イントロが鳴った 作:バンドものはエエゾ!エエゾ!
自分らしさって何だろう?
どういう勉強をすればそれらは聞こえるようになるのだろう
『どうせなら文化祭では一曲オリジナルをやりましょう!』
初めての顔をあわせとなったスタジオ練習のあと、ファミレスでの打ち上げ途中で草野さんはまるでご飯でも食べに行こうという位の気楽さでオリジナル曲という話を持ち出した。
オリジナルつまりは既に世に出ている楽曲ではなく、作詞も作曲も全て自分達で行った僕達だけの曲。僕達の僕達による僕達のための音。……正直なところワクワクしないかと言えば嘘になる。僕だってベーシストの端くれだ、バンド活動にだってずっと憧れてはいた。まあ、ずっと日和って10年近くロンリーベーシストだったわけだけど……。
んんっ!夢見ていたバンド活動、言わずもがなその中にはバンドオリジナル曲の演奏というものも当然含まれている。カバーをするのが悪いってわけじゃないし、人気がある有名な曲の集客力というものは言うまでもなく強力だ。無名の学生バンドの知らない曲をいきなり聴かされても誰だって困ってしまう。知られている、聴かれたことがあるというのはやはりシンプルに強い。
どれだけ良いものだろうと聴いてもらわないと評価はされない、良い悪いという評価をされるまでがそもそも大変なのだ。これはどんな分野でも頷く人は多いと思う。
……僕のチャンネルも上手い下手とかの話じゃなくて、先ず以て反応がなかったからね。聴いてもらう大変さ、そのことは草野さんもよくわかっているのだろう。
『お前まさかセットリスト全部オリジナル曲でいこうとか言うんじゃないだろうな?』
『まさか。流石に初ライブそれも高校の文化祭でそんな挑戦的なことしないわよ。音楽にあんまり興味ない人間が、聴いたこともないオリジナル曲聴かされても盛り上がらないでしょ。あくまでセットリスト三曲のうち一曲オリジナルをやりましょうってだけよ。それ以外の二曲は最近流行りの学生が好きそうな曲で埋めるわ。その方が皆も盛り上がるでしょうし。……いやもう、折角だから全曲オリジナルやってみるのも逆に面白い?』
『マジでやめろ!学校で人気者のお前が楽器弾いてれば、どんな曲演ろうがそれなりには盛り上がるだろうが。絶対頭に?マーク浮かべられながらの微妙な空気感になる』
といった感じで最後に崎山君からのストップが入ったものの、自信の塊のような彼女でも流石に全曲オリジナルという暴挙は踏みとどまっている。
…にしてもあの言い草やろうと思えば三曲とは言え全曲オリジナルでリスト組めるって言ってるように聞こえるんだけど、流石にそれはないよね?よね??
そんなことを考えながら過ごすこと一週間と少し、あれからグループライン(当然これにも草野さんに勢いでごり押しされていれられた。)でも、オリジナル曲に関するこれと言った続報はなかった。まあ、オリジナルがそんなに簡単に作れた苦労はしないよね。僕達の初ライブとなる文化祭は夏休みが明けた9月頃って話だし、まだまだ十二分に時間はある。今月中にデモ音源が出てくれば、そこから各パートのアレンジや練習を考えても余裕を持って完成させられるだろう。…なんか練習に参加する気満々になってるな僕。
なんてことを思いながら、盛夏の熱気を必死にかいくぐりスタジオに辿り着く。今日は2回目となる顔を合わせての練習、今日は前のようにはしゃぎ過ぎないようにすると覚悟を決めて指定された部屋の扉を開ける。
「とりあえず文化祭用の分は出来たから確認よろしく。これでOKならアレンジとかも考えていきましょうか」
このギタリストは開口一番何をとんでもないことを言っているんだろうか。え?オリジナル曲ってそんなに簡単にできるものなの?まだ、一週間と少しだよ? 早くない?
「鳩が豆鉄砲を食ったような顔ね!まあそれを狙ってたんだけど」
「お前、田村君には連絡してなかったのかよ…」
「サプラァーイズ!」
「うっっっぜ」
「じゃグループに音源あげるから確認よろしくね。田村君」
ほら、早く早くなんてことを草野さんが言ってくるが、ちょっと待って欲しいこっちはまだまだ驚きの渦中なのだ。以前試しにと無料のアプリを落として作曲してみたことがあるが、一週間じゃなーんにも出来なかった。もちろん、知識や経験が足りなかったというのも大きいだろうが、草野さんにそういう知識や経験があったとしても一週間は早すぎじゃなかろうか?…いや、崎山君には事前に連絡があったということも考えれば、もしかしたら更に早いなんて可能性もある。……もはや怖い。
「おーい。田村くーん?」
「種明かしするとなこいつ何曲かは元々オリジナル曲作ってたんだよ、今回のはそれを持ってきてる。だからこんだけ早く上がってきてるんだ」
「あっ、そうなんだ。驚いちゃったよ一週間で完成させたのかと」
「流石によっぽど降りてきてる時じゃないと一週間は無理よ無理。それ作ったときは大体2週間位だったかしら」
うん。それも十二分におかしいと思うんだ。というかなに?降りてきてたら一週間で作れるの?僕のあの苦労は何だったの?
「そんなに驚きの百面相するな田村君。早く作るだけなら誰にだって出来る。問題はそれが曲としてどうかだろ?」
「あんたそれが苦労して曲を作ってる幼馴染みへの言葉なの!?」
「だってお前褒めるばっかりだと調子に乗るじゃん?あれうざいし」
「このノンデリドラマー!」
「お前に言われたら終わりだな」
やっぱりこの二人仲良いなぁ。こういう完成された関係の中に置かれるのって凄い居心地悪いよね。修学旅行のグループ分けでさ皆友達の中にはいちゃった時なんかもう…ね?……もう壁になりたい、ベースを弾くだけの壁です僕は。
「……おい。なんか田村君がまたブツブツと変なこと言い出してるぞ」
「あんたが話を遮るから」
「いや、お前が変なサプライズ仕掛けようとするからだろ」
どっちがというか二人の空気感のせいです。嘘です、すいません。僕がコミュ障なだけです、すいません。
「なんでこの流れですいませんbot再発するんだよ…」
「…とりあえず何でもいいから。さっさと聴いて感想教えてくれる?」
「アッ、ハイ」
もの凄く真っ当な草野さんの言葉に、ようやく正気を取り戻した僕はグループにあげられている音源を確認する。作成期間を聴かされた時は驚いてしまったが、音楽っていうのは早く作れたから凄いってわけじゃない。もちろん、ある程度の頻度で新しい曲を出すことはアマプロ問わず大切なことだ。しかし、出せたとしてもいい曲じゃなければ意味がない。学生それもバンドも組んでいないような人が、一体どれほどの曲を作ることが出来たのか。僕だってそれなりに音楽に関わってきた、作っただけの曲ならはっきりNOと言おう。……やれる範囲で。
「──ッ!」
なんて何様だよと言われそうな気持ちで曲を聴き始めた僕は一瞬でその音に飲み込まれた。短いイントロが終わると直ぐに草野さんの透明感のある声が飛び込んでくる。ギターの高音がその歌に彩りを与え、そしてそれをドラムとベースがしっかりと支える。花形であるギターとボーカルをドラムとベースが支え引き立たせる。スリピースバンドとしてはいわばオーソドックスな形。それでもその音は決して陳腐でもなければありふれてもいない。
「凄い…」
そう呟いた僕の顔をニヤニヤと自慢げな笑みを浮かべながら草野さんがのぞき込んでくる。…正直少しむかつくが、そういう顔をしても仕方がないとも思わされるほどには完成度の高い曲だと思う。これを2週間で作ったというのだから舌を巻く。驚きに包まれたまま僕は草野凜のオリジナルを聞き終えた。
「どうかしら?」
イヤホンを外した瞬間。待ちきれないといった感じで草野さんが感想を聞いてくる。そんなに急かさなくても感想なんか決まっているだろうに。
「良かったよ。」
「そっか…そっか。まあ、当然よね!」
あれだけ自信満々だった割には良かったという感想を聞いた瞬間、随分とほっとした顔をするなと少し不思議に思う。まあ、草野さんだって人の子ということなのだろう。実際に聞くまで確信が持てないというのは分かる話だった。
「ほんとに良かった。草野さんの歌声が良いのはもちろんだし、曲調もキャッチーで流行りの曲って感じがしてこれなら同世代の学生相手にも問題なく受けると思う。」
そんな不安を拭い去ってあげようとより深く思ったことを伝えたその瞬間、僕の思いとは裏腹に草野さんの顔はまるでつまらない曲だと言われたみたいに沈んでいった。
「ごめん……やっぱりこの曲はなかったことにしてもらっていい?」
「えっ?あの」
「はい、この話はここでおしまい!まだまだ私達は練習不足、時間が許す限りとにかく練習よ!練習!」
ほらほらと僕らを急かしてくる草野さん。その顔は普段と同じように笑っていたけれど、何だか焦っているようでそれを誤魔化すための笑顔に見えた。音が一瞬途切れたような、そんな小さな違和感がその笑顔を見た瞬間いやに胸に残った。
「……」
そんな何だか変な空気の中で始まった2回目の練習は僕の不安とは裏腹に順調に進んでいった。耳が良いのだろう草野さんは僕や崎山君の音にも細かくそして的確な注文を飛ばしてくる。合わせれば合わせるほど音が良くなっていくのが分かる。これは間違いなく草野さんがいるからこそのバンドとしての成長速度だろう、歌も歌えて曲も作れてギターも上手い。天才なんて自称するだけの実力を彼女が持っていることは、まだたった2回しか会っていない僕にも理解できた。だからこそ、あの曲への僕の感想に見せたあの反応だけが気にかかる。何か不味いことを言ってしまったのだろうか、そんなことを思いながら練習を終え帰り支度をしていると。
「田村君このあと少し時間良いか?」
恐らく僕以上に彼女のそんな感情を読み取っているであろう幼馴染み。崎山君君からのスタジオ裏に呼び足された。……もしかして処される?うちの幼馴染みに何してんねんわれぇ!的な感じで処される?
「あーそれでだな」
「すんませんしたぁぁぁぁ!」
「……どしたん急に?」
どうやら違ったらしい。土下座している僕をまたか的な感じで見つめている崎山君からは少なくとも殺意は感じ取れなかった。いや、殺意なんて分からんけども。
「とりあえず立ってほら。このままだと俺がヤバい奴に思われるから。」
そう言いながらコーヒーで良い?と缶コーヒーを手渡してくれる。優しい…こんな人に恐怖していた節穴ベーシストはどこのどいつだろうか。
「はぁ。こっちが謝ろうと思ってたのにもうそういう空気じゃないな。これ」
なんて少し困ったようにしながら崎山君は頭をかく。しかし、謝る?崎山君に謝られるようなことはなにもなかったと思うんだけど?
「練習前のさ。あいつの曲を聴いた時、折角褒めてくれたのに変な空気になっただろ?それだよそれ」
「別に謝られるようなことじゃ…むしろ僕が変なこと言ったのかもだし」
「いや、田村君が気にすることないって。あれはあいつの問題というかうん」
問題?曲を褒められたら否定したくなっちゃう的な持病でも持ってるんだろうか?
「…あいつさずっとネットで動画投稿とかの活動してたんだよ。」
「え?」
「知らなかったのか…いやまあ予想はしていたが。あいつも自分から言うような気分じゃないだろうし」
「草野さんのチャンネルはみたことあるけど、作ったばっかりに見えたよ?」
「あれは田村君を勧誘するために作っただけのチャンネルだからな。メインはこっち」
そうして崎山君が見せてくれた画面にはとあるチャンネルが表示されていた。投稿されている動画はよくあるギターの弾いてみた系のもので有名曲のカバーがいくつかアップされ、その多くは何万という僕のチャンネルではみたことのないような数字ばかりが並んでいた。
「流石に中学生でバンド活動なんて無理だからな。でもなにか発表はしたいって中学の時に始めたのがこのチャンネルだ」
「うっわ…コメント数三桁って都市伝説じゃないんだ…」
「話しを続けて良いか?」
「ご、ごめん!驚きと嫉妬のあまり釘付けになっちゃって…!」
「そこは驚きだけであってくれよ」
はぁと言いながら頭を抱える崎山君。何というかまだ数えるほどしか会ってないけど苦労人だよね。
「でも、このチャンネルとさっきの反応何が関係あるの?」
チャンネルにはオリジナル曲もアップされているが、それの再生数もカバー曲ほどではないが回っている。そりゃあいい曲を書くはずだ。既に確かな実績をネットの世界とはいえ彼女は残していたのだから。だからこそ、不思議に思う。なぜ曲を褒められたのにあんな反応をしたのか。少なくとも自作の曲を褒められたら否定したくなるなんて奇病ではないはずだ。だってコメントでめちゃくちゃ褒められてるし。羨ましぃ……。
「……このチャンネルでオリジナル曲をアップし始めてしばらくたった頃だ。コメントにあの曲に似てるとかこの曲の影響を観じるってコメントがつくようになった」
「と言っても最初期の曲はパクったとかではないけど自分達でも似てるなって思う部分はあったし、あいつ自身も俺もまあ仕方ないよなって感じに思ってたんだ」
「そんな時だあいつがさ自信作が出来たって言って投稿した曲に、そういうコメントがついた。」
「正直そこまで似てるかな?と俺は思ったよ。確かに細かく音をわけていけばそういう要素を感じとれるかも?ってレベルだと少なくとも俺は思った。そんでさそんなのプロにだってよくあることだろう?」
その通りだ。どんなプロだって先達の影響は多かれ少なかれ受けている。要素を細かくわけていけばどこかしらに作曲者がよく聞いていた曲や好きだった曲の残響を感じることもあるだろう。そしてそれは悪いことではないと僕も思う。まるっきりパクったとなれば問答無用でアウトだけど、崎山君の話を聞く限りそういうわけではなさそうだし。
「でも、あいつにとってはそうじゃなかった。あの歌はあいつにとっては自分の歌で自分だけの音だった。その時点でのあいつの全てを注ぎ込んだ会心の曲。けどそれはもう既に誰かによって作られていた音だった」
「何よりあいつはそう言われるまで、その曲にそういう印象を持てなかった。自分の音だと思っていたものは誰かの音の寄せ集めで、それに気づくことさえ出来なかった」
「それは……」
「自分の音って何だろう?なんてことをあいつが言い出したのはその頃からだ。さっきも言ったが俺にはそこまで気にすることじゃなとしか思えなかった。けど、あいつは並外れて耳が良いから多分それを聞き取れちまった」
「そしてそうかもしれないって思っちゃったんだろうな。」
「なるほど…」
ん?そんな人に流行りの曲に似てるね?なんて言ったの僕?……ノンデリ過ぎない?
「腹を切るので許してください……」
「おいまて、どういう思考をすればその結論に辿り着く」
だってド地雷じゃん!びっくりするほど地雷じゃん!傷口に塩どころか唐辛子塗りたくってるじゃん!!僕ならショック死しかねないやつじゃん!!!
「というわけで十字に腹を切ります……」
「なんで切腹の難易度をあげる!良いからそんなつもりで言ったんじゃないから!」
マジで?幼馴染みにあんなこと言ったこんな上下真っ黒な変質者を許すの?天使か??
「んんっ!話を戻すが、そんなあいつが選んで連れてきたのが田村君だ」
「田村君からしたら巻きこまれたみたいな形で、こんな話をされて何だよって思うかもしれない」
「けどあいつが、あいつが選んだってことにはきっと意味がある。だから、頼む。どうかあいつと一緒にあいつが満足するまで一緒にバンドを続けてやってくれ」
幼馴染みのためにこんな2回しか会ってない奴に躊躇いなく頭を下げるそのこころ。今分かった崎山君は天使だったんですね……!
「なんて卑怯だな…頭を下げてこんな断れない言い方をして。悪いけどそれだけ本気だって思ってくれ」
もう天使を超えて大天使だよこの人。それだけ彼にとって草野さんは大切な人なんだろう、こうして頭を下げて頼み込むほどに大切な。正直、僕は草野さんのことを知らない、悪い人ではないと思う。けど、どんな食べ物が好きかとか、音楽以外に趣味はあるのとか何にも知らない。知っているのはギターが上手くて、歌が上手くいってこと。
──そして僕のベースを拾ってくれたってこと。
ずっと独りで弾いていた。独りでしか弾けなかったベースを拾い上げてくれたってこと。……我ながらチョロいなぁと思いながら、いつになく言葉は流れるように口から出てくれた。
「崎山ぐん……!」
嘘です。思いっきりかみまひた。
「おい!大丈夫か田村君!今めちゃくちゃかんでたけど!」
「らいりょうぶ」
「何も大丈夫じゃないと思うぞ!」
大切な話をしていたはずなのになんとも締まらないことになってしまって崎山君には申し訳ないけれど、痛みに蹲りながらも少し嬉しかった。2人のことが少し分かったことが何だか無性に嬉しかった。
とんでもなく締まらない結末を迎えたあの話し合いからまた一週間がたち、三度目のスタジオ練習。部屋もメンバーも何も変わらない、少しだけ慣れてきたいつも通りのバンド練習。
「博幸君、こっちは準備OKだよ」
「了解。こっちも大丈夫だ。利博」
「……なんかあんた達仲良くなってない?ねぇ?なんで名前呼び?私は?」
訂正、少しだけこれまでとは違うバンド練習だ。
「ねぇ!私だけで仲間はずれは酷くない!?」
「いや…女の子を名前呼びするのはちょっと難易度高くて…」
「利博をいじめるなよ凜」
「なんなのよもー!」
結局その日は一日中、草野さんに名前呼びをねだられ続けたのだった。
自信満々な女の子がふとしたときに見せる弱さが好きです。
そういう子に普段振り回されてるような男が掬い上げるのが好きです。
ここまでは書いたのであとはよろしくお願いします。