「じゃーん! レイくん、これがわたしの新しいガンプラだよ!」
イオリ模型店での提案から、およそ一週間。
ミカさんはどこかそわそわした様子で教室に入ってきた。
すると、俺の姿を見つけるなり腰に下げたガンプラホルダーから「それ」を取り出した。
「すごいね、ミカさん……正直ここまでのレベルで仕上げてくるとは思わなかった」
ミカさんのガンプラは、ガンダムジリウスをベースにしつつも、肩には追加装甲が施され、バックパックにも高出力の推進機だと思うユニットが接続されている。
ジリウスの特徴である六本のビームサーベルも、配置を変える形で全身に武装されていた。
そして、なによりも目を引くのが。
「日本刀型の武器を採用しているんだね、イメージソースはレッドフレーム?」
「うん! 流石はわたしのレイくんだね、えへへ。なんでも考えてることわかっちゃうんだ」
ミカさんは照れくさそうに頬を染め、俯きながらもじもじとしていた。
別にミカさんの考えを読んだわけじゃない。
ただ、白と赤を主体とした塗装や、ガンダム知識からくる連想ゲームみたいなものだ。
「しかも二刀流……ミカさんのチューンナップは近接戦を相当意識してるみたいだね」
「うん。わたし、けっこー得意なんだよ? 武道とか。弓道はおっぱいが弦に当たっちゃうから途中でやめちゃったけど」
てれてれと頬を両手で押さえて恥ずかしそうにミカさんは語った。
……いや、まあうん。
サラシで潰せるのってDカップが限界だって聞いたから、確かにミカさんのサイズを考えたら納得だけどさ。
「……その情報いる?」
「レイくんにはわたしのこと、いっぱい知ってほしいから、いるよ。カズサちゃん」
「あーはいはい、ガンプラの話題に戻るわよ。レイもいつまでも鼻の下伸ばしてないで! 気づいてるんでしょ?」
ぐぬぬ、と歯を食いしばると、カズサは強引に話題を元に戻した。
誰が鼻の下伸ばしてるっていうんだよ。
俺はただ、ミカさんの胸のサイズなら弓道を諦めても仕方ないって思ってただけだよ。
「……鼻の下は伸ばしてない。でもこのガンプラには明確な弱点が一個だけある」
「弱点?」
「そ、ほとんど素人レベルのあたしからみてもわかる。というか素人でもわかるわ、クレダさん。あなたのガンプラには、射撃武装がない」
そう。
新しく生まれ変わったミカさんのジリウスが装備している武装には、遠距離から手出しをできるものがなにもないのだ。
腕部のビームトンファー、脚部ビームサーベルに、日本刀型の武装が二つ。
「ガンプラバトルで射撃武器を持たないビルドをするのは別に珍しいことじゃないけど……そういうのは役割分担できるチーム戦でのピックアップが多いんだよね」
「うん。カズサの言う通り。昔、この学園のガンプラバトル部がまだ小さかった頃、学生大会で優勝した……カズサのお父さんとお母さんがいたチーム、『トライファイターズ』が好例かな」
トライファイターズの構成は、徒手空拳による格闘に特化した機体と、中遠距離を支えつつ高機動力でカバーできる機体と、その二人をサポートしつつ自らも火力を出す、変則ギミック型支援機体の三つだ。
当然、徒手空拳しか武器がないガンプラは遠距離で苦戦を強いられる。
だけどその絶対的エースの弱点を他の二人が支えることで、チーム「トライファイターズ」は優勝までたどり着くことができた。
「つまり、どういうこと?」
「個人戦だと相当苦しくなるよ、ってことかな。そうでしょ、レイ?」
「うん。ミカさんがどこまでできるかわからないけど、正直、初心者にオススメしたいビルドではないかな……」
かといって、個人のこだわりを否定するのはマナー違反だ。
適当に射撃武器を見繕って装備するだけでも大分違ってくるけれど、それはミカさんのこだわりに反するのだろう。
近接戦オンリーで戦い抜く、という決意が、ミカさんの生まれ変わったジリウスからはありありと感じられた。
「ふふん。それなら心配しないで! わたし、けっこー強いんだから!」
「どこからくるの、その自信……」
「護身術は小さい頃から叩き込まれてきたからね! ガンプラバトルはまだまだ初心者かもしれないけど、花嫁修行の一環でけっこー頑張ってきたし!」
ぶいっ、とピースサインを作って、ミカさんは自信たっぷりに笑ってみせる。
その花嫁修行とやらがどんなものなのかにもよるけど、これだけ自信があるなら、できるんだろうか。
もしミカさんがガンプラバトル部に入れば、その弱点をフォローしてくれる人とも組めるし、アクノくんに一回相談してみようかな。
「あ、レイくん。わたしはガンプラバトル部に入らないよ。だって全国大会のオープンコースを目指してるから」
こっちの考えていることを読み当てたかのように、ミカさんは言った。
「オープンコースにブレオンで……? 無謀すぎない?」
カズサは信じられないものを見たような顔で小首を傾げる。
近接オンリーで世界大会に出場した猛者がいないわけではない。
ただ、年齢問わず、かつ一人だけで戦うオープンコースは基本的に射撃持ちが有利な環境といっても過言じゃないはずだ。
「大丈夫だよカズサちゃん! わたし、強いから!」
「じゃあその言葉と自信が本物かどうか、確かめてみるのが一番手っ取り早いわね。そうでしょ、レイ?」
「そうだね。俺もそのガンプラの試運転は一回やっておいた方がいいと思う」
いくら生身での戦いに自信があったとしても、それが完全にガンプラバトルへ反映されるとは限らない。
スパーリングの相手を見つけて戦ってから様子を見たり、必要なら改修を加えるのも手段だ。
そうなると、適任な相手はやっぱりガンプラバトル部の誰かになってくるだろうけど。
「話は聞かせてもらったぞ、イオリ。クレダさんの新しいガンプラの性能試験をしたいんだろう?」
「アクノくん」
タイミングを見計らったかのように、眼鏡のブリッジを中指で持ち上げつつ、アクノくんが俺の席まで歩み寄ってくる。
「ガンプラバトル部も中学生の部と高校生の部でそれぞれ大会を控えてる。ダメージレベルはCになるから参考程度かもしれないが……戦いたいやつならいっぱいいるぞ」
「アクノくん……ありがとう。近接戦特化のミカさんをメタれるような相手って、いる?」
「ふむ……メタるといっても一口に射撃で制圧するだけがメタではないからな。探してみよう。昼休みには多分見つかるはずだ」
「ありがとう。俺が勝手に決めちゃったけど、ミカさんはスパーリングしたい?」
アクノくんの人脈に感謝しつつ、俺はミカさんへと問いかける。
「もちろん! わたしの勇姿を余すところなく見ててね、レイくん!」
「……すごい自信だね、でも、ミカさん」
「なに、レイくん」
まるで、かつての自分を見てるみたいだった。
自信があるのは悪いことじゃない。
自信がないまま戦いに挑んで、負けて腐るよりはよっぽど健全だ。
だけど、過剰な自信は時に身を滅ぼす。
その心を支えてきたものがへし折られたときに、破壊されたときに、踏み躙られたときに。
だから、最初にミカさんをメタれるような相手を出してくれ、ってアクノくんに提案したのは若干後悔しているけれど。
「ガンプラバトルは、ミカさんが考えているよりも生易しいものじゃないよ。自信がなくなるかもしれない。もしかしたらガンプラそのものを嫌いになることだってあるかもしれない。それでも戦う覚悟はある?」
ガンプラバトルは生易しいものじゃない。
それだけは。
それだけは、どうしてもミカさんに知っておいてほしかったんだ。
──それでも。
「大丈夫。わたしは勝つよ、レイくん。レイくんのために、レイくんのお嫁さんに……レイくんの隣に立つのに相応しい女の子になるために、わたしはここに立ってるんだから」
ミカさんは、そんな恐れを踏み倒すように、楚々とした笑顔を浮かべてみせた。
昨日は体調不良で投稿できずにすみませんでした