ミラを背中にかばいながら、
俺は都市を貫く高架橋の上を疾走していた。
その足が路面を蹴るたび、コンクリートが微かに歪む。
「お兄ちゃん、ごめんなさい……私のせいで」
背中の小さな声に、
俺は静かに応えた。
「気にするな、ミラ」
だが、俺の表情は険しい。追跡は想像以上に厳しかった。
その時、俺たちが通過した先で、立て続けに異変が起こった。
路肩の交通監視カメラが一瞬で白ノイズに包まれ、停止した。
高架橋の照明が一斉に点滅し、
周囲の電子機器から「キィン」という高周波の不協和音が響き渡る。
「なんだ...?」
俺は眉をひそめた。この現象は...?
次の瞬間、追撃部隊のサインを
捉えた検問所が目の前に現れた。
高架橋の出口となる場所を、
装甲車三台と、二十名以上の兵士が完全に封鎖していた。
「逃走者、目標地点に到達。非殺傷部隊、コード2で迎撃準備!決して殺すな!」
「クソッ、先回りされたか」
俺は立ち止まり、前方の兵士たちを見据えると、静かにミラを降ろした。
「ミラ、少しだけ、目を瞑っていてくれ」
「お、お兄ちゃんは?」
「...そう、だな...」
戦闘はできる限り避けたかった。
しかし、もう逃げ場はない。
「斉射!」
「ッ!隠れてろ!」
「お兄ちゃん!」
兵士たちの号令と共に、
スタン弾と粘着ジェルが一斉に俺に降り注ぐ。
俺は深く呼吸を一つ吐き出すと、
地面を蹴り砕くことなく、一歩を踏み出した。
スタン弾の雨を、数センチ単位の差で回避し続ける。
ネットガンが放たれた瞬間、俺は身を屈め、
ネットを突き破りながら一気に前進した。
兵士たちが銃を捨て、ナイフを抜き、近接戦へと切り替える
至近距離のナイフによる斬撃を回避し、
腕に掴みかかり、腹に膝蹴りを入れる。
膝蹴りを受けた兵士は、悶えながら倒れた。
五人の兵士が、一斉に俺に斬りかかってくる。
後ろの二人を飛び蹴りで同時に吹き飛ばし、
左右にいた二人の足を掴み、
そのまま残った一人の方へ投げつける。三人まとめて気絶させる。
その間、欄干の影で、ミラは震えていた。
「は、はわわ...」
一人の兵士が、奇声を上げながら、ミラに向かって無差別にスタン弾を連射した。
「くそっ、卑怯な――!」
俺は、自分への被弾を無視した。
即座に体を動かし、ミラへの弾道を遮った。
俺の左腕を覆う服の袖が、飛び散る弾丸の破片を、受け止める。
バチィッ!!
スタン弾の高電圧と衝撃が一点に集中し、
火花と共に、左腕の布地が激しく吹き飛んだ。
同時に、その下にあった硬質な部品が、
高電圧によって機能を停止し、原型を留めないほどに破砕される。
キィン、カラン、ガラッ……
何の変哲もない、
ただの金属製の義手だった。
その瞬間、兵士たちの間に衝撃の波が走った。
そして、遠くで戦闘を見つめていたミラの体が、震えた。
「え……?お、お兄ちゃ…」
彼女の口から、か細い悲鳴が漏れる。
「な、なんだ……?」
兵士たちの視線は、俺の左腕に釘付けになっていた。
「左腕が……ない?!隻腕だと?!」
「もう、逃げさせてくれないってことか...」
残りの兵士たちが、今の俺の状態を好機と見て
一斉に攻撃を仕掛けてくる。
俺は前方に一歩踏み出した。
ゴッ、バキッ、ドッ!
兵士たちの眼には、
閃光が走ったようにしか見えなかっただろう。
先頭にいた三人は、気づいた時には空中に投げ飛ばされ、
高架橋の欄干に叩きつけられ気絶していた。
俺が放った弾丸は、
奴の顔に当たったかのように見えた。
だが…
「っ?!消え…」
弾丸は奴の軌跡を貫く。
すぐ横で、鈍い音と共に、仲間の悲鳴が聞こえてくる。
「くっ…クソがぁあああ!」
奴に向かってアサルトライフルを連射する。
その瞬間、体が妙に軽くなった。
「なっ何が起きてっ」
己の体が宙を舞っている。
「…?あれ…俺死んでな、い…?」
辺り一面は、装甲車の残骸と炎に包まれていた。
近くに倒れている仲間を揺さぶる。
「う…うぅ…なっ…なんだ?」
「生きている…だと…」
骨が数本砕けているが、生死に関わるほど重篤ではない。
俺は仲間を見て胸を撫で下ろした。
「これを、単独で?……冗談キツいぜ…」
俺は、最後に残った兵士を、
拳を握り込み、勢いを乗せて打ち据えた。
ドゴォォン!
それと同時に装甲車が爆散する。
砕けた装甲車の残骸と、炎が視界を包む。
振り返ると、ミラがまだ震えている。
俺はすぐに駆け寄り、装甲車の残骸の熱から彼女を守った。
「お兄ちゃん...」
ミラは、
「行くぞ、ミラ」
「うん、お兄ちゃん」
俺はミラを抱き上げ、炎上する高架橋を後にした。
「報告を繰り返せ」
「…死者ゼロ、負傷者全員重体。
装甲車全損。特記事項として、
現場では広域の電子パルス干渉を確認。
兵士の装備は完全に機能を停止しました。
「...」
レオンは無言で報告を聞き終え、コーヒーカップを置いた。
彼は通信士に指示を出した。
「全追跡部隊に通達。これ以上の
都市内での追撃は一時中断。無駄な損害を出すな」
通信士が戸惑う
「いいのですか総司令!逃亡を許してしまいます!」
「奴は都市の外へ、不安定な場所へ逃げる。それは予想通りだ。」
彼の瞳に、冷静な計算が宿る
「こちらが無理に追う必要はない。
奴らに隙ができる、その時を待て。都市外の全ての観測装置を
起動させろ。電磁波の影響を受けない旧式の部隊を編成。
好機が来たらこちらから連絡する。頼んだぞ」
「了解しました」
灯りも消え、暗くなった街の中を
静かに歩く者がいた。
その者は地面に落ちている、金属の破片を手に取った。
それは、アルマの義手の残骸であった。
その者は、空を仰ぐように天を見た。
身体の表面は鈍く、しかし、星の光を確かに映していた。
前書きと後書き必要?
-
前書きだけ書いて
-
後書きだけ書いて
-
どっちも書いて
-
書かないで