イントロが鳴った   作:バンドものはエエゾ!エエゾ!

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評価されるのか受け入れてもらえるのか
そんなことを考えると作る手が止まりそうになる

それでもまた手が動こうと、手を動かそうと思うのは
きっとそれだけ好きということなのだろう




イントロは止まらない

「名無し(仮)さーん、リハーサルお願いしまーす!」

 

「はい。わかりましたー」

 

「それじゃあドラムさんからお願いしまーす!」

夏休みも終わり二学期がスタートしてしばらくが経った。当然8月なんてとっくに通り過ぎ9月も後半に差し掛かろうというのにまだまだ残暑が続き、少し動いただけでも汗がにじんでくる。そんなまだまだ秋は遠そうなある日、僕は凛さんや博幸君が通う市立桂月高校の体育館に僕こと田村利博はいた。そう今日は桂月高校の文化祭。僕たちの初ライブだ。……バンド名だけは良いものが思い浮かばずなんとも締まらないものとなってしまったが、初ライブなんてどこのバンドもどこかしら不完全なものだろう。そうであって欲しい……。

 

「次はベースさん音の確認お願いしまーす!」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 関係のないことを考えていたのが良くなかったのだろう、ライブの音響を担当している文化祭の実行委員さんの声に驚き思わず返事が上擦ってしまった。凛さんと博幸君から揶揄うような視線が飛んでくるのが、そちらを見なくても分かる。絶対、緊張しすぎとか言われるやつだ。言われるやつだよこれ!

 

 

 

「リハーサルで緊張しすぎでしょ!なによあの調子が外れた声は」

 

「そんなに笑ってやるなよ凛。利博君が可哀そうだろ……。ブフッ」

 ほらね。

 

「……そんなこと言いながら博幸君も笑ってるじゃん」

 

「悪い悪い、けどそこまで拗ねることないだろ」

 

「別に拗ねてないけど……」

 

「いや拗ねてんじゃん」

 

「利博ってそういうところちょいちょいめんどくさいわよね」

 酷くない?まあ、自分が素直で快活な人間かと言われたら僕も肯定しようがないんだけども。だとしても酷くない?

 

「そんで大事なリハーサル中に何考えてたんだよ?」

 

「いやここに来るまで色々なことがあったなあって」

 

「……まだ何も始まってないのに感慨に耽るのやめてくれない?」

 

「そういうのって普通は全部終わった後にするもんだろ」

 何言ってんだお前?的な視線を2人がぶつけてくるが、良いじゃないか別に色々あったのは本当のことなんだし。新曲が完成していよいよライブ!言葉にすればたったこれだけで済むけど、現実はもちろんそんなに簡単じゃなかった。

 あの日、凜さんが持ってきた新曲は流石というか良いものだった。博幸君がとても嬉しそうにしていたのがその証拠だと思う。この曲でいこうとその日のうちに決定したものの、じゃあそれでオリジナル曲問題は解決したのかというと、残念ながらそうじゃない。凜さんが持ってきたのはあくまでデモ音源、つまりは元となる音でしかない。ここから各パートでアレンジを考えていかないといけないし、ちゃんとした曲として聞いてもらうには当然ながら合わせる練習をしていく必要がある。これが有名な曲なら全員どこかしらで弾いたことがあるだろうし、お手本となるような動画や音声も文字通り無数にある。それならある程度は合わせて演奏する難易度は下がるのだが、今回は完全オリジナル当然ながらお手本なんて存在しないし、作成者である凜さん以外にとっては文字通り初耳の曲となる。その上、初披露となる文化祭まではその時点で1か月を切っていた。──大変だった。それはもう大変だった。

 

「ふふっ……」

 

「まーた一人の世界に飛び立ってるわね」

 

「まあ、ある意味いつも通りってことで良いんじゃね?緊張されるよりは良いだろ」

 またかよ……という旨の言葉が2人から聞こえてくる。まるで人が独り言や考え込むことが多い人間のような扱いはやめて欲しい。……まあ実際その通りなのだけど。

 

 

 

 

 

 

「にしてもトリっていうのは嬉しいけど、逆リハだと待ち時間が長くなるのがネックだよなぁ」

 

「そこは仕方ないでしょ。このやり方が楽器の運搬とか調整の手間や時間を考えたら効率良いのは間違いないんだし。」

 

「逆リハ?」

 

「ん?あーそっか。利博はずっと動画投稿だけでライブハウスで聞いたこともないし、サポートとかにも入ったことないし知らないわよね」

 

「まあ簡単に言うとだな、出演する順番の逆から始めるリハーサルだから逆リハって言うんだよ」

 

「逆に順番通りにするリハーサルは順リハなんて言うわね」

 

「へー」

 こういう用語がサラっと出てくるあたり、この2人は場慣れしてるなぁと改めて思わされる。……いや、僕が楽器歴の割りに知らなさすぎるだけかもしれないけど。

「なんで順番通りリハーサルしないの?本番通りの順番でやった方がいい練習になる気がするんだけど」

 

「利博、順番通りにリハーサルを行った場合にリハーサル終了後、最後に舞台に置いてある楽器やアンプはどのバンド用にセッティングされてると思う?」

 

「そりゃあ順番通りにリハしてるんだからトリのバンドなんじゃ……あー」

 

「気づいたようね、そう!順リハだとトリのバンドが最後に練習するから、本番に向けてまた最初のバンドの楽器やらセッティングしなおさないといけないのよ」

 

「まあ要するに2度手間になるってことだな。楽器の運搬やチューニングの時間を考えると、最初のバンドが練習してそのまま本番に突入できる逆リハの方が効率が良いってことだ」

 

「まあ、順リハは本番通りの順番で機材の移動や接地なんかをスタッフが練習できるから、そっちの方が良いって言う人も多いけどね」

 

「どっちが悪いとか良いじゃなくて一長一短ってことだな。ただ高校の文化祭レベルなら使う機材や楽器なんかも知れてるし、逆リハでやった方が効率は良いと俺は思う。比較したことはないから実際にどうかは知らんけど」

 

「成程……」

 ライブのタイムスケジュールを見た時はトリなのに僕らのリハーサルが随分早いなぁと思っていたけど、こういう理由があったわけだ。え?それじゃあこのまま他のバンドの音を聞かされながら何時間も待ち続けないといけないの?生殺しじゃん!余計に緊張してくるやつじゃん!……こういうのって一思いにやって欲しいよね。

 

「……これ逆リハとか教えない方が良かったか?」

 

「トリの時点でいつかはこうなってただろうし、そもそもこれからバンド活動していくならこういうことにも慣れていかないといけないんだから、いい経験でしょ」

 

「待ち時間が長いってのも逆リハのデメリットの一つだけど、まさかこんな身近にここまでその影響を受けるやつがいるとは……」

 

「何だかんだ演奏するときになったらちゃんとするから大丈夫でしょ。なんたって私が選んだベースなんだし!」

 

「……そこは疑ってねえよ。これでもここ2か月は毎週のように一緒に演ってるんだからよ」

 音が一つなるごとに僕たちの本番が近づいていく、早く早くと思う心とまだかまだかと思う心が時の進みを遅くさせているように感じる。他のバンドの音を聞いて気分を紛らせようとしても、耳に入ってくるだけで頭にまで入ってこない。そんな永遠とも思えような待ち時間も終わりを告げ、ついに文化祭ライブはトリの出番。僕たちのライブが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

指は良く動いてくれている。喉の調子も良い、観客の反応も上々で体育館のあちこちから私の名前を叫ぶ声が聞こえる。この文化祭ライブに向けて用意したセトリ通りに、ここまでトラブルもなく滞りなく進行できている。博幸のドラムも利博のベースも観客からの熱気に応えるように、負けてたまるかとでも言うように唸りをあげている。2人ともリハーサルの時より断然音が良い、利博の方は緊張していたのもあって少し心配だったけど、変なところで度胸があるというか完全にこの空気に酔っている感じだ。自分のベースに観客が反応してくれているのが、嬉しくてたまらないといった感じでご機嫌にベースを弾いている。……順調だ。ここまでは凄く順調にきている。演奏者も観客もこのライブでノッているし、このライブにノッている。観客の歓声と私達の演奏によって震わされる空気がまるで熱を持ったように熱い、体も心も今最高に熱くなってきている。けど、そんな私の熱を最後の曲への不安が奪い去っていく。ここまで演奏してきたのは全て私達と同世代の学生に人気の曲、ここまで盛り上がっているのは私達の演奏だけじゃなく曲の力が間違いなくある。けど、セトリ最後の曲、すなわちこのライブ最後の曲は私達のオリジナル。盛り上がるのか?よしんば盛りあがったとして……また誰かの曲に似ていると言われるんじゃないか?そんな弱音が私の指と心を冷やしていく。この曲には今の私の感情と出したいと思った音を少なくとも私が出来る範囲で全て詰め込んだ、これが受け入れられないのであれば、これが私の音じゃないと言われたのならばそんな今更の恐怖に喉がひきつるのが分かる。

 

『……』

 オリジナル曲へと繋ぐまでのMC、これが終わってしまえば曲が始まる。そう思うといつもは水のように自然と流れて出くる言葉が、まるで泥のように喉にこびりついて出てこない。──そんな私の背中をベースの低く太い音が、田村利博のベースの音が思いっきり蹴とばした。

 思わずチラリと後ろを見れば、そのベーシストの目には私への労りなんて欠片もなくてただ早く次の曲をやろうとしか書いていなかった。

 

『生意気……』

 どこまでも自分のベースが大好きなヘンテコベーシストに愚痴をこぼしつつ、心の中では少し感謝する。

 

『皆ここまでありがとう!次はいよいよ今日最後の曲よ!私たちバンドのオリジナルだから期待して聞いてちょうだい』

 そうだ結局のところやってみなくちゃ始まらない、どれだけいい曲でもどれだけ酷い曲でも私達が演奏して誰かに聞いてもらわないと、音を届かせないと何も起こらない。分からない評価を怖がって、どうせ駄目だと手を止めたら何かを作れるはずがない。恐怖は消えない、自分の音って何だろうという思いもこれで良いのかという迷いも、きっと私は生涯何度も何度もこの感情と出会い続ける。けど、それでも進まなくてはならない、だってそういった経験の先にしか私の音はないのだから。

 

『それじゃあ本日ラストナンバー!聴いてくださいラフカット!』

 ──私は一歩を踏み出した。

 

 

 

 

『それじゃあ本日ラストナンバー!聴いてくださいラフカット!』

 凜さんの声と入れ替わるように最後の曲のイントロが始まる。凜さんが作った僕らのオリジナル曲、曲名は『ラフカット』。この曲のイントロは長い、昨今の音楽シーンではショート動画等への適正もあってイントロが短い曲が好まれやすい。けど、凜さんが作ったこの曲はイントロの時間がしっかりと確保されている。その理由を彼女は『私が好きな音を観客にも存分に聞かせてあげるためよ!』と言っていた。凜さんの華やかなギター、博幸君の安定感のあるドラム、そして僕のカッコいいベース、彼女が選んだ僕らの音が体育館を埋めていく。彼女のうちのベースとドラム、そして私のギターを聞きなさい!なんて言葉が聞こえてくるような、たっぷりのイントロ。そんな僕らの演奏に彼女の声が追い付いた。

 

「自分の音を探してるって嘯きながら、聞き飽きたフレーズと聞き覚えのあるメロディーを作る」

 凜さんの透明感のある声が曲に彩を与える。この曲はベースを前に出すイメージで作曲したと凜さんは言っていた。ベースは言うまでもなく低音が魅力の楽器だ。正直、凜さんの歌声を活かすなら低音を強く効かせるより、いい方法はいくらでもある。力強いというより華麗で鮮やかな印象の凜さんとベースとの相性は決していいとは言えないとベーシストの僕でも思う。けど、そんなの凜さんが分かっていないはずはない、それでも彼女はこの曲をこう作った。

 

「何度書き直しても誰かの音に似ている気がして、消して書いて残ったのは私じゃない音」

 そこまで僕の音を使いたいと思ってくれているのが嬉しかったし、その期待には応えたいと思った。……正直、自分の音とかオリジナリティなんて僕には分からない。僕が弾いて僕が良いと思ったのなら、それが僕の音だなんて単純な考えで生きてきたような人間だから凜さんの苦悩に寄り添うことはできても理解はしてあげられない。

 

「『これでいい』って言われても私の心は頷けない、言葉の波に溺れる日々、私の音って何ですか?」

 けど、今こうして一緒にやっているからこそ分かることが一つだけある。曲調や音の構成なんかはもしかしたら誰かと同じなんて言われてしまうのかもしれない。だけど、今こうして凜さんの口から出ている言葉は、歌詞は。

 

「正解なんて分からないけれど、いつか真似でも模倣でもなくこの音が私だと」

──間違いなく凜さんの、凜さんだけの感情が形になったものだった。

 

「言える日が来たのなら その時は笑ってみせる 私だけの音で」

 曲が終了する。ついさっきまでとは打って変わって静寂が会場を覆う。僕らの荒い息遣いだけが響く一瞬、そんな瞬間は本当に一瞬だけのことだった。歓声と拍手で会場が揺れる。今日ここに来てくれたお客さんは楽しむために来てくれた人達で、音を聴きにくる人達じゃないから多少演奏に荒さがあっても盛り上がってくれる。その上ここは凜さん達の母校、いわばホームグラウンドだ。凜さんは学校でも有名人で人気があるといっていた。そんな人がライブをやるんだ、これで盛り上がらないという方が嘘だろう。やりやすい観客に恵まれたというのは間違いないし、今日の演奏にミスがなかったなんて口が裂けても言えない。それでも、それでも間違いなくこれは大成功だろう。

 

「利博。あんたちょいちょいベース先走り過ぎでしょ。盛り上がって嬉しいのは分かるけどやりすぎ」

 

「だな。何とか合わせたし、ああいうアレンジもそれはそれでありだとは思うが……毎回はやめて欲しい」

 

「うッ……すいません」

 なんてことを思っていたら、さっそくやりにくい観客からのダメ出しが入る。僕も含めて全員少し息は荒く、顔にも疲労の色がある。それでは苦しさなんて感情は万に一つもなかったと僕は思う。

 

「まあ私含めて反省点は多かったわね、やっぱり実際やるといい経験になるわね」

 

「ああ次のライブに向けて直すところは盛りだくさんだな」

 

「うん……!」

 次のライブ、その言葉が何だか妙に嬉しくて最初は渋々といった顔をして参加したくせにと自分で自分に笑ってしまう。早くも次のライブのことを考えている僕たちに客席からアンコール!という声が届く、最初は小さかったそれはまるで反響するように大きくなりもはや大合唱と言うしかないほどの規模になっていた。

 

「まあ、先のことは後で話しましょうか」

 

「そうだな。折角これだけ盛り上がってくれてるんだ、お礼はしないとな」

 このバンドがこれからどうなるかなんて誰にも分らない、苦しいことの方が多いのかもしれない。けど、それでも僕らはこうして楽器を弾かずにはいられないんだ。だってこの面白さと興奮を、ずっと昔にそして今日も知ってしまったから。

 凜さんがアンコールに応え、続いて博幸君がカウントを開始する。カンカンカンと聞き慣れた音が響く。

そして──イントロが鳴った。

 




プロットもなく準備もなく完全にノリと勢いから始めてしまった拙作はこれにて完結となります。

地の文くどすぎ、無駄な会話多すぎ、そもそもとしてどんなキャラかも分からないというお見苦しいことこの上ない駄文でありましたが、もし仮に億が一こんなところまで読んでくださった方がいらっしゃったのならそんな貴方に本当に感謝を。

ただそれだけでこれを書いた私は報われました。

久しぶりにオリジナルなんてものをやりましたが、やっぱり楽しいですね!

それではこれにておさらばです!
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