どけ!!俺は(ヒミコの)お兄ちゃんだぞ!!   作:俺はお兄ちゃんだぞ!!

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四話

「ねぇねぇ、新しい先生どう思った?」

 

授業が終わった休み時間、恵ちゃんがさっそく先ほど新しくやってきた先生の話題を出す。

それに対し香ちゃんが眠そうな目で欠伸をしながら答えた。

 

「別に―、どう思うって聞かれても無だよ。優しそうな先生じゃない?」

 

「・・・・私は少し怖かったです」

 

なぜか目が合った気がした。

だから慌てて目を逸らしたけど、気のせいだったのだろうか。

 

それに『ぜんいん』という苗字。

聞き覚えのある苗字だと思えばよくお兄ちゃんが調べていた苗字の一つだ。

 

兄ちゃんが前に教えてくれた弟のこと、私にとっては別のお兄ちゃん達に繋がる情報を持ってるかもしれないと一生懸命調べていたのを思い出す。

 

結局お兄ちゃんのほしかった情報は見つからず、お兄ちゃんは残念そうだった。

「・・・・」

 

授業日程を思い出せば今日の五時間目の授業であの先生がやってくることなるだろう。

もし話す機会があるなら私の方から聞いてみるべきだろうか。

 

でもひとまずは勉強だ。

 

「勉強?ほんと一生懸命だね」

 

「はい、お兄ちゃんと一緒になりたいので」

 

お兄ちゃんは勉強が苦手だから私が勉強してカバーできるようにしたい。

私がそう言うと恵ちゃんが少し気まずそうにしながら口を開く。

 

「・・・・でも体育祭見て思ったけど、やっぱりヒーロー科ってすごい個性の人がほとんどっていうか。その、正直にいうと被身子の個性だと厳しいんじゃ。あ、別に絶対無理だとは思ってないよ!何か対策しないとって」

 

恵ちゃんが慌てた様子でそう口にし私は苦笑いを浮かべる。

 

私の個性は血を吸うことで吸った相手に変身する個性。

だけど変身するのは見た目だけで別にその人の個性が使えるわけじゃない。

 

・・・・ただ一人を除いて。

 

「対策は少し考えがあるので、今はこっそり特訓中です」

 

「そうなの?まぁでも被身子の個性って戦闘向きじゃないだけで医療方面や探偵的なことにはかなり使えるよね。同じ人になって血をあげたり、ヴィランの仲間に変身して捜査したりとか」

 

「確かに」

 

香ちゃんの言葉に私も同意する。

ヒーローになると決めてから私も個性の使い方を考えて香ちゃんと同じことを考えた。

 

私も同意すれば二人は笑顔を浮かべて口を開く。

 

「じゃあもし私たちがヴィランに襲われて血を流して死にそうになったら被身子に助けてもらえるね」

 

「・・・・縁起でもないことを言わないでください」

 

「もしもの話だって。まぁ私も想像してうわぁって感じになったけど」

 

私がそう返せば二人は微笑みながらそう口にする。

想像して、気分が高揚するのを感じた。

 

血だらけの二人が私の目の前にいて、とってもかぁいい姿の二人に見惚れる。

二人のかぁいい姿を見て、私はどうするんだろう。

 

ヒーローなら当然助ける。

けど、私の中の気持ちが血を吸いたいと口にする。

 

ずっと、我慢してる。

二人のことが好きだから血を吸いたい、二人になりたい、今もその気持ちは変わらない。

むしろどんどん強くなってる。

 

そんな我慢している私の目の前にもし血だらけの二人がいたら。

 

第三者となって想像上の私を見る。

血だらけの二人を前に私の顔は、真っ黒の仮面に覆われて見れない。

 

真っ黒の仮面に笑顔のマークだけが光の様に浮かんでいる。

けど、その仮面はヒビだらけで今にも崩れそうで。

 

「・・・・」

 

無言で一度目を閉じ考えを止める。

これ以上はダメ、私はみんなの決めた普通の中で生きなきゃダメなんだから。

 

お兄ちゃんが絶対に私が演じなくていい、そのままの私で生きれるようにしてくれる。

私もそんなお兄ちゃんを隣でずっと支えたい。

 

だから、我慢しなきゃ。

 

授業を告げるチャイムがなる。

香ちゃんと恵ちゃんも席に戻る。

 

私はもう一度強く目を閉じてダメな思考を外に追い出す。

 

だけど、追い出してもこの気持ちはすぐに戻ってきてしまう。

 

・・・・どうしたらいいか、私にはまだわからない。

 

 

 

 

「俺がどうしてお前を選んだかわかるか」

 

まるで睨むように俺を見下ろす男が一人。

ところどころに炎を纏い、威圧感を隠そうともしない巨漢。

 

トップヒーローにもっとも近い位置にいる男、エンデヴァー。

 

「俺が体育祭で一位を取ったからだ」

 

「そうだ、悪目立ちもしていたが貴様の人格などどうでもいい。優秀で将来的に俺の役に立つと判断したからここに来ることを許可した」

 

その言葉に俺は特に何も思わない。

俺も同じだ。

 

別にこの男に憧れてここに来たわけじゃない。

 

ただオールマイトの次に力を持つヒーローがこの男で、俺がトップヒーローになるのにもっとも早い道だから来た。

 

「お前は俺のサイドキック達と行動しろ。彼らの目を通し貴様の実力を判断する、使えるようならインターンの際もここに来ることを許可する」

 

「わかった」

 

「ではさっそく動け。ヒーローに止まっている暇はない」

 

そう言うなりエンデヴァーは部屋を出てどこかに消える。

俺も出ればすぐに数人の男女がやってきた。

 

「じゃあ一年!さっそく行動するよ!!あの加齢臭の言った通り職場体験中は私達と一緒に動くからね!!」

 

「ただし丁寧に教えたりはしないぜ。俺達がどう動くか見て、盗め」

 

「ここはエンデヴァー事務所。他のヒーロー事務所とはわけが違う」

 

詰め寄るように口々に話す三人に俺は無言で頷く。

どれも意味は理解できる、俺もこういう方が動きやすい。

 

ここは言っている通りトップクラスのヒーロー事務所。

当然全員がヒーロー用に個性の使い方をマスターしている。

 

特に炎系の個性が多いが、炎なんて俺よりも殺傷能力が高い力だ。

それをどう扱っているのか見させてもらう。

 

「事件発生!急いで現場に向かうよ!!」

 

彼女の言葉に従い全員が動き出す。

現場の場所を特定し迷うことなくそこに向かう。

 

その俺達の横をエンデヴァーが炎を纏って飛び出していく。

エンデヴァーが飛んでいくのを見てそれに続くようにと指示が飛ぶ。

 

指示に従って追いかければエンデヴァーが自身が生み出した炎をぶつけ敵を制圧していくのが見えた。

 

「ジェットバーン!!」

 

炎を纏った拳を敵に叩き込む。

その熱量と熱風による加速で威力があがった一撃は敵の意識を刈り取った。

 

技一つだけでエンデヴァーの実力がわかる。

 

炎の使い手、俺が知るのはあの火山頭の呪霊だ。

 

・・・・もしエンデヴァーとあいつが戦ったら。

 

頭の中で想定する、俺はどちらの本気も見ていないから想像でしかないが。

勝敗では呪霊の再生能力と呪力というアドバンテージがある火山頭が勝つだろう。

 

だが互いの術式と個性、これのみで戦った場合の勝敗はどうなるか予想できなかった。

 

「次は大河で強盗事件発生!急いで向かうよ!!」

 

地面に伏したヴィランを拘束し怪我人や周囲の被害状況を確認した彼らがその言葉で即座に動き出す。

エンデヴァーを見ればすでに動き出していた。

 

「・・・・俺も行かせてもらう」

 

呪力で足を強化し速度をあげる。

だが俺よりも早くエンデヴァーが加速していく。

 

追いつくため、俺も赤鱗躍動(せきりんやくどう)で速度をあげる。

 

「ほう、体育祭の時はまだ本気ではなかったのか」

 

横にまで追いついた際にエンデヴァーが俺を見てそう言う。

そのまま進むと遠くの現場で暴れている複数人の男の姿が見えた。

 

あれを倒せばいいのか。

 

百斂(びゃくれん)

 

手を合わせ血を圧縮させる。

照準は今まさに人間を襲おうとしている一人。

 

相手は気づいていない、それではこの技は避けられん。

 

「・・・・」

 

エンデヴァーは俺の様子をじっと見つめて動かない。

どうやら俺の行動を見るつもりのようだ。

 

穿血(せんけつ)

 

 

音速を超える血の槍が放たれる。

俺の攻撃に敵は気づかず胴体に入る。

 

加減したから死んではいない。

それに圧縮していた血の弾はまだ三つある。

空中に浮かべ、ストックしていた血を解放し矢として敵に飛ばす。

 

まだ遠くいるためか俺がどこにいるのかも認識できていない敵は俺の攻撃を避けれずくらう。

これで終わりか、厄介な敵ではなかった。

 

「・・・・貴様」

 

現場に到着しヴィランが気絶していることを確認したエンデヴァーが俺を睨むように口を開く

俺が言うのもなんだが、こいつも目つきが悪いな。

 

「貴様、何者だ」

 

「俺はお兄ちゃんだ」

 

「・・・・力の凝縮、そして力を点で放出すること。これらが俺に近いレベルまで極まっている。とても入学したばかりの高校一年生が到達できる領域ではない」

 

俺の答えを無視しエンデヴァーが口を開く。

高校一年生が到達できる領域ではないか、まぁ俺の場合は例外か。

 

「どうやってそれを身に付けた。独学ではあるまい、必ず師がいるはずだ。その師を教えろ」

 

「師はいない、独学だ」

 

赤血操術、俺の生得術式。

これは生まれた時から身体に刻まれているもので使い方はある程度最初からわかる。

 

人間が足を使って走ることが出来るように誰にも教えられずとも術式の使い方はわかる。

そこからより術式を使いこなすには師や教えが必要になるだろう。

 

だが俺の場合は違う。

150年という歳月をかけて磨き上げたに過ぎない。

呪物となって身体もない、兄弟との繋がりによって意識を保ち続ける状況。

 

術式と向き合うことしか俺にやることはなかった。

 

「・・・・ふん」

 

俺の答えが気にくわなかったのかエンデヴァーはそれ以上何も言わず別の場所に移動していく。

今度は追わず到着したエンデヴァーの仲間たちの指示に従いヴィランを確保する。

 

・・・・これから一週間、どうなるか。

 

 

 

「どうしたミリオ、もう終わりか?」

 

「まだまだー!!」

 

体中が痛い。

もう動くなとシグナルを出してくる。

 

けど動く、もっと強くなりたいから!

 

「ミリオ、お前は個性の使い方が大雑把すぎる」

 

俺の拳を眼鏡がずれないように片手で押さえた状態で軽く躱す。

その後カウンターの右フックが飛んでくるのが見えた。

 

「っ!!」

 

それを見た瞬間、個性を発動させ上半身を透過させる。

これで躱して今度はこっちからカウンターを叩きこむ。

 

「それが大雑把だと言うんだ」

 

「ぐぅっ!!」

 

右フックはフェイント、足蹴りを足にくらい俺はみっともなく転倒した。

 

サー・ナイトアイ、今回俺を職場体験に呼んでくれたプロヒ―ロー。

元オールマイトのサイドキックの経歴を持つすごい人だ。

 

「ミリオ、お前もわかっていると思うが透過の個性は扱いが非常に難しい。今の使い方では乱戦ならともかく一対一の戦いの際は勝つのが難しいぞ」

 

「・・・・はい、わかってます」

 

言われるまでもなくわかってる、体育祭で脹相にボロ負けしたんだから。

課題は多い。

 

攻撃がヒットする場所をピンポイントで透過することが出来ない。

しようとすれば透過場所を間違えて攻撃をくらってしまうことが多い。

 

致命的なのが顔を狙われる時に透過を使ってしまえば一時的に視力が消えることだ。

どうしても発生してしまう隙、一対一の状況では致命的だ。

 

「お前が体育祭で結果を出せたのは()()()()()()()()()。一回戦は一位のお前の友人が妨害の多くを潰し後続が進みやすかった、二回戦は仲間に助けられた。だからお前は三回戦まで駒を進められたんだ」

 

「っ!!」

 

悔しいけど、何も言い返せない。

だけど、だからって諦めるのかと聞かれたら俺は嫌だと答える。

 

脹相の隣に立ちたい。

 

友達だけど、トップヒーローを目指すライバルとして隣にいたいから。

きっと脹相は俺のことなんて眼中にない。

 

それは俺が弱いからだ、実際ボロ負けしたし。

だけどそれじゃあ嫌だから、俺はもっと強くなりたい!

 

「もう一回!!」

 

「・・・・」

 

俺がまた飛び出せばナイトアイがまた俺の行動を予知して躱される。

これだ、この予知による予想。

 

これくらい相手が次どう動くかを推測できれば透過の隙を突かれることなくカウンターを潰せる。

 

「確かに体育祭の結果は運でした。それでもあなたは俺をここに呼んでくれた、それは俺に期待してくれたからでしょ!!」

 

「・・・・」

 

ここからだ、俺が一番弱いなら一番伸びしろがあるのは俺だってこと!

俺はまだまだ強くなれる!!

 

「そんな言葉で俺のやる気は落ちませんよ!俺が落とすのは、服だけだ!!」

 

個性の調整をミスって衣服が全て脱げ落ち全裸になる。

もうなれたものさ!

 

「ふ、ふふ、あははははは!!!やる気はもちろんだが服も落とすな!なんだそれは!ふふっ!」

 

俺の言葉にナイトアイは大笑いして口をあける。

チャンスだ!こうやって笑わせて動きを封じる、これも作戦の内よ!!

 

「甘い」

 

「げぼっ!?」

 

見事に鳩尾にカウンターを決められる。

この職場体験中になんとかナイトアイに一発は攻撃を入れられるようになろう。

 

その目標を胸に俺は全力で、服を着た。

 

 

 

「やぁ、勉強頑張っているみたいだね」

 

放課後、一人で勉強している私に声をかけてくる人がいた。

その聞き覚えるのある声にノートを見ていた顔をあげれば想像通りの人がいる。

 

「禪院先生」

 

「あはは、先生かぁ。彼以外にそう呼ばれるのは新鮮だ」

 

彼以外?その言葉に私は首を傾げる。

そんな私を見て微笑んだ彼は私が書いていたノートに視線を落とす。

 

「他の先生に聞いたよ。君もあの雄英を目指しているんだって?」

 

「はい、お兄ちゃんと一緒にいたいので」

 

「僕もテレビで見たよ。素敵なお兄さんだね、個性もすごいし、もしかして君も同じ個性を?」

 

そう聞いてくる先生に私は首を振る。

同じ血に関係する個性だけど、私とお兄ちゃんは違う個性だ。

 

私が自分の個性について教えると先生は微笑みを変えないまま言葉を続けた。

 

「へぇ、じゃあ君は他人の血を飲まないといけない。それは大丈夫なのかい?飲み物を飲むのとはわけが違う。それも他人の血、忌避感だってあるだろう」

 

「・・・・いえ、血が好きなので大丈夫です」

 

私が他の人の血を飲むのが嫌と思われ、少し嫌な気持ちになり本音をこぼす。

それと同時にしまったと内心で顔をしかめた。

 

また異常だと言われる。

そう思いながら先生を見て、固まった。

 

そこに私の想像した恐れや拒否はなく、変わらない微笑みを浮かべていたから。

 

「どうしたんだい?驚いた顔をして」

 

「・・・・あ、えっと血が好きって言ったのに嫌な顔をされなかったので」

 

「見くびらないでくれ。他人の好きを否定なんてしないさ。さっきは悪かったね、知らなかったとはいえ血が好きな君に嫌な質問をしてしまった」

 

「・・・・いえ」

 

それから先生は私のことを聞いてくる。

血が好きな理由、お兄ちゃんのこと、そして、悩み。

 

その落ち着く声色と微笑みに私は()()()()自分のことを話してしまっていた。

 

「辛かったね。他の人と違うと、自分の好きを人間性さえも否定されるなんて可哀想に」

 

そう言って彼は()()()()()()()

 

私を否定しない、お兄ちゃん以外では初めてだった。

 

「今や当たり前に人の中に溶け込んだ異能。その影響は外見だけじゃない、性格や好みすらも変化させた。現代は文字通り個性社会、多種多様な個性があるのは当たり前。君のように血が好きでたまらない子がいたっていいんだ」

 

「・・・・でも、お母さんもお父さんも他の大人はみんなダメって言うの、だからお兄ちゃんはヒーローになって世の中を変えようとしてる」

 

私が生きやすいように、必死に頑張ってくれている。

 

「それはいい。もしナンバーワンになれば可能だろう。そうだなぁ、現実的に考えて早ければ二十代後半、あと十数年後といったところかな」

 

「・・・・十数年後」

 

遠い未来すぎて早いのか遅いのかわからない。

私が今十五歳だから、私が生まれてから今までと同じくらいの時間がかかるってことなのかな。

 

・・・・私は、そんなに長い時間を我慢することが出来るのかな。

 

今でもこんなに辛いのに、それがまだ十数年も続くの?

 

・・・・ダメ、そんなこと考えたら。

 

お兄ちゃんが必死になってトップヒーローになろうとしてるのに、そんなこと考えるなんて。

 

「辛いかい?もし辛くてどうしようもなくなったら僕のところへおいで」

 

「・・・・え?」

 

私の考えを見透かすみたいに先生はそう口にする。

先生は私を見て微笑み続ける。

 

「僕の生徒の一人に君と似たような子がいたね。そう遠くない未来でこの世界を変えようと動き出すだろう、ヒーローとは違った方法でね」

 

「・・・・私と似た子」

 

「そう、この世界には君と同じ悩みを持つ子は大勢いるのさ。もし君が辛くて我慢できそうになかったら彼らの仲間になるといい」

 

そう言って先生は私から離れる。

最後までその微笑みをやめることなく。

 

「・・・・」

 

教室は私一人になり、静けさを取り戻す。

まるでさっきまでのことはなかったみたいに。

 

胸の中に言葉にできない何かだけが残っていった。

 

 

 

「動くな」

 

男の背後に立ち、低い声でそう命令する。

 

口を開きながら合わせた両手はこいつの背中に照準を合わせる。

 

すでに百斂(びゃくれん)は終えている、いつでも殺せる。

 

「何かしようとすれば殺す。言っておくが個性も使うな、殺すのに一秒もかからん」

 

「その声、聞き覚えがあるね。雄英体育祭で一位になっていた渡我脹相くんだね」

 

命を握られているというのに何事もないかのように振る舞う男。

明らかに普通の人間ではない。

 

「・・・・妹に何をした」

 

「何もしていないさ、ただ少し相談にのっただけだよ」

 

そう答えるが、信用なんて出来るわけがない。

 

っ、くそ。もっと早く気づいていれば。

 

 

自分の鈍さに腹が立つ。

 

職場体験で休むことなく動き回り続けていたため携帯を見る余裕がなかったから気づくのが遅れた。

 

先ほど待機時間になったことでようやく妹からのメッセージに気が付いた。

 

慌てて確認し、その内容に背筋が凍った。

 

禪院という苗字の男の先生がやってきた。

だから何か聞くことはあるかという内容。

 

それを見た瞬間、職場体験なんて放り出して駆けだした。

 

「なぜ禪院の人間がここにいる」

 

「なんのことだい?」

 

俺の質問に意味がわからないと答える。

その言葉に歯を食いしばる。

 

この時代に生まれて、それこそ雄英に入る少し前まで俺の知る時代に関係があるものがないかを調べていた。

 

特に御三家。五条家・禪院家・加茂家、この三つについては入念に。

 

呪力や術式などの記録が残っているとしたらそこだろうと思ったからだ。

だが俺の期待に反して成果はゼロ。

 

図書館、ネットはもちろん、実際に御三家と同じ苗字を持つ人間のところに足を運んだりもした。

 

思いつく限りの方法で探し結果は収穫なし。

会った人間も同じ苗字なだけで俺の知る御三家とは一切関係ない一般人。

 

これらから御三家はすでに滅んだと判断した。

 

・・・・なのに、禪院と名乗る男が妹の学校にやってきて、しかも接触してきた。

これが偶然とはとても思えない。

 

「何を警戒しているのかわからないな。僕と同じ苗字を持つ人間が君に何かしたのかい?」

 

「・・・・呪力、術式、これらの言葉に聞き覚えはあるか」

 

禪院という苗字だが、この男も呪力がない。

 

何も知らない一般人ならこれらの意味がわかるはずがない。

だが呪術師ならこの二つを知らない人間はいない。

 

嘘をついてもこの二つの言葉に何か変化があるはずだ。

それを見逃すつもりはない。

 

俺はじっと男の返答を待つ。

そして。

 

「————へぇ」

 

知らない、知っている。

どちらも答えない、だが返ってきたその声に嫌な予感を覚えた。

 

「知らないな。教えてくれないか、その呪力と術式ってやつが何なのか」

 

「・・・・知らないなら別にいい」

 

「おいおいそりゃないぜ!思わせぶりなことを言われた僕の気持ちを考えてくれよ」

 

「動くな」

 

合わせた手を背中に当て再度警告する。

この感じだと呪術師とは関係ない人間だ、偶然?偶然ヒミコのいる学校に禪院を苗字に持つ男がやってきたというのか。

 

・・・・呪術師とは関係ないとしても、この男は危険だ。

 

「今すぐこの学校から出ていけ、そして二度と俺の妹に近づくな」

 

「冗談だろ?まだこの学校に赴任して一日も経ってないんだけど」

 

「関係ない、それとも今ここで死ぬか?」

 

殺しはしないつもりだったが、ヒミコに危険が迫るなら話は別だ。

もともと殺しを躊躇うような精神はしていない、少しでも抵抗すれば本当に殺す。

 

「どうやら本気のようだね。わかった、今すぐここを出ていこう。君の妹にも近づかない」

 

「・・・・このまま学校の外まで出ていけ、そして戻ってくるな」

 

警戒をし続けながら歩くように促す。

俺も元この学校の生徒だ、それに妹もいる以上ここにいても違和感はないだろう。

 

「君は本当に妹が大好きなんだね」

 

「当然だ、俺はお兄ちゃんなんだから」

 

「それは奇遇だ、僕もお兄ちゃんなんだぜ」

 

俺の言葉に同意するように男は口を開く。

そして楽しそうな声色で話を続けた。

 

「僕の場合は弟だけど、唯一の家族で何よりも大事な存在さ————そして僕のものだ」

 

「っっ!?」

 

一瞬だけ、男の雰囲気が変わったような気がした。

 

・・・・こいつはやはり今ここで殺しておくべきだ。

 

「やめておいた方がいい、仮に僕を殺せてもここでは人目につく。君の目標であるトップヒーローにはもう二度となれなくなるよ」

 

「それで俺が躊躇うとでも?妹への危険を排除する方が優先だ」

 

「だろうね、じゃあ別の提案だ。ここで僕らが戦えば君の大事な妹も確実に巻き込まれるよ」

 

「・・・・」

 

「僕も死にたくないからね。もしその気なら抵抗させてもらおう」

 

男は変わらない余裕の態度のままそう口にする。

・・・・目の前の男の力は未知数だ。

 

個性という力は見た目では測れない。

万が一、一撃で仕留めきれなければ妹が戦闘に巻き込まれる可能性が高い。

 

・・・・俺には有効な脅しだな。

 

「心配しなくても僕はこの学校をやめるし君の妹とはもう関わらない」

 

「・・・・ならすぐに出ていけ。そして俺と妹の視界から消えろ」

 

「ああ、もっと君たちと話したかったが仕方ない」

 

その言葉と共に男は学校から出ていきその姿を消す。

俺は男は完全に消えてからも警戒を続け、妹のもとに向かう。

 

「ヒミコ」

 

「え、お兄ちゃん?どうして学校にいるの?」

 

「お前のメッセージを見て心配になってな」

 

妹に近づいて身体を入念に確認する。

外傷はない、何かをされた様子も。

 

だがすぐ家に帰ったほうが安全だろう。

 

「一緒に帰ろう。勉強は家でも出来る」

 

「え、うん」

 

ヒミコと手を繋いで教室を後にする。

ちょうど携帯にエンデヴァー事務所から電話がある。

 

そう言えば登録するように言われ登録したなと思いながら出れば激怒した事務所の人間からの電話だった。

 

「今日は妹と一緒に帰る。明日は念のためヒミコの学校に張り込みをするから行かない」

 

それだけを言って電話を切る。

職場体験よりヒミコの安全を優先するのは当然だ。

 

この時代に縛りなどの力はない。

だから先ほどの言葉は結局ただの口約束。

 

信用なんて出来るわけがない。

 

・・・・正直、もう会いたくないというのが本音だ。

 

あの男の雰囲気、何か似ていると思ったが今はっきりした。

 

似ているんだ。

 

 

母を弄んだ憎むべきあの男

 

 

 

 

 

加茂 憲倫(かも のりとし)に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう関わらないさ————禪院一為としてはね」

 

 

 

 

 

 

 




はい、もちろん関わっていきますよこいつは。


本当は今回で重要な分岐点までいく予定だったんですが、長くなりすぎるのでここで一旦区切りました。
そのため、今回は盛り上がる部分がなかった気がします、すいません。


また禪院一為はオールフォーワンですね。

感想でも名前の意味に気付いてくれていて嬉しかったです。

この世界はヒロアカの世界なので呪術廻戦の禪院は存在しません。

オールフォーワンが禪院を使った理由は脹相が熱心に調べていたのを見つけ、向こうから接触してくるエサとしてそう名乗りました。

この作品ではヒロアカの世界と呪術廻戦は繋がってはいないです。
あくまで脹相だけがヒロアカに何らかの理由で転生した感じです。

なので脹相から呪術的要素がヒロアカ世界に広がることはあるかもしれませんが、それ以外ではないです。

前話の禪院の登場から純粋なヒロアカ世界じゃないのかと思われ評価が少し下がった感じがしたので、念のためここで説明しておきます。

感想にありました今の呪術廻戦で宇宙人が来たのでヒロアカの世界が未来、呪術廻戦が過去で繋がっているというのは面白いと思ったので、皆さんが考察とかで楽しめるように上記を説明するか悩みましたが、ここで説明しておくことに決めました。


次の話で重要な分岐点があります。

頑張って書いていきますので、感想、高評価をいただけるとモチベーションになって助かります。



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