どけ!!俺は(ヒミコの)お兄ちゃんだぞ!!   作:俺はお兄ちゃんだぞ!!

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たくさんの感想、高評価ありがとうございます。

連載します!!

感想については時間がかかると思いますが全員に返信していくつもりなのでお待ち下さい。




二話 

妹のためにヒーローを目指し始めて一年と少し

興味の湧かない勉強もどうにか学び、ついに待ち望んだ日がやってきた。

 

「待っていてくれヒミコ、お兄ちゃんはやるぞ」

 

「はいはい早くいくよシスコン」

 

甲矢が俺を見て呆れた表情見せながら先を行く。

その言葉に従い俺も前を向く、するとそこには『雄英高校入試試験会場』と書かれてる看板があった。

 

ここで行われる試験に合格すれば学校に入学できる。

俺がヒーローになるためにはここで落ちるわけにはいかない。

 

すでに紙に書かれた問題を解く試験は終わっており、ここには実技試験を受けに来た。

勉強の方は残念だが自信があるとは言えない。

 

だからここで俺の力を見せて合格に足る実力だと証明しておく必要がある。

 

試験会場に入り、大勢の人間が用意された席につく。

その時に試験を受けに来た奴らの実力を確認するために一瞬周りに視線を向ける。

 

とはいえ見た目だけではこいつらの実力は正確に測れない。

俺達の時代も術式、呪力量などの才能が重視されたようにこの時代では個性の強さが重視される。

 

観察を終えると雄英高校の先生と名乗る人間が俺達を見ながら試験の説明を始めた。

 

説明によれば街を模した偽物の場所にてヴィラン役の人間を倒していくというもの。

 

最終的にヴィラン役の人間がどこかに隠している複数の装置を全て破壊することで試験は終了になるという。

その際に敵を倒したらポイントが付き、その装置を破壊したらさらに多くのポイントが付く。

 

ようするに敵と装置を破壊していけば合格というわけか。

これでまた勉強関係だったらと警戒していたことから少し肩の力が抜ける。

 

「ヒミコ、帰ったら良い報告をするからな」

 

説明を終えて会場を移動する間に携帯の画面にあるヒミコの写真を見つめる。

写真のヒミコは俺に向かって可愛い笑顔を向けてくれている。

 

携帯、これは良い物だ。いつでも妹の姿を見ることができるし離れた場所から連絡もとれる。

悠仁たちといた時にこれを知っていればヒミコに俺の弟たちを見せてやれたかもしれないのに。

 

ヒミコには俺の事情を話してある。

おそらくだが過去から来たこと、弟たちがいること、純粋な人間ではなかったこと。

 

呪力や呪い、呪術師などのことは伏せて俺のことを話した。

それらを話さなかった理由は話すことでヒミコにそういった危険が迫ることを危惧したため。

 

俺の話を聞いたヒミコは目を輝かせて俺の弟たちの話を聞いてくれた。

 

そして会いたいと、言ってくれた。

 

ヒミコのその言葉に俺は涙を我慢することが出来なかった。

 

俺もだ、俺も会いたい。妹を紹介して、ヒミコとみんなで一緒に暮らしたい。

 

それが叶わぬ夢だとわかっていても、かすかな希望を捨てきれない。

 

死んだはずの俺がこうして生きているんだ、だったら死んだ弟たちも。

 

もしかしたらと、そんな可能性に縋ってしまう。

 

「その写真の子、良い笑顔だね!!本当に嬉しそうだ」

 

「・・・・」

 

その声に横を向けば特徴があるような、ないような顔をした男が俺の携帯を覗き込んでいた。

俺の視線に気が付いた男は口を開く。

 

「俺当ててもいい?その子、君の妹でしょ!目元とかそっくりだもんね!」

 

「お前は誰だ」

 

いきなり話しかけてきた男に少し警戒する。

体格はいいが戦闘経験はなさそうだ。だが、ただの人間ではないと俺の勘が告げる。

 

「俺は通形ミリオ!よろしくね!君はなんて名前なの?」

 

「俺はお兄ちゃんだ」

 

「だと思ったんだよねー!まぁ名前までお兄ちゃんだとは予想外だけど」

 

「・・・・ミリオ、それは違うと思う」

 

通形と名乗った男のさらに横にいた男が俯きながらそう指摘する。

それに対し男は額を手でたたいて笑っていた。

 

「お互い合格して学校で会ったら教えてよ、君の名前!」

 

「・・・・」

 

「じゃないと君のことお兄ちゃんって呼んじゃうぞ」

 

「やめろ」

 

俺が即座に睨めば男は人懐っこい笑顔を浮かべて笑う。

ここで落ちれば俺はヒーローになれない、そんな大事な場面でなんだこいつは。

そのまま男が話しかけ続けてくるので適当に受け流していると雄英教師の声が響く。

どうやら試験が始まるようだ。

 

声が聞こえた段階で意識を切り替える。

前方には街を模した試験会場、そこには多くの敵役の人間がいる。

 

百斂(びゃくれん)

 

両手で血を包み、中で圧縮する。

敵とはいえ殺すわけにはいかない、威力はかなり抑える必要があるな。

 

『それでは!試験!スタートだー!!』

 

穿血(せんけつ)

 

開始の合図と共に圧縮した血を解放し敵へと飛ばす。

圧縮から解放された血は直線状に伸びていき敵へと迫る。

 

「っ!!?ぐぁぁぁ!!?」

 

俺の攻撃を浴びた遠くの敵の一人が勢いよく吹き飛ぶのが見える。

穿血の初速は音速を超える。

並の人間なら反応すら出来ない。

 

そのまま術式を継続させ伸びた血を操り複数人の敵を一気に払う。

 

ある程度の敵を倒したのを確認し穿血を解く、それと同時に呪力で足を強化し駆け出した。

 

「はえぇ!地面割れたぞ!あいつ身体強化系の個性か!?さっき血を操ってたんじゃなかったのかよ!」

 

「ていうか俺もいかねぇと!」

 

俺が移動したのを合図としたのか他の奴らも動き出す。

他の人間の動きを感じながら一瞬だけ目を閉じる。

 

一瞬の暗闇。

 

そこに浮かぶのは弟である悠仁の姿。

 

ヒーローになると決めてからこの職業について改めて考えた。

簡単に言えば人を助ける仕事だ。

 

だが、それが簡単かと言われれば難しいと俺は答える。

まず知りもしない人間を助けようという気にならない。

 

これが弟たちなら迷いなどなく命を賭けて助ける。

もしくは弟たちの大切な者たちなら。

 

だがそうじゃない知らない人間のために命を賭けれるかと言われれば俺には無理だ。

しかし俺が目指すのはトップヒーロー、この仕事の頂点。

 

知らない人間に興味がないから助けないというわけにはいかない。

 

だから俺は弟の悠仁の助けを借りることにした。

兄として情けないが、悠仁はこの時代におけるヒーローの在り方によく合っていると思ったからだ。

 

悠仁は人を助ける。それが知らない人間だろうと関係なく。

相手が呪詛師でもない限り悪人すらも助けるだろう。

 

それが弟の選んだ生きる道だから。

 

ゆえに俺の選んだこの道を悠仁はすでに遥か先を歩いてくれている。

 

本来、これは兄の役目だ。

俺が先を歩き、正解なら弟はそれに続き、間違っていたら弟たちは避ける。

 

なのに俺は弟の歩いた道を進ませてもらっている。

 

本当に情けないが、悠仁、手を貸してくれ。

 

「――――悠仁ならこんな時」

 

駆け出した先にいる敵を呪力で強化した拳や足で倒しながら考え続ける。

悠仁ならどう動く、もし弟がヒーローを志しこの受験に参加していたのなら。

 

「っ、あれは」

 

視界の先では同じ受験者と思われる人間が敵にやられそうになっているのが見えた。

 

っ、弟がこの場にいてあれを見ていたとしたら。

 

「ふん!!」

 

「っ!!?」

 

倒れこんでいた受験者の前に移動し敵が振り上げていた武器を殴り飛ばす。

そのまま身体を捻り足を敵の胴体に叩き込み吹き飛ばした。

 

「・・・・」

 

視線を敵から倒れていた人間に向ける。

軽く身体を確認するが怪我は見当たらない、攻撃をくらう前に倒れていたのか。

 

「あ、ありがとう!おかげで助かったよ」

 

「礼は俺にではなく弟に言え」

 

この状況、悠仁ならこうしていただろう。

俺はそれに習っただけだ。

 

「え、お、弟ってど、どこ?」

 

「いくぞ!悠仁!!」

 

「ええ!?いや俺ゆうじなんて名前じゃ」

 

わけのわからないことを言っている男を置いて駆け出す。

強化した足で建物を移動しながら敵を見つけては倒していく。

 

弱い、術式を使う必要もなく呪力で強化した打撃だけで一撃で倒れていく。

呪力強化も加減しないと殺してしまうだろうな。

 

「むっ!悠仁ならこんな時!」

 

また怪我をして動けない受験者が目に入り助ける。

そのさらに奥では敵に襲われている奴もいた。

 

動けない受験者を担ぎ、襲っている敵を血を飛ばし倒す。

そうして二人を敵のいない安全そうな場所に移動させた。

 

「そこを動くな!」

 

一言だけを残し駆け出す。

ときどき怪我人や危険な状況になっている奴らがいるな。

 

俺としてはこの試験の合格のために加点がある敵を倒すのを優先したい。

だが悠仁なら、それよりも人間を助けることを優先するはずだ。

 

「悠仁」

 

受験者を助ける。

 

「悠仁!」

 

敵を薙ぎ倒す。

 

「悠仁!!」

 

受験者を助け敵を吹き飛ばし装置を破壊する。

 

「悠仁!!!」

 

助けて倒して助けて壊して百斂して穿血する。

 

「ゆうじぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「なになに!?て、お兄ちゃんじゃないか!」

 

悠仁ならばと考える度に弟のことを思い出し、会いたいという気持ちが膨れ上がる。

しかし会えない現状から思わず弟の名を叫んでしまった。

 

一度息を吐いて冷静になり声がした方を向く。

 

――――そこには一切の服を脱ぎ捨て裸となっている男がいた。

 

「・・・・」

 

「あ、ごめんね。これちょっとまだうまく出来なくて、一度使うと服が全部脱げちゃうんだよね」

 

男が何かを言っている。

俺の目の前には全裸の男が一人。

 

・・・・悠仁ならこんな時。

 

百斂(びゃくれん)

 

「あれ?お兄ちゃん?なんで俺に向かって構えてるの?ちょ!俺は敵じゃないから!」

 

「黙れヴィラン」

 

悠仁なら、いやそんなこと考える必要もない。

こいつは間違いなくヴィランだ。

 

あと俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのはやめろと言ったはずだ。

 

倒す、もしかしたらポイントにならないかもしれないが別にいい。

 

穿血(せんけつ)

 

「っ!!?」

 

俺が血を飛ばす寸前、男が目の前から消える。

正確には、地面へと吸い込まれた。

 

・・・・これが奴の力か。

地面に潜る力、もしくは別の何か。

 

穴が開いているわけではないから掘ってはいない。

俺がどこから奇襲がきてもいいように警戒を強める。

 

すると少し離れた位置から奴の声が聞こえた。

 

「ぷはぁ!これ怖いし相変わらず全然違うとこに飛んじゃうな」

 

「そこか」

 

声がしたのが壁を挟んだ先の建物の中。

術式を維持していた穿血(せんけつ)で攻撃をしようとした瞬間。

 

「「「うぎゃぁぁぁぁぁ!!?」」」

 

少し離れた場所から複数人の人間の叫び声が届いた。

その声に攻撃を中断して声の方へ向かう。

 

距離も離れておらずすぐに声の場所へ到達しその状況を把握する。

そこには三人のヴィラン役の人間がいる、どうやらこの原因は奴らか。

 

「ゆ、雄英の教師陣だ!あの人らも敵役で出るのかよ!?」

 

近くにいた人間の言葉を聞き納得する。

なるほどな、あいつらはプロヒーローか。

 

「・・・・」

 

奴らを倒しても他のヴィラン役の人間を倒してもポイントは一緒。

ここに時間を使っている間に他の人間にポイントを取られてしまう可能性もある。

 

だが、悠仁なら。

 

 

 

 

「・・・・す、げぇ」

 

俺の視界で展開される戦闘を見て気が付けばそんな声が漏れていた。

 

誤解からお兄ちゃんに狙われた俺はなんとか個性で逃げることに成功。

ちょっと息を整えたらひとまず脱いでしまった服を探そうと思ったところに大勢の悲鳴が耳に届いた。

 

その声に文字通り一服(いっぷく)もせずに駆け出した。

 

反射的に動き出して見えた場所にはすでにお兄ちゃんの姿が見える。

そして、その光景に目を奪われた。

 

お兄ちゃんが戦っているのはブラドキングとセメントス。

 

どっちも有名な人達だ。

もちろん二人とも手加減はしているだろうけど、それでもプロヒーロー二人とお兄ちゃんは対等に戦っていた。

 

「血剣!!」

 

「血刃」

 

互いに血で出来た武器がぶつかり合う。

血液のはずなのにまるで金属がぶつかったような音が建物の内部まで響き渡っている。

 

「同種の個性だからわかる、内部で血を高速回転させて威力をあげているな受験生」

 

互いに武器を弾き距離を開ける二人。

その間に割り込むように突然セメントがうねりを上げて盛り上がりお兄ちゃんの方へと迫った。

 

赫鱗躍動(せきりんやくどう)

 

迫るセメントをお兄ちゃんは拳で砕いた。

 

腕一本で砕かれたのを見てセメントスが目を少し見開いていた。

 

「・・・・これは俺の助けはいらない感じかな」

 

むしろここで飛び出たらお兄ちゃんに俺が狙われそうだ。

誤解を解かずに逃げちゃったし。

 

周りに巻き込まれてる人もいなさそうだし、俺は服を着て試験を合格するために動かせてもらおうかな。

っとそこでお兄ちゃんから視線を外してなんとなく上を向いた時、俺は一瞬固まった。

 

一丁の銃口がお兄ちゃんを捉えていたから。

 

「――――それはさせない!!」

 

銃口を向けるのはプロヒーロー、スナイプ。

彼が放つ弾丸は百発百中の精度を誇る。

ただでさえプロヒーロー二人と戦っているんだ、そこを狙われたらいくらお兄ちゃんでも。

 

狙撃を阻止するために駆け出しながら頭に浮かぶのは少し前のお兄ちゃんを見た時のこと。

 

一目見た瞬間、他の受験生の人達とは雰囲気が違うなと思った。

纏う雰囲気もだけど、その表情も。

この試験にどれだけ真剣に参加しているかが理解できた。

 

そんな彼が携帯を開き視線を画面に落とした途端、表情を和らげ口元には薄く笑みを浮かべていた。

それで気になっちゃって横から覗いてみると画面には素敵な笑顔を浮かべた女の子の姿があった。

 

女の子の雰囲気からなんとなく妹さんかなと思いながら俺は気が付けば笑っていた。

彼の表情からどれだけこの子が大切なのかが伝わってくる。

 

この人と話してみたい。

誰よりも真剣に試験に参加していた理由、妹さんのこと。

 

もし俺が友達になれたら教えてくれるかな。

 

「そのためにも、ここで見て見ぬ振りはできないよね!!」

 

「・・・・んん?」

 

全速力でスナイプのところに向かうけど当然気づかれる。

けど関係ないね!俺の目的はお兄ちゃんから狙いを逸らすことだから俺を狙う分にはむしろウエルカムだ。

 

相手のマスク越しに目が合った気がした、内心の緊張を隠すように笑みを浮かべる。

 

すると相手がなぜか小刻みに震え始めた。

 

「うおおおおお!?なんで全裸なんだお前!!」

 

「お兄ちゃんの頑張りを見て、ちょっと熱くなっちゃってね!」

 

この大事な場面で個性の情報を出したくない。

適当な言葉で茶を濁す。

 

なのに相手の震えがさらに増したような気がした。

 

よくわからないけどチャンスだ!

 

「お兄ちゃんの邪魔はさせないぞ!」

 

「っ!!奇抜な行動で動揺させようとしたのか、だが俺の狙撃に多少の震えは関係ない」

 

特別奇抜な行動していたつもりはないけど訂正している余裕はない。

 

相手の銃口が俺へと向く。

向きからしておそらく狙いは俺の足。

 

「・・・・」

 

俺の個性は透過。

個性発動時、あらゆるものを俺の身体はすり抜ける。

 

正直コントロールが難しくてまだうまく扱えてない。

けど!それを理由にここで足を止めるつもりはないよ!

 

「っ!!」

 

発砲音と同時に部分的に個性を適用させる。

足元まで透明化すれば地面に沈んでしまう、かといって足元以外全てを適用させれば進めなくなる。

 

弾丸が迫る場所を、歩みを止めず攻撃をすり抜けれる範囲を見極めるんだ!

 

「っ!?俺の弾がすり抜けた!?」

 

個性発動は成功、あとは。

 

「パワ―――!!!」

 

「や、やめろ!全裸で俺に近寄ぶべら!?」

 

渾身の力で相手を吹き飛ばす。

それを見ていた他の先生二人が声をあげるのが聞こえた。

 

「うお!?スナイプがやられやがった!!」

 

俺の行動に注意が逸れたブラドキングが上を向く。

本気の戦闘じゃないことも関係しているんだろう、けれどお兄ちゃんがその隙を見逃すとは思えなかった。

 

「・・・・」

 

一瞬とはいえ視線が逸れた隙にお兄ちゃんが彼の懐に入り腕を振るう。

そして腹部に放たれた拳が空気を震わすほどの音をたてその威力を物語らせる。

 

「うっ、血のガードをしてもこれか。っ、血中成分の操作でドーピングか?加減間違えば血管が切れるだろそれ」

 

見ればお兄ちゃんの入った拳の箇所には血が固まってバリアのようになっていた。

けど、その防御は彼の放った一撃が粉砕していたのだ。

 

痛みで顔をしかめながらも距離をとるブラドキング。

それを守るようにセメントスが個性を使い壁を作って防御を固めた。

 

俺も上から飛び降りてお兄ちゃんの横に着地する。

これで二体二、勝負はこれからだ。

 

「やろうお兄ちゃん!俺達なら勝てる!」

 

「・・・・」

 

俺の言葉にお兄ちゃんは嫌そうに顔をしかめた。

うーん、やっぱり全裸なのがダメなのかな。

 

まぁここを切り抜けることが出来たら仲良くだってなれるはず。

前向きに切り替えて拳を握り構える。

 

先生たちも少し本気を出す気になったのか雰囲気が変わるのを感じた。

 

本当の勝負はここからか。

 

互いに動きを牽制し合う中、全員が同時に動き出そうとした瞬間。

 

『終了ぉぉぉぉ!!!隠れていた機械が全部破壊された!戦闘はただちに中止するように!』

 

「・・・・」

 

会場に響くアナウンスに全員が構えを解く。

終わって残念なような、安心したような。

 

あ、しまった。お兄ちゃんのバトルを見て試験のこと忘れていた。

 

「大した受験生共だ。さぁお前らは会場の入口に戻れ!リカバリーガールが治癒してくれる。おら!いつまで寝てんだスナイプ!」

 

「・・・・あれが、あれが揺れながら俺に近づいて」

 

ぶつぶつ何かを呟きながら倒れていた彼をブラドキングが手を伸ばして起こす。

そのまま三人は俺達とは違う方向に歩いて行った。

 

「ナイスバトル!お兄ちゃん、めちゃくちゃ強くてびっくりしたよ!」

 

「・・・・服を着ろ」

 

俺が笑顔で話しかければ当然の言葉をもらう。

あ、そうね。まずそこだよね。

 

服を求めて彼と離れて走り出す。

走り出しながら彼に振り返り口を開く。

 

「今度は雄英で会おう!その時に君のことを教えてよお兄ちゃん!」

 

「・・・・脹相だ」

 

「え?」

 

「俺の名前だ、だからもうお兄ちゃんと呼ぶな。お前に呼ばれると寒気がする」

 

ため息を吐きながら名前を教えてくれる。

彼の名前を聞き、俺が嬉しくて満面の笑みを浮かべる。

 

「はは!じゃあまた学校で!脹相!!」

 

手を振って俺は走る。

脹相はそれ以上答えず俺に背を向けちゃったけど別にかまわない。

 

これから彼とは三年間一緒なんだ、ゆっくり仲良くなっていくさ!

まぁ!俺が受かっていたらの話だけどね!!

 

きっと受かってるさと楽観的に考えながら服を探しているとよく知る友達の姿を見つける。

 

「・・・・ミリオ、よかった無事だったんだな」

 

「たまき!あ、俺の服持ってきてくれたんだ、ありがとう!!」

 

小学校からの付き合いの環から服を受け取り着込む。

そして俺は笑いながら先ほどのことを話し始めた。

 

「たまき!すごい奴が俺達と同年代にいるぜ!!」

 

これからの高校生活を思い、俺は期待に胸を膨らませた。

 

 

 

「ねぇねぇ被身子(ひみこ)、恵。見て見てこれ!」

 

「なんですか?」

 

「なにー?」

 

学校の休み時間、友達の香ちゃんの席に集まる私と恵ちゃん。

香ちゃんが私達に自分の携帯を見せてくる。

 

言葉に従ってその画面を覗いてみれば私達三人が抱き合うようにして集合している写真があった。

私達がそれを見たことを確認した香ちゃんがさらに口を開く。

 

「めちゃくちゃ綺麗に撮れたっしょ!私の写真テクすごすぎ!」

 

「いや九割アプリのおかげじゃない、まぁ綺麗に撮れてるけど」

 

「恵はそういうだろうと思ったわ。どう被身子!可愛く撮れてるでしょ!!」

 

恵ちゃんの言葉にため息を吐きながらそう返した香ちゃんが私に笑顔でそう聞いてくる。

そう聞かれて、もう一回携帯にある写真を見る。

 

真ん中に私がいて、左右に香ちゃんと恵ちゃんが抱き着いてくれている。

二人共楽しそうに笑っていた。

 

「・・・・二人共かわいいです」

 

「でしょー!はぁあ恵も被身子みたいに素直に褒めな」

 

私の言葉に嬉しそうに笑う彼女に私も笑う。

本当の笑みじゃない、嘘の笑みをその顔に浮かべて。

 

「・・・・」

 

画面の私も今の私と同じ嘘の笑みを浮かべている。

それを私はかぁいいとは思えなかった。

 

「あ、ごめん」

 

私が携帯を見ていると恵ちゃんが操作を間違えて別の写真へと切り替わる。

そのことには私達ではなく香ちゃんと知らない男の人の二人だけの写真だった。

 

それを見た香ちゃんは写真を即座に切り替える。

 

「・・・・今のなし」

 

「待ておい、彼氏いたんかてめぇ!!裏切りものがぁ!!」

 

写真を見た恵ちゃんが香ちゃんに掴みかかる。

そのまま二人は他の子たちにお構いなく騒ぎ始めた。

 

私はそれを黙って見ているとしばらくして二人共荒い息を吐きながら落ち着く。

 

「で、どこまでいった」

 

「・・・・まぁ手を繋いだくらい」

 

「嘘つけキスまでいってるだろ」

 

そう言って恵ちゃんが声を荒げ再び喧嘩が始まる。

 

また黙って見ていると今度は二人が私に視線を向けた。

 

「恋人なんだから手を繋いだりキスするのも当たり前でしょ!ねぇ被身子!」

 

「・・・・え」

 

その言葉に咄嗟に頷くことが出来なかった。

恋人、好きな人としたいこと。

 

香ちゃんは好きな人と手を繋いだりキスがしたい、恵ちゃんもそうみたい。

 

・・・・私はそこまでそういうことをしたいとは思わない。

 

私が恋人としたいのは。

 

「はい、したいです」

 

嘘の笑顔で嘘の言葉を吐く。

ここで違ったことを言えばみんなの普通から外れるから。

 

私は好きな人には血を吸いたい。

 

傷をつけて、傷をつけて、血をいっぱい流して()()()()()()()()()()()

 

それで流れる血を吸って、好きな人の身体に流れる血を全部吸って、全部私の身体に入れて、私が好きな人そのものになりたい。

 

「ていうか被身子は好きな人いるの?」

 

「・・・・それは」

 

恵ちゃんの言葉に言いよどむ。

 

恋という意味ならいる。

隣のクラスの斎藤くん、前に誰かと喧嘩していた時にボロボロで血だらけで、素敵な人だった。

 

斎藤くんの血を吸いたい、傷つけてあの時よりもっとボロボロにして()()()()()()()()()()()()()()

 

けど、恋じゃなくて好きな人ということなら他にもいっぱいいる。

 

二人のことも私は好き。

 

香ちゃんは髪がサラサラと頭が良いところが好き。

恵ちゃんは眠たげな眼と笑った時のえくぼが好き。

 

ああ、二人にもなりたいな。

 

私にはいっぱいの好きがある、全部比べられないくらい好き。

 

「愚問ね恵、このブラコンの好きな人なんて一人しかいないでしょ」

 

「あー確かにそうね」

 

二人が私を呆れた様子で見つめる。

その様子に私は何を言えばいいかわからず小さく首を傾けた。

 

「いやわかれ、お兄ちゃんでしょあんたの好きな人」

 

「あれだけ兄妹でイチャイチャしてて、それ以外にいたらびっくりだわ」

 

二人はそのまま私とお兄ちゃんのことを話し始める。

 

昼休みにお互いにあーんをしながらご飯を食べていたこととか。

一緒の椅子に座って勉強してたとか。

挨拶みたいに抱き着くこととか。

 

「私はお兄ちゃんのことは好きじゃないですよ?」

 

「「・・・・は?」」

 

私の言葉に二人は口を開けたまま固まる。

私はお兄ちゃんのことは好きじゃない。

 

お兄ちゃんのことは。

 

「大好きです」

 

私の好きの中にお兄ちゃんはいない。

 

お兄ちゃんは別の場所、大好きの中にいる。

 

大好きはお兄ちゃん一人だけ。

きっとこれからもずっと。

 

「かー甘すぎてコーヒー飲みたいわ」

 

「でも実際被身子のお兄さんすごいよね。今あの雄英に受験してる最中なんでしょ?しかもほぼ確実に受かるって噂」

 

「絶対受かってくるって言ってました」

 

恵ちゃんの言葉に頷く。

私もお兄ちゃんなら絶対受かるって思ってる。

 

――――だから私も。

 

「被身子も雄英を目指してるんでしょ?しかもヒーロー科」

 

「そうです、お兄ちゃんと離れたくないので」

 

「ブラコンめ」

 

彼女の言葉に薄く笑って応える。

お兄ちゃんは私のために雄英に行くことを決めた。

 

ヒーローになって、私が私のまま暮らせるように。

 

あの時泣いちゃうくらい嬉しかった、けど同時に苦しくもあった。

私のせいでお兄ちゃんにヒーローという道を選ばせてしまった。

 

お兄ちゃんは別にヒーローに興味がない。

だけどヒーローという仕事は死んじゃうこともある危ない仕事。

 

・・・・お兄ちゃんに死んでほしくない。

 

私はお兄ちゃんが大好き、だからお兄ちゃんになりたいし()()()()

 

けど、死ぬのは嫌だ絶対に。

 

大好きだから殺したいけど、お兄ちゃんが死ぬのは嫌。

自分でもこの感情をどうしたらいいのかわからない。

 

大好きだから傷つけたい、傷から流れた血を私の体いっぱいになるまで吸ってお兄ちゃんになりたい。

 

お兄ちゃんはすごい、血が流れてどんどんカッコよく、かぁいくなっていくお兄ちゃんを見て、私の中の殺したい気持ちがいっぱいになってたくさん傷つけて血を吸っても死なない。

 

私が落ち着いたら傷が一瞬で治っちゃう。

 

そんなお兄ちゃんでも、ヒーローになったら死んじゃうかもしれない。

 

それは絶対に嫌だから、私もヒーローになってお兄ちゃんを守りたい。

 

・・・・私のことを世界で一番かぁいいって言ってくれた大切な人だから。

 

「じゃあ今日も一緒に勉強だね。感謝しろよこいつ!彼氏との予定よりもあんたの勉強を優先してやってんだからね!」

 

「ありがとう香ちゃん」

 

「お礼は受かってからだよ」

 

「いやお前が言うな。私のセリフだそれは」

 

恵ちゃんと香ちゃんがまた喧嘩を始める。

私はそれを嘘の笑顔で見守る。

 

二人の前での私は嘘の私。

 

二人のことが好きだから傷つけたいし血を吸って二人になりたい。

 

・・・・けど、それは。

 

『おまえのそれは・・・・誰にも受け入れられない!』

 

『誰も好きには生きられない!我慢しないとダメよ!!あなたのためを思って言っているの!!』

 

お父さんとお母さんの言葉が頭の中で響く。

それを守って私は嘘を作った。

 

本当の自分を見せれるのはお兄ちゃんの前だけ。

 

・・・・小さい頃から私は()()()()()()()()()

 

赤いスズメが踊ってる。

私のお腹の上でタップを踏むの。

 

そのうちおへそをついばみだして私の中で踊りだす。

 

私も真っ赤に染まっていってとってもかぁいくなっていく。

 

そんな素敵な夢。

 

この夢を見る度に嘘の自分にヒビが入る。

 

こうして好きな人の素敵なところが見つかるともっとヒビが入っていく。

 

恵ちゃんが恋人と手を繋いだりキスしたりするみたいに。

 

私も好きな人と好きなことをしたい。

 

けれど、私の普通は受け入れらない。

 

 

・・・・生きにくい。

 

私はこんなに“好き”なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








トガヒミコの欲求って本当に難しいですよね。
ただ血が吸いたいわけではなく傷つけたいし殺したいしその人そのものになりたいっていう欲求がセットになってるのがね。

そしてそれは敵意も殺意もなくただの好意からくるもの。


前半は  
脹相    『ゆうじぃぃぃぃぃ!!』   
エンデヴァー『しょうとぉぉぉぉ!!』

やっぱりこいつら好きだなーって思いながら書いてたんですけどね。


面白いと思ってくれた方、続きが気になった方。

感想、高評価を下さると次話へのモチベーションになります。


本当にあるとなしでは執筆速度が10倍は違います。

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