なんか指名手配犯になってるんですけど!?   作:ジジ

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気づけばたくさんの方に評価とお気に入りに登録が!ありがとうございます。

それと、作者の確認不足で既存キャラに『ヒナタ』がいることを失念していました。
別に同名でも大丈夫かとも思ったんですが、少しややこしくなるかなと思い、主人公の名前を空崎ヒナタ→空崎ヒナトに変更します。二話目で気づけてよかった(ボソッ)


第二話

 

 

 

 

 

 僕は特別な人間などではない。

 ただ、特別な妹の兄であるだけだ。

 

 

 改めて自己紹介がてらに僕の生い立ちについて話そうか。

 僕の名は空崎ヒナト。転生者だ。とはいえ前世の記憶は朧げだし、死因すらも覚えていないけど、おおよそ一般的な生活を送っていたように思う。

 そんな平々凡々な人間であるわけだが、唯一にして絶対的な特権ともいえる特性──前世の知識の引き継ぎにより、この世界の正体を看破することができた。

 

 【ブルーアーカイブ】。キヴォトスという学園都市で先生(プレイヤー)たちと共に苦難を乗り越えていく青春学園RPG。そんなゲームの世界に紛れ込んでしまったらしい。

 そのことを自覚した時はまさに狂喜乱舞。体も小さく、まだ首も据わっていないのに小躍り出来そうなほどに舞い上がっていたのは言うまでもない。

 しかしそれも仕方のないことだった。何故なら、僕はブルアカの元ユーザー兼ファンであったからね。

 キャラに、ストーリーに、ゲーム性に、世界観に魅了された。ありとあらゆるものがクリティカルヒットするゲームと出会えることはそう多くはない。案の定、ブルアカは僕の人生に潤いを与えてくれた。

 

 そして更なる衝撃的な事実が発覚。なんと僕の妹があのヒナちゃんだったんだよね!!!

 ブルアカプレイヤーなら誰もが知っている子だ。キヴォトス最強と名高い生徒でありながら、その実とても繊細で甘えたがりな小さな女の子。そしてメモロビから垣間見える先生に対する尊い想いに心臓を撃ち抜かれたプレイヤーも多いことだろう。ぶっちゃけ『ヒナちゃんLOVE勢だよ〜』って人は正直に手を挙げなさい。大丈夫、僕もその一人です。

 いやね、ほんま可愛い。マジ可愛い。語彙力が喪失するぐらい可愛い。画面から見ても可愛いと思っていたけど、実際にリアルで見るとまさしく天使級の可愛さよ、おぉん。

 まさかゲームの画面でしか接することの出来なかった子がこんなにも間近で、しかも同じ血縁を持って共に過ごせるなんて一体どんな確率なのか。

 ヒナちゃんが妹だと気づいた時点で転生者あるあるの『新たな世界への不安』とか、その他一切合切の不安材料が全部なくなったね。いやだってさ、ヒナちゃんのお兄ちゃんになったんだよ?前世のこと考えてる暇なんかある???

 

 そんな感じで、この大好きな世界で愛しの妹と共に第二の人生を謳歌するぞ〜!……と思ったのも束の間、あることを思い出して盛大に萎えた。

 というのも、このゲーム。青春学園RPGを謳っておきながら、いつ滅んでもおかしくないというシリアス度強めで構成された世界観なのである。

 ほんのちょっとした選択肢を間違えるだけで世界はおじゃん。生徒の命もグッバイ。主人公がいれば大丈夫?その法則はこのゲームには通じない。実際滅んでるシーンも見たことあるし。

 つまるところ、たとえ先生が無事に来たとしても、この世界や妹をはじめとした生徒たちが無事であれる保証はどこにもないのである。

 

 しかし、原作改変をしようなんてこれっぽっちも思わなかった。

 だって、(前世)は平々凡々な暮らしをしていた一般精神チキンハート野郎。到底そのような大挙を行える度胸なんてものはないのである。

 それに、僕は先生や生徒たちとは違って、何かを変える覚悟も、改変したことでバッドエンドになってしまった時に彼女たちの人生に対して責任を取ることも、その度胸すらもないのは誰よりも理解しているから。

 

 しかし、転生したばかりの僕は転生バフもあってか妙に頭が冴えていた。僕はとある名案を思いついた。

 『せや、僕が直接関わるんじゃなくて、元からこの世界に存在するモブ生徒や敵対していた生徒たちに先生に協力してもらえるよう頼み込めばいいじゃん』って。

 ブルアカは先生やメインキャラ──所謂、ネームドキャラだけで成り立っているわけでなく、数多くのモブキャラがこの世界に存在している。ゲームでは使用上ネームドキャラが目立ってしまうが、ゲームではなくリアルになったこの世界では、きっとネームドキャラより敵対しているモブ生徒たち──不良生徒とか──の方が割合的に多いのだろうと考えた。彼女たちから助力を願えるのなら、戦力増強だけでなく敵勢力の減少も狙える、まさしく一石二鳥の策であったと思う。

 原作を大幅に変えるのではなく、影から些細なサポートが出来るようにすること。それが僕の行き着いた答えだった。

 

 計画は順調だった。

 各地を回りながら不良生徒がいそうな場所に印をつけていった。将来スカウトするために訪れるためのメモにね。

 ぶっちゃけ自由研究をやっているみたいで超楽しかった。それに各地域を回っていたおかげか僕のことを友達と呼んでくれる子もたくさん出来たし、旅行──もとい聖地巡礼も堪能できたし。

 

 結果的には結構な人数の人が参加してくれそうだよ。正確な人数は覚えてないけど。

 遠回しに『ボランティアやりませんか〜?』って誘ってたらいい感じに集まったんだ。やっぱ根はいい子ばかりなんだよね〜、キヴォトスの不良の子たちは。

 

 あとは僕の意思をこの子たちに託して、僕は原作が終わるまでひっそりと身を隠し、影からブルアカのストーリーを遠くから見守っていく手筈。これが僕の考えた最強プラン!

 

 そう、僕の未来は頭上で輝く一番星のように照り輝いていた筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────まぁ、その星も手配書に顔写真を貼り付けられたせいで真っ逆さまに墜落したんですけどね。

 

 

 「う〜〜ん、どこからどう見ても僕の手配書だ」

 

 先生との邂逅から一週間。現在、僕専用の執務室で何度も何度も自身の手配書を見てため息を吐いていた。

 一週間前、ようやく先生(推し)に会えて幸せの絶頂期にいた筈なのに、わずか数日で絶望の底に叩き込まれた。気持ち的にはさながら明智光秀の三日天下だ。まさか別世界で古の偉人の心情を察することが出来るようになるとは、このリハクの目をもってしても(re

 

 あぁ、しかし困った。本当に困った。これではまともに生活出来やしない。

 確かに原作から離れて暮らしていくつもりではあったよ?まさか強制的に社会から切り離されるなんて微塵も考えていなかったけどね。流石にそこまで離れるつもりはなかったんだけどなぁ……

 

 

 ───コンコンコン

 

 

 現状に嘆き机に伏していれば、控えめながらに自己主張には充分なノック音が三回鳴る。

 脊髄反射でパパッと体を起き上がらせ入室の許可を与えれば、「失礼します」と聞き馴染んだ声と共に扉が開け放たれた。

 

 「おはようございます、ヒナト」

 

 ベレー帽を脱いで華麗に朝の挨拶をする華奢な少女。彼女の名はニヤニヤ教授。ウチの頭脳担当であり、長年お世話になっている偉大な同胞である。多分今いるメンバーの中でも最も古い間柄ではないだろうか。

 しかし、改めて見なくても本当に可愛いなちくしょう。もう何度も対面しているのに緊張が止まらねぇゾ。

 

 ふぅ、よし。今日こそ彼女に普通に朝の挨拶するのだ。せめて二行以上の言葉を紡ごう。うん、大丈夫。いける。漢を見せろ空崎ヒナト!!

 

 

 「…………おはよう、教授」

 

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!全ッ然ダメだった〜〜〜〜ッ!!!!

 

 そう、僕こと空崎ヒナト(チキンハート野郎)()()()の前に立つと露骨に口数が減り無愛想になるのだ。これは彼女たちのことが苦手とかそういうわけじゃなくて、ただ単に緊張からくる弊害だと思ってくれて構わない。まさか何よりも大好きな世界が僕にとって最も生きにくい世界だったとは思わなんだよ。

 それに、顔面も固定化されてしまうらしく、常時微笑みフェイスになってしまうのだ。常に笑っているから不気味がられてないか不安なんだよね……

 

 ニヤニヤ教授は僕の顔を見て数度瞬き、微笑みを携えていつものように定位置の席へと足を進め……進め……あれ、通り過ぎちゃった。というかこっち来て────

 

 「少し失礼しますね」

 

 僕の席の前にやってきたかと思えば顔をガシリと掴んで彼女の胸元まで引き下ろされる。

 あまりにも突然の行為に脳停止。次第に事のヤバさを意識していく。何がやばいってめっちゃいい匂いするしなんか柔らかいし何より目の前に彼女のご尊顔とお胸ががががががが……!!

 

 「ほむ、目元に隈が出来ていますよ。また寝ていないのですね。無理は禁物だと何度も言ってきたつもりですが?」

 

 目元をなぞられながらそう言われた。

 いやはや、指名手配されたあの日からどうにも寝付きが悪くてね……

 

 「……教授?」

 「えぇ、分かっていますとも。あなたが言わんとすることは、全て理解しています」

 

 えっ、まだ何も言ってないんだけど……

 

 「ですが、それで体を壊してしまったら元も子もありません。休めるときはきちんと休んでください。良 い で す ね ?

 

 前よりほんの少し力強くなったかな?頬から鳴ってはならない音がギチギチと聞こえるんだけど。

 とはいえ彼女の言い分はごもっともで、というか100%正しいので大人しく頷けば、ようやく顔を離してくれた。

 良かった、どこも凹んでいないっぽい。

 

 先ほど人ひとりの顔を潰しかけていたことなど露とも知らぬとばかりの態度で、いつものように微笑を浮かべるニヤニヤ教授はトテトテと部屋の端に行き、カップを二つほど用意して手際よく紅茶を作成し、その片方を僕に差し出してくれた。甘い柑橘系の匂いが部屋中に充満する。

 これも彼女の朝のルーティンで、僕はそのお裾分けをもらっている形だ。まるでヒモ(寄生虫)である。

 

 「ありがとう」と一言感謝を告げ、彼女から出来立ての紅茶を頂くと、すぐに喉へと通す。

 うむ、美味い!!!*1

 

 「そういえば、今朝急報で届いたカイザーコーポレーションに関する特秘の情報についてですが───」

 「それって僕が聞く必要あるの?」

 

 僕が聞いても何も意味ないよ。だってそんな重要そうな情報聞いてもどうやって処理すればいいか分かんないもん。

 そんな意味を込めて聞き返せば、彼女の顔はやけに神妙じみたものとなり。

 

 「やはりすでに聞き及んでいましたか……いえ、その通りでしたね。愚問でした」

 

 愚問!?そこまで言うかね!?いや、実際その通りすぎて涙が出てきそうだけどさ。

 

 「それにしても意外です。まさかあなたがそこまでご自身の写真映りに厳しい方であったとは」

 

 急に何の話かと思い彼女に視線を移せば何かを凝視しているご様子。その視線を辿れば、そこには先ほどまで見ていた手配書があった。

 なるほど、どうやら彼女は僕が手配書の写真に不満を抱いていると勘違いをしているのだろう。

 確かに不満はある。だけどそれは写真というよりも手配書そのものに、だ。むしろ写真はすごくいいよ。多分プロが撮った写真だねコレ。というかどこで撮ったのこんな写真、撮られた覚えないんだけど……

 

 「いまやキヴォトス中の話題はあなたのことでもちきりですよ」

 「……そっか。初めて知ったよ」

 「ニュースはご覧になられていないので?」

 「あまり唆られるものでもないからね」

 

 誰が好きで自分が犯罪者になったことを嬉々として伝えるマスコミなんか見たいと思うんですかね。

 ここ最近はスマホも電源を切って封印している。外だって出ていないしテレビだって付けていない。あれもこれも全ては自分に関する情報から逃げるためだ。だというのに、まさか身内から予想外の一撃を貰う羽目になるとは……

 

 「それと、話題になっているものといえばもうひとつ………いえ、もう一人と言えばよろしいでしょうか」

 「…………先生か」

 「はい、その通りです。連邦生徒会長が残した置き土産でありながら、あなたが焦がれに焦がれ続けていた()()()。実際どのような人物だったのか、直接ご対面したヒナトからお聞きしたいと思い」

 

 待ってましたと言わんばかりに、パンっと両の手のひらを合わせる教授。

 何故か異様にテンションが高いことが気掛かりだが、彼女もまた先生のサポートボランティア部の一員。気にならないわけがないだろう。

 しかし、どんな人だった、か。確かに数分間話すことはできたけど、されどたった数分。そんな短い時間で人物像を全て把握できるような人間ではない。

 ただ、僕が思った率直な意見を話せば───

 

 

 「……まぁ、()()()()()()()()()だったね」

 

 

 まさに生徒想いで優しそうな先生だった。未来で生徒の足を舐め回す変態になるとはとても思えない程に理想的な人であった。

 ワカモに引っ張り出された形でご対面したわけだが、先生の人となりを多少とはいえ理解出来たから結果的には行って良かったのかもしれない。

 

 しかし同時にこの忌々しき手配書が脳裏を過ぎる。あの瞬間までは幸せだったんだ。あの瞬間まではね!

 あぁ、出来ることならやり直したい。もう一度先生と和気藹々としていた*2あの日まで戻りたい。あれ、なんでだろう、目から汗が……

 

 ニヤニヤ教授は僕の顔を凝視しては「そうですか」とただ一言。その後無言が続く。

 …………え、君から聞いといてそれだけ?なんか素っ気なくない?僕的にはもっと興味持って欲しいな〜なんて……

 

 結局その後も先生の話題は出ることなく、僕は散歩と称してそのまま部屋を出た。

 ずっと座りっぱなしはよくないしね、たまには動かないと。だから『無言の空間ってなんか気まず』なんてこれっぽっちも思ってないよ?…………ホントダヨ?

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 『僕は救世主を待っているんだ。捻れ歪んだ世界を糺すメシアを、ね』

 

 闇夜に浮かぶ満月を背に、彼は言霊を紡ぐ。

 白銀の世界を押し込み、凝縮したかのような銀髪。人の心を見透かすようなアメジスト色の瞳。背筋に薄寒さを覚えるほどに整った顔立ちは、まるで固定されたかのように微笑みが貼り付けられている。

 

 『ほむ、珍しく自分から口を開いたと思えば随分と奇怪なことを仰るのですね。しかし、その救世主なる存在があなたがずっと探し求めている人物ということでよろしいのですか?』

 

 彼は穏やかに頷く。

 彼が誰かを待っているのは知っていました。しかし、それが一体誰のことを指し示すのか、これまで語ってくれませんでしたが……

 

 『救世主、ですか。何故そのような存在を求めるのですか?』

 『世界の救済のため、ひいては未来のためかな。この世界はあまりにも()()から』*3

 

 言葉足らずかつ曖昧な言葉。しかし、長年連れ添ってきた私であれば理解できる。彼はよく旅行と称して各学区の不良生徒の溜まり場へと赴いていた。それらの行動が意味するもの。それは……

 

 そう、彼が指し示す“脆さ”。つまりそれはこの社会の在り方そのものなのでしょう。

 

 彼と共に表と裏の世界で生きていけば、嫌でもこの世界の闇を直視します。

 例えば不良生徒の実態、大人による搾取、そして連邦生徒会の癒着。このように、この世界の闇は枚挙にいとまがない。また、長年に渡りこれらの問題は放置されてきた。誰も糺さず放置してきた結果、キヴォトスという小さな箱庭は燻り続けるヘドロに満ちた坩堝と化していました。

 しかしそれは仕方のないこと。何故なら、この現状こそがこの世界が良しとした社会の在り方なのだから。

 嗚呼、だからこそ、彼は“脆い”と感じたのでしょう。いつ崩れてもおかしくない社会の構造に、彼は憂慮を抱いていたようです。

 

 『あなたが救世主になればいいでしょう』

 『僕には荷が重いよ。それこそ、もし成るなら(原作の)()()()以外ありはしない。救世主なんて大それた役はあの人にしか担えないよ』

 

 ……随分とその人物を評価しているようで。

 

 『ならば、その人物が救世主として至らない人物であったらどうするのですか?』

 『───それは……』

 

 何かを言いかけて口を噤んだ後、まるで夜の散歩に出かけるような気軽さでこう告げた。

 

 

 

 

 

 『もし相応しくないとしたら、それはもうしょうがないから、他の誰かが世界を救う他ないよね』*4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……懐かしいですね」

 

 いまや部屋の主がいなくなったソファーの上で、紅茶を片手に独り呟く。

 古い記憶を見た。何故今になって思い出したのか、それはきっと彼の表情を見てしまったから。

 

 

 ────あんな表情、初めて見ました。

 

 

 先ほど、先生について問いかけたときに見せてくれた彼の顔を頭の中で何度も反芻する。あまりにも哀しく、泣いてしまいそうな程に悲嘆で歪められた顔を。

 彼との付き合いは長い。それこそ、第二次性徴期を迎える前からの付き合いです。だからこそ、出会った頃から不変だった微笑みの仮面が崩れた瞬間を目撃して、喜びよりも驚愕が胸中を占めた。

 

 彼がずっと誰かを待っていたのは知っていました。そして、ここ最近の動きと、連邦生徒会の隠し玉──先生なる者との邂逅。

 きっとあの者が彼が待ち焦がれ続けていた人物なのでしょう。

 しかし、そんな相手と対面してもなお、あのような哀しい笑みを浮かべた理由として、考えられることはひとつだけ。

 

 

 ────()()()()()()()()()だった、かな

 

 

 「…………彼にとって先生は想定よりも()()()()()()()()のですね」

 

 彼はかの存在に立ち会えることを心の底から楽しみにしていました。それ故に、期待はずれだった虚しさもまた大きいのでしょう。

 かの存在は、言葉通り彼にとって思っていた通りの人物であっただけで、()()()()()()()()()()()()()()()のだから。彼が求めていたのは、自身の想定を大きく上回れる存在であった───あの哀しみに満ちた表情がそれを教えてくれています。

 

 あぁ、彼の心中を察すると胸が痛みます。ずっと待っていた人物は救世主たる器ではなかったのですから。

 

 ただ、しかし、嗚呼それでも。心から湧き上がってくるこの感情は────

 

 

 「───んふっ……ふふっ、ふふふっ……!」

 

 

 喜び。喜悦、愉悦とも言える感情が胸中を支配する。笑みが止まらない。まるで堰き止めていたナニカが溢れ出るように、一斉に外へと排出されている。

 えぇ、えぇ、そうですね。認めましょう。私は心の底から喜んでいます。体の芯から打ち震え、これ以上ない程に喜悦を噛み締めています。

 

 

 なにせ────ようやく彼の心からあの存在(アレ)が消えてなくなってくれるのですから。

 

 

 「では、彼は選んだというわけですね。世界を糺す(救う)ためのもうひとつの道───破壊者となる道を」

 

 既存の秩序を破壊し、新たな秩序を創成する───それが()()()()()()()()()()彼が選ぶ道。

 

 もとより、彼が救世主になろうと破壊者になろうとどちらでもよかったのです。世界の救済なんてものも欠片たりとも興味はありません。ただ、彼が歩む道に興味があるだけ。彼と共に歩めればそれで良いのです。

 ───それがたとえ世界を壊すことに繋がろうとも。

 

 「ほむ、ではまず各部隊に彼の総意を伝えなければなりませんね。ひとまずの標的は───先生、でしょうか」

 

 期待していた彼にとって、かの存在が役不足であったことは悲報以外何物でもないでしょうが、私にとってはこれ以上ない朗報だった。

 何度も何度も、彼の口から出てきた存在。初めて彼の表情を動かした存在。長きに渡り彼の心中を埋めてきた()()()()()()

 ずっと彼の頭から消したくて仕方がなかった。記憶から消せぬのなら、その存在そのものを消したいと心底願い続け………そして今その宿願が果たせる機会が訪れた。

 

 「楽しみですね、ヒナト。私とあなたで作る世界が……!」

 

 馴染み深いソファーにゆっくりと背凭れをかける。紅茶はすでに冷めきっていた。

 

*1
炎柱

*2
ヒナト視点

*3
ゲマトリア&赤い空&『驕るなー!』集団を思い浮かべながら

*4
他人任せ




【空崎ヒナト】
勝手に世界の破壊者にされそうな哀れなヤツ。ただ、明らかに自分の発言のせいなので残当。
常に微笑みを絶やさず、見れば実家にいるような安心感があるとまで評判の彼の笑顔。しかし、その真実は同年代の女性の前に立って緊張している男が編み出した自己防衛であった。笑顔の本来の意味は威嚇定期。
ニヤニヤ教授にイタズラを受けることも多々あり。その度にキュン死しかけているのは言うまでもない。

【ニヤニヤ教授】
チームの最古参メンバーであり、ヒナトの右腕。遠回しにではあるが、長年に渡り先生の自慢話を聞かされてきたせいで大の先生アンチと化してしまった哀れな少女でもある。
ヒナトが口足らずなのは理解しており、彼の真の理解者であると自負している彼女は正々堂々と彼の心意を周囲に伝達する。なお殆どが彼の心意とは真逆である。
彼らの出会いはいつか書くかも……いや書かないかも……
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