今際の国の瑞希~生きろ~   作:そ。

2 / 11
♣3【生きるか死ぬか】

白い蛍光灯の下で、6人が立ち尽くしていた。

足音も、呼吸も、やけに響く。

 

目の前の2枚のポスター――

右は天使の笑顔。

左は和風の髑髏。

 

どちらかを選べ、と言わんばかりに並んでいる。

 

「なぁ……どっちが正解なんだよ……?」

チョータの声は震えていた。

 

カルベは腕を組み、唇を噛む。

「考えても仕方ねぇ。どっちかに賭けるしかねぇ。」

 

そのとき、女子学生が叫んだ。

「私、もう待てない!」

 

彼女は泣きそうな顔で髑髏の扉へ駆けた。

 

「待て!」アリスが叫ぶ。

 

間に合わなかった。

 

ドアノブが回る。

金属の音が鳴った瞬間、

天井が赤く光った。

 

「――ッ!」

 

空気が裂ける。

赤いレーザーが一瞬で彼女の頭を貫いた。

 

動きが止まり、音が消える。

倒れる音だけが重く響いた。

 

OLが悲鳴を上げ、チョータが尻もちをついた。

カルベは言葉を失い、

アリスはその場で固まっていた。

 

瑞希はただ見ていた。

その光景を焼きつけるように。

 

恐怖よりも、怒りのほうが先に湧いた。

誰が……こんなゲームを作った?

 誰が、こんなふうに人を殺すんだ?

 

だが感情に飲まれる暇はなかった。

天井の隙間から白いガスが滲み出し始めたのだ。

 

【残り時間:90秒】

 

「ガス!?」カルベが叫ぶ。

「くそっ、どうすりゃいい!」

 

瑞希が即座に答える。

「……この部屋、密閉されてる。

 制限時間が切れたら、ガスが爆発する。」

 

OLが絶望的な声を上げる。

「じゃあ、ここで死ぬってこと!?」

 

アリスは壁を見つめたまま動かない。

何かを考えている。

だが焦りのせいで言葉が出ない。

 

瑞希が手のひらで壁を叩く。

コツ、コツ――音が返る。

「この向こう、空間がある。

 次の部屋に繋がってる。」

 

「どっちだ!?」カルベが叫ぶ。

「天使か、髑髏か!」

 

瑞希は目を細めた。

「……天使。」

 

彼女の勘だった。

根拠なんてない。

けれど、恐怖の中でも“生”を示すものを信じたかった。

 

【残り時間:30秒】

 

白いガスが視界を覆う。

喉が焼けるように痛い。

 

カルベが唸る。

「くそっ、賭けだ!」

 

勢いのまま天使の扉を蹴り開けた。

爆音のような空気のうねりとともに、全員が飛び込む。

 

直後――

背後の部屋が爆ぜた。

 

炎が床を舐め、

金属の破片が壁を打つ。

 

熱風が背中を焼く。

アリスが叫ぶ。

「閉めろ!」

 

カルベと瑞希が扉を押さえた。

ドン――ッ!

轟音と衝撃が同時に襲う。

 

静寂。

 

汗が滲む。

ガスの臭いが消え、

代わりに焦げた空気の味が口の中に残った。

 

誰も喋らなかった。

 

瑞希は扉から手を離し、

膝をついて呼吸を整えた。

自分の手が震えていることに気づく。

 

怖い。

 本当は、怖くてたまらない。

 

でも――振り返れば、アリスがいた。

顔を強ばらせながらも、

まだ“考えようとしている”表情をしていた。

 

その顔を見て、

瑞希の心のどこかに灯がともった。

 

まだ終わってない。

 あの子たちを、生かす。

 

【制限時間リセット:2分】

 

電子音が無機質に鳴る。

 

天井のライトがまた点滅した。

次の部屋が、彼らを待っている。

 

瑞希は立ち上がり、

無言で歩き出した。

 

誰よりも恐怖を抱えたまま、

それでも前を行く。

 

再び、2枚のポスター。

天使と髑髏。

違う部屋なのに、同じ光景が続く。

 

チョータが嗚咽を漏らす。

「もう嫌だ……どっちでもいいから早く終われよ……」

 

OLが苛立ちを隠せず叫ぶ。

「ねぇ、頭いいんでしょ? 早く選びなさいよ!」

 

アリスが顔を上げた。

「俺に言うな。」

「じゃあ誰が選ぶの!? 私? 死にたくないのよ!」

 

カルベが間に入る。

「落ち着け!」

「落ち着いてられるかよ!」

 

アリスの胸の奥で何かが弾けた。

「うるせぇんだよ!」

 

怒鳴り声が部屋に響く。

恐怖、焦り、無力感。

すべてが一瞬で爆発した。

 

そして衝動的に、髑髏の扉に手を伸ばした。

 

瑞希が息を呑む。

アリスの指先が震えている。

汗が滴り、

握りしめた拳が小刻みに揺れていた。

 

……開けられない。

 

カルベが苦笑した。

「アリスは運が悪ぃからな。」

 

そのまま前に出て、

天使の扉を勢いよく開けた。

 

空気が張り詰めたまま――何も起きない。

 

カルベが振り返り、

「……生きてる。正解だ。」と笑った。

 

OLが崩れ落ちて泣き出す。

チョータは両手で顔を覆った。

アリスは膝に手をつき、息を吐いた。

 

瑞希が静かに言った。

「怖くても、考えるのをやめないで。

 それが、生きるってことよ。」

 

その言葉に、アリスが顔を上げる。

目に、再び光が戻る。

 

【残り時間:60秒】

 

壁の向こうで、またガスの音がした。

アリスは無意識に周囲を見回す。

 

天井の高さ。壁の間隔。

歩いた距離――

頭の中で、すべてを繋げていく。

 

この建物……正方形だ。3×3の構造。

女子学生が死んだ位置の壁は半分塞がれてた。

半分は、道。

 

彼は小さく息を吸い、

「……メモとペン、貸して。」と口にした。

 

OLがボールペンを渡し、

チョータがメモ帳の1枚を差し出す。

 

アリスは床に膝をつき、

9つの四角を描いた。

 

「ここが今。あの子が死んだのがここ。

次は、この方向。出口は……こっちだ。」

 

瑞希が隣にしゃがみこみ、

その手元を見つめた。

 

「……なるほど。避難経路、見てたのね。」

「無意識だったけど……目に焼きついてた。」

 

瑞希は息を吐く。

この子は、感覚で世界を読む。

 理性よりも、記憶と直感で動ける人間。

 ――“この国”に向いてる。

 

最後の扉の前。

再び天使と髑髏が並ぶ。

 

【残り時間:20秒】

 

アリスが立ち上がる。

「次は、俺が選ぶ。」

 

カルベが笑う。

「頼もしいじゃねぇか。」

 

瑞希が頷く。

「信じるわ。」

 

アリスは迷いなく天使の扉を開けた。

全員が駆け込む。

 

背後から爆発音。

炎が迫る。

 

チョータが転ぶ。

「足が……!」

 

カルベが戻ろうとした瞬間、

瑞希が飛び込んだ。

 

炎の光の中、

彼女の指がチョータの腕を掴む。

全身の力で引きずり出す。

 

炎が足元を焼いた。

チョータの悲鳴。

 

「熱っ――あああ!」

 

瑞希の腕に焦げ跡が走る。

アリスとカルベが彼女を引き上げ、

扉を閉めた。

 

轟音。

全身を揺らす衝撃。

 

炎が止み、

空気が静まった。

 

瑞希は荒く息を吐き、チョータの足を見た。

皮膚が焼け、真っ赤に腫れている。

 

「……生きてる。動ける?」

チョータがうめきながら頷いた。

 

瑞希は視線を落とし、

唇を噛んで震えた。

救えた。でも、救いきれなかった。

 

アリスがその隣で呟いた。

「……これが、“生きる”ってことか。」

 

瑞希は顔を上げ、

静かに答えた。

「ええ。ここでは、ね。」

 

【GAME CLEAR】

 

スマホが一斉に光った。

青白い光が壁に反射し、

“生存者:4名”の文字が浮かび上がる。

 

炎の跡、血の匂い、焦げた床。

それでも4人は立っていた。

 

夜の風が吹き抜け、

遠くで雷のような音が響いた。

 

アリスは瑞希の背中を見つめる。

“憧れた先輩”ではなく――

今はもう、“共に生きる仲間”だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。