仕事で掃除中にカビを吸ったかもしれない。皆様もお体にはお気を付けください。
出久は走っていた。そこに助けを求めている人がいるかもしれない。そして、今の自分にそれを何とかできる力がある限り、出久は動き出す体を止められないのだ。
やがて、異変の元へとたどり着く。人目につかない林の中で、それはいた。以前戦ったスクラッグよりも強い気配。数は少ないが、出久が得た戦闘経験が告げていた。こいつは、今まで戦った相手よりも強いと。
「――試シニ餌ヲ仕掛ケテミマシタガ、本当ニ引ッカカルトハ」
「……宇宙人、でいいんだよね」
「我ラハ“スクラッグ”。コノ宇宙ヲ支配スル者ダ――ソノ歩ミニオイテ貴様トイウ不確定ナ存在ガ確認サレタ。故ニ、ココデ貴様ヲ抹殺スル」
緑色のスクラッグ――エッズィの腕から刃が伸びる。その姿はまるで、カマキリのようであった。スクラッグの先遣隊が持ち帰ったサンプル――カマキリの遺伝子を組み込み強化された兵士、それがこのエッズィだった。
出久も最初は話し合いで解決できればいいと思っていた。倒してしまった宇宙人たちもいたし、ヒーローを目指すものとして、相手を殺してしまったことは失格だったのだと思っていた――だが、その混じりけのない殺気を肌に感じて、出久は最後の質問をする。
「……なんで、地球を侵略なんてするんだ」
「? 貴様ハ家畜ヲ殺スノニ伺イヲ立テルノカ?」
心底不思議そうにエッズィはそう言った。それが当たり前であるかのように。心の奥底で人の善性を信じているのが緑谷出久だ。どんな悪人であっても、その奥底には善性があるのだと――だが、この宇宙人たちは違う。そもそもが、分かり合えない存在であった。
そこにはただ悪意しかなく、他の生物は自らの糧でしかない。言葉は通じても、心は決して分かり合えない。そういう生き物なのだと。
話し合いでは解決しない。根本的に思考回路が人間とは異なる。そこに善性は存在しない。本音を言えば、戦う以外の解決ができるならそれがよかった――だが、それは叶いそうにない。
「戦うしか、ないのかッ――HEROMAN-ENGAGE!」
「来ルカ、白キ者ヨ!」
ヒーローマンを顕現させ、出久はエッズィに対峙する。
拳を振り上げ、エッズィに殴り掛かるが、腕の一振りではじかれた。
「なっ――」
「フム、コンナモノデスカ」
エッズィの腕からはトゲの生えた刃が伸びていた。カマキリのそれを大型化し、より凶悪にしたものである。そして、今度はこちらの番だとヒーローマンへ斬りかかった。
斬撃に合わせてヒーローマンも殴ることで攻撃をはじくが、防戦一方だった。エッズィの攻撃は素早く、そして一撃一撃が凶悪だった。少しずつだが、ヒーローマンが押されている。
(なんて強さだ、ヒーローマンが完全に押されている。どうする? 僕が飛び出してバリアで防ぐ? いや、防ぎきれなかったらアウトだ。何とか一撃、BLASTを叩き込めれば勝機はある。考えろ、緑谷出久――!)
状況は好転しない。
勝機があるとすれば、エッズィは出久のことを気にも留めていないことか。スクラッグはヒーローマンというわかりやすい力に対して警戒しており、出久のことは気にも留めていない。ヒーローマンという形で力が出力され、出久自身は無個性である。そのため、彼自身から検知されるエネルギーはスクラッグからも低レベルと判断されているのであった。
「――ハアッ!」
しびれを切らし、エッズィが踏み込む。出久がとっさにまずいと思った瞬間、ヒーローマンが防御の構えをとった。
それが悪手だった。今までは殴り掛かることで攻撃をはじけていた。だが、この場合において防御するということは隙をさらすに等しい行為である。
電気がはじけるような音が鳴り響き、ヒーローマンの右腕が切り裂かれ、跳ね飛ばされる。
「なっ――そんな!?」
「呆気ナイ。実ニ呆気ナイデス。イササカ消化不良デスガ、コレデ終ワリニシマショウ!」
これで終わり、その時であった。
けたたましい音が鳴り響き、思わず出久は耳をふさいだ。
「この音は!?」
「グ、オオオ!?」
見ると、エッズィも頭を抱えて蹲っている。どうやらこの音がかなり効いているようで、攻撃の手が止まってしまっていた。
いったいどういうことだと出久があたりを見回すと――鉄毛デントが、背中にスピーカーのついたリュックを背負い、接続されたエレキギターをかき鳴らしていたのだ。
「せ、先生!?」
「いまだ緑谷君! こいつらの使う高周波を利用して感覚にダメージを与える装置だ! だが、どれくらい効果があるかわからない――今のチャンスを逃すな!」
「――はい!」
エッズィはうめき声をあげながらも、立ち上がろうとしている。時間がない。片腕だけになったが、この一撃を叩き込めなければ出久たちの負けだ。
「HEROMAN-BLAST!」
今放てる最高の一撃を。ヒーローマンの左腕にエネルギーが集約され、光り輝く拳となって振りぬかれた。
「グ、オオオ!?」
とっさにエッズィもガードしたが、今度は先ほどとは逆だ。その拳はエッズィの防御を打ち崩し、両腕の鎌を粉砕して彼の体を吹き飛ばした。
完全に倒し切れてはいないが、もはや決着はついただろう。右腕を失いつつもまだ戦えるヒーローマン。両腕の武器を失い、甚大なダメージを受けたエッズィ。ここに形勢は逆転した。
「……どうする、このまま自分の星に帰るか…………それとも――」
「コノ宇宙ノ支配者タルスクラッグニ敗走ナドト言ウ選択肢ハ、ナイ!」
「――」
目を閉じて、出久は歯を食いしばる。
最後まで、和解の道をあきらめたくはなかった。星々を移動する科学力をもって、他の星の言語も習得できる知能があって、すごい力を持っているのに――
「……HEROMAN-FINISH」
――結局のところ、和解の道などない。彼らは、高い知能を持ってはいても、その本質は宇宙を食い荒らす害虫でしかないのだから。
◇◇◇
「緑谷君、大丈夫かい?」
「はい……先生も、助けに来てくれてありがとうございます」
「……あまり気に病まない方がいい。君のその相手を思いやる気持ちは美点だが…………今回ばかりは、よくない方向に働きそうだ……それこそ、昔の反乱したAIを相手にしているぐらいの気持ちでいた方がいい。そもそもが人間とは異なる考え方をしている。前提が違うんだ」
「でも、結局はAIとは和解できましたし、宇宙人とだって……」
「そうだね。分かり合える宇宙人もいる。私だってそう思っている――そして、宇宙マニアの私だから断言する。アレはそうじゃない」
デントははっきりと言い切った。
宇宙が好きで、個人的にいくつもの研究をしているからこそわかってしまう。出久が持ち帰ったサンプルを調べただけで、すぐに察せるほどにスクラッグの生態の一端を垣間見てしまったのだ。
「奴らは節足動物に近いと言っただろう……そこから進化したと仮定するなら、人間とは異なり、より効率を求める思考回路に行きつく可能性がある――いや、私が予想しているよりも悪い可能性すらあるな、あの緑色のスクラッグの口ぶりだと」
「悪い可能性って……」
「……星々を移動する技術力を持ち合わせていて、なおかつ侵略という手を取っている。なら、その目的は? 生物である以上、繁殖や生命の維持といった行動原理があるはずだ…………それこそ、食料を求めてきた、進化するための力を求めてきた、考えはいくつも浮かぶが――侵略という手段を用いる以上、我々はろくなことにならない」
「そんな、映画みたいな……いえ、映画みたいなことが起きてしまっているんですよね」
「ああ。そして……今現在、奴らは君を――ヒーローマンを警戒して、動きを最小限にしている。地球と奴らにどれほどの戦力差があるかわからないが……教師として、一人の大人として悔しいが、今はそれが最大のチャンスでもある」
デントの目は、出久の手の中にある壊れたヒーローマンに向けられていた。
戦闘の後、人形の姿へと戻ったがやはり右腕は壊れたままだった。元々壊れたところを点火プラグなどで腕の様な形に出久が作り替えた部分だったが、こうなると再びの修復が必要そうである。
「奴らはまた君たちを狙ってくるだろう――そして、その間は逆に奴らの侵略も止まるということだ」
「――なら、その間は僕たちが戦い続ければ、そして勝ち続けたのなら」
「ああ。奴らを止められる。それで奴らのボスが出てきてくれれば話は早いんだが、そうもいかないだろうね……」
「ヒーローに相談する、というのは……」
「それも難しいね。奴らがすぐに撤退したのがいけなかった。今の段階じゃ、はた迷惑なヴィラン程度の見方しかされない。かといって奴らが大きく動き出したら全世界が標的になる。オールマイト級のヒーローであっても、同時に世界を狙われたりしたら対処できない」
結局、今できるのは人知れずスクラッグと戦い続けることだけなのだ。
「まずは体を休めなさい。そして、彼を直さなくちゃね。むしろこれを機に色々と強化してみるのはどうだろうか? 私も使えそうな部品を用意しておくよ」
「先生……ありがとうございます。僕も、強化案考えておきます」
「まあ、私はこれぐらいしか、役に立てないけどね」
「そんなことないですよ。今回は、先生のおかげで助かりました。僕たちだけじゃ、勝てなかったかもしれませんし」
「なら、私もちょっとはヒーローになれたかな」
そう言って、デントはニコリと笑った。
エッズィ
カマキリ型のスクラッグ。元ネタは漫画版HEROMANから同名のスクラッグ。
元ネタだとカマキリを改造してつくられたが、この作品だと元々スクラッグの兵士で、カマキリの遺伝子を組み込んで強化された。