今際の国の瑞希~生きろ~   作:そ。

3 / 11
♠5【おにごっこ】

開始の合図が鳴ると、参加者たちは蜘蛛の子を散らすように散った。

誰もが“おに”の姿をまだ見ていない。

息遣いと足音、そして胸の鼓動だけが廃墟に響く。

 

チシヤは最上階の端、崩れかけた手すりに背を預け、

冷たい目で下層を見下ろしていた。

「見える位置が一番強い」――それを知っている目。

 

アグニはその下の階。

同じことを考えていたが、先約がいた。

仕方なく一段下に位置を取り、廊下の中央を見渡す。

 

そして――音がした。

 

ドドドドッ――!

 

MAC-10。

サプレッサー無しの衝撃音がコンクリートを揺らす。

火花と血の匂い、そして悲鳴。

参加者の一人が頭を撃ち抜かれ、即死した。

 

瑞希の目が、静かに細められた。

 

「……ふざけんな。」

 

低い声。怒鳴りではなく、深く沈んだ怒り。

アリスとカルベがその気配に気づく。

 

鬼が廊下の角から姿を現す。

馬のマスク。MAC-10を構え、撃ち尽くす。

 

――カチッ。

 

弾が切れた。

鬼は即座にククリナイフを抜き、瑞希へと突進した。

 

「瑞希先輩ッ!」アリスの叫びが響いた。

 

だが瑞希は、まったく動じなかった。

目だけが、鬼の動きを見据えている。

 

刃が届く直前、

瑞希の手が鬼の手首を掴み、

肘を逆に折り曲げ――骨の砕ける音がした。

鬼が呻く。その瞬間、瑞希は体を反転。

背後に回り込み、右足で膝裏を蹴り砕いた。

 

膝が沈み、鬼が崩れ落ちる。

床に膝をついた姿勢で、首を差し出すように。

 

アリスとカルベは息を呑む。

上階から見ていたチシヤとアグニの表情が凍る。

 

「……やっば、彼女人間じゃないのかもねぇ。」

チシヤの呟きが、鉄のように冷たく響いた。

 

アグニは唾を飲み込む。

「……あれは、人間の動きじゃねぇ。」

 

鬼が最後の抵抗のように瑞希の足首を掴んだ。

だが彼女は視線を一切動かさず、その手を振り払う。

 

次の瞬間――

乾いた音と共に、鬼の首が静かに折れた。

 

残るもう一体の鬼が上階で暴れている。

銃声が天井を震わせ、火花が散る。

瑞希は床の消火器を拾い、

音で誘導するように壁際へ投げた。

 

金属音に引き寄せられる銃弾。

彼女はそれを利用して、他の参加者を生かしていく。

 

アリスの中で、線が繋がる。

「……鬼、同じ場所を撃ってる。」

壁の番号――5-3、6-3、7-3。

「そこが“じんち”だ。」

 

彼は走った。

部屋に入ると、スイッチが二つ。

「同時押し……?」

 

時間は残りわずか。

 

「誰か来てくれ!! 一緒に押さなきゃダメなんだ!!」

 

その声に、外から声が返る。

「呼んだ!?」

 

窓の外、ロープを伝って宇佐木が降りてきた。

汗と埃にまみれた顔に笑みを浮かべ、

「間に合ったね!」

 

アリスが頷く。

二人の手がスイッチの上に重なる。

「せーの!」

 

――カチリ。

 

白い閃光。

 

そして、静寂。

 

「♠5 クリア。」

 

電子音が鳴り、全員が息を吐く。

生き残った――

そう思った瞬間、足音。

 

瑞希が動いた。

ゆっくりと、倒れた鬼の前に立つ。

血に濡れた仮面を見下ろし、無言で呟く。

 

「……よくも、何もできねぇ奴を撃ったな。」

 

声が低い。

女性のものとは思えない、冷たい怒気。

 

一瞬の静寂。

そして――右足が振り下ろされた。

 

ドチャッ。

 

頭蓋が砕け、血と骨片が飛び散る。

廊下が一瞬で真紅に染まる。

 

誰も動けなかった。

アリスも、カルベも、アグニも、チシヤも。

ただ、彼女を見ていた。

 

瑞希は床に落ちたククリナイフを拾い上げた。

刃を見つめ、血の雫を指で拭う。

その目には、何の感情もない。

 

振り返りもせず、低く吐き捨てた。

「――この世界ごと、腐ってるな。」

 

その声が、壁に反響して消えた。

 

【♠5 CLEAR】

 

電子音と血の匂いだけが、廊下に残った。

瑞希――この世界の異物。

生存の極致が、静かにその場を離れていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。