僕のHEROMANアカデミア   作:アドゥラ

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第1章はもうそろそろ終わりが見えてきた。まあ、プロローグみたいなものなので。


緑谷出久:BLAST

 出久は急いで靴を履き直した。ヒーローが行動できないことを察し、今動かなければいけないと頭の中で海雲の逃走経路を考える。

 

「緑谷君、警察が追っている。ヒーローだっているんだ。今君が行く必要は――」

「彼、無個性なんです。なら彼もヴィランじゃない」

「――あ」

 

 その情報は、確かにニュースで流れていた。赤谷海雲は未成年ゆえに名前こそ公表されていないが、同級生を撲殺した殺人犯として追われている。だが無個性であるがゆえに、彼は個性犯罪者――ヴィランではない。すなわち、ヒーローが個性を用いて彼を捕らえるのは難しいのだ。

 

「だ、だがさすがに全く行動しないわけではない。彼を見つけたらその場で捕まえるぐらいはするさ」

「……たしかにそうかもしれません。でも、積極的に彼を追うわけにはいかないはずです」

「それはそうなのだが、何も君が行く必要は……」

「僕も、無個性なんです。あの人の気持ちがすべてわかるわけじゃないですけど、少しはわかります。彼も僕も、無個性で、力を手に入れて……ヒーローにあこがれている口ぶりでした。だから、止めなくちゃいけないんです」

 

 短い邂逅であったが、彼の顔が脳裏にこびりついている。泣いたような瞳で笑った、その顔が。

 あの涙を止められるのは――同じ無個性の自分しかいないのだ。

 

「き、君は……逃げている彼も助けようとしているのか!?」

「僕が行って、どうにかできることじゃないかもしれない。それでも、僕は行くんです。だってそれが、僕があこがれたヒーローの姿だから!」

 

 そう言って、出久は飛び出そうとした。しかし、再度デントは彼を止めた。

 

「待ちたまえ!」

「先生、すみません……それでも、僕は――」

「……教師としては失格なんだろうね、でも…………やっぱり放っておけない。走り回るよりは早いはずだ」

「え、先生?」

「乗りたまえ! 軽自動車だが、走るよりはずっといい!」

 

 ◇◇◇

 

 日はすっかり落ちていた。

 赤谷海雲は警察に包囲されるも、銃弾をはじき、力ずくで止めようとする警官も殴り飛ばし、周囲を取り囲んだパトカーをその拳で吹き飛ばした。

 

「クソっ、始末書覚悟で拳銃使ってるのにあっさりはじかれたぞ!? ホントに無個性なのかよ!?」

「調べはついている。近頃発生している突発的な異能――超能力の持ち主だろうぜ!」

「いい加減特例でヒーローが対応できるようにしてくれよ! それか俺らの個性使用許可を!」

「どっちも法律面で難しいっての! 第一俺らの個性じゃ止められないぜあのミニオールマイト! 知ってるか? 俺の個性鼻から甘い匂いを出すって個性なんだぜ!」

「ハッハー、そりゃ無理だ!」

 

 パトカーの裏に隠れ、二人の警官が軽口をたたきあいながらチャンスをうかがっていた。装備は拳銃、警棒など。対ヴィラン用に用意されたスタンガンなどもあるが、組み付こうものならその身体能力で一撃で意識を刈り取られる。先ほども一人の警官がやられて、倒れ伏していた。

 

「死者が出ていないのが、幸いだなオイ」

「だが、そろそろまずいかもな――興奮したアイツが、いつ一線を越えるかわからない……いや、すでに一線は越えているんだ。アイツ、徐々に力の制御が効くようになっていやがる。力加減を覚えようとしているんだ……手ぇ抜いて、経験値稼ぎしてやがる」

 

 赤谷海雲の様子は徐々に変わっていた。赤い雷光を纏った状態から、全身に光が広がり、やがて赤いオーラの様なものへと。

 そして、腕をその場で振るった瞬間、あたりに突風が吹き荒れた。

 

「――な」

「ああもう、面倒だな――ヒーローになるんだ。悪い奴を見つけて、倒さなくちゃ。だから、邪魔しないでほしい。僕も、警官の皆さんにひどいことしたくないんだ――でも、子供を撃つような不良警官なら、別にいいのかな」

 

 海雲の視線が冷たくなる。ここまで警官で死者がいなかったのはひとえに、まだ彼にヒーローへのあこがれがあったからだ。曲がりなりにもヒーローにあこがれている少年なのだ。警官という存在に対して、自ら攻撃を加えることはヒーローのやることではないというブレーキがかかっていたからだ。だが、実弾を撃たれたという事実が、そのブレーキを外させた。

 海雲は跳びあがり、体を回転させる。遠心力を加えた、オールマイトの必殺の一撃の一つ。その名は――

 

「――CALIFORNIA SMASH!」

 

 振り下ろされた、その拳が警官たちへと届く、その瞬間であった。

 なにか、素早く動く足音があたりに響き渡り、警官たちの前へと躍り出る。

 

「ぐ、うううう!?」

「また、お前かよヒーロー気取り!」

 

 出久が、間に合った。パトカーのサイレンからおおよその場所を割り出し、銃声がこの場所を教えてくれた。

 そして、バリアを展開して海雲の一撃を受け止めたのだ。数刻前は受け止めきれなかった。だが、今度は受け止めきると、出久は力を籠める。

 

「しょ、少年! 何をしているんだ、早く逃げなさい!」

「逃げません――無個性でも、いや……無個性だからこそ、分かるんだ。ずっと、ずっと、力が欲しかった――でも、そうじゃないんだ。困っている人を、助けるために――誰かの笑顔を守りたいから、僕は、ヒーローになりたいんだ! 君は、どうなんだ! こんな、ただ誰かに力を振るいたいからヒーローになりたいのか!?」

「な、なに……何言っているんだよ! ヒーローになるには、力がいるんだ! そうやって、悪い奴を倒して、ヒーローになるんだよ!」

「ならなんで、君は泣いているんだよ!」

「――――」

「君が誰かを殺してしまったことは変わらない。そのことは償わなくちゃならないかもしれない――でも、その涙を、僕は見なかったことにはできない!」

 

 その叫びに応えるかのように、ヒーローマンが現場に追いつく。

 いまだ拮抗している二人の間へ割り込み、海雲を殴り飛ばした。

 

「ぐっ……」

「だから、もう止まろう……ヒーローになりたいなら、その力は誰かのために使えるはずだから」

「…………」

 

 そう言って、出久は手を伸ばす――だが、その手を海雲は振り払った。

 

「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁ!! なんだよそれ、まるで――ヒーローじゃないか」

 

 オーラが膨れ上がり、体から黒い電が迸る。

 

「僕は力を手に入れたんだ――僕がヒーローなんだ、オールマイトみたいに、ヴィランを倒す、知ってるだろ、勝利のスタンディング。あんな、最高のヒーローになるんだ。なのに、なんで――同じ無個性のはずのお前が、そんなこと言えるんだよ……悪い奴は倒さなくちゃ、僕をいじめてきたあいつらみたいに、倒さなくちゃいけないんだよ!」

「…………あなたを、止めます。HEROMAN-GO!」

 

 ヒーローマンの拳と、海雲の拳がぶつかり合った。はじかれたのは、ヒーローマンのほうであった。だが、その一瞬の交差の後、出久が蹴りかかる。その一撃が、海雲のほほに突き刺さる。

 

「ッ!?」

(よし、先生のアドバイス通りだ――僕の身体能力が強化されている、特にスピード、すなわち脚力がかなり上がっているなら、蹴り技を使えばいい。腕はヒーローマンへコマンドを送り込むときにも使う。僕自身が攻撃に参加するなら、足を中心に組み込めばいい)

 

 すぐに後ろへ下がり、ヒーローマンが海雲へ組み付いた。

 力は海雲が上回っている――しかし、出久が回りこんで再び狙いをつける。

 

「この――なんでこんな急に、動きがよくなっているんだ!?」

「決めたんだ……僕はヒーローになるって――困っている人のために、戦うって!」

「僕は倒すんだ――悪い奴を倒すために、ヒーローになるんだ!」

 

 互いにヒーローになりたい無個性の少年であった。されど、その根底にあるのは全く違う思想であった。あこがれたものは同じだ。境遇も似ていた。だけど、根本的に二人には異なるところがある。力を振るう理由。その一点が、決定的に異なっていた。

 

「ぶっ飛ばしてやるッ」

 

 海雲はこいつだけは、この少年――緑谷出久だけは否定しなければいけないと思った。この少年を見ていると、自分の中の何かが崩壊するような、見たくないものを見てしまうような感覚を覚えたのだ。

 そのいら立ちに応えるかのように、力が増す。パワーが増大し、あたりにすさまじい突風が吹き荒れる。

 

「拳で、ここまでの風圧を――」

 

 ぽつぽつと、雨が降り始める――なんと、海雲の拳によって発生した強烈な突風により、周囲の天候に影響を与え、雨となって降り注いだのだ。

 

「うそだろ……マジでオールマイトかよ」

 

 警官の一人がポツリとつぶやいた。そんなことができるのは、オールマイトぐらいだ。この無個性の少年の手に入れた力は、その領域にまで迫るというのか、あまりのことに恐怖してしまう。だが、出久は冷静にオールマイトに似た力であると分析したうえで、違うと結論付けた。

 

「オールマイトはみんなを安心させてくれるんだ。笑って、みんなを助ける。そんなヒーローだ。決してただ敵を倒すためだけに振るう力じゃない」

 

 そんなヒーローになりたいんだ。どんなに困っている人でも、笑顔で助ける。そんなヒーローに。

 その想いに、相棒(ヒーローマン)は応えた。

 

「新しいコマンド?」

 

 左腕のコントローラーに、今まで見たことがないアイコンが表示される。

 ヒーローマンの視線が自分を見ている。喋ることはない。だが、その意思は伝わった。

 

「そうだね。いけるよ、ヒーローマン。僕たちなら、なれる…………HEROMAN-BLAST!!

 

 アイコンを押し込むと――ヒーローマンが咆哮を上げる。頭部と肩からエネルギーが噴出し、その身に雷が迸る。

 

「なんだよそれ、ここでパワーアップ? そんなヒーローみたいなことしやがって――それでも、僕は負けない。ヒーローに、なるんだ!」

 

 海雲がとびかかる。先ほどよりも早く、今度は指令を送っている出久めがけて拳を振るった。だが、その間にヒーローマンが割って入り、その拳を受け止める。

 

「なっ――さっきまで、力負けしていた木偶の棒が、こんな急に!?」

「木偶の棒か……確かに僕はデクかもしれない。でも、ヒーローマンが一緒なら、戦える。なるんだ――笑顔でみんなを助ける、そんなヒーローに!」

 

 ヒーローマンが拳を振り上げる。海雲は腕を構えて防御するが、その防御ごと拳は降りぬかれた。

 

「が――」

 

 電撃と共に地面へと叩きつけられ、海雲はその意識を途絶えさせる。何が足りなかったのか、何がいけなかったのか、薄れゆく意識の中、自問自答をする。だが、その答えが見つかることはなかった。

 

「……勝てた、か」

 

 ヒーローマンから迸っていた雷が消え、その体が縮小していく。同時に、出久もどっと疲れてその場に座り込みそうになるが、警官の前で大立ち回りをしていたことを思い出し、マズイと思い直す。

 

(やばい、言い訳できないぞ。ヴィジランテ活動なんて法に触れそうなことをして、相手が殺人犯とはいえ彼を殴り飛ばして、ヒーローになるどころの話じゃ――)

 

 顔が真っ青になる。だが、なぜか警官たちは出久から視線を外し、彼の姿を見ないようにしていた。

 

「……え?」

「あーこれは独り言なんだが……無線機の調子もおかしくてなぁ、応援が呼べないんだ。まあ、犯人は確保できているし、こちらから合流すればいい話だ。それに無個性の少年がちょっとした喧嘩をした程度、こちらから何かする必要もないし、ましてやヒーローを呼ぶわけにもいかんなぁ」

「天候が変化し、運悪く雷が直撃、そこを気絶させたことで確保。まあ、そういうことだ。あ、これ独り言な。あー、それに倒れちまったみんなも救急隊手配しないといけないか……やることおおいなぁ、現場から立ち去る無個性の野次馬なんて注意する暇もないなぁ」

 

 自分たちは何も見ていない。出久はその意思をくみ取り、何も言わずに立ち去った。

 近くにはデントが車を待機させており、乗り込んですぐさま離れていく。

 こうして、無個性同士の戦いは幕を閉じたのであった。




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