時系列的にこの作品の直前か同じくらいになるか? まああちらの話自体はあまりふれないかな。多分キャラが少し出るかもぐらい。
最初に言い出したのは誰だったか。古いネットスラングにちなんで、『グモ』なんて呼ばれだした。赤谷という苗字も併せて真っ赤な死体のグモとか言うやつもいた。
オールマイトにあこがれた。どんな時も、どんな状況でも悪をくじき、人々を助けるヒーロー。その拳に、力に、僕は惹かれたんだ。
だから人をいじめるこいつらを、オールマイトみたいに殴り飛ばした――鮮血が舞い散る。
個性で反撃されたが、僕の皮膚に当たった攻撃は金属音みたいな音を響かせてはじかれた。
「な、なんだよ、なんなんだよ!?」
「――人をいじめる、悪い奴は殴り飛ばしてでもとめる。それが、ヒーローだから」
こんな奴らでも幼馴染だから。僕も力を手に入れたんだ。これでヒーローになれる。そう声をかけようとしたんだ。だけどあいつらは、気弱な生徒をいじめていた。こいつらだってヒーローになるんだって言っていたのに。ヒーローはそんなことしないのに。
だから――僕が止めたんだ。言ってわからないならなんどでも殴って。
殴って、殴って、そして、何も言わなくなった。
「…………?」
気が付くと、周りは真っ赤になっていた。視線をずらすといじめられていたはずの少年がおびえたようにこちらを見ていた。なぜおびえるのだろう? 僕は君を助けたんだ。そう――
「もう君はいじめられない。なぜかって? 僕が来た」
この僕、『
◇◇◇
「中学生殴殺事件か……」
スマホで近場で起きた事件を調べていた時のことだ。ひとつ気になる事件を見つけた。大体はヒーローや警察の手によって解決されており、有名ヒーローならトップの見出しになっていたりするからすぐにわかる。とくにオールマイトが解決した事件なら一番の見出しになっているから探しやすい。なぜか最近はオールマイトの記事が以前より減った気もするが……あまりにもスピード解決するからだろうか?
気になることは気になるが、オールマイトの記事はブックマークに入れて、別で気になった事件を見た出久。発生した地区は地元から近い。どうやら犯人はまだ捕まっていないようで――気になるのは名前が公表されていないこと。どうやら未成年の起こした事件らしい。だが、ネットを調べているとSNSのつぶやきなどで情報が出てきており、信ぴょう性は何とも言えないがその中で一番おおくつぶやかれていることが気になった。
「……犯人は無個性?」
ヴィランというよりは、ただの殺人事件なのか? そう思ったが、逃げる犯人を撮影したらしき動画を見つけた。未成年相手ということで麻酔弾か何かだろうが、何らかの弾丸を撃たれた少年だったが、皮膚に弾が当たった瞬間、弾がはじかれた。少年が足をかがめると、バネのように跳びあがって屋根伝いに逃走していった。
弾丸をはじく強靭な皮膚、高い身体能力、殴殺ということは人を殴り殺したことから単純にパワーもありそうだ。個性なら身体強化とかそういったところになるだろう。だが、出久の直感がこれは個性ではないと告げていた。
考えをまとめきれないが、能力の考察は続けていた。ノートにSNSから読み取れる情報から推測される力の概要を書き込んでいく。と、そんな時であった。頭を後ろからはたかれたのは。
「――あいてッ」
振り向くと、幼馴染の爆豪勝己が自分の頭をはたいたようであった。どこか不機嫌そうな様子で、出久をにらんでいる。
「か、かっちゃんどうかしたの?」
「テメェ、ここ最近コソコソとなにしてやがんだよ」
「べ、別に……ちょっと気になるヒーローがいて追っかけているというかなんと言うか……」
「……ハンッ、テメェみてぇな無個性にはそれぐらいで満足してんのがお似合いなんだよ…………俺はちげぇぞ、必ず雄英に入ってトップヒーローになるんだ」
それだけ言い残し、勝己は自分の席に着いた。出久はぽかんとした表情をしており、何を言いたかったんだろうかと気に留めながらも再び思考の海へと戻る。
幼馴染ゆえか、勝己は出久の何かが変わり始めていることを感じ取っていた。それが何かまでは分からない。勝己にとって、出久は無個性の木偶の棒という印象だった――本当はそれだけではない。
自分より後ろにいるはずの男であった。だが、脳裏に過るのは幼き頃の思い出。足を滑らせて丸太の橋から浅い川に落ちたときのことだ。大したことはなかった。一緒にいた友達も大して心配はしてなかった。だが、出久だけだ。出久だけが心配して駆け寄って手を指し伸ばしたのだ。その姿を見たときから――なにか言い様のない敗北感が勝己の中に生まれた。
「チィッ」
すごい個性を持っている自分が一番で、無個性の出久が一番すごくない。
今はまだ、そう思って勝己は己の心に蓋をする。
そうしていつの間にか、先へ走り出した幼馴染に気が付かずに。彼がそれを知るのは、もう少し先のことだ。
◇◇◇
「いやぁ悪いね緑谷君! 私の個人的な研究道具なのに運ぶの手伝ってもらって」
「いえ、先生も困っている様子でしたし」
「ハハハ! そう言って、他の先生が困っているときに進んで助けているの知っているよ。流石ヒーローオタクだね!」
「あ、あははは」
理科教師、
同じオタク気質で無個性を差別しないから出久とは仲が良く、雑談することも多い。
「しかし最近は物騒なニュースも多くて困るね。東京のほうは……まああっちは人口も多いから事件には事欠かないけど、この周辺でもヴィラン犯罪が多発している。君のことだから、どうせ事件が近くで起これば見に行くんだろうけど、あまりお母さんを心配させちゃいかんぞ」
「き、肝に銘じます」
見に行くどころか、最近は突っ込んでいっています。そんなことを思うが、当然口には出せない出久であった。
互いにここ最近あったこと(もちろんヒーローマンの件は話さないようにして)を中心に雑談しながら資材を運ぶ。
「え、それじゃあ先生ってサポートアイテム関連の勉強もしていたんですか?」
「まあ本職が必要とする免許までは取得していないけどね。簡単な機構とか、許可を取りやすい素材とかを扱う程度の資格は持っているよ。元々は宇宙開発事業を手掛ける企業に入りたくて、いろいろなことに手を出したんだけど、今のご時世じゃあまり宇宙関連のことを手掛ける会社ってなくてねぇ……私の学力じゃ、一流のところまではいけなかったし」
「それでもやっぱりすごいですよ……僕、無個性だから。どうしても自信持てなくて」
「でも、こうやって私を助けてくれる。力がどうこうよりも、そう思って行動することが一番大切じゃないかな? まあ、私も髪の毛が金属質なことってだけの個性だからあんまり人のこと言えないけどね。何なら床屋泣かせだから日常生活じゃ困ったことが多いけどね!」
「あ、あはは……」
個性社会となり、様々な技術も発展した。それでも散髪という頭部周りのデリケートな部分においてはシンプルにハサミでカットしていくという光景は変わらない。だからこそ、こうして個性で困ったことになる人も現れる。無個性である出久にはそのあたりのことは分からないが、やはりそれでも個性がうらやましいと思うのであった。
やがて資材も運び終え、日も傾き始めていた。
「ふう……」
「お疲れ様。ありがとうね緑谷君」
「いえ、また何かあったら手伝いますので。でも先生も宇宙が好きなんですね、先生をしながら研究も続けて」
「それが私の生きがいだからね。ああ、もしも超人社会になっていなければ今頃人類は恒星間旅行をしていたかもしれないという説もあるぐらいだ。なぜ、超人社会になどなってしまったのか……実に悔やまれる」
「は、ははは……それあまり人前で言わない方がいいと思います」
今の人類、個性社会が根付いている。そんな意図はないだろうが、反社会的にもとれるセリフであった。
そろそろ帰ろうか――出久がそう思った時であった。視界の隅に、何かが見えたのは。
「――?」
「おや? 誰かが個性を使って屋根を跳び回っているね……見たところ中学生ぐらいのようだが、若いがゆえの暴走といったところかな。まあ厳重注意ぐらいで済むだろうが」
ドクンと心臓が鳴った気がした。
少年の姿はどこにでもいる地味目の顔立ち、学ラン姿でぼさぼさとした髪をしている。
それに出久が気が付いたのは今まで多くのヒーローを見て、研究してきたことに起因していた。培われた観察眼。考えをまとめきれてはいないものの、高速で思考する能力。今までは無個性ゆえに後ろ向きであった思考が、ヒーローマンと出会ったことで前を向き始めていたことも関係しているだろう――少年の手が、血に染まっていたのだ。
「――ッ」
「緑谷君!?」
「すみません、僕行かないと!」
急いでカバンを取りに向かい、少年が跳びはねていった方向へ向かう。ヒーローか警察が動いているだろう。出久が出るまでもない。だが、一瞬だったが――少年はどこか泣きそうな顔をしていたように見えたのだ。
ドクンドクンと、心臓の音がうるさい。
出久はその顔を見た瞬間には動かずにはいられなかった。普通に考えれば出久が到着する前に事態は解決するだろう。だが様々な偶然が重なっていた。
この時、宇宙から強力な電磁波が降り注いでおり、ここしばらく発生している雷もあって電子機器が一時的なエラーを起こしたこと。救助などで近場のヒーローたちの手が埋まっていて少年を発見できなかったこと。たった今跳びまわっている少年の身元が分かり――『無個性』であることが判明してしまったこと。ゆえに、個性犯罪ではなかったためそもそもヒーローを呼べなかったこと。
そうして、少年――赤谷海雲は今も捕まらずにいた。ゆえに彼らは出会う。
身を隠して休憩しようと森に入ろうとした海雲、そこに出久は声をかける。
「……だ、大丈夫ですか?」
「なんだ、お前」
「泣きそうな顔をしていたので、その……そうだ、近くに交番があるんです。ヒーローも、パトロールしているかもしれないし、もしかしたら話を聞いてくれるかも――とにかく、そんなボロボロの服も何とかしないと」
出久は手を伸ばした――だが、海雲にとってはもう手遅れであったのだ。
「――ッ」
「うわっ!?」
海雲の拳が出久に届く、その瞬間に大きな白い腕がそれを止めた。
出久は既にヒーローマンを起動させていたのだ。そうでなければ人の運動能力を超えていた少年に追いつけなかっただろう。コントローラーを左腕にまとっている間、出久の身体能力は底上げされる。走るスピードも格段に上がるし、ヒーローマンも運動能力は高い。海雲の発現したばかりの力には追い付けたのだ。
「――なんだ、お前」
「…………ニュースになっていました。中学生殴殺事件。あなたなんですよね、同級生を殴り殺した少年って」
「だったら、どうだっていうんだよ」
海雲が力を入れる。わずかにだが、ヒーローマンが後ろに押された。見た目以上の力。とても『無個性』には出せるよな力には見えない。
「ネットではいろいろな情報が出ていました――あなたが『無個性』だって」
「それがどうしたよ……僕はたしかに『無個性』だ。でも、力を手に入れたんだ! その力で、人をいじめるあいつらを懲らしめてやったんだ! 僕は、ヒーローになったんだ! 人を笑って助ける、そんなヒーローに!」
「それは! ヒーローのすることじゃない!」
確かに少年は笑っていた。涙を流しながらも、その力を笑って振るった。
「…………僕も『無個性』です」
「――あんたもあの雷に当たったくちか。で、あんたの力がそのデカブツってわけね」
ドクンドクンと心臓の音が鳴り響く。
いつの間にか、空には薄暗い雲が広がっていた。
「僕は助けようとしたんだ。アイツが人をいじめていたから、殴ってでも止めようとしたんだ――でもさぁ、泣いて謝る相手が違うだろ。僕にじゃないだろ、その時いじめていた人に向かって謝るべきだろ。だからわかるまで殴ってやったんだ! 僕は、ヒーローだから! そのための力を手に入れたんだから!」
そう言って赤谷海雲は笑う。
その姿に緑谷出久は察した。強引にでも止めるしかない。ヒーローがやってくる気配はない。警察もこいつを取り逃した。今、彼を止められるのは自分たちしかいないようだ。
この泣いたような瞳で笑う少年を止めるために、出久たちは立ち向かった。
「HEROMAN-GO!」
赤谷 海雲
個性『無個性』その身には異能は宿っていない。
???『超化』その身を強靭にする。細胞のひとつひとつに至るまで、すべてを。