僕のHEROMANアカデミア   作:アドゥラ

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幕間みたいな回です。


what's your name

 手拍子の音が鳴り響く。今日も今日とてヴィラン犯罪は発生する。これでオールマイトの影響で他の国に比べて日本は犯罪発生率が低いのだから、他の国ではどういうレベルで騒動が起きるのか。とはいえ、ヒーローは駆けつけてヴィランと対峙する。

 

「ここから先は通さねぇぞ!」

「あそれ!」

 

 ヴィランが手拍子を再びする。その音が発生した瞬間、周囲の人々は体のバランスを崩し、転げていく。ヒーローも例外ではない。まっすぐ立っていられないようで、地面に勢いよく頭をぶつけた。

 

「ぐほっ!?」

「ほっほっほ! 愉快愉快。拙者の手に入れた力は全く持って愉快ですぞ!」

「て、てめぇ逃がすか!」

 

 それでもヒーローは倒れ伏したままヴィランの足をつかむ。ヒーローとしてのプライドがあった。鍛え上げた個性もあった。ヴィランの個性はおそらく三半規管に働きかける何か。耳をふさいでいるヒーローもいるが、それでも倒れている。直接的に音を聞くことで発動するタイプではない。だが、倒れている状態ならそれ以上は倒れない。

 

「ヒーロー舐めんなヴィランが!」

「――なら、こっちが有効ですな」

 

 つかんだはずなのに、あまりの重さに体がもっていかれた。

 

「――は?」

「拙僧の個性は体重倍化。見た目よりもずっと重いですぞ」

 

 ならこの手拍子は? 一瞬の混乱。思考の空白。ヴィランはその隙を逃さなかった。

 

「さあ――皆様もこうなりたくなければおとなしくするのですな」

 

 飛び上がったヴィランは倒れ伏したヒーローめがけて、踏み抜いた。その個性を用い、一気に増加させた重さをもって。ゴキリと嫌な音が響く。ヒーローの絶叫があたりに響き渡り、ヴィランは愉快そうに笑い声をあげた。

 

「ほっほっほ! ああ愉快愉快」

 

 再び手拍子しながら走り出す。いかに個性という力を得て強靭な肉体を得るようになった現代であっても、内部の基本的な構造まではそう大きくは変わらない。ヒーローの推察通り、この手拍子は三半規管に働きかけて平衡感覚を狂わせる異能。人が人である限り、この力にはあらがえない。

 

「ほっほっほ!」

 

 人が人である限り――なら、人でないなら?

 

「ほっほっほ――ほう!?」

 

 物陰から大きな白い影が現れ、ヴィランを殴り飛ばした。くるくるときりもみ回転し、電柱に激突する。体が重かったのが影響してか飛距離はあまり出なかったが、ダメージは甚大だ。ヴィランは一撃で虫の息になっている。

 そこに物陰からバリアを展開し、ヴィランの能力を防ぎながら様子をうかがっていた少年――緑谷出久がでてきた。ヴィランがのびているのを確認すると、ロープを取り出してヴィランが手拍子をできないように後ろ手に縛る。

 

「やっぱりバリア展開中に動くのは難しいし、ヒーローマンの移動速度の問題があるな……」

 

 周囲を見回すと、攻撃を受けたヒーローが他のヒーローに救助されている。気にはなるが、このヴィランの確保含めて後は任せた方がよさそうだ。出久はヒーローマンを元のおもちゃの姿に戻すと、すぐにその場を立ち去った。

 一つ気になったのは、体重倍化が個性と言っていたこと。なら手拍子による転倒能力は?

 

「……ヒーローマンも個性じゃないし…………いったい、何が起きているんだろう」

 

 ◇◇◇

 

 イレイザー・ヘッド――相澤消太は警察からの依頼でここ最近逮捕された、複数個性持ちのヴィランに対して抹消をかけ、検証を済ませた。

 

「どうでしたか、イレイザー・ヘッド」

「やはりどのヴィランも登録されている個性には抹消が効きました。ですが、ここ最近目覚めたという二つ目の個性には抹消が効いていません。個性因子のほうはどうでしたか?」

「そちらも検査結果が出ている……どうやら、二つ目の個性に個性因子は関係ないらしい――つまり、これは個性ではないということだ」

「……やはりそうですか」

 

 面倒なことになった。口には出さなかったが。

 現行の法律においてはあくまで個性の無断使用で捕えているのだ。他にもヒーローコスチュームや規定外のサポートアイテムの不正使用など細かい法律は色々とあるが、今回発生している謎の力で暴れているヴィラン――いや、そもそも個性犯罪ではないので、ヴィランと称していいのかあいまいな状態だ。

 

「やはり一般公表せずに個性ということにして捕らえる方針ですか?」

「そうしたいところだが…………無理だ。何者か不明だが、個性とは違う謎の力として話が広がり始めている。動画サイトで視聴数稼ぎに力を行使しているものもいるぐらいだ」

「ハァ……」

 

 ため息が出る。無理もない。ヒーローや警察はどうしても後手に回ってしまう。

 今のところ暴れているヴィランは個性関係なく逮捕できるようなことをしているヴィランばかりだ。おかげと言っていいかわからないが、個性使用ではないので警察やヒーローの過失になるというケースは起きていない。今後そういったことが起こりえるのが面倒な状況の一因だが。

 

「そういえばイレイザー、あの白いヴィジランテは捕らえられなかったのか?」

「……アレもどうやら個性ではないようでして、抹消が効きませんでした。それに、今のところヴィランを止めた以上の行動をしていないんですよ。個性の不正使用ではないから、ヒーローの出る幕じゃない」

「まったく頭が痛いことだ。しかし何者なんだ……」

「…………」

 

 イレイザーの脳裏に過るのは、白い巨人と一緒にいた少年。口ぶりからすると、彼が力の持ち主のようだったが、本人は無個性と言っていた。フードを目深にかぶっていたので、顔は分からなかったが、無理に捕らえるべきだったか……いや、本当に無個性ならヒーローとして彼を捕らえるのはリスクが高い。

 

「合理的に考えれば、ここは警察に任せるべきか」

 

 口ではそう言うものの、イレイザーの思考には少年の姿が残り続けた。似ても似つかないはずなのに、どこかのナンバーワンヒーローを思い出す雰囲気を纏ったあの少年を。

 

 ◇◇◇

 

『いやぁ、まさか個性ではないとは思いもしなかったよ!』

「まったくじゃわい。先日から続く落雷、ワシもてっきりアレが個性因子に作用して新たな個性を生み出していると思ったんじゃが……」

『で、どうだいドクター? 捕らえた検体は』

 

 日本のどこか。暗く深い地下にて二人の男が会話していた。一人は白衣を着た老人。胸元には身分を証明する札が付いており、どこかの病院の医師であることがうかがえる。そしてもう一人――体は何らかの機器に繋がれており、大けがをしてその治療を行っていることがうかがえる。顔には奇妙なマスクをつけており、表情はうかがい知れない。

 ただ一つ言えるのは、両者ともに善人とは程遠いものの雰囲気を纏っていることだろう。そしてそれを示すかのように、周囲の空間にはおぞましいものが並んでいた。死体を切り刻み、ツギハギしたような物体が浮かぶ巨大な水槽がずらりと。それらの名は脳無。彼らが生み出した、死体を改造した改造人間。動く死体だ。

 

「捕らえた検体からは該当の異能の個性因子が検出されない。試しに脳無の素体にしてみてもいいんじゃが……死んだとたんに力の力場も消えたんじゃ」

『なんともまぁ……それは使い勝手が悪そうだね』

「――オールフォーワン、ためしてみるかの」

『そうだね、検証は必要だ。だが個性でないなら奪えないだろうなぁ……ああ実に惜しい。こんな体をどうにかする一手になるかと思ったんだが、なかなかどうしてうまくいかないねぇ』

 

 口ではそう言うものの、どこか楽しそうにする男性――かれこそオールマイトの宿敵にして、超常黎明期から生きているスーパーヴィラン、オールフォーワンその人である。個性を奪い、他者に与えることもできる個性で裏社会を牛耳り、長年この国の裏で暗躍していた男であるが、数年前にオールマイトに討たれたはずであった。だが、彼は生き延びた。この場にいるドクターと呼ばれる彼の治療により、現在は生命維持装置に繋がれた状態ではあるものの、虎視眈々と力を蓄えていた。

 

『まあ、奪えないなら奪えないでいいさ。気楽にいこう。並行して用意している計画たちも順調だしね。不確定要素はあるが、気にするほどじゃない』

「脳無の製造も順調じゃしの……どこかで一度テストしてみたいものじゃのう」

『そうだね。だが今はまだ時じゃない。流石に僕も今はまだ動けないからね』

「なにか回復につながる一手。それさえ入手できれば」

『チャンスは必ずある。必要な駒はそろいつつあるんだからね――あとは、僕たちがより有利になるような種をまいて、来る日に備えればいいのさ。なにせ僕たちには集めに集めた個性だってあるんだからね』

 

 悪意は静かに、しかし着実に近づいている。

 平和の裏で、少しづつ力をつけながら。

 

 

 されど彼らも気が付いていなかった。

 悪意を持って近づいてくるものが、星の彼方から今まさに迫っていたことなど。

 そして、無個性の少年が星を救うカギになることなど、今はまだ誰も気が付かない。

 

 ◇◇◇

 

「ハァハァハァ…………」

 

 静岡県某所。

 少年は無個性だった。ヒーローにあこがれるだけの、普通の少年だった。

 無個性であることを理由に、周囲からはいじめられ、幼馴染からもひどい暴言を受けていた。名前をもじった蔑称で呼ばれ、馬鹿にされていた。

 半面、その幼馴染は優れた個性を持っており、少年もあこがれに似た思いを抱いていた。

 

「…………ははは」

 

 変わったのは、奇妙な落雷に打たれてから。体中を電気が駆け抜け、痛みに耐えた。意識が遠のく中、ただひたすらに思った。ヒーローになりたい――力が欲しいと。

 気が付けば、自分は力を手にしていた。個性ではない、謎の力。されど少年はこれでヒーローになれると喜んだ。そして、街中で幼馴染たちの姿を見つけた。自分も力を得たぞ。これでヒーローになれる。そう言おうとして――目の前が真っ赤になった。

 殴った肉の感触が手に残った。

 鉄のにおいが鼻に残った。

 泣いて謝る声が耳に残った。

 言い様もない高揚感が心に残った。

 

 そして少年は――化け物になった。

 




1章はそう長くやるつもりはないので、出てくる敵はあと2人ぐらいかな。
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