ガンダムビルドファイターズ A/B   作:守次 奏

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幕間:暗躍するが悪の華

「不用意だな、クラマ。こんな場所に呼び出すとは」

 

 ヤマダ・タロウと名乗っていた男は、人のいい笑みを浮かべながらスーツの胸元に手を伸ばしていたもう一人の男を咎めた。

 

「人を隠すなら人の中というじゃあないですか、アルマイア」

「ヤマダだ」

「ああそうでした、ヤマダ・タロウ」

 

 二人の会話にわざわざ耳を傾ける奇特な人間は、この喫煙所にはいなかった。

 万が一いたとしても、どうにでもなる。

 そう考えた上で、もう一人の銀髪の男──クラマ・ユキジはヤマダ・タロウを呼び出したのだから。

 

「フン……成果は上々といったところか」

「そうですねえ、貴方が連中を内部から撹乱してくれたおかげで、フリーマーケット市場では結構な利益が出たと報告が上がっていますよ」

「高額キットの転売か。理解できんな」

「中南米じゃあ、メーカーの純正品自体、喉から手が出るほど欲しがる連中が山ほどいるではないですか」

「その上で理解できんと言っている。しかし、ガンプラマフィアの残党か……あんな抜けた連中をよくも使いこなしているものだ」

 

 ヤマダはタバコに火をつけて、溜息の代わりに煙を吐いた。

 クラマが語った通り、中南米は全盛期──イオリ・タケシが現役だった頃のガンプラバトル国際審判員でさえ切り崩せなかった闇市場だ。

 今や国家を挙げた撲滅運動のおかげで、アジア圏や北米、欧州といった地域における、ガンプラマフィアは虫の息だった。

 

 そもそも、旧PPSEを牛耳っていたマシタ元会長の弟であり、ガンプラマフィアのトップだった男、マシタ・ミキオの策が失敗した時点で、ガンプラマフィアが生き延びる道は絶たれた──そのはずだった。

 

「バカとハサミは使いようとこの国ではいうでしょう? 彼らはガンプラの非合法な調達や偽ブランド品の製造には長けている。そこに少しばかり手を貸してやっただけですよ、我々──『ジャンクキルト』がね」

「フン、ジャンク品の寄せ集めか。PPSEからヤジマ商事に馴染めなかった逸れ者に、フラナ機関の生き残りとガンプラマフィアの残り滓。名は体を表すという言葉がこの国にある通りだな」

 

 クラマが名乗った組織──「ジャンクキルト」に一応は属していながらも、外から見ればひどい有様な現状に、ヤマダは眉を顰めた。

 表では名前を出せない人間からの援助も受けているとはいえ、クラマは烏合の衆をよく取りまとめているものだ、とヤマダは感心する。

 もっとも、最終的に自社と自分の利益になればいいと考えているヤマダの雇い主も似たようなものなのだが。

 

「しかし、成果は上々です。今大会でも有望なファイターを闇バトルで選別できたのは大きい」

「セーニャ・カリーニナ・アレクサンドロフか」

 

 ジャンクキルトの中から外部に依存することなく戦力の調達に成功したという報告は、ヤマダも聞いていた。

 それがPPSE残党の研究者くずれの妹だというのも、因果なものだと、そんな言葉の代わりに煙を吐き捨てる。

 闇バトルにはヤマダも一枚噛んでいて、経営している孤児院から有望な子供を出場させたが、いずれも一瞬で敗北したと、報告された通りだった。

 

「そうそう、そんな名前でしたね。彼女が今大会で優勝してくれればいい資金源になる。それに、我々にも表の顔がありますからね。動きやすくなるのは好ましい」

 

 クラマは苦笑しつつ、タバコの煙を吐いた。

 確か、セーニャの兄は、エンボディなる技術の研究をしていたフラナ機関と密かに手を組んでいたのがバレてPPSEを追放され、ヤジマ商事ではエンボディの研究そのものが禁止されていたことで路頭に迷っていた男だった。

 うだつの上がらない研究者といった風情の性格だったが、ジャンクキルトの表の顔である「医療技術の研究機関」の象徴としてはよく頑張ってくれていた。

 

「哀れな男とその妹を使い潰す。悪党だな」

「貴方もそうでしょう? もっとも、妹さんは我々に協力的ですがね」

「……話したのか?」

 

 すっ、とヤマダの目つきが鋭いものに変わる。

 ジャンクキルトの活動内容とその全体像やパトロンの存在は、一部の幹部のみで共有し、構成員の末端には知らせないことを徹底していた。

 その資格がない人間に口外すれば、翌日には奇怪なオブジェとなってもらうのが掟になっている。

 

「まさか。精々ガンプラマフィアの残党が知っている程度のことだけですよ」

「……ならばいい。俺たちはあくまでも継続的に利益を出し続けることが目的だからな」

「存じておりますとも、マシタ・ミキオのような愚を繰り返せば、今度こそ我々のようなものが生きる場所はなくなりますからねぇ」

「フン……どうだかな」

「そういえば貴方は違いましたね。ならばと警告しておきますが、今大会の懐に潜り込めたのは大きいですが、水面下では連中が動いていますよ」

 

 今度はクラマが眼光を鋭くする番だった。

 ガンプラバトルの国際審判員は、ガンプラマフィアといったガンプラ産業に関する反社会的な組織や個人に対しての逮捕特権を持っている。

 いかにその牙城を切り崩し、「コーサ」の名字を持たせた孤児たちを多数潜り込ませたとはいえ、国際審判員も組織である以上、一枚岩ではない。

 

「セイカとかいう女がなにかを嗅ぎ回っていた件か? それなら当てが外れた。ヤツが嗅ぎ回っているのは旧PPSE──マシタ元会長の遺産のようだからな」

「そうでしたか。では、良い知らせと悪い知らせのどちらからお聞きになりたいでしょうか?」

「映画の真似か? ならば悪い知らせから聞かせてもらおう。問題の芽は早めに摘まねばならんのでな」

 

 セイカの件についてはジャンクキルト内部でも共有がされていて、警戒対象に入っていた。

 だが、彼女が探しているのはマシタ元会長が残したとされる「遺産」なる眉唾物の存在だけだと、先ほど、イオリ・レイが乗り込んできた件でそう結論づけられた。

 もしも彼女がジャンクキルトを追っていたのなら、自分の存在に勘づいていないはずは、そして乗り込んできていないはずはないからだ。

 

 しかし、他にも悪い知らせがあるとなれば早めに聞いて、潰しておかなければならない。

 

「悪い知らせですが──リカルド・フェリーニが今大会の特別ゲストとして来日しています」

「……国際審判員の幹部が動いたか」

「貴方の責が私の責かはこの際どうでもいいですが、やりすぎたようですねぇ」

 

 かつて「イタリアの伊達男」の通り名で知られ、伝説となった第七回世界大会と第八回以降の世界大会にも出場していた元強豪ファイターは今、ガンプラバトル国際審判員へとキャリアチェンジを果たしていた。

 そんな大物が動くということは、少なからずどこかでなにかの歯車が狂ったということだ。

 クラマは上手くやっていた以上、考えられるとすれば自分たちのところ──最上位のパトロン関連だろう。

 

「……すまないな、それはおそらく俺の雇い主の責任だ」

「いえいえ、そちらの雇い主側も組織である以上、一枚岩ではないのですから……なに、大人しくしていれば見つかることはありません」

「そう信じたいものだな。では、いい知らせとはなんだ」

「オウド・トモカズがイオリ・レイなるファイターに敗れたことです。もっとも、これは既に知っているでしょうが」

「そうだな」

 

 もしもジャンクキルトが表向きに果たしたい目的が今大会の優勝だとしたら、最大の壁になると目されていたのは三連覇がかかっていたオウド・トモカズだ。

 それが無名のファイターに敗れたことはヤマダも知っていた。

 そして、先ほど対面して感じた限りでいえば、イオリ・レイはさして脅威足りえない存在だったはずだ。

 

「もっとも、そのイオリ・レイはかのイオリ・セイのご子息らしいですがねぇ」

「……なんだと?」

「アレスマイト・マクダーネルを『賞金首』にするご予定でしたが、もしものことがあるかもしれないですよ、という私からのお節介です」

「……既に現役を退いたとはいえ、イオリ・タケシの血縁者か。『賞金首』に定めておけ。アレスマイトについては──」

「ええ、我々とセーニャでなんとかしますとも」

「ならばいい」

 

 そう言い残すと、タバコの火を灰皿で揉み消して、ヤマダは喫煙所を後にした。

 セーニャとやらがどこまでの腕前を持っているかは未知数だが、少なくともクラマが信頼を寄せているのと、自分が送り込んだ精鋭を蹴散らしていたのなら問題はないはずだ。

 ならば、排除すべきは不確定要素で、判断は間違っていない──そうとでも言いたげな背中だった。

 

「全く、野蛮な男の相手をするのも疲れるものですね」

 

 苦笑しつつ、同様にタバコの火をもみ消して、クラマも喫煙所を去っていった。

 しかし、穏やかに生きるためには常に敵が芽を出す前に摘んでいく必要があるのだから、そういう意味でヤマダは最高のビジネスパートナーであることに違いはない。

 そんなことを頭に浮かべながらクラマが去ったことで、無人となった喫煙所には、ただ二人の燃えさしが燻っているだけだった。




GMの再逆襲
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