地球上から、スクラッグの先遣隊は撤退した。
だが、彼らは陰に潜み着々と侵略を進めようとしていた。個性は確かに脅威だ。だが、対抗手段を持っている彼らにとって侵略をやめる理由にはならない。しかし、個性という力は彼らにとっても魅力的であったのだ。侵略してその力を減らすより、まずは調べてからでも遅くはない。だからこその撤退。しかし不確定要素もあるのも事実――個性因子によらない異能の力、スクラッグに対抗しうる謎の戦士の存在が数多の星々を滅ぼしてきたスクラッグの首領、ゴゴールの懸念となっていた。
「――選抜部隊、準備ノ程ハ?」
『ハッ、ゴゴール様。地上ニ降リ立チマシテ、各々準備ヲ整エテオリマス』
ゴゴールの通信に、他のスクラッグとは違い鮮やかな緑色の甲殻を持つスクラッグが応えた。形状も異なり、幾分かスマートな印象を受ける。
『ソレデハ一番槍ハ私、“エッズィ”ガ行カセテ貰イマス――我ガ刃デ“白キ者”ヲ切リ刻ンデ見セマショウ』
そう言うと、通信は切れた。
地上に降り立った選抜部隊は三体。三体ともが通常のスクラッグとは異なる外観をしており、各々地球で得られたサンプルを元に強化が施されている。
彼らに与えられた任務はヒーローマンの調査。裏では個性に対して調査が行われているが、それ以外の謎の力に対して取られた対策が彼らだ。
通常のスクラッグを倒した実力から、一般兵士では力不足。そこで選抜されたのが強化兵士たるエッズィらの三体だ。だが、各々我が強いため各個投入という形となっている。もっとも、ゴゴールとしても謎の力について調査したかったため各個投入で調べることも目的としていたが。
「サテ、君ハドウ戦ウ? 白キ者ヨ」
◇◇◇
謎の異星人の襲来から、数日が経過した。
世界各地では警戒が続けられていたが、何の動きもみられていない。むしろ極めて異例の事態からか、世界規模でヴィランすらも警戒からか動きを見せておらず、ここ数日の犯罪件数が一気に減少している程であった。そのおかげもあって、警戒でパトロールしているヒーローはいても実際に戦っているヒーローを見ていない。
世間では謎の異星人が攻めてきたという者もいるが、ヴィランという存在に慣れ切っていた世間では特殊な個性を持ったヴィランかテロリストか、とにかく強力な個性を用いて大規模な事件を起こそうとしているのが一般的な説として浸透していた。
慣れているがゆえに、またヒーローたちで対処も出来ていたために学校も普通に開校しており、出久もいつも通り登校している。
「ヒーロー分析ノートもここしばらくは書けてないしなぁ……もうすぐ夏休みだし、ちょっと遠出して他の地区のヒーロー見に行きたいけど、オールマイト展もあるからあまり出費はできないぞ、限られた予算と時間で綿密な計画を立てないと、まず片付けなきゃいけないもの、宿題とかもろもろの予定を入れつつ、オールマイト展の日に使う予算とは別に使えるお金をしっかり計算してそのうえで見に行きたいヒーローをピックアップして――」
ブツブツとつぶやき始める出久。
本日の授業も終わり、部活動もしていないため後は帰るだけなのだが、夏休みのことに意識が向かい小声で計画をつぶやき始めた。
宇宙人のことは気になる。個性を封じる術があるとしても世界中の襲撃現場でヒーローたちは勝利していた。封じられた個性もしばらくしたら復活したようで、ヒーローたちも元気な様子を見せている。
結局のところ、一般人である出久に今できることはなかった。
「うるせぇんだよクソデク!」
「――うぇ!? か、かっちゃん!?」
「ブツブツブツブツ、気が散るわクソがッ!」
出久の幼馴染、爆豪勝己が彼の後ろから言葉をぶつける。爆豪の後ろでは彼の友人――そのうち一人は幼いころから出久とも親交があった――が苦笑いしながらついてきていた。
「勝己、確かにブツブツ怖かったけどさ、わざわざ突っかかんなくても」
「あぁ!? ブツブツうるさくて、こっちは蕁麻疹が出そうなんだよ!」
「何をそんなにイライラしているんだか……」
「あれだよ、オールマイト展のチケット抽選落ちたんだよコイツ」
「――――」
ボンッ、という音と共に幼馴染の一人がアフロヘアーになる。爆豪の個性による結果だ。小さな爆発を起こされ、劇的ビフォーアフターされたのだ。
「あ、ああ俺のストレートヘアーが!?」
「人にあたんなよ……」
「うるせぇ! なんで俺が抽選落ちて、クソデクは抽選通ってんだよッ!!」
「結局ひがみじゃねぇかみみっちぃ……」
ブツブツで出てきていた言葉もちゃんと聞いていたらしく、爆豪は出久がオールマイト展の抽選に通ったことを知っていた。言動も見た目もヤンキーな爆豪であるが、これでもヒーロー科トップの雄英高校ヒーロー科を目指す彼は内申点を気にしており、決定的ないじめなどはしない。暴言こそ吐くが、一線は越えないのだ。
それゆえにいら立ちを出したりはするがいくら自分もオールマイト展に行きたいからと言って、チケットのカツアゲなどは決してしない。そういうことしそうな風貌と言動ではあっても。
「なあ、これ戻るよな。俺の髪元に戻るよな!?」
「さ、さぁ……でもこんなんで大丈夫か勝己。雄英の面接通るのか?」
「面接官なんて余裕で会話殺してやるわ!!」
「「あ、ダメそう」」
(かっちゃん……大丈夫なのだろうか)
出久も幼馴染として不安になる。成績はいいし、体力テストも上位。個性もすごくて、何でもできる才能マンである爆豪のことをうらやんでいるが――それはそれとして、言動の粗暴さで色々と台無しになっているとも(表には決して出さないが)思っている。
「あ、あはは……」
「何笑ってんだゴラァ!!」
「うぇ!? い、いや別に僕はそんな意図はなくて……ただちょっと、平和だなぁって…………」
「あれ? もしかして緑谷もこの前のヴィラン騒ぎ気にしている口か?」
「あーあの全世界同時ヴィラン発生事件ね。たしかに気になるけどよ、オールマイトもいるし他の国だって例えばアメリカのスターアンドストライプとかいるんだし、何とかなるだろ」
その様子に苦笑いする出久。
結局のところ、世間ではそういうこととなった。真実を知っているのは、彼らの残したものを調べたデントと出久といったごくごく一部の人間だけである。現場にも残されたものがあったし、研究機関などで調査が行われているだろうが、世間に公表はされていない。
(……帰る前に、先生のところに顔を出してみようかな)
もしかしたら、何か新しいことが分かっているかもしれない。
ヒーローたちがいる。だから出久が何かするまでもない――しかし、体は彼の思いとは裏腹に動くのであった。本人も気が付かない、本心を表すように。
◇◇◇
デントの研究室。
先日入手したサンプルを徹底的に調べようと、デントは奇声を上げていた。
「キエェ!」
「せ、先生?」
「――おお、緑谷君か! いらっしゃい!」
「いや、先生どうしたんですか……」
「ああ、ちょっと煮詰まっていてね。思わずついつい」
それで奇声を上げるのもどうかと思ったが、口には出さなかった。
「何か新しいことは分かりましたか?」
「いやぁ、個人じゃちょっと限界がねぇ……高周波を利用して奴らの動きを止めるアイテムを作れないかと試してみて、そこにいくつか試作品が転がっている程度だよ」
デントが指さした先、そこにはエレキギターと大型のスピーカーらしきものをつないだ機械が見える。他にもボール状の何かが転がっており、こちらも何らかの音を発するアイテムらしい。
「それ、そういう専門機関とかに言わないんですか?」
「この程度のこと、私でも調べられたんだからすでに専門家の方々ならたどり着いていると思うがねぇ……それに、このコアの出所を聞かれた時、君のことも話さなくちゃいけなくなるよ」
「あ……」
そうであった。
デントが専門機関に連絡するということはすなわち、出久とヒーローマンという存在についても明かすということだった。
「そこには気が付いていなかったのかい……まあ、私も勝手なことをしている手前、あまり表立って行動できないからね。それにこんな魅力的な研究材料を取り上げられたくない!」
「あ、あはは……そこが本音ですか」
なんともまあ自分の欲望に正直なことである。
結局のところ新しい発見はないらしい。だが、そこで一つ思い出したのかデントはつぶやく。
「発見というほどじゃないんだが、気になることはあったな」
「気になること?」
「ああ……波形がね、似ていたんだよ」
「?」
「君とヒーローマンさ。君たちの間に流れていたエネルギーと、異星人のコアに残留していたエネルギー。同じというわけではないが、君たちの根幹にあるエネルギー。それの波形が似ているんだ……もしかしたら、個性の強化や無効化、君たちにもできるかもしれないね」
出久はコントローラーと人形状態のヒーローマンを取り出し、見つめる。
本当にできるかはわからないが、それができるのなら何らかの役に立つだろう――とはいえ、異星人相手にはあまり意味のない使い道であったが。
「まあ、気にはしておきます」
「そうだね。将来ヒーローになったらヴィランを取り押さえるのに無効化、仲間のヒーローを強化したりとできるかもしれないからね。今君がやるべきことは勉強と体力づくりだな! とりあえずひょろもやしの体は何とかした方がいい! まだまだ線が細いぞ!」
「あ、あはは……努力します」
「まあ頑張りたまえ、若人よ!」
「……そうですね。今は頑張って力をつけないと。それじゃあ、僕帰りますね」
そう言って、出久は研究室を出ようとした、その時であった。
研究室の計器の一つが異常な反応を示したのは。
「――な、この反応は!?」
「先生?」
「奴らが現れたときのために用意していたんだ――奴らの放つ高周波を、検知した!」
「――」
「これは、学校の裏山のほうか?」
ヒーローを呼ぶべきであろう。
冷静な心がそう言った。だが、緑谷出久は動き出していた。
(事件が実際に起きたわけじゃないから、ヒーローはすぐには呼べない――まずは確認してみて、あいつらがいたら呼ぶしかない。それに、襲われでもしている人がいたなら、助けないと)
デントが振り返って、出久のほうを見たときにはすでに出久が走り去った後であった。
「ああ!? 相変わらずナチュラルボーンヒーローだな君は!? ど、どうする? ヒーロー……って事件発生前に呼ぶわけにもいかんし――とりあえず、試作品もって追いかけるしかない!」
自分の作ったアイテムを急いで持ち出し、出久を追いかけるデント。
日は落ち始め、再びの邂逅が迫ろうとしていた。
どこかでツバサ君についても言及したいなぁ。