どけ!!俺は(ヒミコの)お兄ちゃんだぞ!!   作:俺はお兄ちゃんだぞ!!

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六話

「わた、しは」

 

ぐちゃぐちゃになった頭の中、歯を食いしばる。

頭に思い浮かんだお兄ちゃんの姿。

 

それが私を止めてくれる。

 

「・・・・・」

 

個性を発動し、お兄ちゃんと一緒になる。

 

お兄ちゃんなら、こんな時、どうするのかな。

 

『ねぇ、どうして我慢するの?』

 

「・・・・っっ!!」

 

呪力が身体に回ったのを確認し、拳を握り締める。

目の前には笑うもう一人の私。

 

それを見て、私は思いっきり拳を振りかぶり。

 

「っっ!!うるさい!!」

 

思いっきり拳をもう一人の私に、ではなく()()()()ぶつけた。

 

『・・・・え?』

 

そんな声を聞きながら振り抜いた拳が頭にぶつかる。

ぐちゃぐちゃになった頭を壊すつもりで殴った。

 

その瞬間、()()()()()が視界に散った。

 

「・・・・ぁ」

 

頭が熱くなり、血が溢れたんだと気が付いた。

視界がぼやけだし、足元がふらつく。

 

回る視界の中、笑みを浮かべる。

これでよかった。

 

あのままだと私は香ちゃんと恵ちゃんを殺してたから。

二人のことが好きだから、死んでなんてほしくない。

 

だから私は私を殺すことを選んだ。

 

「・・・・お兄ちゃん、ごめんなさい」

 

倒れていく視界の中、そう呟く。

すでに力は抜け、言葉も消え入りそうな音しか出ない。

 

血が抜けていく感覚がする。

熱い血とは逆に身体はどんどん冷たくなっていく。

 

そして意識が薄れ、瞼も重くなっていき、そして目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、私の脳内に溢れ出した『()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、まだかな」

 

駅内に設置されたベンチで私はお兄ちゃんが来るのを今か今かと待っていた。

 

駅のホームは私以外誰もいなくて、古く錆びれた駅内も合って少しの寂しさを私に与えた。

そのまま椅子に座って足をブラブラさせていると私の耳に足音が聞こえてくる。

 

その音に顔を横に向ければ私の待ち人がこっちに歩いてくるのが見えた。

 

「お兄ちゃん!」

 

ずっと待っていた人の登場で私は椅子から飛び上がるように立ち上がって走る。

そんな私にお兄ちゃんはいつもの満面の笑みを浮かべる。

 

その笑顔が嬉しくて、私は駆け足のまま彼の懐に飛び込んだ。

 

「悪い、待ったか?」

 

「ううん、私も今来たとこだよ」

 

抱き着いた私の頭を撫でながらお兄ちゃんがそう聞いてくる。

本当はけっこう待ってたけど、それは秘密。

 

「んじゃ、行くか」

 

「うん!」

 

お兄ちゃんに手を引かれ、私達は駅の外へ歩き出す。

 

 

 

 

私のお兄ちゃん――――()()()()()()()と一緒に。

 

 

 

「ここの公園、よく一緒に遊んだよな」

 

悠仁お兄ちゃんと駅から歩いていると懐かしい公園が視界に入った。

懐かしさからそこに入った私たちは昔の様に一緒に遊ぶ。

 

椅子みたいに座って遊ぶ箱ブランコに二人で乗って笑う。

遊びながらお兄ちゃんが昔これで足を挟んで叫んでいたことを思い出した。

 

そのことで二人で大笑いする。

それから公園を出て町を歩く。

 

どこも小さい頃にお兄ちゃんと一緒に歩いた場所で懐かしかった。

 

そうやって進み続け、やがて場所は私たちの家に移る。

 

その家の前で、私はお兄ちゃんに自分の悩みを打ち明けた。

 

「お兄ちゃん、私どうしたらいいかわからないの」

 

血が好きで、好きな人の血を吸いたくて、その人になりたい。

 

その人に傷をつけて流れる血を見たい。

 

けれど、これは我慢しないといけないこと。

 

なのに、今はどうして我慢しないといけないのか、わからなくなっちゃった。

 

・・・・人って強欲だ。

 

ずっとお兄ちゃんの血を吸って、傷をつけて、満たされていたのに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・ねぇ、悠仁お兄ちゃん。私は、どうしたらいいかな」

 

じっと悠仁お兄ちゃんを見つめる。

そんな私の視線にお兄ちゃんは逸らすことなく見つめ返してくれた。

 

「ヒミコ自身がどうしたいってのはもう決まってるんだよな。好きな人の血を吸いたくて、その人になりたい、傷つけてもっと可愛い姿を見たい」

 

「・・・・うん」

 

「その上でどうしたらいいってことなら。俺はもうヒミコは答えを持ってると思う」

 

「・・・・もう、答えを持ってる?」

 

私が首を傾げれば悠仁お兄ちゃんは頷きながら続きを教えてくれる。

 

「その二人の友達に本当の自分を伝えようとしてたんだろ?受け入れてもらえるように」

 

「・・・・そう、だけど」

 

「めちゃくちゃ勇気がいるよな。両親や大人から受け入れられないって言われてたんだから」

 

そう言ってお兄ちゃんは私の頭に手を置く。

思い出すのは小さい頃の思い出、仮面をつける前の周りの言う普通を教えられる毎日。

 

香ちゃんと恵ちゃんはその普通の中に生きている。

 

その彼女達に私の普通が受け入れてもらえるのかと考えて、胸が苦しくなった。

 

「ヒミコはさ、自分が死ぬ時はどう死にたい」

 

「死ぬ時?」

 

急に話が変わって思わず聞き返す。

そんな私に頷きながらお兄ちゃんは質問について説明してくれる。

 

「俺は爺ちゃんに大勢の人間に囲まれて死ねって言われたんだ。お前は強いから人を大勢助けろとも、それが俺の始まり、カッコよく言えばオリジンってやつ」

 

そう言われて考える。

死ぬ時、そんなこと考えたこともなかった。

 

想像して浮かんだのはお兄ちゃんの姿、そしてお父さんとお母さん。

香ちゃんと恵ちゃんもいて、みんなが辛そうな顔で死んでいる私を見ていた。

 

そこまでを想像し、私はどう死にたいかを言葉にする。

 

「・・・・好きな人に囲まれて死にたい」

 

一人で死ぬのは寂しい、嫌だ。

それに知りもしない人たちに囲まれても何も嬉しくない。

 

好きな人達に悲しまれながら見送られたら、それは素敵なことだって思った。

 

「だったら、進もう。受け入れてもらえないこともある、最悪の思いをいっぱいしてこれが永遠に続くって考えてやめたいって思う時もあると思う」

 

お兄ちゃんは私を見つめがら言葉を紡ぐ。

その言葉の一つ一つに思いが込められていて、私の胸に染み込んでいった。

 

「けどそこでやめたら、ヒミコの願いはきっと呪いになる。呪いを背負って、ヒミコが化け物になるのは、俺は嫌だ」

 

「・・・・悠仁お兄ちゃんは厳しいね」

 

その言葉に私は薄く笑う。

 

きっと呪いになった方が楽なのに、それは嫌だって、わがままだなぁ。

 

私のこの欲求は受け入れてもらえないかもしれない。

きっと、お兄ちゃんが言ったように最悪の思いをすることだってある。

 

それでも呪わずに、諦めずに進めって言うんだ。

 

「ヒミコならできる。誰かを呪うんじゃなくて、誰かと一緒に生きられる。それにもし誰にも受け入れられなくても、俺達だけはヒミコと生きていける」

 

「――――うん」

 

その言葉に私は笑顔で頷いた。

こぼれそうになる涙を拭いて、お兄ちゃんを見る。

 

私の笑顔に、お兄ちゃんも笑って返してくれた。

 

「そろそろ時間みたいだな・・・・その前に」

 

笑っていたお兄ちゃんは不意に真剣な顔になって私の胸に手を当てる。

それに首を傾げながら黙って見ていると。

 

「誰か知らねぇけど、妹の中から出てけ。“解”」

 

その言葉と共に、私の中にいた何かが消えた感じがした。

なんだったんだろう、今の。

 

けど、ずっと胸の中にあった違和感が消えたような感じがした。

 

「うし、これでもう大丈夫。にしても不思議な感覚だな、妹の記憶なんてないはずなのに、今は当たり前みたいにある」

 

「・・・・うん、けどだんだんぼんやりとしてきてる」

 

さっきまでは悠仁お兄ちゃんとの思い出は当然のようにあったのに、今はそれは薄れていっている。

まるで夢の世界で我に帰ろうとしているみたいな不思議な感覚。

 

「確か、術師同士が戦ってる時に繋がることがあるって宿儺が、それと似た感じなのか?まぁいいや」

 

「・・・・また会える?」

 

目の前にいるはずなのに、どんどん離れていくような感覚が襲ってくる。

きっと、もうすぐこの世界は終わる。

 

そうなったら悠仁お兄ちゃんとはもう。

 

私のその言葉にお兄ちゃんは歯を見せて笑う。

 

「互いに生きてたらいつか会えるだろ。俺達兄妹みたいだし、あと気になってたんだけど、もしかしてヒミコの側に脹相いたりする?」

 

「え?いるよ?」

 

「まぁ、そうじゃないかなって思ったけど。そっか・・・・そっちにいるのか」

 

そう言って悠仁お兄ちゃんは笑う。

うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。

 

それを見ていると悠仁お兄ちゃんの姿がぼやけていく。

 

・・・・もう、お別れなんだね。

 

「ありがとう、私頑張るね」

 

ここで会えてよかったって本当にそう思う。

私は生きるよ、呪いとしてじゃなく誰かと一緒に生きる。

 

「俺も会えてよかった。それと脹相、いや兄貴によろしく」

 

「うん!」

 

その言葉を最後に、私の視界は真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

「っっ、うっ」

 

頭が痛い、それに熱い。

身体から届くその感覚から現実に戻ってきたことがわかった。

っ、悠仁お兄ちゃん。

 

痛みから目を細めながら辺りを見るけどその姿は見えない。

あれは夢だったのかな。

 

・・・・ううん、夢でも関係ない。

 

私は決めたから、みんなに本当の私を受け入れてもらえる道を進むって。

 

だから最初にすることは。

 

「香ちゃん、恵ちゃん。ごめんね、絶対助けるから」

 

血を流しながら気絶している二人に声をかける。

このままだと死んじゃうかもしれない、急いで手当しないと。

 

「っ、その前に私が死にそう」

 

気を抜くと意識がなくなっちゃいそうになる。

最低限の止血と手当をしないと。

 

その方法を考えて、頭の中に不思議な選択肢が思い浮かんだ。

これって、お兄ちゃんと同じ。

 

「・・・・赤血操術」

 

頭に浮かんだ名前を唱える。

どうしてかわからないけど、その使い方が感覚的にわかった。

 

呪力をその感覚に従って使うと、私の想像通りに血が動いて頭からの流血が止まる。

 

それだけじゃなくて流れ落ちた血も私に中に戻すことが出来た。

 

血が操れる。まるでお兄ちゃんみたいに。

 

・・・・それだけじゃない、まだ何かできる気がする。

 

さっきまでと私の中に流れる呪力が全然違う。

もっと、できることがあるって力が教えてくれてる。

 

その中に今私がほしい力は。

 

「・・・・反転術式」

 

お兄ちゃんからその名前と力、あと一応だけどやり方も教えてもらった。

 

『反転術式のやり方はあれだ、あれをこーして、あーしたら』

 

まぁ全然わからなかったけど。

 

でもお兄ちゃんが使ってるのはずっと見てきた。

 

お兄ちゃんの中で巡る呪力の流れを。

 

私はお兄ちゃんと同じになれる、身体、呪力も。

同じなんだから、あの呪力変化の再現だって出来る。

 

「っ、うぁ」

 

命が消えかけている死への危機感、そして今まで感じたことのない程の不思議な万能感。

その二つ、もしかしたら他の理由があるのかわからないけど、頭に感じていた痛みが急速に消えていく。

 

「・・・・出来た」

 

けど喜んでる場合じゃない。

完全に頭の痛みが消えるのを待つことなく倒れる香ちゃんと恵ちゃんに近づく。

 

二人とも苦しそうに表情を歪め、荒い息を吐いている。

そして、倒れる二人の身体からは赤い血が零れ落ち続けている。

 

「・・・・ごめんね。こんな時でも私はかぁいいって思っちゃうんだ」

 

二人の姿を見て、かぁいいって思っちゃうのが私なんだ。

このことを二人に言ったらどう思われるかな。

 

拒絶されちゃうかな、そうなるかもしれない。

 

それはすごく悲しいけど、今は私の想像でしかない。

 

このままじゃ、二人に聞くことだって出来ない。

 

「・・・・っ、反転術式で二人を治せれば」

 

試してみるけど、うまく出来ない。

お兄ちゃんも治癒できるのは自分自身だけだった。

 

どうしよう、急いで誰を呼びに行く?

けど、それをしている間に二人が。

 

「・・・・」

 

反転術式は自分自身しか治せない。

それと同じように、赤血操術も自分の血しか操ることは出来ない。

 

お兄ちゃんもそう言ってたし、私もなぜかそうだと理解できた。

 

・・・・二つとも、私にしか効果がない。

 

だったら、その私が()()()()()()()()()()()()()()()

 

「血、もらうね」

 

床にある血だまりから手で血をすくい、口に運ぶ。

 

二人の血が喉を通り、こんな時なのに心地よさを覚える。

 

血が身体に入ったのを確認し個性を使用。

 

私の個性は同時に二人以上にはなれない。

 

だけど、今の私なら。

 

「えへへ、香ちゃん、恵ちゃん、一緒だね」

 

私の外見が左右それぞれで二人に変身する。

 

そしてもう一つ変化に気が付いた。

 

お兄ちゃんになっていないのに呪力が問題なく使えるようになっていた。

 

だったらあとは意識の問題だと思う。

 

・・・・今の私は香ちゃん、恵ちゃんだ。

 

赤血操術、反転術式も適用は自分だけ。

だから、今香ちゃんと恵ちゃんになっている私は二人の血を操ることができる。

 

同じ人間は二人もいない?

私はトガヒミコ?

 

そんな正しい言葉なんてどうでもいい。

 

私は香ちゃんと恵ちゃんと同じになってるんだ。

だから、私は二人なんだ。

 

お兄ちゃんと一緒になった時は心からそう思うことで個性は変化した。

だったら、今回だってできる。

 

「・・・・・できるよね、だって()()()()()()()()()()()

 

術式を起動して二人の血に触れ呪力を流す。

かつてない程の集中力が余計な雑念を捨てて術式にだけ意識を向けることが出来た。

 

呪力を込めて一秒、集中力で遅くなった時間の中で二人の血を掌握したのを感じた。

 

「・・・・二人のところに戻って」

 

そう言いながら血を二人の身体に戻るように操作する。

私の操作に血は従い、まるで逆再生するみたいに二人の身体に戻っていった。

 

一滴残らず戻ったのを感覚で把握した後、今度は血を固めて止血する。

 

これで少なくとも出血死はない。

けれどまだ油断できない。

 

刺された場所、止血したから血は漏れないけど内臓が傷つけている可能性だってある。

医療知識がないから正確な診断が出来ない。

 

だから、全部治す。

 

「赤血操術は使えたんだ、反転術式だって」

 

今の私は香ちゃんと恵ちゃん。

他人じゃない、だから反転術式だって使える。

 

「・・・・っ、血の操作はうまく出来たのに」

 

反転術式を二人にかけようとするけどうまくいかない。

なんで、何が違うのかな?

 

まだ足りない何かがあるのかな。

 

諦めて二人を先生に言って。

 

「・・・・嫌、諦めたくない」

 

二人に怪我させたのは私だ、記憶はないけど私がしたってことは間違いないと思う。

だったら私が治さなきゃ、そうじゃないと二人に言いたいことが言えなくなる。

 

「・・・・っ」

 

どこを怪我してるの?

傷口だけじゃ身体の中の状況がわからない。

 

焦る心が集中力を乱そうとしてくる。

 

ダメだ、せっかく調子がいいのにこのままじゃ。

 

「ヒミコ、落ち着くんだ」

 

不意に私の耳に聞き慣れた声が届いた。

 

振り向けばそこには一番大好きな人、お兄ちゃんがいる。

 

「・・・・お兄ちゃん」

 

「無事でよかった、術式でヒミコの異常を感知した時は冷や汗をかいた」

 

私の様子を見て安心したように微笑んだお兄ちゃんは倒れてる二人に視線を移す。

それを見て私は簡単に状況を説明した。

 

赤血操術で二人の血を操れること、反転術式を覚えたことも一緒に。

 

そして、いま二人に反転術式を使ってうまくいっていないことも。

 

「だったらイメージするんだ。二人の身体の隅々まで血を巡らせて異常を探し出す。血管で身体の輪郭を形成するイメージ」

 

「・・・・」

 

お兄ちゃんの言葉に従って術式を使って二人の身体の中を探る。

そして傷口のある場所にまで走った血から香ちゃんと恵ちゃんの状況を正確に把握できた。

 

「・・・・反転術式を他者に行う場合、自分に使うのとでは勝手が違うのと受け手の拒絶反応がある。前者は今のヒミコならいけるが。問題は後者、この二人には呪力がない」

 

お兄ちゃんが説明してくれる。

確かに私は二人になれているけど、違いはある。

 

私には呪力があって、二人にはない。

 

・・・・だったら。

 

「二人に拒絶されない呪力・・・・もし二人に呪力が流れてたら」

 

私の個性は血を吸った相手になれる。

 

それは血液型だってそう、変身した相手と同じ血液型になる。

つまり外見だけじゃなく体内も同じになっているってこと。

 

だから血液型と同じように呪力も同じように変化させることが出来る。

 

「ヒミコならできる。個性の解釈を広げるんだ」

 

「・・・・」

 

お兄ちゃんの言葉を聞いてもっと深く呪力へ意識を落としていく。

流れる血を感じながら、反転術式の呪力を二人に流す。

 

そうすると二人が怪我してるところが呪力によって治癒される感覚があった。

流れる血からそれを感じ取り、やがて二人から傷がなくなる。

 

「・・・・ふー」

 

傷が治り、二人が穏やかな顔で眠っているのを見て長い息を吐く。

気付いたら身体が汗だらけだ。

 

集中し過ぎたせいで頭も痛い。

安心から気が抜けちゃって倒れそうになる身体をお兄ちゃんが支えてくれた。

 

「ありがとうお兄ちゃん」

 

「俺は何もしてないさ。それにしてもすごいなヒミコは、個性の応用による他者の血を使った赤血操術、そして他者への反転術式。一瞬でお兄ちゃんを超えてしまったな」

 

「えへへ」

 

お兄ちゃんに褒められたのが嬉しくて笑っていると、香ちゃんと恵ちゃんから寝息じゃないちゃんとした声が漏れた。

 

それを聞いて慌てて目を向けたら二人が目を擦りながら身体を動かすのが見える。

 

「っっ!!香ちゃん恵ちゃん!!」

 

二人に声をかければ二人は寝起きのように目を細めながら私を見る。

 

「うーん、っ、あれ?なんで私は教室の床に寝てるの?」

 

「ヒミコに教室に呼び出されて、それから、それから、なぜか床で寝てる」

 

「・・・・覚えてないんですか?」

 

私がそう聞けば二人は首を傾げながらも覚えてないって言う。

それを聞いて私は内心で安堵してしまった。

 

これで私が黙ってれば二人を刺しちゃったことを二人は知らないまま。

 

・・・・それは、ズルだよね。

 

「二人共、聞いてください」

 

私は二人に私が知る状況を説明した。

記憶はないけど、私が二人を刺してしまったこと。

 

握っていたカッターがある以上、私がやったことに間違いはないだろう。

 

それから私が個性を使って二人を治療したこと。

 

呪力に関係すること以外は二人に正直に話した。

私の説明を聞いた二人は怒るどころか私に心配そうに話しかけてきた。

 

「ってそれ大丈夫なの!?誰かに操られてたってことじゃん!!」

 

「洗脳ってことだよね。今はもう大丈夫なの?」

 

「は、はい。今はもう大丈夫です。洗脳は解けたって確信があるので」

 

悠仁お兄ちゃんが私に何かしてくれたのを思い出す。

きっとあれが原因で私は二人を刺しちゃったのかもしれない。

 

私がそう言えば二人は安心した表情を見せてくれる。

 

・・・・二人共、刺されたのに私を全然攻めない。

それどころか私を心配して。

 

「・・・・っ、二人共聞いてください。私が二人をここに呼んだ理由です」

 

私は二人に本当の私を話すことを決める。

話すと決めた瞬間、心臓が壊れそうな程早く動き始める。

 

身体も震え、話そうと開けていた口が重くなる。

 

声を一言発することも出来ない。

 

怖い、二人に拒絶されてらどうしよう。

それはありえること。むしろそっちの可能性が高い。

 

悠仁お兄ちゃんと話して決めたのに。

 

進むって、受け入れてもらえるように頑張るって言ったのに。

 

なのに、拒絶されるのがこんなにも怖い。

 

「ヒミコ」

 

「・・・・お兄ちゃん」

 

震える私の手をお兄ちゃんが握ってくれる。

私も握り返しながら、お兄ちゃんに力をもらう。

 

そして、二人に向かって口を開いた。

 

「・・・・二人に、知ってほしいって思ったんです。本当の私を、トガヒミコを」

 

私は震えながら話した。

 

今までの私は演じていた嘘の自分だということ。

 

子供の頃から血が好きで、吸いたくなること。

血が流れて傷だらけの姿をかぁいいって思うこと。

 

両親から怒られて、個性カウンセリングに通っていたこと。

 

それから普通を演じて生きてきたけど、血が好きなのは変わらなかったこと。

 

大きくなって、好きな人になりたいって思うようになったこと。

 

中学に入って二人と友達になって、二人の血を吸いたいって思うようになったこと。

 

二人のかぁいい姿を見たいし、二人になりたいって思っていること。

 

でも嫌われたくなくて嘘の自分で今まで接していたこと。

 

全部、話した。今まで言えなかったこと全部。

 

「・・・・香ちゃんと恵ちゃん、二人のことが好きだから、本当の私を知ってほしくて、本当のお友達になりたくて、今日ここに呼んだんです」

 

話すうちに二人の顔を見るのが怖くて俯いてしまう。

知らないうちに目からは涙が零れ落ちていた。

 

やがて全部を話し終えて、私は口を閉じる。

そのまま無言のまま二人からの反応を待つ。

 

怖くて、顔を上げることができず俯いたまま。

 

「被身子、顔上げて」

 

「・・・・っ」

 

香ちゃんのその言葉に私は震えながら顔を上げていく。

そして、顔を上げて二人の顔を見た瞬間。

 

「あうっ!?」

 

二人からデコピンが飛んできた。

 

「・・・・え、香ちゃん、恵ちゃん?」

 

「もっと早く言え」

 

「うん、もう卒業しちゃったじゃん」

 

二人はジト目で私を見る。

それに混乱して何も言えないでいると、さらにデコピンが飛んできた。

 

「もっとさぁ、一年の終わりくらいに言ってよ!そしたら本当の()()()ともっと一緒にいれたじゃん!」

 

「だよね。()()()は雄英だし、そう簡単に会えなくなるからね」

 

「・・・・私のこと、怖くないんですか?」

 

私の知ってる二人と全く変わらない姿に思わずそんな言葉が漏れる。

その言葉に二人はすぐに答えをくれた。

 

「そんな真剣に、泣きそうな顔で言われたらさ。血なんていくらでもあげちゃうってなるよ。庇護欲がすごい、これが母性か」

 

「うん、痛いのは嫌だけど、血なら全然あげる」

 

「・・・・っ」

 

その言葉に私はまた俯く。

涙が溢れて恥ずかしかったから。

 

そんな私に触れて、二人はそっと撫でてくれた。

 

「怖いか怖くないかって聞かれると、答えは()()()()()()()()()()ってのが答えかな」

 

「だね、初対面の人か、たいして仲良くない人に言われると、怖いって私も思う」

 

「・・・・」

 

やっぱり、怖いんだ。

二人の言葉に落ち込む。

 

そんな私を見て、二人は私を撫でる手を強めてぐしゃぐしゃと髪の毛を撫で回してくる。

 

「ヒミコは怖くないって言ってるでしょ!ヒミコが私達と三年間一緒にいてくれたから、ヒミコのことを好きになって、こうして怖くない、むしろクソ可愛いって思えてるってこと!!」

 

「気分としては親友が実は吸血鬼だったみたいな感じ?むしろテンション上がらない?」

 

撫で回されながらその言葉に胸が暖かくなる。

 

二人と過ごしたのは嘘の私だったけど。

それでも三年間、二人と一緒にいて楽しかったのは嘘じゃない。

 

この三年間の思い出が本当の私を受け入れてくれたんだと考えて、嬉しくて涙が止まらなくなった。

 

――――簡単なことだったんだ。

 

好きな人に好きになってもらえるように頑張る。

 

女の子なら普通のこと。

 

一緒に時を過ごして、楽しいことも辛いことも共有していく。

 

そうして私のことを知ってもらって、私も知って、受け入れてもらえるように頑張り続けていく。

 

恋と一緒。

 

生きるってこんなに簡単なことだったんだ。

 

「・・・・ヒミコ」

 

「お兄ちゃん」

 

私達を静かに見守っていたお兄ちゃんが優しい顔で私を見る。

そうだ、あれを伝えなきゃ。

 

「お兄ちゃん、私もう一人のお兄ちゃんに会ったよ」

 

「・・・・んん!?もう一人のお兄ちゃんだと!?どういうことだヒミコ!?」

 

私の言葉に一瞬思考停止したけど、すぐに復活して私に詰め寄ってくる。

あれは、どういう風に言えばいいかわからないけど、会ったのは確か。

 

「夢のような場所でもう一人のお兄ちゃんに、悠仁お兄ちゃんに会ったの」

 

「・・・・え」

 

私の言葉にお兄ちゃんはまた固まる。

それを見ながら私は言葉を続ける。

 

言われてたから、伝えなきゃ。

 

「悠仁お兄ちゃんから、兄貴によろしくって」

 

その言葉に対して、お兄ちゃんは言葉を返さない。

まだ固まったまま。

 

けど、やがて静かに目を潤ませて、涙をこぼれ落としていた。

 

そのままお兄ちゃんが泣き止むまで背中を撫でる。

香ちゃんと恵ちゃんは困惑しながらも黙って見ていてくれた。

 

「お兄ちゃん、今度は一緒に会いに行こうよ、悠仁お兄ちゃんに」

 

「・・・・っ、ああ、そうだな。必ず会いに行こう。悠仁だけじゃない、壊相(えそう)血塗(けちず)にもだ!」

 

私の言葉にお兄ちゃんは泣きながらも力強く頷く。

 

これから先、きっと辛いことがいっぱいある。

香ちゃんと恵ちゃんのように私を受け入れてくれる人ばかりじゃないことは知ってるから。

 

もしかしたらもういないかもしれない。

 

そう考えたら怖いし、不安だってある。

 

それでも私は前に進む。

 

だって私には、どんな時でもずっと一緒にいてくれる大好きなお兄ちゃんがたくさんいるんだから。

 

 

 

 







感想で存在しない記憶からの悠仁と会うと書かれているのがあり、当てられて実はビビりまくりました。


裏話ですが、前話の分岐点の話を書いてる途中までヴィランルートで進めるつもりでした。
ただ、そうなると友達の二人が辛いことになるから・・・・ちょっと書けねぇ、書くにしてもヒーロールート書いてからだなっとなり、こうなりました。

ヒーロールートを信じている読者の皆様に、おら曇らせ展開だ!ってしたかったんですが勇気がなかったです。

まぁ書いてみて、これでよかったなとなったので結果オーライ。

次話、最終話です。

面白いと思ってくれた方、続きが読みたいと思ってくれた方。
感想、高評価を下さると次話へのモチベーションになります。

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