが並ぶ区画まで辿り着いていた。

 

「尾行も襲撃もなしか、舐められてんだかそれともよっぽど向こうに余裕があるんだかわかんねーな」

「そんな物騒な……鉄血のオルフェンズじゃないんだから」

「俺はまだこっちのことよくわかってねえけどよ、礼儀作法のなってない金持ちってのは、どこであろうと大体そういうことをするんだよ」

 

 俺の言葉に答えたセイカの目は、全くといっていいほど笑っていなかった。

 一応俺の実家も裕福な部類には入るんだろう。

 だけど、ミカさんクラスのご令嬢になるとそういう物騒な話にも片足どころか両足を突っ込んでいるんだろうか。

 

 そう考えると途端に怖くなってきたな。

 出会ったときも黒塗りの高級車で乗りつけてきたわけだし、いかにもありそうな話に思えてきた。

 でも、ビビってなんかいられない。

 

「よし……こっちのルートもなんもねえな。そんであそこが本丸だ」

「本当に? 子供二人しか立ってないけど……」

 

 自販機コーナーを曲がったところにある小さな会議室の扉の前には、白髪に灰色をした瞳の女の子と、黒が混じった金髪の女の子の二人が、例によってウルズハントに出てくる水先案内人の衣装を着て立っていた。

 白髪の女の子は退屈そうに下を向いていたけど、プリンヘアーの子は半ズボンの裾を時折引っ張って、その怠慢を嗜めていた。

 いかにも子供らしい仕草だ。

 

 案外、どうでもいい用事だったりするんだろうか?

 ミカさんはお金持ちだから使用人の一人や二人、雇っていてもおかしくないだろうし。

 思わず、楽観的になりかけたときだった。

 

「……おい、なに惚けてやがる」

「セイカ?」

「相手はプロだぞ、それも相当のな」

「えっ?」

「陛下の相棒の息子ともあろう者が寝ぼけてんじゃねえ、ありゃガキを囲って小さい頃から鉄砲玉として仕立て上げてんだよ」

「えぇ……」

 

 いよいよ鉄血のオルフェンズじみてきた。

 でも、セイカの言うことが嘘じゃないのはわかる。

 こいつは冗談こそ言っても、嘘だけは絶対に言わない女の子だからだ。

 

「さて……こうなったら少し荒っぽい手段に出るしかねえな」

「セイカ、防犯カメラとかも動いてるんだよ!? あの子たちになんかしたら、一発で出場停止に──」

「防犯カメラなら道中でぶっ壊しておいた」

 

 本気で心配している俺に対して、セイカはしれっと答えてみせた。

 どうやって壊したのかとか、そもそも壊しちゃダメだとか、そんなことを言っている場合じゃないんだろう。

 ミカさんを取り戻すためには、こっちだって手段を選んでいられないんだから──震える拳を握って、覚悟を固めたときだった。

 

『だから、わたしはずっと政略結婚には反対してきたじゃんね!』

 

 恐らく相当な防音加工が施されているであろう会議室の扉を貫通して、ミカさんの大声が聞こえてきた。

 話をしているであろう、リュクスさんの主人の声は聞こえない。

 ただ、ミカさんが相当怒っていることと、政略結婚という不穏な言葉が聞こえてきたのは確かだった。

 

『わたしはレイくんと結婚するの! だからそのためにこの世界選手権を優勝する! そういう話だったでしょ!?』

 

 ……そうか。

 ミカさんが俺と結婚すると言ってたのは、冗談でも、恋に恋しているわけでもなく、自分の身柄をかけた本気だったわけだ。

 それに気づかなかった自分が情けない。でも今は、反省会をしている場合じゃない。

 

「行くぜ、陛下の相棒の息子。命張れよ」

「……わかった!」

 

 セイカの言葉を合図に、俺たちは自販機コーナーを飛び出して、白髪の女の子とプリンヘアーの女の子が待ち構えている扉まで一気に走り抜けた。

 

「わ、わわっ、な、なんですか!? 今のこの会議室は使用中で──」

「悪りいな、約束はねえけどこっちも急いでんだ」

 

 びっくりした様子を見せながらも、瞬時に戦う構えを見せたプリンヘアーの女の子の背後に回り込んで、セイカはとん、と首筋に手刀を当てる。

 漫画でしか見たことのない、急所をついて相手を一発で気絶させる高等テクニックだった。

 そんなものを使えるセイカって一体──と、思うところはあるけど、今は考えている場合じゃない。

 

「やっぱり持ってやがったか、おい、陛下の相棒の息子! こいつが部屋の鍵だ、さっさと行って肉まん女を取り返してこい!」

「わかった!」

「こ、この……っ! よくもノウンを! 行かせるもんか!」

「悪りーな、でも安心しろ、すぐにてめーの弟と同じイベルタの淵まで送ってやるからよ!」

 

 セリフが完全に三流の悪党だよ、セイカ。

 それに、あのプリンヘアーの女の子、スカートルックでたおやかな仕草をしていたのに男の子だったのか。

 もう、なにが正しくて間違いなのかわからなくなってきた。

 

 わかることは、この扉の向こうにミカさんがいることだけだ。

 セイカから受け取ったカードキーをインサートして、俺は会議室の扉を勢いよく開け放った。

 すると、そこには。

 

「……イオリ・レイか。ワイスとノウンを退けてここまでやってくるとは、案外見所があるのかもしれないな」

「あんたは……!」

「レイくん!?」

 

 ミカさんの前に立っていたのは、リュクスさんを従えた、長身痩躯の黒服男だった。

 恐らくこいつが、リュクスさんの主人なんだろう。

 そして、ミカさんに望まない政略結婚をさせようとしている。

 

 人を一人か二人は──いや、それ以上には確実に殺してきた、と言わんばかりに凄みのある視線に負けないように歯を食い縛りつつ、俺は黒服の男を睨んだ。

 

「……リュクス、始末しろ」

「……はい、仰せのままに。我が主人」

「くっ、リアルファイトはいくらなんでも度を越してるよ! ここは世界ガンプラバトル選手権のセレモニー会場なんだよ!? 審判のリュクスさんが荒事に及んだら、それこそクビになっちゃうかもしれないんだよ!?」

 

 俺は、懐からスッと三節棍を取り出したリュクスさんへと必死に声を張り上げて呼びかけた。

 真面目にリアルファイトは勘弁してほしい。

 こっちはただの中学三年生だっていうのに。

 

「存じ上げておりますが、それ以前にわたくしは『部品』ですので。我が主人の命とあらば」

「……セイカの言う通りってことかよ!」

「ほう? 表で暴れている女の名前か。リュクス、少し待て。この少年と取引をしたくなった」

「仰せのままに、我が主人」

 

 黒服の男は、リュクスさんを下がらせると、自ら前に歩み出た。

 アレスマイトさんほどじゃないけど、かなり身長が高いこともあって凄みがヤバい。

 ヤのつく自由業というより、マフィアの構成員といった感じの雰囲気だ。

 

「会場でなにやらちょろちょろと嗅ぎ回っている女がいることは聞いていたからな。少年、君が彼女について知っていることを全て話せば、表の荒事は見なかったことにしよう」

「……名前も名乗らないやつに、はいそうですかって友達のことを答えてやれるものかよ!」

「そうか、失礼した。私は第三十回ガンプラバトル選手権、グアテマラ代表のヤマダ・タロウだ。これでいいか?」

 

 明らかに偽名だった。

 ヤマダと名乗った男の顔立ちは彫りが深いスラブ系のそれだし、髪だって染めている可能性はあれど赤色だ。

 それがいかにも日本人です、みたいな名乗りを上げているんだから、胡散臭さという言葉が服を着て歩いているようだった。

 

「……ヤマダさん、嘘をついていますね」

「困ったな、信じてもらえないとは。これでも日本の国籍は持っているし、出場時に開示しなければいけないデータも正式に通っているのだがね」

「審判員のリュクスさんを従えてる時点で、明らかに不正したってわかるだろ!」

「そうか、そういえばそうだったな。リュクス」

「……申し訳ございません、我が主人」

「落ち度は後で始末をつけてもらう」

「いや、あんたの責任だろ!」

 

 どう考えてもここでガバガバな嘘を言ったヤマダさんが百で悪い。

 リュクスさんは悲壮な目をしていたけど、別に落とし前をつける必要はどこにもないはずだ。

 俺の返答に多少気をよくしたのか、ヤマダさんはふっ、と薄ら笑いを浮かべた。

 

「フッ、面白いな。度胸がある……用件はなんだ?」

「ミカさんが望んでないのに政略結婚させるなんて、そんなの間違ってるだろ! 今すぐに撤回しろ!」

 

 俺は震えているミカさんを一瞥し、ヤマダさんを必死に睨みつけながら言い放つ。

 

「結論から答えよう、それは俺の一存で決められることではない」

「……なんだって?」

「そしてそこから先を答えてやるつもりもない、君はこれから不慮の事故で出場辞退ということになるからな」

 

 俺をボコろうって算段は変わっていないか。

 それに、ヤマダさんの一存で決められないってことは、更に上がいるってことだろうか?

 頭が痛くなってきた。

 

 確かに、スイランさんの警告通り、俺が踏み込んでしまったところは、コールタールよりもドス黒い底なし沼だったのかもしれない。

 

「それ以上レイくんに手を出さないで!」

 

 ヤマダさんがリュクスさんへと指示を下そうとした刹那、ミカさんが声を張り上げる。

 

「ミカさん!?」

「……我が身を盾にするか」

「わたしがガンプラバトル選手権で優勝すれば解決する話で、これ以上レイくんを傷つけるつもりなら、わたしはここで自決するよ」

 

 会議室の備品として備わっていた万年筆を首筋に突き立てる仕草を見せて、ミカさんはヤマダさんへと警告した。

 

「ご令嬢の腕力では、万年筆で自決はできまい。だが……確かに、嫁入り前の娘に傷物になられては困るな」

「そうでしょ!?」

「理解はした。ご令嬢の嫁入りを止めたいと言っていたな、少年。ならば優勝は諦めることだ」

 

 踵を返して去っていこうとするヤマダさんの態度には、思うところがあった。

 こっちを明らかに見下している。

 だから俺は、その背中に向けて思わず叫んでいた。

 

「させるもんか! ミカさんの政略結婚も阻止して! 俺がこの大会で優勝してみせる!」

「……」

「ミカさんは俺の大切な人だ! あんたみたいに後ろ暗くて素性もわかんないやつらのところに、絶対渡したりするもんか!」

「……その選択を後悔するなよ、少年。ああ、こんなときに急用か──クラマ、この携帯にかけてくるのはやめろと言ったろう」

 

 捨て台詞を吐くと、誰かと通話をしながら、リュクスさんを従えてヤマダさんは部屋を去っていった。

 どっと疲れた。

 まるで生きた心地がしない。

 

「レイくん……わたしのためにここまできてくれたんだよね……?」

「そうだよ、ミカさんは……さっきも言ったけど、俺の大切な人だから。だから、なんとか……なんとかして政略結婚は止めてみせる!」

「……ふふっ、ありがと。でも、勝ちをタダで譲ってあげるつもりはないよ?」

「わかってるさ」

 

 俺の力でどこまで、なにができるかはわからないけど。

 それでも、やるといったらやらなくちゃいけないんだ。

 この、巡る策謀を踏み倒して。




この闇……「深い」ッ!
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