空に奇妙な光が観測された。
各国の気象台や天文台なども何らかの個性か、はたまたどこぞの科学者の実験か、原因は不明であるが、確かにその光はそこに存在していた。
そして、そのすぐあと――世界各地で、突発的なヴィラン犯罪……いや、侵略が開始された。
◇◇◇
日本はすっかり夏となり、だいぶ暑い日が続いている。蝉の鳴き声も響き渡り、夏休みの計画を立てないとなと、出久はカレンダーを見て決まっている予定を書き込んでいた。
「まず重要なのは、オールマイト展! 東京開催で、チケットの倍率すごかったけど……まさか当選するなんて! 8月が待ち遠しい!」
オールマイトの活躍や、今までのグッズ、海外時代の貴重な映像なども集められた全国のオールマイトファンにとって見逃せないイベントだ。ここ最近マイ活*1を出来ていなかった出久は、テンションうなぎのぼりである。
ウキウキとした気持ちで開催日に重要、と書き足す。そこに合わせて片づけなければならない用事なども書き込んでいった。とはいえ、宿題やら先に向けた勉強、体を鍛えるためのトレーニング計画などで、オールマイト展以外は他の予定が入っても変更できるものばかりだったが。
ルンルン気分で当日の移動経路をまとめる。必要なものも事前にチェックして、不足があるのを確認した。
「……!?」
不足があるのを確認した。
「カバンに……穴が!?」
どうやら、ここ最近の無茶が祟っていつも使っているカバンにダメージが出ていたらしい。大きなものを入れていなかったので、今まで気が付かなかったがこのままオールマイト展に行ってグッズを買って中に入れたとしよう。ポロリと落ちていた可能性がある。
「い、いそいで買いに行かないと――くぅ、手痛い出費だ。いっそのこと耐久性のあるものを探す? いや、でもグッズ購入資金も考えるとあまり高いものには手を出せないし、だからといって安いものを買って、また壊れて買い直すのもそれはそれで出費が重なることになるし、とりあえず、実物を見に行くだけ行ってみて考えるべきか? 実際の大きさ、使用感、利便性とか考えることは多いし……」
ひとまず、最寄りの店まで向かうことにする。家から近いのは総合スーパー内の店舗だろうか。今回はブロンズエイジ時代を模したオールマイトパーカーに着替え、ここ最近はいつも履いている鋼板入りの安全靴で買い物に出かけた。腰にはポーチをつけており、ヒーローマンとコントローラーも持ったうえで。
超能力者騒ぎもすっかり収まり、社会は普段通りまわっている。個性を持て余したヴィランが現れ、ヒーローがそれを解決する。
危ういバランスにありながら、人々は平和を享受していた。
もっとも、それが予想もしない方向から崩れていくとはこの時、地球上の誰もが予想だにしていないのであったが。
最初に気が付いたのは誰だったか。
場所は出久が買い物へ向かった総合スーパー近く。
突如として、空に謎の浮遊物体が現れたのだ。空を見上げていた子供か、散歩中の老人か。誰かが空を指さし、あれは何かと叫ぶ。その声に引っ張られて、次々に人々がその逆円錐型の物体を目撃した。ヴィランが現れたのか、はたまたどこぞの科学者の発明か。超人社会において、様々な技術が発展した。ホログラム技術、AI、ロボット、今更浮遊物体程度では驚かないのだ。それこそ幻を投影する個性でも使えばこんなこと簡単にできるのだから。少なくとも、その物体で影が生まれている以上幻ではなさそうではあるが。
人々は慌てふためくことなく、何かあればヒーローが解決するだろうとそこまで慌てる様子もない。危なくなれば避難する程度に考えてはいたが、そこまでだ。
ほどなくして警察も、ヒーローも到着した。
――戦闘力ノ高イ個体ヲ検知――
それが、引き金だった。
浮遊物体の下側から、三つの光が地上に降り注ぐ。繭の様なそれが地面に降り立ったと同時に霧散する。光の中から、人影が現れた。
人から離れた外見の個性もある社会だ。最初はそれらの人影も新手のヴィランかと人々は思った。だが、奇妙なところが一つ。
「……全く同じ外見だと?」
そう、三つの人影が同一の姿をしているのだ。人と同じく四肢を持つ二足歩行の姿。頭部には二本の触角が伸びており、胴体は甲殻の様なものにおおわれている。手足は細く伸びており、どこか昆虫のような特徴を持った見た目をしていた。3メートルほどの巨体を持ち、人間にしては肌の色が緑がかっている。
「なんだ、お前ら? とりあえず、上の物体について話を聞かせてもらおうか」
今はまだ、不審な行動を起こしている程度でヒーローたちも力を行使する段階ではなかった。それゆえに、まずは声をかける選択をした。だが――
「――危ないッ」
――その声、ちょうど買い物を終え、店から出てきた出久がそう叫んだ。気が付けたのは、その観察眼が故か、それとも事件に絡んだ経験故か。
ヒーローたちも経験を積んだ存在だ。理性が上回り、声をかけるという選択をとったが、その声に反応して防御態勢に入る。
だが、それでも一手遅かった。ヒーローたちは何よりもまず、先手必勝で動くべきだったのだ。
「ぐおっ!? なんだ!?」
「体が、しびれるッ」
謎の人物たち――三体の怪人の右腕には、SFにでも出てくるような光線銃が握られていたのだ。見た目は異形たちと同じく、昆虫的なデザインで、すぐに武器とは思い浮かばない。銃口と思しき水晶体から光線が放たれ、ヒーローたちに襲い掛かる。その様子を見て、人々もこれがただのヴィランではないと理解したのか散り散りに逃げだす。警察も急いで避難誘導を行い、一般市民が巻き込まれないようにした。光線で撃たれなかったヒーローが怪人に組み付くが、圧倒的なパワー差で簡単に投げ飛ばされてしまう。
「なんだと!?」
「なら、これはどうかしら!」
別のヒーローが手を薙ぐ。風がドリルのように回転しながら突き進み、怪人へと着弾する。空気を圧縮回転させて、放てる個性だ。高い威力を誇る個性で怪人を吹き飛ばしたが、怪人はすぐに立ち上がり、ヒーローをにらむ。
「こいつら、かなり硬い――」
「……特殊因子ノ高マリヲ確認。殲滅行動ニ移ル」
ノイズ交じりの声らしきものが聞こえた。
かろうじて何を言っているのかは聞こえたが、おおよそ人類のものとは思えない音であった。何かしらの異形型個性。その可能性を考える。それも三つ子で同じ個性の持ち主。そうとしか思えない。だが、ヒーローたちの経験がそれを否定させた。これは、そんな物差しで測れる存在ではないと。人々が見ている手前、理性が働いていた。だが、何かまずい気配を感じて避難へと動きが変わった今、ヒーローたちはこの謎の存在をいかにして倒すかという方向へ意識が向かっている。理性ではなく、本能が告げているのだ。知らず知らずのうちに、捕まえるではなく、倒す、ということを意識したことに気が付いたとき、怪人たちは襲い掛かってきた。
「早ッ――」
「マズ、一体」
一人のヒーローが殴り飛ばされる。
そこにフォローに入った別のヒーローが怪人に組み付いたが、光線銃で撃たれる。うめき声をあげて、ヒーローが蹲り、遠距離攻撃が可能なヒーローが弾幕を仕掛けるが、怪人たちは涼しい顔をしていた。
「なんなの、こいつら!」
「おかしい――こいつら、エネルギーの流れが人間のそれじゃねぇ! それに、あの銃の中にありえないぐらいのエネルギー量が蓄えられている! それこそシールド博士の発明品でもこんなのありえないぞ!」
エネルギー感知系の個性のヒーローが、悲鳴を上げた。
そのほかにも、感知タイプの個性の持ち主がわが目を疑う。見れば見るほど、怪人たちは人間とは異なるのだ。
「貴様ラノ尺度デ我々ヲ語ラナイデ貰オウ」
「我ラハ“スクラッグ”コノ宇宙ヲ統ベル者ナリ」
その言葉にあっけにとられるヒーローたち。
それだけを伝えた怪人――スクラッグたちは、次々にヒーローたちを撃ちぬいていった。
「――ぐお!?」
ダメージ自体は大きくない、痺れはするが立ち上がれる。そうして、撃たれたヒーローたちは反撃に移ろうとするが――そこで、違和感に気が付いた。
「なっ――個性が使えない!?」
そう、光線に撃たれたものの誰もが、個性が使用できなくなっていたのだ。まるで、抹消ヒーロー『イレイザー・ヘッド』の個性を使われたように、力を行使できない。
動揺が広がるヒーローたち、その隙をスクラッグたちが見逃すはずもなく――一番近くにいたヒーローが殴り飛ばされる。
「試作品ノ効果ヲ確認。特殊因子ノ機能不全ニ成功。現地生命体ノ強度、高。コレヨリ殺傷用弾ノ使用ニ切リ替エル」
光線銃に光が集まっていく。個性が使えないならと、サポートアイテムで捕縛を試みるが、そのどれもがはじかれてしまう。
もうダメか、そう思った時だった。一人の人影がヒーローたちの前に躍り出る。そして、光り輝く半球状のバリアが展開され、光線を防いだ。
「――――なっ」
「あんな、膨大なエネルギーを受け止めた!?」
その人影は、ブロンズエイジ時代のオールマイトパーカーを着ていた。フードを目深にかぶり、顔は分からない。左腕には大きな機械を身に着けており、青色のリング状の輝きが見える。
そして、バリアに光線があたってまき散らされた爆風を切り裂くように、白い人影が現れる。そう――白き巨人、ヒーローマンが。
「噂の、白いヴィジランテ?」
ヒーローたちの間でも話題であった。短い間ではあったが、超能力者騒ぎのさなかに現れた白い巨体のヴィジランテ。オールマイトパーカーを身にまとった背の低い人物が近くにいて、二人組――あるいは、白いのはロボットか何かで、小さい方が本体なのではないかとヒーローたちに目されていた。
なるほど、どうやらその意見は正しいものだったらしい。ヒーローたちは白い巨体――ヒーローマンの姿をみて、それが人ではないことを理解した。すくなくとも、人間ではない。
これが個性によるものなのか、それとも別の何かなのかはわからないが、悪い存在ではないことは分かった。
「――いや、君! 逃げなさいよ! ここはヒーローに任せて! 早く逃げるのよ!」
しかし、無事だった安堵も抜けて状況を理解したヒーローが叫ぶ。少なくとも、ヒーローではなさそうだ。なら一般人――というか、そもそもヴィジランテとして知られていた時点で無免許なのだから戦闘を止めるのは当たり前だった。だが、小さな人影――出久の声がそれを止める。
「でも、個性使えなくなっているんですよね!」
「――ッ」
先ほどの叫びを聞いていたらしい。
出久はこの状況から、状況を推察していた。
(謎の浮遊物体。ヴィラン、とは違いそうだ。あの銃に撃たれると個性が使えなくなる。それとは別に、威力の高い光線もある。威力が高い方はタメがあった。ヒーローたちの攻撃もあまりダメージにはなっていなさそうだった。防御力が高い。パワーもある。僕のバリアなら防げそうだ……なら、僕にできることはヒーローたちを攻撃から守ること、そして――)
「攻撃は、任せたよ――HEROMAN-GO!」
というわけで、ヒーローマンよりスクラッグのエントリーです。
第1章最後の相手は、第2章の前フリとなります。
まあ、そんなわけで、第2章はヒーローマンの原作を元にして、ヒロアカの登場人物たちでスクラッグとの戦いを描きます。