これ書くのに漫画版探した。
夜の街にパトカーのサイレンが鳴り響く。
いつも通りの手順でやれば問題はずだった。いつも通り、いい感じの骨董品を盗んで自慢の個性で飛び跳ねる――衝撃波を足の裏から発生させる個性――そして、空を跳びまわりいつもの倉庫へと逃げる。それでおしまいのはずだった。
だがこの雷だ。このクソ雷が台無しにした。
飛び上がった瞬間雷が光り、警察を含めた人々の視線が空へと向いたのだ。落雷ではなく、空で光っただけの放電だったのがまずかった。真上から轟音が響くものだから多くの瞳がその方へと向いてしまい――その泥棒を目撃する。
「畜生がっ! なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけねぇってんだよ!」
自分勝手に男は叫ぶ。男は骨董品専門の盗人であった。
その個性で一瞬で跳びあがり視界から消え、さらにそのまま空中を移動することで悠々と逃げおおせる。警察だけでなくヒーローも手を焼いており、ヒーロービルボードチャート上位のヒーローの出動も検討されている。
だが、不運にも見つかってしまった。その衝撃波による速度でその場は捕まらないが、視線はずっと向けられている。応援が呼ばれ、逃げる方向にもパトカーが急行する。先手を打たせない早業が男の得意技だが――それはこの状況で通用していない。
「まずは倉庫だ。倉庫に逃げて、急いで持ち運べるだけのものをもって逃げるんだ、それしかねぇ!」
今更ながら骨董品を狙っていたのはまずかったかと思う。
かさばるし売るのに手間がかかる。だが、ナンバーが控えられかねない現金や、警備が厳重な宝石や貴金属類に比べて手を出しやすかったのも事実。この状況ではかさばらず、高値で売れる宝石類にしておくべきだったかと後悔が脳を埋め尽くす。
「だけどよぉ、逃亡生活ってのも嫌だからよぉ、だからチマチマ骨董品集めて売りさばくつもりだったのによぉ、俺の人生設計めちゃくちゃだよ!」
なんとか警察よりも早く自分が盗品を保管している倉庫へとたどり着いた。幸いヒーローはまだ出動していないらしい。もっとも、今はまだというだけですぐにやってくるだろうが。
何か持ち出せるものはないか、男が倉庫の中を見回したとき――黒光りする鎧が目に入った。
「そういや、こいつもあったな……」
それはこの空間の中で唯一の盗品ではない品であった。男が祖父から譲り受けたもの。由緒ある品らしく、男が骨董品を狙うようになったのもこういう古い品に価値があると教えてくれた祖父の影響があるだろう。
逃げねばいけない。だが、なんとなく男は鎧に近づいた。その時であった。
「な、なんだ!?」
空から、紫電が降り注いだ。
◇◇◇
「――――あ、あれ?」
緑谷出久は目を覚ました。場所は変わらず海浜公園。周囲を見回すと何やら焼け焦げたような跡が見える。どうやら雷が落ちたのは夢じゃなかったらしい。
それにしては自分には傷一つなく、特に痛みもない。スマホを取り出してみても、問題なく動いた。
「やっぱり夢……でも焦げ跡はあるしなぁ…………」
気になることがあるが、とりあえず地面に落ちていたヒーローマンをカバンにしまい、家へと向かう。気が付けばすっかり日が落ちている上に、天候が崩れて雨も降りだしそうだ。早く帰らないと母親を心配させてしまう。あいにく今日は早く帰るつもりだったから雨具は持ってきていない。何もしないよりはいいだろうとパーカーのフードをかぶる。
駆け足で家へと向かっていると、なにやら街のほうが騒がしくなっていた。
「なんだろう……」
パトカーのサイレンも聞こえる。何か事件でも起きたのかもしれない。もしかしたらヒーローがみられるかも。ヒーローオタクの部分が興味をひかせる。
理性は帰るべきだと告げていたが――出久は音のほうへ向かった。それが、彼の運命を大きく変えることとなった。
偶然による奇跡は起こった。行動による運命は決まった。あと必要なのは――
◇◇◇
「フハハハハハ! すごい、すごいじゃないか! なんだこれは!? 新たな個性か!? いや、普通は個性は一人につき一つ。ならこれはなんだ? わからないが、とっても気分がいいぜぇ!」
男は鎧を身にまとっていた。
落雷の後、痛みの中で男は何故と思っていた。人生最悪な日だ。逃走には半ば失敗し、その上あの忌々しい落雷に打たれる。男はただただ、周りが恨めしくなった。なぜ自分がこんな目に合わなくてはならない。力だ、力が欲しい。こんな最悪な状況をぶっ壊せる、強い力が。
そんな思いに反応するかのように鎧が浮き上がり、体へと装着されていく。鎧が一つ装着されていく毎になぜか男の力が増していき――最後にその腕に大太刀が握られた時、衝撃波が放たれた。男の個性も増幅されており、一回足踏みしただけで周囲のものを吹き飛ばしたのだ。
「な、なんだ!?」
「犯人に異常発生! 衝撃波を操るヴィランは日本甲冑を身にまとい、武装しました! 原因は不明ですが先ほどよりも強力な個性を発揮し――」
音がした瞬間には警官の首がと胴体が離れていた。
鎧武者は足の裏から衝撃波を放ち、一瞬で間合いを詰めて警官の一人を切り殺したのだ。
「――っ」
「二人いっぺんに狙ったつもりだったんだが……まあいいか。試し切りの相手になってくれよぉお巡りさんよぉ!」
ヒーローの応援を求む。なんとか、それだけは伝えられた。
◇◇◇
出久がその場所へたどり着いたとき、最初に感じた違和感は臭いだった。
どこかで嗅いだことがある、されどその時よりもより強い臭い――これはけがをしたときなどに嗅ぐ臭いだ。
「なんだ…………なんだよこれ」
血だまりだ。地面に赤黒い色の鉄くさい臭い――人の血液がぶちまけられていた。
そして、その近くには首の離れた死体と、上半身と下半身が離れた遺体。服装は、警察官。
「――――ッ」
口に手を当てる。幸い吐きはしなかったが、吐いた方が楽だっただろう。
何が起きているのかわからない。だがこの場にいるのは危険なのは確かだ。不用意に動いていいものか悩むが、こういう時は音のしない方――その時、悲鳴が聞こえた。
理性は働かなかった。考える暇もなかった。ただ、動き出していた。
緑谷出久とはそういう少年だ。危険があるかもしれない。だが、その声をなかったことにはできない。警察も近くにいる――無残な光景が事態のまずさを伝えてくる。
ヒーローが時期に来る――悲鳴の主のピンチに間に合うのか。
自分が行っても何もできない――それでも、体は動いた。
全力で駆け抜ける。この時、出久は気が付いていなかったが、なぜかいつもより体が軽く動いていた。まるで、全身の力がわずかだが増幅されたように。そのおかげか、その悲鳴には間に合った。
いたのは鎧武者だ。大太刀を引きずるように持っており、その視線の先には腰を抜かして座り込んでしまっている女性がいる。隣には、彼女を守ろうとしたのかおそらくヒーローが胸から血を流して倒れていた。まだ動きがある。どうやら死んでいないようだが、このままでは危ないだろう。
近くにはパトカーも来ており、警察官が降りようとしているが間に合わない。
「俺のよぉ、歩みをよぉ、止めるんじゃないよぉお!」
鎧武者が大太刀を振り下ろそうとした。
間に合わない。そう思った時であった。女性の顔が見えて――その顔が、助けを求める顔をしていた。
なぜかは分からないができる気がしたのだ。
体の内から何かが沸き上がる。自分でもよくわからないまま、出久はカバンからヒーローマンを取り出し、鎧武者と女性の間へと投げ込む。
「――あ?」
理性は告げている。ヒーローに任せるべきだ。警察だって来ている。だが、止まれなかった。今、自分が踏み出さなければあの女性と倒れ伏したヒーローは助からないだろう。ならば、止まる理由はない。
最後に必要なのは決意だ。今、出久はヒーローへの一歩を踏み出した。
そして口から自然と言葉が沸き上がる。相棒を、呼び覚ますそのコマンドを。
「HEROMAN-ENGAGE!」
雷の光をほとばしらせながら、ただの人形のはずのそれが巨大化していく。
白き巨体、腕と体のラインは赤い丸を浮かび上がらせ、体の横には星を描いた模様が見える。倒れ伏したヒーローと女性の前に立ち、鎧武者の一太刀を受け止めていた。
「なんだ、てめぇ」
「……」
ヒーローマンは無言でたたずんでおり、鎧武者もその異様な雰囲気に一歩距離をとる。
そのわき何かが通り過ぎる。異様な速さのそれ――緑谷出久は、ヒーローマンの横に立ち、鎧武者と対峙した。
「ただのガキ……じゃなさそうだな」
「なんだ、あの巨人は…………それに、少年?」
近くには警官もいる。拳銃を構え、目まぐるしく変わる状況に混乱しているようだ。
出久もとっさに飛び出してきたものの、どうすればいいのかわからない。
(ど、どうする? 何だか知らないけど、すごく早く走れた! ろくに体も鍛えていないのに、すごく体が軽い! いや、それは後で考えればいい! 今は、目の前のヴィランだ。とっさに出てきた言葉を叫んだらヒーローマンがでっかくなって、ってことはさっきのアレはやっぱり夢じゃないってことで――だから今はそんなことはどうでもいい緑谷出久!)
「あ、あなたたちはいったい……それに、なんで子供の君が飛び出して」
女性は、命が助かったことで少し余裕ができたのか、そんなことを言いだした。わずかに残る理性的な部分が顔を見せたらまずいとパーカーを目深にかぶり直し、出久は告げる。
「じ、自分でも大それたことをしたと思ってます。ヒーローに任せるべきだって――でも、貴女が助けを求める顔をしていたから!」
その言葉にこたえるかのように、左腕のコントローラーにアイコンが表示される。拳をかたどったそれが浮かび上がると同時に、出久は先ほどのように叫びながら右手を当てた。
「HEROMAN-ATTACK!」
「てめぇがどこの誰だかしらねぇが、俺の邪魔をするならまずはお前からだぁ!」
大太刀とヒーローマンの拳がぶつかり合う。ガキンと大きな音を響かせて火花が散る。鎧武者のほうは自身の個性で飛び込んできており、謎の力で切れ味が異常に上がったその大太刀の破壊力をさらに倍増させていた――だが、その一撃すらヒーローマンは受け止める!
「なっ――押し負けるだと!?」
「いっけぇええええ!」
それどころかヒーローマンの拳が大太刀を弾き飛ばし、鎧武者の腹に一撃を叩きこむ。
強いパワー、堅牢な体、何より、雄々しきその姿。その姿はまるで――
「――オールマイト?」
あるいは、スターアンドストライプか。
思わず警官の一人がそうつぶやいた。ナンバーワンヒーローと呼ばれる彼らを幻視するほどの、存在感をもって、ヒーローマンは鎧武者を殴り飛ばした。
「ち、畜生がっ! なんでこうも俺の邪魔ばかりはいるんだよ今日って日はよぉ……せっかく最高にハイな気分になっていたのに、邪魔すんじゃねぇよ!」
空中を跳びながら距離をとる鎧武者。焦る必要はない。今、自分は強力な力を得ている。まずは体勢を立て直すことが大切だ。ひとまず逃げて、それから考えればいい。
「あばよぉクソガキとデカブツ!」
「――――なっ!? 逃げる気か!?」
出久は直感的に理解した。ヒーローマンは確かにパワーはあるが、反面スピードがあるわけではない。いや直線的に、それこそ弾丸の様な動きならできるかもしれないがああも自在に跳び回る相手には分が悪いのだと。
「ど、どうすれば……」
「――」
「ヒーローマン?」
「――」
「やれるんだね」
その言葉に、ヒーローマンは頷いた。
喋れるわけではないが、意志のような何かはあるらしい。その頷きに合わせて、新たなコマンドが左腕に浮かび上がる。
「ならいこう――HEROMAN-MAGNECT!」
ヒーローマンが左手を鎧武者に向ける。すると、そこから強力な磁力が発生し、鎧武者を引き寄せた!
「な、なんだとぉ!?」
「これで決める――HEROMAN-ATTACK!」
磁力による引き寄せ、さらにそこに叩き込まれる一撃は通常の二倍の破壊力となった。
鎧がはじけ飛び、中身の男が警察のほうへと叩きつけられた。唖然とする警官と腰を抜かしたままの女性。やがて、その騒動を聞きつけたのか人の声がし始めた。
「――って、マズイ、早く離れないと――HEROMAN-DISENGAGE!」
とっさではあるが、出久はヒーローマンを元の人形の姿へと戻した。
当然のことだが出久はヒーロー免許を持たない一般人だ。個性ではないとしてもこんな大立ち回りをしたのだ。流石に警察のご厄介になるわけにはいかない。
幸い、警察たちは今はヴィランの確保に集中していたのでその場から離れた出久のことは視界から外していた。応援にきたヒーローたちも、オールマイトパーカーを着た少年を現場から逃げた一般人としか思わなかった。
その後、どう帰ったのかわからないし、出久も母親から心配されたが事件があって安全のため遠回りした――嘘をついたことに心苦しく思いながら――とだけ伝えて自室に入り、ヒーローマンを取り出す。
「なにがなんだか、わからないけど……僕たち、戦えちゃったんだ」
緊張の糸が切れたのか、その場に座り込む。
わからないことだらけだ。一つ言えるのは、自分がとんでもない力を手にしてしまったこと。
こうして、緑谷出久とヒーローマン、その最初の戦いは幕を閉じた。
今回のヴィランモチーフは漫画版ヒーローマン最初の敵。