ガンダムビルドファイターズ A/B   作:守次 奏

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紅の新星

「と、いうことで……悪いな、イオリ。クレダさん。今回はうちの部長と戦ってもらう予定だったんだが……」

「マトイなら放っておけ、アクノ。今更新入部員の少年に一目惚れして個室でイチャイチャぬくぬくするなど……ガンプラファイターとしての覚悟と気概が足りておらん!」

「あの人、深刻な年下趣味ですからね」

 

 きっ、とへの字に唇を結んで、黒髪を飾り気のないポニーテールに結えた先輩が言った。

 昼休み、約束通りに俺はミカさんを連れてガンプラバトル部の部室を訪れていた。

 地方大会に向けたスパーリングのためだ。

 

 アクノくん曰くガンプラバトル部の部長をやっている人は世界レベルで強いとかなんとか、そんな話を聞いている。

 そんな人が来なかったのは、正直残念ではあった。

 だけど、その代打として連れてこられたのであろうポニーテール先輩が決して劣るわけじゃないことは、一目見ればすぐにわかった。

 

「……こほん。そういうわけで君たちの対戦相手を務めることになったシグレ・ツバメだ。ダメージレベル設定はCにしておくが、本番同様の気持ちでかかってこい」

「ふーん、結構強そう。でも、わたしも花嫁修行で戦い方はいっぱい学んできたから、負けないよ!」

「その心意気や善し! さあ、イオリ生徒。アクノ、ジャッジを始めてくれ!」

 

 ツバメ先輩は、びしっ、と人差し指を俺とアクノくんに突きつける。

 戦う前からやる気満々って感じだな。

 常在戦場ってやつだろうか。

 

 ツバメ先輩から受け取ったガンプラをチェックする。

 変なところはどこにもなく、かなり作り込まれて──オープンコースでも通用するのは間違いないレベルの出来だった。

 ベースはGNフラッグだろう。

 

 本体に大きな改造は加えられていないけど、その背中には、トールギスⅢのスーパーバーニアとメガキャノンを装備していた。

 なるほど、「そういう」タイプのガンプラか。

 例に漏れずこの手の戦いは、雑に足が速くて雑に強い弾を出せて雑に強い格闘を振れる、言ってしまえば、全能機が環境を支配する。

 GNフラッグと、トールギスⅢというピーキーな機体同士を掛け合わせることでの強襲能力を活かした早期決着。

 

 それが、ツバメ先輩の目論んでいることだろう。

 

「確認しました、ガンプラに異常及び不正はありません」

「こっちも確認完了だ、イオリ。異常と不正はなかったよ」

 

 アクノくんはミカさんに、俺はツバメ先輩にガンプラを返す。

 この戦いの立会人として、見極めなければいけない。

 ミカさんの覚悟と強さが本物なのかどうか、あの日、俺を──再びガンプラバトルに駆り立てた情熱の真価を。

 

『Beginning Plavsky Particle Dispenser』

『Field Name:City』

『Battle Damage Level Set to "C"』

『Please, Set Your GUNPLA』

『Are you ready?』

 

 活性化したプラフスキー粒子の蒼い煌めきが、バトルシステムから溢れ出す。

 ここまできたら、もう後戻りはできない。

 あとは、どちらかが倒れるまで、本気の戦いが待っているだけだ。

 

「クレダ・ミカ!」

「シグレ・ツバメ!」

「ガンダム・アルティール!」

「フラッグ・ライトニングヴィント!」

『行きます!』

 

 二人の声が重なり合って、互いのガンプラがバトルフィールドへとエントリーする。

 今回選ばれたステージは市街地だ。

 身を隠す遮蔽物が多く、近接武器しか持っていないミカさんには結構な不利がのしかかってくることだろう。

 

 それを当然、ツバメ先輩は見逃さない。

 

「悪いがこの勝負、早期に決着をつけさせてもらう──遊びでやっているのではないのでな!」

 

 背中に移植されたトールギスⅢのスーパーバーニアが展開し、凄まじい直線加速でフラッグ・ライトニングヴィントが市街地を突っ切っていく。

 

「なんて加速力だ……! それに、あの速度を出して建物に一回もガンプラをぶつけていない! 操縦が緻密すぎる!」

「そりゃあ世界大会三連覇がかかってるからな、高等部は。世界を目指すつもりなら、いいスパーリング相手だろ?」

 

 眼鏡のブリッジを持ち上げながら、アクノくんはニヤリとした笑みを浮かべた。

 本音を言うなら、俺はミカさんを応援したい。

 ミカさんが俺をもう一度連れ出してくれたから、ガンプラバトルの楽しさを、思い出させてくれたから。

 

 だから、負けるにしたって、トラウマになるような負け方はしてほしくないと、そう思っていたところだった。

 

「──抜刀」

「なにっ!?」

 

 突如として飛んできた「なにか」に対して、ツバメ先輩は機体をフライトポジションに可変させることで上空へと退避する。

 あの速度で突っ込んでいながら、なんて冷静な判断力なんだ。

 でも、あの技は一体。

 

「ガンプラバトルに一番大事なのは愛と勇気。言い換えるなら、『どんな攻撃が飛んできても怯まない』心意気じゃないかなっ、先輩⭐︎」

 

 てへぺろ、と赤い舌を覗かせてミカさんが微笑む。

 ガンダム・アルティールと名付けられたジリウスのカスタムモデルは、サイドアーマーにマウントしている日本刀型の武器に手をかけて、居合の構えをとっていた。

 これはもしかしたら、もしかして。

 

「粒子変容による、『飛ぶ斬撃』……!」

「うん。第七回世界大会のアーリージーニアスと彼のガンプラ、戦国アストレイは有名だったでしょ? まさか、ただの小娘がここまでできるわけがないとか──舐めたこと、考えてないよね?」

「ほざけ……だが認めよう。私は貴様を侮っていた、クレダ・ミカ生徒。だが、虎の尾を踏んだ今──生きて帰れるとは思うな!」

 

 ミカさんが再び飛ばした斬撃を、目にも止まらないスーパーバーニア捌きで回避しながら、ツバメ先輩はメガキャノンを散発的に発射した。

 どれもガンダム・アルティールに対して直撃はしていない、ただの牽制といった風情の攻撃だった。

 だけど、裏を返すのなら、それで十分だということでもある。

 

「斬撃を飛ばす領域まで粒子変容を使いこなしていることは褒めるに値する! だが、所詮は一回きりの初見殺し! 足を止めて撃たなければいけない技で、私とフラッグ・ライトニングヴィントが捉えられるものか!」

「わーお、出力を絞っての足止め……本気じゃんね」

「そして、クレダ生徒。貴様が隠し芸を見せてくれたお礼をしよう……覇ァッ!」

 

 俺もそのとき、なにが起きたのかわからなかった。

 クロスレンジまで距離を詰めていたフラッグ・ライトニングヴィントが一瞬にして、ミカさんが操るガンダム・アルティールの背後に回り込んでいたのだ。

 スーパーバーニアによる急加速の応用だとは思う。いや、まさか。

 

「シグレ一刀流、炎の型! 受けてみよ!」

「っ! やるっ!」

 

 背後に回って、ツバメ先輩はフラッグの腕部に収納されているプラズマソードによる刺突を披露した。

 だけど、ミカさんの反応も極めて鋭かった。

 鞘から少しだけ引き抜いた刀でその一撃を受け止めると、脚部から発振したビームサーベルによる蹴りを試みたのだ。

 

「ッ……!?」

 

 プラズマソードの刀身が、ビームに焼かれて砕け散った。

 この戦いでツバメ先輩は一つだけミスを犯した結果といえる。

 でも、既にそれに気づいていなかったら、うちのガンプラバトル部、高等部は世界大会三連覇を視野に入れてはいないだろう。

 

「この私が相手を見誤るとはな……屈辱! しかし、勝利はいただかせてもらうぞ、クレダ生徒!」

「望むところじゃん、ね!」

 

 近接戦では互角以上と見るや否や、今度は引き撃ちに徹して、弾幕を張りつつアルティールを近づかせない。

 この切り替えの早さもまた、世界レベルの戦いには求められる力だ。

 ミカさんはメガキャノンの雨霰を回避しつつ、「飛ぶ斬撃」を放った。

 

 だけど、それは虚しく空を切るばかりだ。

 恐らく、ツバメ先輩の狙いは、ミカさんが飛ぶ斬撃を連発することで粒子残量が尽きてしまうことだろう。

 ツバメ先輩のフラッグも決して燃費はいいと言えないビルドだったけど、粒子変容技術というのはそれぐらい、機体が持つプラフスキー粒子を消費するのだ。

 

「むぅ……逃げ回ってばっかりでつまんない! 先輩に誉れはないの?」

「笑止! 誉れとはどんなことをしてでも勝ち抜いた先にあるものだ!」

「部長さんには負けちゃったのに?」

「盤外戦術で我が心を揺さぶるつもりか、小癪な!」

 

 ミカさんの煽りにも乗ってくれない辺り、ツバメ先輩は完全に戦いと私情を切り離すことができている。

 

「それに、そっちだってもう粒子残量にそこまで余裕ないんじゃない? さっきの技……ワンセコンドトランザムでしょ!」

「ほう、見抜かれていたか」

「わたし、花嫁修行でガンダムは全シリーズ履修済みだから……ね!」

 

 なるほど。

 さっき、背後に回り込んだカラクリは、スーパーバーニアの加速力と、一秒だけ発動したトランザムの合わせ技か。

 それなら納得がいく。でも、それは言い換えるなら、トランザムの発動という切り札を、ツバメ先輩はまだ残しているということだ。

 

 スーパーバーニアとトランザムの加速力がかけ合わされば、最早目で追いかけることすら困難な怪物の誕生だ。

 そうなる前に倒すか、あるいは。

 ジャッジとして口は出さないけど、俺は「自分だったら」を脳内に描きつつ、ミカさんをじっと見る。

 

「大丈夫だよ、レイくん! わたしね、負けないから!」

「その気概や善し! ならば、慢心ではなく乾坤一擲としてこの私の本気をご覧に入れよう! トランザム!」

 

 ──来た。

 

 フラッグ・ライトニングヴィントのロービジカラーが赤熱化するように変容し、スーパーバーニアが、架空の空に流星の軌跡を描いた。

 俺でも、目で捉えるのが精一杯だ。

 そこから出力の上がったメガキャノンやらなにやらを乱射されては、アルティールも蜂の巣になりかねない。

 

 どうするんだ、ミカさん。

 

「っ、すぅー……」

「コォォォォォ……!」

 

 互いに呼吸を整えて、アルティールとライトニングヴィントが機動戦の中で睨み合う。

 フェザーエクステンションを活かした粒子変容による加速だけでは、ツバメ先輩には追いつけない。

 なにを、なにをするつもりなんだ、ミカさん。

 

「……今っ!」

「受けてみよ、シグレ一刀流、煉獄の型──っ!?」

 

 ツバメ先輩が驚愕に目を見開いた。

 アクノくんもしきりにメガネを拭いて、何度もバトルフィールドを覗き込んでいる。

 気持ちはわかる。両者が激突すると思われた瞬間になにが起きたのかを、俺でさえも見逃していたから。

 

 でも。

 

『Battle Ended!』

 

 そこにあったのは、フラッグ・ライトニングヴィントの背後に回り込んで刀をコックピット部分に突き入れている、ガンダム・アルティールの姿だった。

 戦いは、ガンプラの出来だけで決まらず。

 戦いは、ファイターの技量のみで決まらず。

 

 ──ただ、結果だけが、真実だ。

 

「やったぁ! わたし、勝ったよ! レイくん! 褒めて褒めて!」

「お、おめでとうミカさん……でもこんな公衆の面前で抱きつくのはやめようか」

「……ちゅーっ」

「!?」

 

 ごく当たり前のことを注意したはずなのに、ミカさんは不満そうに頬を膨らませて俺の唇に自分の唇を押し当てて、吸い付いた。

 

「……もう。わたし、明日から一週間ぐらい学校休学するんだから、褒めてくれたっていいのに」

「きゅ、休学? また急にどうして……地方大会に出るんじゃないの?」

「それはね、もちろん──乙女の秘密。でもね、レイくんにとっても、悪い話じゃないよ。一週間だけ待っててね。ちゅっ」

 

 ──それじゃ、アルティールの試運転も終わったし、帰ろっか。

 

 ミカさんは上機嫌そうに微笑んで俺の頬にキスをすると、二の腕に自慢のでかい胸を押し付けながら頬擦りをしてくる。

 や、やめてほしい。

 嬉しくないわけじゃない、むしろ嬉しい、でもミカさんのアプローチが積極的すぎて、俺の脳がついていかないんだ。

 

「待て、クレダ生徒、イオリ生徒」

「ツバメ先輩?」

「むぅ……今更負け惜しみ?」

 

 部室を後にする俺たちを呼び止めたツバメ先輩はごそごそと制服のポケットを漁ると、炎を模ったブローチを手のひらに乗せた。

 

「クレダ生徒、君には私を敗北させた証としてそのブローチを受け取ってほしい」

「わぁ、綺麗! でも、もらっちゃっていいの?」

「構わない……そのブローチは、我が校が初めてガンプラバトル部が世界大会制覇を成し遂げたときの記念品。そして、我が校が輩出した最大の偉人に準えて、クレダ生徒をこう呼ぼう! 『紅の新星』と!」

 

 ツバメ先輩の宣言に、ギャラリーがわっと歓声を上げた。

 少なくとも、ミカさんとアルティールは、世界に通用すると認められたということだ。

 俺もどことなく、自分のことじゃないっていうのに嬉しくなってくる。

 

「精進しろ、クレダ生徒。世界の壁はまだまだ高いぞ」

「うん! レイくんと結婚するためなら、世界だってなんだって、わたしは手に入れちゃうんだから!」

 

 得意げにピースサインを作って、ミカさんはツバメ先輩へと掲げてみせた。

 結婚かぁ。

 いや、いくらなんでも結婚願望強すぎない?

 

 このままだと本当にそうなりかねないな、と苦笑しつつ、俺はガンプラバトル部の部室を去った。

 アクノくんが「この流れなら俺たちもあまり者同士でワンチャンないですかね」とかツバメ先輩に持ちかける声が聞こえた。

 その直後には、当然の如く「馬鹿者!」という一喝が飛んでたけど。




ギスとフラッグを足した機体が変形ムーブとSBで空を舞う悪夢
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