ついに夏休みがやってきた。
前回の戦いからは静かなもので、
以前、出久とヒーローマンが倒した先兵たち――そのコアを研究機関が解析することで、今までにない敵が露になってきている。デントが個人で調べられた以上のことが次々と判明してきており、各国政府はこの事実を重く受け止め始めていた。
日常の裏で、事態は刻一刻と進行している。
そして、一部のヒーローたちにも情報が共有され、各地で警戒されるようになっていた――
◇◇◇
「ついに、完成したよ!」
「先生、突然呼び出してきてびっくりしましたけど……それが前に言っていたものですか?」
場所はいつものデントの家。
今回デントが出久を呼び出したのは他でもない。彼が昔作ったサポートアイテムで未完成のものがあった。それを出久とヒーローマンを調べる過程で完成させるアイデアが湧いたという話が合った。そして、それがついに完成したのだ。
「名付けて、“アンカードワイヤー”だ。ガントレット型のアイテムで、中に私の髪の毛を元に作ったワイヤーを仕込んである」
「金属質の毛髪……そうか、それを束ねて一つにまとめれば強靭なワイヤーが作れるのか……!」
「ああ。既存の金属よりも軽く、そして丈夫な代物さ。そこに吸着型のアンカーを先端にとりつけて、壁とかにひっつけられる」
「すごいじゃないですか……でもそこまでアイデアが出ているのに、未完成だったんですか?」
「実のところ、そのアンカーが上手く動かせないというか、一度引っ付いたら離せなかったんだよね。ワイヤーも自在に動かせるようにしたかったんだが、そこをクリアしようとするとかなり大型化してしまい実用的でないという問題が……」
「な、なるほど…………でも、どうやってクリアを?」
「そこで君さ! 君がコントローラーを纏っているとき。体の中をエネルギーが駆け巡っている。そのエネルギーを利用して、ワイヤーのコントロールとアンカーの起動を行えるようにしたんだ。まあ、実質君専用のアイテムになったが、大きさを実用可能レベルにまでコンパクトにできた。というわけで、ぜひとも役立ててほしい」
そう言って、デントは完成したばかりのアイテムを出久に渡した。
一言、ありがとうございますと告げて右腕に装着する。
「思ったより軽い……少し練習が必要かもしれませんけど、いろいろと使い道は多そうだ――」
「まあ、スクラッグたちにどこまで通用するかはわからないけどね……奴らもそろそろアクションを起こしてくるだろうし」
そう言って、デントはパソコンの画面を出久に見せる。そこには、各地で撮影された空の写真が映されていた。そのどれもに小さな点が見える。
何も知らない人が見たら、カメラのレンズにゴミでもついていたのではないかと思うだろう。だが、ここまでスクラッグたちと戦った出久たちにはそれが何かが分かった。
「……奴らの、宇宙船ですよね」
「だろうね。最初に奴らが現れたときの映像と比較してみたけど……形はまちまちだったが、動きなどの特徴がよく似ている。静かに、我々を調べているのかもしれない」
「…………また、戦うことになるんでしょうか」
「君が最初に倒したスクラッグのコアを調べて、奴らの正体にたどり着いているだろうし、そろそろヒーローが動き出しても不思議じゃないんだが――一向に情報が出ない。何も気が付いていないということはないと思うし…………世間のパニックを恐れて、ヒーローたちも表立って行動できないんだろう」
「と、いうことは……」
「あいつらが君たちを標的にしている以上、今まで通り撃退を続けるしかないね。前に言った通り、そのおかげで奴らが大規模な攻撃をしてきていないんだろうし……危ういバランスの上だけど、やはり我々にできることはそれしかない」
この先、起こりうるであろうパターンは2つだと前置きしてデントは話を続ける。
「まず1つ。奴らが大規模な攻撃に出る可能性。今は静かに動いているが、攻められると思えば一気に打って出る。今現在この危険性を下げるために我々は奴らが未知数と判断している君たちを標的にしていることを逆に利用して、先兵たちを撃退しているわけだ」
「はい……今は一体ずつ戦っているからいいですけど、それこそ軍団で襲われたりしたら危ないと思います」
「それは私も思うが……奴らもそもそも物資は有限なんだろうね。手札をどう使うか、あちらも図りかねているということか……」
そして、2つ目。
「こちら側――ヒーローや軍隊が打って出る場合だ」
「それって……」
「私たちには彼らがどう動いているのか正確なところは分からない。だが、彼らが何もしないわけがない。それこそ、奴らの動きを察知できるような個性を持ったヒーローなんかが動いている可能性もあるわけだ」
「確かに、索敵系の個性の持ち主なんかが調べて回っていたら、奴らの動きも追えるかもしれない……」
「それこそ、未来予知なんて個性を持った人がいて、奴らのことを事前に察知していたかもしれないよ」
「あはは……世界は広いですし、そんな個性もあるかもしれませんけど…………でも、それなら地球の危機なんて状況にとっくに動きだしているんじゃないですか? それこそ事前準備をして迎え撃ってもよさそうなのに、そんな様子はなかったですし」
「たしかに、予知能力の個性なんてやっぱり噂レベルか」
◇◇◇
“サー・ナイトアイ”はオールマイトの元
とても希少かつ、強力な個性――『予知』を持っている。対象に触れて目線を合わせることで発動し、1時間の間対象のそばからカメラで撮影したフィルムの様な形で未来の行動を見ることができるというものだ。いくつかの欠点と呼べる事柄もあり、数分先から数年先まで知ることができるものの、より先の時間の事柄は時間のズレが発生しやすくなる。また、発動には24時間のインターバルが存在している。そして最も重要なことが――未来を変えようと行動しても、修正力とも呼ぶべき事象が発生して完全に未来を変えることができないのだ。
誰かが死ぬ未来を予知し、その原因の事故を発生しないようにしても、その代わりに事故の原因が変わる、場所が変わる、その他起こりうる修正力が働いて対象が死ぬ未来に変化は起こらない。
そして彼は以前見てしまったのだ。自分の敬愛するヒーロー……“オールマイト”の死ぬ未来を。その未来まであと3,4年ほど。その受け入れがたい未来を見てしまった時の彼の絶望は、その個性をもつ彼自身にしかわからないだろう。
未来は変えられない――そう、思っていた。だからこそ、ヒーローとして活動する際も彼は予知を最後のダメ押しとして活用するようになっていた…………だが、6月ごろ――
「私は知らない……あの虫型のヴィラン、あんな奴らは私の予知にはなかった…………っ!」
最初におかしいと思ったのは、落雷騒ぎのさなかに現れたヴィランとかかわりのある人物を予知した時だった。未来のフィルムに、砂嵐の様なノイズが見えるようになったのだ。それでも未来が大きく変わるというほどではなく、誰かの個性の影響を受けたのかとも思っていた――予知自体はいつも通り発動しており、問題なく使用できていた。
決定的におかしくなったのは世界各地で現れた虫のようなヴィラン――スクラッグたちが現れた時であった。ナイトアイの予知に彼らの登場はない。たまたま彼らの対処を行っていたヒーローの予知を行っており、その後の彼の行動を知っていた――本来ならスクラッグとの戦いなどなく、張り込みをしていたヴィランの対処に赴くはずであったのだ。だが、スクラッグが現れたことでそちらの対処を行うこととなり……その彼は右腕を失った。
再び彼の予知を行った際、ナイトアイは愕然とした。未来が、以前見たものとは全く別のものになっていたのだ。
本来なら未来を変えようとしても、結末までは変わらない。以前見た光景ではそのヒーローは仕事一辺倒で、前線で戦い続けるはずであった。しかし、昨日見た未来では腕を失ったことをきっかけに引退。数年後には結婚するらしき未来へと変わっていたのだ。彼に対する予知で、周囲に移りこんだテレビにスクラッグの姿が映っており、あの虫型ヴィランたちがまるっきり予知に映らないわけではなさそうだが――一度未来が大きく変わった以上、どこまで予知を信じていいのかもわからなくなった。
「何が起きているというのだ……」
自分の個性はその特異性ゆえに、ごく一部のものしか詳細を知らない。
相談しようにも、そのデメリットを含めて知る人物でなければいけない……オールマイトのことが頭をよぎるが、以前彼と揉めてしまってから連絡を取りづらい状況であった。それでも決定的な出来事が起きているわけではないが…………そこで、一人の人物を思い出す。
「グラントリノなら」
オールマイトをかつて育て上げた師の一人。高齢であり、ほぼ隠居状態で表立った活躍こそしていないがヒーロー免許を持った人物。ナイトアイとも親交があり、彼の個性についても知っている。かつては対AFOのレジスタンスだったこともある人物で見識は深い。
ひとまずグラントリノの元へ赴き、相談することとしよう。
「サー、出かけるんですか?」
「ああ……数日空けることになる。事務所のことは任せた」
サイドキックに声をかけ、さっそく出かける。
外に出る前、事務所のテレビにはちょうど先日起きたスクラッグの映像が映し出されていた。たまたま現場に記者が居合わせ、撮影された――そこには、事件を解決したのはヒーローではなく謎のヴィジランテであったということも。
「……」
そのヴィジランテ――ヒーローマンの姿も、以前の予知にはなかったものだった。
というわけで、サー・ナイトアイの出番がやってきました。
はい。出せるキャラはガンガン出していきたいですね。